UX指向アンケートでカスタマーエクスペリエンスを可視化するデータをサクッと集めよう
UX(ユーザーエクスペリエンス)のアウトプットとして顧客体験をマップ化することがここ数年とても多くなった。ユーザーの体験全体を“ジャーニー”と称し、その行動文脈を具体的に深掘るために、「インタビュー」や実際に商品・サービスを使う様子を見る「行動観察」などから材料を集めるのがUXのセオリーだ。
とはいえ、「なんだか難しそう。関係ないんじゃないかな」というのが多くのWeb担当者の方の反応だと思う。また、上記の定性調査はサンプル数が少ないというデメリットがあり、少人数の結果だけでそれが正しいか判断できないという意見もよく耳にする。そこで、多くの企業が当たり前のように利用する「アンケート」をUX調査に活かし、簡易的なカスタマージャーニーマップ作成につなげる「UXアンケート」のコツをご紹介する。
- ユーザーの行動・体験の大枠の流れを、アンケートの工夫次第で収集できること。
- アンケート結果と自由回答を活用し、簡易的なカスタマージャーニーマップが作成できること。
- 上記によって、ユーザー行動の仮説を定量的に検証できること(量とともに質も重視する場合は、定性的な調査も並行したい)。
UXアンケート作成前に、UXの疑問点や仮説を洗い出そう
通常のアンケートは5段階尺度を選択するような定型的設問がメインのため、その回答結果だけではUXはうかがい知れない。UXアンケートでは設問や選択肢の構造自体をユーザーの行動文脈に沿って設計し、ユーザー体験の5W1Hを垣間見るように組み立てることでUXを把握できる。詳しくは次回に説明するが、その結果は簡易的なカスタマージャーニーマップの体裁に整えることもできる。
一般的にアンケートの設問内容は、大きくわけて「仮説検証」と「実態把握」に分類できる。ユーザー行動・体験を調査しようとするUXアンケートの作成においても、まずは“検証したい仮説”や“把握したい実態”を整理する必要がある。
- 新製品・サービスの需要が想定通りあるのか、という市場調査
- 特定ターゲットに向けた企画や広告などの受容度などの事前検証
- 問題のある商品・サービスの改善策が、ユーザーの不満を解決できているかの効果検証
- 既存の製品・サービスの満足度調査
- ターゲット属性や競合ごとのブランドイメージ調査
- 問い合わせやクレームが多いため、具体的な理由・原因を意識調査
具体的な例をもとに考えてみよう。次の図は、一般的なウェブキャンペーン施策の企画書によく登場する想定図である。特定の商品サイトを軸に、広告をきっかけにしてユーザーがどう動くかを示した図だ。
これがいわば企業側の“仮説”である。話題性のあるウェブキャンペーンによって情報を拡散させ、新規ユーザーへの商品認知拡大とサイト流入を見込み、参加をきっかけとしてメルマガ登録数を増やすなどの結果を期待した“仮説”だ(実際の案件では、より具体的なアイデアや数値目標・KPIなどの数字も入ってくるだろう)。
このような施策内容は、企画チームの過去の知見や、別途調査によるユーザーの利用実態をベースに組み立てているため、ある程度確度の高い想定だ。しかし、ときとしてユーザー視点ではなく企業側にとって都合の良い想定図になってしまう場合も見受けられる。
ユーザーは、本当にこの想定通りに動くのか?
