お客さんにどんな価値を提供できているか常に確認しておくことが重要~楽天大学・仲山進也学長とE研代表パートナー3人の座談会
この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。
現役の有名ネットショップの運営者達が講師となって、ネットショップ運営者向けに通信講座を実施しているEコマース戦略研究所の代表パートナー3人が、それぞれ話を聞きたいネットショップ運営者に会い、現在のEC市場などについて対談する企画「あの人から聞きたい~大橋、加藤、洞本のEC対談~」。
第1回目は、桃源郷の大橋淳会長、セレクチュアーの洞本昌明会長、北国からの贈り物の加藤敏明社長の3人が、深い付き合いという楽天大学の仲山進也学長を招いて座談会を実施した。
出会った当時の話から、現在のEC市場の分析、今後のEC市場の予測まで、仲の良い4人だからこそかみ合った深い議論が行われた。
マネジメントに専念していればもう少し大きな会社になっていたかも(笑)
――まず、3人と仲山学長との出会いはどういうきっかけだったのですか。
大橋出会ったのは、楽天大学で「キャッチコピー講座」を受けたのが最初でした。2002年に仲山学長が手掛けていた「虎の穴」という合宿に参加してから、よく話をするようになりました。
洞本私は楽天にお店をオープンしたのが2000年ですが、当初から仲山学長や三木谷社長と直接話す機会も多かったです。当時はカンファレンスに参加している人も100人くらいだったので、気軽に話し合える状況でした。
加藤当社は1999年に出店しましたが、カンファレンスに来る人が少なかった分、濃いお付き合いができたように思います。
仲山加藤さんも洞本さんも、当時は常に社内で話題になっていたような店長さんで、楽天にとって「お客さま」というよりは身内のような感じでした。
――長い間、楽天市場で活躍している3人ですが、昔と今とで変わった点はどこにあると感じていますか。
洞本新しくネット通販を始める店舗にとって「憧れの店舗」がなくなってきているのではないかと感じています。私たちが新しくネット通販を始めたときは憧れのネットショップがあって、少しでもそれに近づこうと、その店の人に話しかけてどうやっているのか聞いたりして、モチベ―ションアップにつなげてました。昔は楽天カンファレンスなどがあると、有名店舗の店長の前には名刺交換の行列ができていたのですが、そうしたのはここ数年見かけなくなっています。
仲山ただ、Eコマース業界の流れのなかで、それは仕方ない面もありそうです。「楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤー」の受賞店舗さんを見て、昔は新しい店舗さんにとって「自分もあんなふうになろう!」と思える存在でしたが、今では売り上げ規模やそもそもの企業規模が違いすぎることもあり、話しかけていいものか、何を聞けばいいのか…となりやすいかもしれません。
大橋それはそうなんでしょうね。ショップ・オブ・ザ・イヤーを連続受賞している店舗の人に、出店して1年未満の人が話を聞いても、専門的な話が多すぎて何も得られないということになる。聞きたい話のレベルが違いすぎるため怖がってしまうというのはあると思います。
洞本ただ、自社の現状とは違う話のなかからヒントを得て、それを自社に当てはめることが、経営者としては必要なこと。例えば、セブン&アイの取り組みは私たちネットショップと規模も内容も違うけれど、そのなかからヒントを得て自社に取り込む経営者と、何も感じない経営者では1、2年後に大きな差が出ていると思います。
加藤「店長」というイメージを持たない経営者が増えてきたのもここ数年だと思います。以前は、経営者自身がページのデザインやキャッチコピー、メルマガなども書く店長となり、自身が先頭に立って売り上げを伸ばしてきました。楽天としても「店長」というイメー作りをするように楽天大学などで教えてきましたよね。ただ、プレイヤーとマネージャーを同時にこなせるのは月商1億円前後までで、それからさらに伸ばそうと考えるお店では、店長というイメージをつけなくなってきているように思います。
