あなたにとって夏休みはいつまで? 常識をアップデートしなければ赤っ恥
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の470
夏休みの常識
8月31日という日付を見ただけで憂鬱になります。おろし立てのようにキレイな算数ドリル、1マスも記入していない原稿用紙……。これらを前に、「絶望」という言葉と向き合うことになった夏休みの宿題のトラウマが、今も私を苦しめるのです。自業自得といえばそれまでですが。
そんな話を小学生の子供を持つ地元の友人にすると、「古いよ」と返されます。夏休みが8月31日までというのは、すでに「常識」ではないというのです。
地元の東京都足立区の小中学校の夏休みは8月24日まで。つまり、9月に入る1週間前に夏休みは終わっているのです。そして関西や九州地方など、全国的に「短縮化」は広まりを見せており、いずれ「8月31日の憂鬱」というネタが使えなくなるかもしれません。常識は常に上書きされるものではあります。
というわけで、8月最後の本稿ではいくつかの「常識」について考えてみます。
終結するブラウザ戦争
かつてWebの閲覧といえば「Webブラウザ」が常識で、そのシェア争いに注目が集まったのは、セキュリティ対応の遅れやブラウザの違いによるレイアウト崩れがたびたび発生したからです。
後にFirefox、Opera、Google Chromeといった新勢力が登場し、そのたびにシェア争いが続きますが、企業側からすれば、文字通りすべてのブラウザに対応するのはハードルが高く、予算と納期を比較して取捨選択が求められました。
最たるものがInternet Explorer(IE)。「インターネット標準規格」から横道に逸れる独自仕様を採用しながら、21世紀初頭のピーク時にはシェア9割を超え、IEに「最適化」しなければならないシーンは数知れなかったのです。
時は流れ、Net Applications社の調べによると、2016年6月のデスクトップブラウザのシェアは「Chrome」が48.6%、IEが31.7%と逆転しています。これが取り立てて話題にならないことに、Web閲覧における「常識」の変化を見つけることができます。いわずと知れた「モバイル」の台頭です。
博報堂メディア環境研究所の調べによれば、1日当たりのテレビや雑誌を含めたメディア総接触時間は393.8分の内、携帯・スマホ、タブレットの合計は29.3%と約3割に達しています。利用頻度、接触時間の長さから、モバイル端末の存在感がより増していることを確認できます。
ミドルメディアがニュースサイトへ
モバイル環境におけるブラウザは、iPhoneなどの「iOS」では事実上「Safari」が独占。Androidは「ブラウザ」がデフォルトですが、コンテンツ事業者には独自の「アプリ」による情報提供という選択肢が加わります。
Facebookのとあるコミュニティにこんな投稿がありました。「ロケットニュースというアプリで紹介されていた○○」。ロケットニュースとは、独自の視点と価値観でニュースを作り出すミドルメディアの老舗サイト。つまり、ニュースを読むのにブラウザかアプリかは関係ない。これが一般ユーザーにおける「常識」なのかもしれません。
一方で、2015年10月、調査会社「ニールセン」が発表した「消費者のマルチスクリーン利用状況」ではWeb担当者にとって興味深い結果が伝えられます。
スマホと共存する時代
ユーザーがパソコンを利用する目的の上位は次の通りです。
- 必要な知識・情報を得るため
- 新しい知識・情報や面白い情報を得るため
- 商品やサービスを購入するため
- 買い物に関する情報を得るため
- 動画や映像、音楽、ゲームなどのエンターテイメントを楽しむため
対するスマホは、「家族や友人・知人とのコミュニケーション」と「目的地へ行くための経路や地図を確認するため」がツートップで、「空いた時間を埋めるため」「写真や動画を撮るため」と続き、情報収集はこれに続く5番目の利用となります。
この調査結果からは、情報収集やネット通販に関しては、まだまだ「パソコン」が利用されていることがわかります。スマホとガラケーの「2台持ち」ならぬ、パソコンとスマホの「使い分け」が現在のネットユーザーの「常識」だとすれば、GoogleやFacebookが旗を振る「モバイルファースト」への過度な傾斜にはリスクが存在するということです。
さも、常識であるかのように語られることのなかには、そうでないことも多く、疑ってみる必要があることは「パソコンが苦手な若者」が教えてくれます。
若者はパソコンが得意?
「スマホ」の普及から、「パソコンが苦手な若者」が増えていると嘆く声が各所から上がります。しかし、平成と同じ年数分、仕事でコンピュータに接していますが、パソコンを得意とする「若年層」は存在したことがありません。
恐れを知らない若者が、怯(ひる)むことなくキーボードを叩き、マウスを操作する姿を見ての評価であったり、「業務命令」に対して拒否権のない若者が半ベソをかきながら習得したりしたという結果論から、「若者はパソコンが得意」と雑な評価を下していたのが歴史的事実です。デジタルネイティブへの幻想も重なった「常識のように語られる嘘」です。
若者の代名詞的な「ゆとり世代」への嘲笑も同じ系譜にあります。なぜなら「ゆとり教育」の現場は、「ゆとり」からかけ離れたものだったからです。
ゆとりの現場
足立区が夏休みを短縮したのは、2002年の公立学校への週休二日(文科省は「学校週5日制」)の完全実施によって、単純に授業時間の確保が困難になっていたからです。
平成以降、祝日の純増数は「みどりの日」「海の日」「山の日」の3日ですが、既存の祝日のいくつかが「ハッピーマンデー」となり、自動的に授業時間が削減されます。
その結果、夏冬の長期休暇明け初日から給食が始まり、高学年は6時間授業。授業計画に狂いが出れば「残業」的に授業時間が追加され、とても「ゆとり」と呼べる環境ではなかったのです。足立区はさらに2011年度から「月2回の土曜日の午前授業(年間10回)」を開始し「半ドン(半日授業)」を復活させます。これも全国的な拡がりを見せています。
小学校への入学時から週休二日だった世代は、いま二十歳前後で、続々と社会に進出してきています。ベテランWeb担当者が「ゆとり世代は半ドン知らないだろ」などと、いささか古い「常識」をかざし、したり顔で新入社員に語ろうものなら赤っ恥をかくことでしょう。
今回のポイント
常識は絶えずアップデート
同時に常識を疑ってみることも必要
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