企業ホームページ運営の心得

商業的公開情報考察。情報発信が生み出す引力

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の参十弐

情報公開の不毛な議論

「それはまずいよ」「あの件の公開はちょっと待ってほしい」。

ホームページの打ち合わせでは、議題にあげられてからブレーキが掛かる「案(企画)」が少なくありません。しかし、話題にあがるなら公開して問題はありません。本当の「社外秘」なら議論にすらならないのですから。

大企業ともなると「顔を合わせる会議」が潤滑油となり、「マッチポンプ」的な不毛な議論もまた、レクリエーションとしての価値をもつのでしょうが、巻き込まれて損をするのは大抵外部業者です。

これに何度も痛い思いをしてきたので、今ではお手伝いを始める前に「公開情報」についてのレクチャーをすることにしています。

今回はこのレクチャーを。私の「飯の種」です

取引先の公開はダメ営業マンのリトマス試験紙

公開をいやがる情報に「取引先」があります。取引先名を公開することで、ライバルが営業攻勢をかけるのではないかという不安からです。

しかし、本当に「ひっくり返し(営業用語で他社の客を奪うこと)」を狙っていれば、取引先に足繁く通い、「人間関係」を築きつつチャンスを待っているものです。経済の発達で極端な商品やサービス、価格の差がなくなりつつある中で、「人間関係」は取引を決めるより有力な材料となっていますし、それを無視して成り立つほど営業はドライでもスイートでもありません。

つまり「公開」によって脅威を覚えるのは、人間関係が築けていない営業マンということです。条件闘争だけならドライな電卓とそろばんだけの勝負ですから、ひっくり返される危険性が高いというワケです。

もちろん、取引先の事情で公開を断られた場合は別次元の話です。

公開は広告にもなるというセールス

あまり語られないのですがBtoBサイトの「リンクページ(関係先リンクなど)」は重要で、そこにあげた取引先名は企業の「格」を判断する材料となります。

パート契約の仕事をしただけで角川グループの子会社を「得意先」と紹介する(この企業は実在します)のは論外としても、名のある取引先はステータスとなります。

そしてもう1つ。営業的にはこちらの方が重要です。「××さんとも取引があるの? ちょっと話を聞きたいんだけど」という仕事の広がりです。

リンクページは自社のステータスの担保になると同時に、取引先の宣伝となるのです。小さな「Win=Win」です。

もちろん、直接取引される危惧もありますが、ビジネス仁義を欠くことで失われる「信用」を考えれば圧倒的に少数派で、そう捨てたものではありません。

※筆者注:利益優先で違法でなければ仁義も通さない新興企業達に嫌悪感が強かったのは、単に「既得権」や「おじさん社会」というだけではなく信用を重んじるビジネスの世界だからです。

ライバルが情報を盗めばラッキー

ノウハウに属する情報も出し惜しみされます。「他社に盗まれたら」という心配です。

冒頭でも触れたように「コンテンツ案」が、会社の存亡に関わる情報であるわけがありません(仮にあったとしたらホームページを作っている場合ではありません)。だから、ノウハウもできるだけ公開するのが吉です。

広告の世界には「ものまねされて一人前」という言葉があり、真似されるクオリティになって本物だといわれます。

そしてこの言葉にはもっと悪魔的な意味があります。

コピペは禁断の果実

リスペクトにオマージュ、参考に啓示、いまなら「気づき」というのでしょうが、思想や技術の一部を真似ることにより表現力を向上させようとするものと、結果だけを求めた「ものまね」はまったく違います。

前者は「学び」と同義で、後者の最たるものがコピー&ペースト、俗に言う「コピペ」です。

ライバルがコピペで「ものまね」をしたのなら小躍りして喜んでください。

新しいものを作り出すには相応のエネルギーを要しますが、コピペならマウスの操作だけ完了します。コピペコンテンツは考える苦しみを伴わずに増やせ、短期間でサイトを充実させることができます。

そして、安易は加速し、トリビアのパッチワークという一貫性のないサイトができあがり、著作権侵害リスクと背中合わせとなります。

自ら考えて作ったコンテンツは「経験」が触媒の働きをして「リサイクル」しやすいのですが、無節操にコピペを繰り返したコンテンツは何でも拾ってきて積み上げた「ゴミ屋敷」です。故に何が悪いのか本人には理解できません。

こうなればライバルは敵でありません。

情報は物量で確率アップ

「グーグルが嫌いなんですね」。拙著『Web2.0が殺すもの』の感想で寄せられたものです。

宗教的なグーグル礼賛や、必要以上に煽る言動に異を唱えたつもりだったのですが、そう受けとられたのなら仕方がありません。

アマゾンの「レビュー」には「十人十色」の評が掲載されます。訓練されたプロの編集者による校閲を経た商業出版でも同じイメージを植え付けることは不可能で、発信した情報は受け手の経験や感受性で評価されるのです。

これはホームページにもそのまま当てはまります。プロのライターや校正マンがいる制作会社に発注しても書籍と同程度ですし、素人なら言わずもがなです。

しかし、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるのがホームページの戦い方の1つです。

十人十色の全色を狙って情報を発信することは書籍にはできない利点です。

情報が生み出す引力の力が本当の飯の種

業界の常識は素人のトリビアです。プロから見てくだらないことでも「へぇ」を提供しましょう。「知っているだろう」とボツにしては素人のお客さんには伝わりません。会議室でのマッチポンプの遊び道具にしていてはもったいないお化けがでてしまいます。

取引先も業界の常識も立派なコンテンツとなります。コピペをしたいと思わせるサイトを作り、毒リンゴだと知らないライバルにはどんどんと食べさせてあげましょう。

ホームページは情報を多く公開した分だけ、「勝ち組エスカレーター」の速度が上がります。

情報は引力を産み出し、発信した数だけ強く廻りを引きつけます。取引先も同業者もファンにしてしまうほどの。

私が「飯の種」という情報を公開するのもより大きな「引力」が得られることを知っているからです。

♪今回のポイント

情報は引力。取引先も未来の客も惹きつける力。

そして、情報泥棒は身を持ち崩す諸刃の剣と心得よ。

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