と、企画提案を読んだ上司から言われたら、あなたが担当者だとして何と答えるだろう。そんなときは、「実は事前調査してます!」と、キャンペーン実施前にファクトを語れるように、“仮説検証”が必要だと考えてみよう。
UXを意識した仮説を立てたら、5W1Hに分解しよう。
第1回、第2回でも取り上げたが、UXの視点ではユーザー行動・体験を5W1Hに分解し、状況を具体化することが大切だ。そこで、上記の行動想定図を以下のようにステップに別けて表にしてみよう。
そして、現段階では企画チーム内で確信が持てない箇所、想定がはっきりしていない箇所、調査したことがない箇所などがあれば、上記のように赤字で書き入れてみよう。この赤字のクエスチョンの部分が、アンケートで問うべきUXの疑問箇所になる。
UXの状況を引き出す7つのアンケート設問・選択肢ポイント
5W1H表を見ると“共有”に赤字クエスチョンが多く、どのようにシェアするのか最も情報が不足しているのがわかる。そこで、共有に関するアンケート設問の例を挙げてみよう。体験の状況を回答者から引き出すためには、本人の記憶を思い起こしやすくすることが必要だ。それにはコツがあり、簡単にまとめると下記の3段階で質問をしていく。
その事が起きたときが、直近でいつかを思い出してもらう
そのときの様子や、周りの状況、登場人物などを客観的に思い出してもらう
そのときの自分が思っていたこと、気持ちなどを具体的に思い出してもらう
このような段階的な質問法は、体験のストーリーを引き出す対面インタビューのテクニックと同様である。その際、よく使われるのがオープンクエスチョン(「はい/いいえ」など、答えに制約を設けない質問)で尋ねる方法だが、UXアンケートでも自由回答を活用し、選択肢を選ぶだけでなく回答者の言葉を拾い上げるのがポイントである。
では、実際に対象ユーザーが過去のウェブキャンペーンでどのような行動をしているのか、プレゼントキャンペーンの実態調査する場合を想定し、効果的なアンケート手法を解説していこう。共有という体験に絞るとポイントは次の7つだ。UXアンケートの設問例はPDFでも用意したので、本文解説とともに参考にしてほしい。
5W1Hを思い出させることからスタート
Who だれに共有したかを探る
When ユーザーにとって自然な共有の流れを知る
Where スマホ時代における共有が起きる場所を探る
What どんな情報が人へ伝達されるのかを知る
Why 人に伝えたいという動機をユーザーの言葉で聞き出す
How 多様化している共有方法を具体化する
“共有”を思い出させる設問例
まずは、直近で何らかキャンペーンを共有したのがいつ頃なのかを尋ねる。これは5W1Hを具体的に思い出してもらうための呼び水だ。
Q1あなたは直近でどれくらい前に、A社のプレゼントキャンペーンについて誰かへ知らせたり教えたりしましたか?
- 1か月以内
- 1~3か月前
- 3~6か月前
- 6か月~1年前
- 1年以上前
- 知らせたり教えたりしたことはない
“共有”のWhoを洗い出す設問例
“共有”というとネット業界の我々はSNSシェアをイメージしてしまいがちだが、家族と過ごしているときのマス広告接触や、企業内・学校内でのクチコミも多い。
Q2あなたがA社のプレゼントキャンペーンについて、直近で知らせたり教えたりしたのは誰ですか?
- 家族(親、祖父母、夫、妻、兄弟姉妹、子ども)
- 友人(会社の同僚、学校の友達)
- 多くの知人(mixi、Facebook、Twitterなどの知り合い)
- その他 [※自由回答]
“共有”のWhenを洗い出す設問例
誰かに“共有”するというステップを、仮説として下記段階で考えているが、このような段階を踏むのかどうかを検証する必要がある。Q3ではそのタイミングを聞いている。
認知・興味関心 → 情報収集 → 共有 → 参加 → 継続的接触
また、一日の生活サイクルのなかでどのような時間帯で共有が行われるのか調査する必要があれば、Q5のように1日の行動を分解した選択肢を設ける場合もある。これら回答者によってタイミングは様々であるが、最多パターンやユーザーにとって自然な共有の流れを把握すれば、キャンペーンを共有させる施策アイデアにつながるはずだ。
Q3あなたがA社のプレゼントキャンペーンについて、Q2で回答した人へ知らせたり教えたりした時、キャンペーンへの応募状況はどんなタイミングでしたか?
