“みんなの意見”は本当に正しいのか、その謎を解明する/書評『「多様な意見」はなぜ正しいのか』
BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊
『「多様な意見」はなぜ正しいのか――衆愚が集合知に変わるとき』
評者:森山 和道(サイエンスライター)
1+1は2を超えることもある。だから多様性は超加算的なのだ
複雑系の研究者スコット・ペイジが「多様性」の謎に挑んだ注目作
多様性は恩恵をもたらすという。それはなぜか。本当なのか。その答えが本書には書かれている。
人はそれぞれ自分の心の中に問題解決のための「ツールボックス」を持っている。違う属性を見る多様な観点と言ってもいいだろう。恣意的に集められた専門家たちのツールボックスの中身はだいたい似たり寄ったりだ。しかしながら多種多様な人を集めると、それだけツールボックスは多様になる。だから問題解決に挑む能力も高くなるのだ。
しかし、「最初から能力が高い個人を集めたほうが、より良い問題解決能力を持つのではないか?」誰もがそう考えるだろう。実際には、集団の予測能力は「個人の能力」と「集団の多様性」からなる。両者は集団の予測能力に、等しく寄与する。能力が高いことにはもちろん意味がある。だが多様であることも、それと同じく重要なのだ。
なぜなら、多様な群集は各個人の平均より必ず正確に予測できるのである。集団的誤差は、平均個人誤差から予測多様性をマイナスしたものだ。各個人の予測が異なる場合、予測多様性はプラスになる。従って、集団的誤差は平均個人誤差よりも必ず小さくなるのである。平たくいえば、「群衆」は、それを構成する個々人よりも、より良く予測できるのである。これが「群衆の知恵」のロジックだ。
だが、実際の群衆はメンバー間で交流し、予測を共有する。そうすると多様性は減少するし、他人の予測に合わせて自分の予測を変更した結果、たとえば市場の暴走のようなことも起こりえる。本書ではそれらのケースも理詰めで検討されており、かなり面白い。詳細は是非お読みいただきたい。
ただし、多様であることが必ず集団にとって利益になるとは限らない。多様な組織や社会の構成メンバーの基本的な好みが多様であると、全員が共有できる集団的な利益や、プランニングに分配可能な資源は少なくなる。多様な認識的ツールボックスは良いが、多様な好みは良くない場合もあるわけだ。
そして、両者は相互作用する。本書によれば、多様な認識的ツールボックスと多様な基本的好みを持つ人々の集団は、問題解決や予測においてはより良い結果を出すが、同時により多くの衝突も生む。つまり、アイデンティティが異なる人々の集団は、良くなることも多いが失敗することも多いというわけだ。多様性にはコスト問題もある。本書では、たとえば民族的に多様な国家は多くの革新とより優れた集団的予測を生むはずだが、同時に民族多様性は基本的好みとも相関しているので、公共財への投資減少と政治的不安定をもたらすと結論している。
最後に、本書は「多様なツールの超加算性」について解説している。集団が問題解決に取り組んでいるとき、1人ひとりの人間が向上を果たすことができれば、他の人がその新たな解を向上させることができる。多様な観点と多様なヒューリスティックは連続的に組み合わされて問題解決に用いられる。1+1は2を超えることもある。だから多様性は超加算的なのだという。多様な集団は、違いによってさまざまな事態に対応できるだけでなく、違いを組み合わせてより良い解を作り出すこともできるのだ。また基本的好みの多様性が良い結果を生み出すこともある。それぞれ異なる好みからスタートしても、みんなが満足できる解を見いだすことも可能だからだ。
まとめとして、本書を締めくくる以下の言葉を引用してご紹介しておきたい。私自身も肝に銘じておきたいからだ。「自分と違う風に考えている人、違う言葉をしゃべる人、違う経験、訓練、価値を持つ人と出会ったら、チャンスと可能性に気づくべきだ。才能のある“自分”と才能のある“彼ら”が、さらに才能のある“自分たち”になれることを知っておくべきだ
」
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