大橋私たちもどちらかというとマネジメント側にシフトしてきましたが、やはり昔ながらの名残りで、少しプレイヤーの側面も持ってしまっているというのが現状です。完全にマネジメントに専念していれば、今頃もう少し大きな会社になっていたかもしれません(笑)。
洞本もう一つ違いを挙げるとすると、最初から便利な機能を提供するサービス提供会社が増えているのも大きな変化だと思います。当社では物流代行会社のあっせんも行っているのですが、起業して1人でネットショップを始めた店舗が相談に来て、最初からページの制作、受注、物流などすべてを外注して始めたいという店舗が増えてきています。物流などの支援会社も今までのノウハウを凝縮してサービスを提供しているため、なまじ自分でやるよりもサービスレベルは高く、そうした企業の方がうまく立ち上がっているように感じます。
大橋そうした便利な支援会社が増えてきたことも、店長が必要なくなってきている理由なのだろうね。
仲山ただ、大きい会社の参入が増えてくると、小さな会社はより「人」が強みになると思うので、中小企業が消耗戦を抜け出すためには「店長」は大事になってくると思います。
生き残れるのは大企業かパパママストアに究極的には絞られてくる
――たとえば、皆さんが今、ゼロからECサイトを始めるとして、どういう商材でどんな売り方をしていくのがいいと考えられますか。
洞本僕が始めるとすると、単品通販で定期販売を行っていくと思います。しっかりブランディングをしていくとなると、販促費をかけられる健康食品か化粧品になると思いますが、商品の種類は少なく販売していきたいですね。ネット専業で、単品通販はあまり成功事例がないですからぜひやってみたいです。
大橋私はまずはメーカーから始めたい。マーケティングがいくら強くてもいずれ真似されてしまいますので、まずは顧客の心をしっかりつかんで離さないような商品作りに専念すると思います。その上で、他社には浮気されないような商品が作れた時、ECで売り始めて確実に顧客をつかんでいくのがベストだと考えています。
加藤僕は海外で販売しますね。商品は何でもいいのですが、日本の商品でニーズのある商品を選びたい。それを、実店舗とECを絡めたオムニチャネルで販売していくと思います。――今後、残っていくショップはどんなショップだと思われますか。
仲山売り上げを増やしていくこと「だけ」を追いかけている企業は今後厳しくなると思います。中小企業の場合、スタッフみんなが食べていくのに必要な絶対金額が低いことがむしろプラスな面でもあります。「これだけの売り上げがあれば、十分生活していけるから、それ以上のところは何か面白いことをやろう」と、新たな価値を生み出していくようなお店の方が、気分的にも楽しく運営できて長続きしやすいと思います。
大橋競争は今後ますます激しくなることは確実なので、競争にさらされないところで勝負できる場所を見つけられると、生き残れると思います。ただ、これを見つけるまでには、とても大変なのだけれど。
洞本僕は今後生き残れるのは、大企業かパパママストア(一家族で構成されている小規模店舗)に究極的には絞られてくると思っています。その分野で有数のショップになれれば今後も生き残っていくでしょう。しかし、そこに入れなかった中途半端なショップは、競争に常にさらされ、厳しくなると思います。
仲山「提供している価値」という視点で、最近大事だと思っていることがあります。震災直後に南三陸へ行ったのですが、当時は買い物ができるところがなくて、住民は車で1時間かけて隣町まで行って買い物をしていました。数か月後、地元のお店が仮店舗を立てて営業し始め、住民は往復2時間かけて買い物に行く必要がなくなりました。その後、復興が進んで、買い物ができる場所も複数になりました。そうすると、最初に営業を再開したお店が提供する価値が変わっていくわけです。以前は「買い物に2時間かけなくて済む」という価値を提供していたのが、今は「自分のお店が選ばれる理由」が変わったのです。この状況を見たとき、売っている側としては同じことをやり続けているつもりでも、買う側からすれば「買い求めている価値(理由)が変わっている」ということがあると感じました。ネットショップでも同じで、時代ごとにお客さんにどんな価値を提供できているかということをしっかりと見極める必要があると思います。単に商品を手に入れられるという価値を買うのであれば、一番便利な自動販売機で買えばいいわけですので。
