企業ホームページ運営の心得

広告コンテンツの効果を左右するライバル意識

「仮想敵」の設定が広告の優劣と広告的コンテンツの効果を左右します
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の478

学校では教えてくれない

Wavebreakmedia Ltd/Wavebreak Media/Thinkstock

「和を以て貴しとなす」とは、聖徳太子以来の我が国の美風とされ、学校教育でも繰り返し教え込まれます。社会に出てからも大切なことではありますが、「広告」を作るうえでは邪魔になることがあります。「広告」には「和」よりも「敵」が必要だからです。

そもそも論として、大半の「広告」は、他者を出し抜くため、市場で勝ち残るためにあるからです。これはWebにも通じます。来店を促すメルマガにブログ、自社商品のコンテンツに「広告」の素養は欠かせません。真っ正直に事実だけを伝える「記事」との違いです。

商品開発や市場開拓において、競合をリサーチするのは当たり前のこと。それと同じように、「仮想敵」の設定が、広告の優劣と広告的コンテンツの効果を左右すると言ってもいいでしょう。

誰でもやっていること

敵を意識するために、まず「仮想敵」を定義します。一般的にはライバル企業で、これは無意識のうちに多くの企業がやっていることです。かみ砕いた事例を紹介します。

  • 丁寧なシゴトがモットーです
    街の工務店などが掲げそうなキャッチフレーズですが、裏返せば他店は丁寧に仕事をしていない、ともとれます。
  • 安心安全を守ります
    他店は不安と危険を振りまいているとでも言うのでしょうか。
  • お客さま第一主義!
    強欲な利益至上主義への批判なのでしょうか。
  • どこよりも高い原価率
    腕組みしているポスターが貼ってあるラーメン屋でみかけそうな宣伝文句ですが、あきらかに他店を挑発しています。

このように大なり小なり「敵」を作っているのです。

敵を設定する理由

競合店の方が価格は安くても、サポート体制は自社の方が整っているとき、どちらを推すかは明らかであるように、「敵」は自社の優位性を示すためのメルクマール(指標)となります。だから、仮想敵を具体的に設定することで「説得力」のある広告が作れるのです。

実際のビジネスにおいて、ライバル企業へのあからさまな攻撃は「和」を重んじる日本人の習慣から嫌われることもありますが、明確に敵を設定していれば「A社のバーカ」と直接的な表現をせずとも、「一般的には××を用いるが、当社は○○を使い安心を提供しています」と対象のサービス内容や、用いる素材を引用する形で優位性を示すことができます。

そのうえで、自陣営を褒めて相対的優位を演出するのです。仮想敵を批判し、返す形で自分を褒めます。我田引水、自画自賛。広告とはそういうものです。

さらに敵とする対象も、自分で選びます。あけすけに言えば、もっとも怠惰で、ずさんな仕事をする業者、つまり「最弱の敵」との対比で「広告」を作ることもできますが、よくあること過ぎるので実例は挙げません。

単純化できるメリット

敵は同業者だけではありません。「自然」「生活環境」「健康」なども攻撃対象です。

たとえば、「断熱材」を売るのであれば、太陽光の熱、冬の寒さといった「自然」を「敵」と認定します。「防犯グッズ」を取り扱っているのなら、街灯の有無、交通量、地域の犯罪率といった「生活環境」を敵視します。つまり、売りたい商品やサービスの効果効能の対象が敵となるのです。

とりわけ「健康」は、数多くの「敵」を生み出している広告分野です。これからの季節、多く見かけるようになる「冷え対策」の広告の多くが「冷え」そのものを敵としていますが、夏場はエアコンによる「冷房病」や「冷たい飲み物」と、ターゲットを都合良く「敵」を変えていることがわかります。

仮想敵を明確に設定すると、話しを単純化できます。敵=悪ならば、味方=正義といった二抗対立のロジックに当てはめることができるからです。水戸黄門とお代官さまが出てきたら、どちらが「良い役」かが明らかなように、説明を省くことができるのです。また「敵認定」には、対立する側を「味方」と錯覚させる効果も期待できます。

擬人化と免責

さらに対立のロジックには、擬人化しやすいというメリットがあります。悪玉コレステロールの吸収を抑制する、とうたう健康食品があったとします。悪玉コレステロールは健康を脅かす存在と定義すれば、わかりやすい「敵」の誕生です。

  • 悪玉コレステロール「へっへっへ。俺様が身体を蝕んでやる」
  • 健康食品「そうはさせないぞ! 健康ブロック!」
  • 悪玉コレステロール「は、はいれない~」

という感じです。

また、敵に意識を向けさせることで、不都合な事実に触れずに済むというメリットもあります。「ダイエット」において「脂肪」を悪と定義し、読者の意識をそちらに向けさせたとき、食欲を我慢せずに食べる行為は片隅に置かれます。消化吸収にフォーカスすることで、運動不足に目が向かなくなる、つまりはお客の自己責任を免責できるのです。

人気ブロガーに学ぶ

「仮想敵」を作るアプローチは、人気ブロガーやワイドショーのコメンテーターなどの論法が参考になります。

白と黒の間には、無限に近い階層の濃淡の灰色がありますが、彼らは明快・軽快にどちらかに分けて議論を展開する傾向があるからです。白の側に立てば白を擁護し黒を排撃し、黒ならば黒を礼賛し白を黒く塗りつぶします。対立関係に落とし込むことで、話を単純化して読者の理解を容易とし、感情移入も期待できることを知っているのでしょう。ネットで「極論」を散見する理由です。

一般常識に照らせば違和感を覚えるかもしれません。世界は白と黒、敵と味方にきれいに色分けされるわけでもなく、聖徳太子の定めのように「和」を大切と考え、無用な対立を避けるのは社会人として正しい姿勢です。

しかし、繰り返しになりますが「広告」は、他者を蹴落とし出し抜くためにあります。いわば戦争における「武器」であり、そもそも論で「和」の対極にあると断言するのも二抗対立の広告的論法です。実社会では武器を持ったからといって、必ずしも戦争をはじめるわけではありませんからね。

今回のポイント

仮想敵を作り優位を演出

善と悪のコントラストを意識する

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