- キャンペーンを知った直後(参加方法や内容などを調べる前)
- キャンペーンを知り参加方法や内容等を調べた後(キャンペーンには参加する前)
- キャンペーンに参加した後
- その他 [※自由回答]
Q4あなたがA社のプレゼントキャンペーンについて、Q2で回答した人へ知らせたり教えたりしたとき、どんな時間でしたか?(朝:起床~12時 昼:12時~17時 夜:17時~就寝)
- 朝(起床後の時間)
- 朝(朝食中)
- 朝(家事中)
- 朝(TV視聴中)
- 朝(余暇・趣味時間)
- 朝(通勤通学・移動の乗り物乗車中)
- 朝(通勤通学・移動の待ち時間・徒歩中)
- 朝(勤務中・授業中)
- 朝(勤務・授業の休憩時間)
- 朝(外での飲食中)
- 朝(外での買い物中)
- 朝(その他) [※自由回答]
- 昼(昼食中)
- 昼(家事中)
- 昼(TV視聴中)
- 昼(余暇・趣味時間)
- 昼(帰宅・移動の乗り物乗車中)
- 昼(帰宅・移動の待ち時間・徒歩中)
- 昼(勤務中・授業中)
- 昼(勤務・授業の休憩時間)
- 昼(外での飲食中)
- 昼(外での買い物中)
- 昼(その他) [※自由回答]
- 夜(夕食中)
- 夜(家事中)
- 夜(TV視聴中)
- 夜(余暇・趣味時間)
- 夜(帰宅・移動の乗り物乗車中)
- 夜(帰宅・移動の待ち時間・徒歩中)
- 夜(勤務中・授業中)
- 夜(勤務・授業の休憩時間)
- 夜(外での飲食中)
- 夜(外での買い物中)
- 夜(就寝前の時間)
- 夜(その他) [※自由回答]
“共有”のWhereを洗い出す設問例
“共有”する状況は相当多くの場所が考えられる。さすがに自由回答では集計が難しいので、ある程度は可能性の高い選択肢を設けたい。たとえば、Q4の時間帯のタイミングとQ5の場所を掛け合わせると、その回答者が共有している状況を知ることができる。
Q5あなたがA社のプレゼントキャンペーンについて、Q2で回答した人へ知らせたり教えたりしたとき、どんな場所にいましたか?
- 自宅の居間・リビング等
- 自宅のキッチン・ダイニング等
- 自宅の自分の部屋
- 自宅の寝室・ベッド上
- 駅・バス停等
- 電車・バス等
- 路上・公園等
- 企業内・学校内
- 友人宅
- レストラン・ファストフード店・コーヒー店等
- コンビニエンスストア・スーパー・ショッピングモール・デパート等
- その他 [※自由回答]
“共有”のWhatを洗い出す設問例
Q2~Q5までで、「誰に・いつ・どこで」を質問したので、Q6では、具体的に何を共有したのかを質問している。「キャンペーン内容を伝えた」だけでは話が終わってしまうので、具体的にどんな“情報”や“キーワード”が人から人へと伝播しているのかを聞き出したい。
Q6あなたがA社のプレゼントキャンペーンについて、Q2で回答した人へ知らせたり教えたりした時、どんな内容を伝えましたか?
- キャンペーン名称
- 商品名
- 企業名
- プレゼント内容
- クイズやアンケートなど応募条件
- 応募期間・応募締切
- キャンペーンサイト、商品サイト、企業サイトのURL
- mixi、Facebookのいいね・シェアを押しただけ、Twitterでツイートしただけ等
- その他 [※自由回答]
“共有”のWhyを洗い出す設問例
Q7では、「誰に・いつ・どこで・何を」に加えて、そのときの具体的な気持ちや理由をユーザーに思い出してもらい、自由回答として記入してもらう。アンケート結果をもとに作成する簡易カスタマージャーニーマップにおいて、この回答者の直接コメントがあるとかなり説得力が増すので必須回答としたい。
Q7Q6で回答した内容を伝えようと思った具体的な理由や気持ちをお書きください
- [※自由回答]
“共有”のHowを洗い出す設問例
これまでのQ1~Q7の設問文では、「クチコミ」や「シェア」など場面・手段を特定するようなワードを用いていない。回答者ごとにその状況はさまざまなため、質問内容によっては、あえて緩めな聞き方をするのがUXアンケートのコツでもある。
共有の手段は、口頭からSNSまで多岐に渡るが、ここでも可能性のある選択肢を並べて集計しやすくしたい。キャンペーンサイトをSNSで拡散させる施策をする予定がある場合は、Q8のように詳細化して選択肢に入れ込んでおこう。また、Q9ではその共有時の利用デバイスも併せて質問している。
Q8あなたがA社のプレゼントキャンペーンについて、Q2で回答した人へ知らせたり教えたりした時、どのような方法で伝えましたか?
