ICANNを知ることで見えてくるもの/知って得するドメイン名のちょっといい話 #18
ドメイン名やIPアドレスに関する話題の中で、たびたび登場する組織「ICANN」。「インターネットの資源管理を行う非営利組織」という一言で紹介されることが多いが、このICANNをきちんと知っておくと、ニュースなどを通して得られる情報が大きく違ってくるはずだ。
※この記事は、レンタルサーバー完全ガイドの発行する雑誌『レンタルサーバー完全ガイドVol.19』(2009年11月27日発売)に掲載されたものを再編集して掲載しているものです。
アイ、キャン?
ICANN。アイキャン、もしくはアイカンと発音されるこの組織が、インターネット関連のニュース記事などに登場することが多くなっています。正式名称は「Internet Corporation for Assigned Names and Numbers」。直訳すれば「割り当てられる名前と番号のためのインターネットの法人」。つまりICANN は、インターネット全体で使われるドメイン名やIPアドレスといった「名前」や「番号」に関する全体的な調整を行うための組織、ということになります。
このICANN、ドメイン名やレンタルサーバーの利用者という立場からは、何か直接的なサービスを提供してくれるものではありません。その存在を知らなくてもレンタルサーバーを利用する上で支障はないでしょう。しかし、ICANNとその動きを知ることで、今後のインターネットの「ある部分」が見通せるようになります。
ICANN設立の背景
ICANNは米国の非営利法人で、米国カリフォルニア州マリナ・デル・レイにオフィスを構えています。マリナ・デル・レイはヨットハーバーの町として有名ですが、ICANNがここに拠点を置いているのには理由があります。
*1: インターネットの発展と標準化への多大な貢献から「インターネットの神様」と呼ばれました。
インターネットが米国内の研究ネットワークから発展したものであることは有名な話ですが、その歴史的経緯から、ドメイン名やIPアドレスの管理は南カリフォルニア大学の研究所に在籍していた研究者、故ジョン・ポステル氏*1のもとで、IANA(Internet Assigned Number Authority:アイアナと読みます)というボランティア組織が行っていました。
しかし、インターネットの世界的な広がりに伴い、ドメイン名とIPアドレスを取り巻く環境も多様化し、それまでIANAが行ってきた割当管理だけでなく、社会的な対応や、ポリシーの世界規模での調整などが必要とされるようになりました。
この流れを受けて、1998年に設立されたのがICANNです。折りしも、インターネットがビジネスとして展開し、さまざまな関係者がそれぞれの思惑を抱く中、いかにオープンで、中立な組織を形作るかということについて多くの議論が重ねられました。IANAの中心にあり、この議論の中においても大きな役割を果たしたポステル氏が、ICANNの設立とほぼ時を同じくして急死したことは、当時のインターネット関係者の間に大きなショックを与えました。
マリナ・デル・レイにはポステル氏がIANAを運営してきた研究所があります。ICANNは、IANAの機能とポステル氏の遺志を継ぎ、今も海辺にあるのです。
ICANNの「あり方」
ICANNは他の組織にはない「ボトムアッププロセスによる意思決定」という特色を持っています。ICANNの初代理事会議長を務めたエスター・ダイソン氏が、ICANNを的確に語っています。
「ICANNはいかなる法令や規制による『権威』も持ちません。ICANNには、それが代表するコンセンサスの力しかなく、インターネットコミュニティのみなさんがICANNの核心であるコンセンサス形成のプロセスに積極的に参加し、その結果に従うことに頼っているのです」
つまり「ICANNが決める」のではなく「ICANNを場としてみんなで決める」のです。ICANNにはインターネットに関わるさまざまな立場の人が参加する枠組みが用意されています。図1はICANNの組織構造です。
ICANNの方針決定は理事会決議によって行われますが、これは必ずしもトップダウンを意味しません。ICANNには、ドメイン名領域を例に挙げても、レジストリやレジストラ、ISPや非営利団体、知的財産関係者から完全な個人まで、さまざまな人や組織が参加しています。それだけでなく、DNSやセキュリティの専門家、インターネットの技術標準を議論している技術者、そして各国政府関係者などもそれぞれの立場で参加しています。これらの関係者が議論し、コンセンサスにたどり着いたものが理事会で承認されます。つまり、ICANNは多くの利害関係者によるボトムアッププロセスで動いているのです。
ICANNは何してるの?
ICANNはインターネットのさまざまな課題に取り組んでいますが、ドメイン名領域では、トップレベルドメイン(TLD)の管理を行っています。
国ごとのccTLDについては、レジストリがどの組織であるかということを管理し、お互いの責任を明確にするための関係を構築しています。JPRSも.jpのレジストリとしてICANNと契約を結んでいます。各ccTLDがどのようなサービスを提供するかはそれぞれのレジストリに任されています。
*2: 本コーナーで過去に解説しています。オンライン版でご覧ください。
gTLDについては、レジストリの管理だけでなく、サービスの内容についても管理しています。これは、gTLDが世界的に用いられるものであり、グローバルな検討が必要だからです。例えば、gTLDでは「ドメイン名の登録後、一定期間は無料でキャンセルできる」というルールがありました。しかしこれは「ドメインテイスティング」という問題を生み、ICANNでの議論の結果、制度が修正されました。*2
さらに、新しいgTLDの設置もICANNの場で決められています。過去には「.biz」「.info」「.asia」などが導入されてきました。そして今、さらに多くのgTLDを導入すべく議論が続けられています。
このように、ドメイン名だけを見ても、ICANNでの動きが皆さんが利用するドメイン名や、そのサービスに関係してくることがわかります。ICANNでどのようなことが議論され、何がどう動こうとしているのか、ということを知ることは、ドメイン名はどうなっていくのか、それが自分にどう影響するのかということを先んじて知ることにもなるのです。
ICANNを知る、ICANNに参加する
ICANNで今何が議論されているのかを知るために、最も簡単なことは、日々のニュースを読む中でICANNに関連した話題への感度をあげることです。以前に比べて、ニュースなどでICANNの動きが取り上げられることが増えています。
また、JPRSやJPNICなどからの情報発信に目を向けるのもよいでしょう。ICANNは年に3回、世界各地で会合を開催しています(ドメイン名関連会議報告(JPRS))。この内容などをウェブやメールマガジンなどで発信しています。
英語に自身がある人なら、ICANNのウェブ(図2)を見るのがオススメです。検討状況が随時更新され、最新の情報を得ることができます。
そして、ICANN会合に参加することが、ICANNを知る最もよい手段です。国際会議への参加、というと「それはちょっと…」と思うかもしれません。でも、世界中から毎回1,000人ほどの参加者を集めるICANN会合のオープンな雰囲気はそんな心配を吹き飛ばしてくれます。
また、ICANN 会合は、インターネット中継環境が整えられていて、現地に行けなくても参加できるというのが大きな特徴です。英語が聞き取れなくても速記録が表示されるので助けになります。
次回のICANN会合は、2010年3月と少し先ですが、ケニアのナイロビで開催される予定です。いつも使っているドメイン名の将来について、どこでどう議論されているのか、ということに少し興味を持ってみませんか?
JPRSからのお知らせ 総統の夢.jp
JPRSでは、人気アニメ作品「秘密結社 鷹の爪」とタイアップし、ドメイン名について楽しみながら学べる無料ゲームサイト「総統の夢.jp」を公開しています。ぜひアクセスしてみてください。
※この記事は、レンタルサーバー完全ガイドの発行する雑誌『レンタルサーバー完全ガイドVol.19』(2009年11月27日発売)に掲載されたものを再編集して掲載しているものです。
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