加藤これからの時代は、さらにドラスティックに消費者の価値観が変わってくるので、常に自社が何を提供できるかを確かめ、ニーズに合わせてブラッシュアップしていく必要があると思います。――常に変化する消費者の価値観を知るためにはどうすればいいのでしょうか。
仲山お客さんと直接コミュニケーションするのが一番だと思います。売り上げが増えると、お客さんと対話する機会が少なくなってくるし、普段対話してないとそういう機会をわざわざ設けるのも億劫になる。そして、いつの間にかお客さんのことがわからなくなってしまうということが多いと思います。楽天で半年に一度、新春カンファレンスやEXPOがあるのも、三木谷社長が店舗さんと直接会って話を聞くことが大事だと感じているからだと思います。
大橋確かに、大手の通販会社で現在も続いている企業はこうしたコミュニケーションの重要性を知っているため、今でも顧客の声を聞く機会を設けている会社が多くあります。
楽天がどんな戦略を推進していくかで日本のEC市場は大きく変わる
――楽天は2014年11月から出店料を変更して、プレミアムモール化を進めています。楽天はこれからも成長すると思いますか。
洞本楽天がECモールで成長を続けてきたのは、売れるモールだからこそ。楽天自身も「楽天市場は銀座の一等地である」と言ってきました。事実だからこそ店舗が集まり、さらに流通額を伸ばしてきた。つまり、利用料よりも売れるモールであることが重要で、いくら料率が高くなってもそれ以上の恩恵を得られるのであれば、楽天はさらに成長を続けると思います。
大橋今回、楽天が料率を引き上げたのも、将来的にやりたいことに対して原資が足りないから。料率を上げて何もしないということはないと思います。ただ、料率のアップに対して店舗へのリターンが少ないと感じる人がいるのも確かです。だからこそ、これから2~3年で楽天が何をやっていくか、どんな戦略を推進していくかで、日本のEC市場は大きく変わると思います。
加藤以前は楽天と店舗はEC市場を拡大させるための両輪で、店舗も楽天も頑張ることで市場を大きくしてきた。ただ、現状は少し変わってきていて、店舗が何をするかよりも楽天がどう考えるか、どういった戦略を採るかで、楽天市場の流通額が大きく変わるようになっているように感じています。
仲山今のEC市場を見てみると、大きなモールとして楽天市場、アマゾン、ヤフーショッピングがあります。それぞれの強みは、もともとの「出身」が影響してきます。楽天はショッピングモールとして始まり、アマゾンはEC直販、ヤフーは検索の出身です。ショッピングモール出身の楽天の強みは、「買い物好きな人がぶらっとウインドウショッピングしにくる場所」という点が他社との大きな違いです。ですので、こうした「何を買うか決まっていないお客さん」に声をかけて、接客し、楽しく買い物をしてもらうというショッピング体験をどれだけ増やせるかが、楽天市場の成長のカギになると思います。そのためには、いかに「自動販売機的でない店舗さん」が増えるかが大事です。
――楽天以外で期待するモールは。
大橋アマゾンをモールとして入れていいのかわかりませんが、やはりアマゾンの集客力は強く、出店するメリットは今後も大きくなると思います。ただ、アマゾンは最終的には自社小売りだと思うので、あまり期待してしまうと大きな反動が返ってくる可能性もあります。
洞本総合的なモールよりも、今後はジャンルに特化したモールが出てくると思います。たとえば、「ZOZOTOWN」もすでにファッションに特化したモールのようになり、ファッションブランドなどが出店できるようになっています。
加藤食品ジャンルだと、オイシックスがまさにモール化を進めていて、今後大きくなるような気がしますね。
仲山楽天市場は、安売り以外に店舗さんができることがたくさんある場です。特にお客さんとコミュニケーション量を増やしやすい場を、これからも作っていきたいと思います。店舗さん同士のつながりも、これまで以上に大事にしていきたいです。
新しいアイデアを生む掛け合わせ支援を行っていきたい