- 対面で話す
- 電話で話す
- ショートメッセージ
- Eメール
- 自分のブログに掲載
- mixi(書き込み)
- mixi(イイネ!、mixiチェック)
- mixi(メッセージ)
- Facebook(書き込み)
- Facebook(いいね!、シェア)
- Facebook(メッセージ)
- Twitter(ツイート)
- Twitter(リツイート)
- Twitter(メッセージ)
- LINE
- カカオトーク
- Skype
- 他のアプリ・サイト・ツール
- その他 [※自由回答]
Q9Q8で回答した方法の利用端末をお選びください(Q8で「対面で話す」を選んだ場合は回答の必要はありません)
- パソコン
- タブレット端末
- スマートフォン
- 携帯電話
- [※自由回答]
以上、仮想のキャンペーン企画に基づき、幅広いユーザーを対象としてUXアンケートの設問設計例を紹介したが、実案件で企画検討する場合にはターゲット設定があり、その属性や人物像が決まっている。
たとえば、「学生向け」「会社員向け」「主婦向け」「家族向け」など性年代や職業、家族構成によるデモグラフィック属性と、「◯◯の商品が好き」「◯◯を購入したことがある」「◯◯が欲しいと思っている」など嗜好性や経験・意向による対象者条件があり、その両方が組み合わさる場合がほとんどだ。また、ネット会員ユーザーか非会員ユーザーかなど、ウェブならではの属性もあるであろう。
そのターゲット設定がそのままアンケート対象者のスクリーニング項目となるわけだが、その人物像によってアンケートの設問・選択肢の立て方は大きな影響を受ける。このUXアンケート検討や仮説立案の前に、企画チーム内でターゲットユーザーの属性・条件について、しっかりすり合わせをしておきたい。
アンケート結果を簡易カスタマージャーニーマップ化しよう
キャンペーン参加の一連の流れをステップごとに5W1H化した表を見て、何かの構造に近いことに気づかれただろうか。実は、カスタマージャーニーマップの原型となっているのだ。カスタマージャーニーマップについては、次回詳しく説明するが、ユーザーがサービスや製品を利用する際のさまざまなタッチポイントや行動、思考などを、一枚の図版上に視覚化したものだ。
上記の図は、仮想のキャンペーンにおけるカスタマージャーニーマップの例だが、5W1Hの要素が時間軸で流れていることがわかる。
- Who:主人公および、その体験に関わる人物、ステークホルダーなど
- When:主人公の体験の時間軸、タイミングなど
- Where:主人公の体験の場所、環境など
- What:主人公の体験に関わる対象物・情報など
- Why:主人公の体験の動機、心理など
- How:主人公の体験の手段、タッチポイントなど
今回は、“共有”のステップを例に挙げてアンケート設問を紹介したが、このようなアンケート設問を5つのステップそれぞれで実施し、アンケート結果をつなぎ合わせていくと、回答者の行動文脈のリアルな実態が見えてくるのである。
アンケート調査のため設問以外の文脈はわからず、回答の点と点を線につなぐ際には、どうしても想像する部分が発生する。しかしながら、回答によって仮説が検証されている部分が何箇所もあり、全ステップが想定の状態よりは、はるかに説得力が生まれる。特にユーザーの動機や理由の自由回答文言をピックアップしてマップ上に書き込むと、リアリティが加わる。
弊社では、このようなサンプル数的にも確証が持てるUXアンケートの結果と、少人数の対面インタビューや行動観察の結果を組み合わせることで、質的にも量的にも的確なインサイトを得たカスタマージャーニーマップの作成をする案件が増えている。
次回は、このカスタマージャーニーマップの作成方法のポイントについて紹介したい。
- 行動文脈をステップごとに5W1H化し不明点を洗い出すことで、UXアンケートの設問検討のベースにできる
- 5W1Hに分類したUXアンケート結果は、カスタマージャーニーマップを構成する基礎要素になりえること
- UXアンケートから簡易カスタマージャーニーマップは作成できるが、インタビューなどの結果も組み合わせて定性・定量のファクトを集めることでより信頼性が高まること
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