企業ホームページ運営の心得

集合知の時代のメディア滅亡論 ―― ネット世論が社会を動かす

ネット世論が社会を動かすことがあります。一方で世論に泣き寝入りする時代ではなくなっています
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の427

なぜ、ネットを怖れるのか

bestdesigns/iStock/Thinkstock

テレビや新聞が、明確にネットを怖れ始めました。いまとなっては懐かしい、楽天やホリエモンによるメディア買収という意味でも、既存メディアがネットに置き換わるという覇権論でもありません。ネットの存在そのものを警戒し、視聴者や読者のミスリードを誘発します。この認識は、メディア情報を読み解く「メディアリテラシー」において重要です。

彼らが怖れるものの正体とは「集合知」。背景にあるのは「フローからストック」への情報の変化です。ベテランWeb担当者にとっては懐かしいとさえ感じるこれらのキーワードが、いまテレビや新聞といった既存メディアの存在を脅かし、世論形成に影響を与えています。そして、Web担当者の実務においては、前回触れた「クレーマー」の排斥へとつながっています。

条件とポジショントーク

いまから10年程前、盛んに喧伝された「Web 2.0」時代に登場した「集合知」とは、ネット上に集積された情報や、多様な意見(みんなの意見)が、一部のリーダーによる決定よりも、正しい結論に導くとする仮説です。私はこれに批判的でした。集合知が成立するには、左右上下の区別なく、時間経過とともに集積された情報を必要とし、当時のネットはこれを満たしていなかったからです。しかし、根拠も論拠も不十分であることが恣意的な解釈を可能とし、ビジネスや政治活動における「ポジショントーク」として喧伝されていました。

当時、喧伝していた人らがすっかり口にしなくなった「集合知」ですが、いま私はその存在を認めます。その代表例が、東京五輪エンブレムを白紙撤回させた「サノケン騒動」です。

朝日新聞はどう報じたか

発表された東京五輪のエンブレムに盗作疑惑が持ち上がり、デザイナーの過去の作品にも同種の疑惑が持ち上がり、最終的に白紙撤回に追い込まれたサノケン騒動で、次々と疑惑を発掘したのはネットユーザーです。その動かぬ証拠を前に、現実が動きました。ここではデザイン論を議論することはしませんが、いわば「集合知」が社会を動かしたのです。日本のインターネット元年とされる1995年から20年、さらにブログが普及し十数年を経て、ネット上には集合知を生み出す最低条件の情報が集積されています。

朝日新聞は“ネット社会での徹底的な疑惑追跡に、「自由な発想にブレーキがかかる」との声もある”と首をかしげ、系列のテレビ朝日「モーニングバード」では、捜査したネットユーザーを「鬼女(きじょ)」とネットスラングを用いて恐怖を煽ります。事実を積み重ね、真実に到達するのは報道の基本であり鉄則のはず。ネットユーザーも同じく、ネット上の情報を発掘し集積し、そこから「パクリ」に到達したに過ぎません。

批判される側へ

デザイナーへの批判を、個人情報を晒した執拗なバッシングとする報道もありました。しかし、騒動の渦中、組織委員会とデザイナーから真摯な態度を見つけることは困難でした。雪印乳業の食中毒事件で、当時の社長が、コメントを求めエレベーターまで追い掛けてきた記者に対して、「寝てないんだよ」と取材拒否をしたことが、社会の反感を買い、結果的に致命傷となったようにです。

批判されている当事者の些末な態度にまで目くじらを立てるのは、日本人全体にいえることで、ネットユーザーに特筆すべき習性ではありません。なにより「晒された」とする個人情報の大半は、SNSなどで本人が公開していたものです。

当初、既存メディアは「デザイン論」や「商標権」を理由に、擁護に近いスタンスで報じていました。しかし、次々とネット上で発掘、検証される事実を前に、方針変更を迫られました。サノケン騒動によって、テレビや新聞は「検証される側」になっていることに気づかされたのです。批判を好むものは、批判されることを嫌います。そしてネットへの警戒心を露わにします。

小さな発言が見逃されない時代

彼らが検証される側にまわったのは「フローからストック」への変化です。口頭の発言のように、すぐに流れて消えていく情報を「フロー」とし、保存され集積されるものが「ストック」で、ブログなどの記事コンテンツは後者に当てはまります。

近頃、テレビで姿を見ない文化人や著名人も「フロー」に甘んじていた人々です。名前は伏せますが、Twitter上で他者を侮蔑し、それをテレビ番組のなかで咎められると、アカウントを乗っ取られたと嘘をつき、翌週には番組を降板した著名人がいます。一般公開されたネット上の発言はすべて「ストック」されており、「言った、言わない」の水掛け論に逃げ込むことはできません。さらに、ストックされた情報は時間軸を持ち、議論の途中で意見を変える「手の平返し」が鮮明に記録されます。つまり、その場限りの思いつきの発言が見逃されない時代になったのです。

クレーマー対策も

先週触れた「クレーマー事件」について、検証したワイドショーのコメンテーターは、

ネットで拡散されるから、クレーマーに毅然とした態度を取ることは難しい時代

としていました。厳しい対応が、クレーマーによってネットに拡散され、悪評につながるという警告ですが、明らかな事実誤認です。

アマゾンのレビュー(書評)でも、レビュアーの別の記事を参考にして、クレームと批評を選別するようになりつつありますし、「知恵袋」でも「食べログ」でもそうした事例を散見します。安易な悪評を鵜呑みにするユーザーは減っているのです。なにより、「食べログ」や「Facebook」を利用すれば、店や企業もネット上で気軽に「主張」と「反論」できる環境があり、クレーマーの暴言に泣き寝入りする時代ではないのです。だからこそ、小規模店といえども、Web担当者の重要性が増しています。

小欄はメディア批判の企画ではないので、これ以上の深掘りはしませんが、その場限りの「フロー」なコンテンツを発信していた、既存メディアが追い詰められています。Web担当者は他山の石とすべきでしょう。そして彼らは根拠も乏しいままに、声高にネットを攻撃してみますが、断末魔の叫びに聞こえて仕方がありません。

今回のポイント

集合知が社会を動かす時代になった

そして嘘つきメディアは追い詰められる

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