――先ほど話に出てきました「虎の穴」合宿は、今では行っていないのですか。
仲山過去21回開催したのですが、2005年で終了しました。合宿のテーマが「売り上げを10倍にする方法を考える」で、大橋さんをはじめ、10倍どころか何十倍になった店舗さんがたくさんあります。ちなみに、2倍や3倍ではなく「10倍」にしたのは、2〜3倍であれば「今のやり方の延長で寝る時間を削ってやる人」が多くなりますが、それでは長続きしません。10倍だと、根本的に仕組みを変えなければ実現できない。それができれば長続きもしやすい。こうした発想でやっていました。
大橋確かに当時は、売り上げが伸びるのが楽しくて、寝ないで仕事しすぎて前のめりに倒れてけがをしたという話も聞かれましたね(笑)。
洞本2005年頃には、僕たちは売り方だけでは差別化にならないということがわかってきたため、ブランディングなどを進めなければと仲間内で話し合うようになっていました。
加藤とはいえ、今では楽天での売り方も多様化しているため、今再び「虎の穴」合宿があっても面白いかと思います。
仲山そうですね。ただ、売り上げを伸ばした店舗さんにとっては、いかに組織を作れるかが重要テーマになっています。そのため私はここ数年、「チームビルディングプログラム」に注力しています。実際、2~3年で売り上げや利益が数倍になる店舗さんも増えてきています。
――今年から動画を使った講座「楽天大学エックス(RUx)が開始になりました。
大橋動画を使った講座はいい取り組みだと思いますよ。今までは、楽天大学はどの店舗も店長や、マネージャークラスしか受講させてこなかったと思います。しかし、動画であれば従業員みんなに見せることができ、ジョブトレーニングという意味ではとてもいい。ただ、マネジメントの共有やモチベーションアップという部分は実際に教室で集まって受けたほうがいい部分もあると思います。
洞本確かに、他の店舗と一緒に学んでいるからこそ、自分が遅れてしまっていることや、追いつこうと頑張る気持ちが出てくる。動画だけで完結する仕組みになってしまうと、逆に新規店舗の成長が遅くなるんじゃないかな。
仲山楽天大学は、提供する価値として「コンテンツ5割、店舗さん同士の横のつながり5割」というコンセプトで立ち上げたため、「動画を見るだけで完結」ということにはならないと思います。また、店舗さん同士の横のつながりも、ずっと同じ人とばかりのつき合いだとマンネリ化したりするので、ぬか床をひっくり返すように、新たな空気を送るのが私の役目だと思っています。たとえば「チームビルディングプログラム」では、新たに出会った店舗さん同士で会社訪問をし合ったりする動きが出てきており、とてもよい刺激になっているようです。私のこうした役割はまだ必要だと思うので、リアルでの場作りにもこだわっていきたいと思っています。
――最後に仲山さん個人として、今後の構想があれば教えてください。
仲山先ほど大橋さんがメーカーをやりたいとか、洞本さんがしっかりブランディングを行える商材を取り扱っていきたいという話がありましたが、これから消耗戦に巻き込まれないのはしっかり独自の価値を生み出し、伝えられる企業だと考えています。では、独自の価値はどうやったら生まれるかというと、新しいアイデアは既存のアイデアと、既存のアイデアの掛け合わせ。こうした掛け合わせの支援を行っていきたいと考えています。すでに県庁などの地方自治体とEC企業がコラボして新しい商品を開発したり、学校やNPOなどとコラボするネットショップも増えつつあります。こうしたコラボは利己的な動機だと面白いものは出てこないので、「地元を元気にするため」といった理念をベースに、新しい価値の創造をお手伝いしていきたいと思っています。独自の商品を買ってもらうには、やはり接客して商品の価値や理念をしっかり伝えなければならないので、そういうことができるお店が楽天市場に増えていくと面白いなと思っています。
オリジナル記事はこちら:お客さんにどんな価値を提供できているか常に確認しておくことが重要~楽天大学・仲山進也学長とE研代表パートナー3人の座談会(2014/11/18)
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