コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の378
他山の石とするために
朝日新聞が慰安婦問題の「誤報」を認め、記事を取り消したのは2014年8月5日、6日の朝刊でした。初報から32年目の訂正です。
それから約2週間後の8月18日、東京電力福島第一原子力発電所の事故対応にあたった、吉田昌郎所長(当時、故人)の調書を入手した産経新聞が、再び朝日の「誤報」を指摘します。その3か月前、5月20日の朝刊で朝日新聞が調書の内容と異なる報道をしていたからです。意見が対立するなか、政府はこの通称「吉田調書」を9月11日の午後4時に公開、その3時間後、朝日新聞は再び誤報と認め、このとき初めて謝罪しました。
本稿はメディア論を説くものではなく、メディア倫理を語る場でもありません。しかし、自社サイトの「オウンドメディア」を目指すなら、「誤報」は決して他人事ではありません。コンテンツを量産する過程で「誤報」は避けられないからです。
そこで今回は、誤報が生まれるメカニズムをさかのぼり、発生を防ぐ方法を考え、誤報が起きたときの対応を紹介します。
誤報が発生する瞬間
この連載をはじめ、しばらくしたころです。自由気ままに執筆しておりますが、公開前には編集者の校閲(チェック)が入ります。その安心感という油断から、事実誤認の「誤報」を出しました。読者からの指摘で気がつき、謝罪のうえ訂正しましたが、単なるミスと割り切れなかったのは、執筆時から事実関係に違和感を覚えていながら、
後で確認しよう
と放置したまま入稿したことへの後悔です。その代償として十二指腸に潰瘍ができ、完治するまで数か月、さらに同時期に発生した嚥下時の違和感が解消したのはそれから2年後のことです。
誤報が発生する最も多い理由は「確認漏れ、未確認」です。朝日新聞の誤報も、これを理由としています。その多くは「うっかり」によるもので、身を持っての痛みを経験しながらも、「ゼロ」にできない愚かさと向き合う日々です。
多様な意見を募る
複数のWeb担当者がいる組織なら、互いに原稿を確認し合うチェック体制を構築するとよいでしょう。筆者以外の視点から確認することは、誤報を避ける重要な方法です。ただし、Web担当者が1人の現場、あるいは協力を得られない環境もあります。特に中小企業のWeb担当者の場合、「企画」「取材」「執筆」「校閲」「公開」までの間に、だれのチェックも入らないことは珍しくありません。
そんなときは、「反対意見」に当たってみます。
「少子化」について執筆していたときのことです。「フランス」が出生率を回復した理由を「移民」の手柄として論を展開する予定でしたが、反対意見を探ってみると、確かに移民世代の出生率は高いのですが、全国民における移民の割合はマイノリティで、統計上の影響は軽微という主張を見つけます。移民説が完全に否定されたわけではありませんが、それだけを理由とするのは強引だと考えと原稿を改めました。
誤報は思いこみを下敷きにして生まれ、思いこみを打ち砕く最強の武器が「反対意見」です。これはブログの執筆でも使える方法で、朝日新聞が未採用だった手法です。
組織的思いこみ
思いこみにはもう1種類あります。組織的思いこみともいえる「バイアス」です。朝日新聞の意図的な「捏造」でないという主張を信じるなら、組織としてのバイアスがあったということです。特定の思想、結論へと到達するために、事実を曲解したということです。これは程度の差こそあれ、どこの企業にも存在しています。
いささか古い話になりますが、インターネットがオウンドメディアならぬ「マイ・メディア」と喧伝されていた20世紀の終わりごろ。私の勤務先は「紙」を重視する広告代理店でした。社内でWebの可能性を説いても、一笑に伏されたものです。退職し、Webを専業にすると、業界から聞こえてくるのは「紙メディアの死」です。つまり、それぞれの業界で、
Web VS 紙(メディア)
という構図を描き、それぞれの相手を敵視するバイアスがかかっていたのです。つまり、自社の立ち位置を常に意識しておくことも、誤報を回避するコツだということです。
ちなみに、昨今の「オウンドメディア」の解釈には紙媒体を含むものもあり、ようやく対立ではなく適材適所、つまりは、
Web & 紙
という理解の登場に、成熟の色を見つけます。
人はミスをする
ただし、どれだけ注意深く執筆しても誤報の完全排除は不可能です。そこで誤報が確認されたときは、迅速な謝罪と訂正が必要です。簡潔でいて、的を射る「マニュアル」を見つけたので紹介します。
訂正・おわびは、ミスによって生じた迷惑をわびるとともに、間違った理由・事情を読者と関係者にできるだけ丁寧に説明するという心構えで行う。記事の扱い方や表現は、ケースに応じて工夫が必要で、行数も長短さまざまになろう。訂正・おわびで誠意を尽くし、読者に情報を提供しなおすことを心がけよう。形式的な処理に陥ることがないよう1読者に親切に2関係者への配慮は十分に3できれば新しい役立つ情報も加えて、の3原則に沿って対応する。
これは「週刊新潮(2014年9月11日号)」に掲載された「朝日新聞『訂正』マニュアル」を文字起こしたものです。
尊敬を集める方法
誤報を確認したときには、この言葉を思い出してください。
逃げられない
目をつぶり、口を閉ざし、シカトを決め込むことで、一時的に批判を回避することはできますが、永遠につきまとい逃げ切れるものでないことを体現してみせたのが朝日新聞です。そして続けてこの言葉も思い出してください。
過ちを認める人は尊敬される
人生経験上、尊敬できた人々の共通項で、手前味噌ながら、営業マン時代、謝罪を怖れなくなってから、人に信用される割合が急上昇しました。誤りを認める難しさはだれもが知っており、その勇気と誠実さを評価するからです。
過ちを改めないことが本当の過ち
改めることを怖れるな
など、心得的には「論語」に詳しいのですが、「知ったかぶり」もまた「誤報」の温床になるので、現代語訳を紹介して結びます。
今回のポイント
誤報回避の基本動作は確認
もっとも気づきにくいのは「(社内・業界)バイアス」
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