人間の不条理な心理や行動をWebマーケに応用する10の方法(前編)
僕は、ダン・アリエリー氏の著になる『予想どおりに不合理――行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(邦訳、早川書房刊)を要約した、クリス・イェ氏のオンライン版概説が実に気に入っている。これは、人間の行動や反応を促す心理学についての興味深い研究だ。これによって驚くほど予測が可能になるのだ。ここから学び取り、Webマーケティングに応用できる明確な教訓がいくつかあると思う。では、項目順に見ていこう。
1:相対性についての真実
家庭用品のウィリアムズ・ソノマ社が自動パン焼き機を発売したとき、売れ行きは鈍かった。同社がそれよりも50%以上高価な「デラックス」版製品を新たに発売すると、最初のパン焼き機が飛ぶように売れ始めた。割安に見えだしたからだ。
25ドルのペンを購入しようと考える際、調査対象者の大多数が、7ドル安い店があれば車で15分かけても安い方を買いに行く。ところが、455ドルのスーツを購入する場合なら、対象者の大多数は、7ドル安くなるからといって車で15分離れた他の店に行こうとはしない。節約できる金額とそれに必要な時間は同じなのに、人々はまったく違う選択をする。思考の相対性に注目しよう。これは、われわれの誰もが生まれつき持っている思考傾向だ。
- 製品やサービスのプレミアム版を提供し、簡単に比較できるようにする。
- より高い値段を設定することで、「安値狙い」の心理に歯止めがかかるという付加価値が見込める。
2:需要と供給のまやかし
真珠王ことサルバドール・アサエル氏は、1973年にそれまで業界に知られていなかった黒真珠の市場を独力で作り上げた。黒真珠を売り込むために同氏が行った最初の試みはまったくの失敗で、黒真珠は一粒も売れなかった。そこでアサエル氏は友人のハリー・ウィンストン氏を訪れ、ウィンストン氏の5番街にある店舗のショーウィンドウに、法外な値札をつけた黒真珠を陳列してもらった。それからアサエル氏は高級雑誌に、ダイヤモンド、ルビー、エメラルドと黒真珠を並べた全面広告を掲載した。まもなく、黒真珠は高価なものだと認識されるようになった。
シモンゾーン氏とレーベンシュタイン氏は、新しい街に引っ越す人々が新居の家賃を以前に住んでいた街と同程度の額を維持しようとする傾向を発見した。ラボックからピッツバーグに引越した人々は、同額の家賃で以前より小さな住宅に一家でおさまる。ロサンゼルスからピッツバーグに引っ越した人々は、家賃を節約しようとはせず、大邸宅に入居する。
- 高級な製品として、高い価格で売り出したい? それなら、高級品市場で「高級な」競合相手と肩を並べよう。価値を認めさせるには、位置付けがきわめて重要になる。
- 価格にはこだわりが生じる。販売モデルではこれを考慮し、状況が大きく変わった場合であっても、これまでの顧客が新価格に拒否反応を起こす可能性に対して対策を立てておこう。
3:ゼロコスト効果
実社会におけるゼロコスト効果は、Amazon.comの配送料無料サービスで明らかになっている。一定額以上購入すると配送料が無料になるサービスがが導入されてから、Amazon.comの売上はフランスを除くすべての地域で増加した。というのも、フランスのAmazon.comでは、配送料は無料にはならず1フラン(0.20ドル)になるだけだったのだ。これを無料に変更すると、フランスでも他の地域と同じように売上が増加した。
実社会での例をもう1つあげるなら、無料で何か貰えるとなると、人々が途方もなく長い時間を並んで待つという事実がある。無料ということは、行動を起こさせるにあたってこのうえなく強力なきっかけになる。
- 無料のものを提供しよう。だが、見返りとして確実に高いROI(トラフィック、広告ビュー数、メールアドレスリストなど)を実現させること。
- 人々がことさら無料のものを喜ぶのは、それが無料だからに過ぎないという事実を心得ておこう。この点を巧みに利用して、好意や親愛の気持ちを向けてほしい人々(新聞記者、ブロガー、評論家、反対派など)に何らかの無料提供をするといい。
- 何かを無料で得る見返りとして人々に何らかの自発的な行動を起こさせることは、別のやり方をすれば大きなコストがかかるような行動(たとえば、ウェブ調査、情報分類、データ入力など)の動機付けとしてきわめて有効な手段となる。
4:社会規範と市場規範は共存しない
ボース氏、ミード氏、グード氏による実験:被験者たちは、普通の文(「外は寒い」)、あるいは金銭に関連のある文(「高額の給与」)のどちらかの文章を、文章が分解された状態からもとどおりに組み立て直すように求められた。それから、パズルを解くよう指示された。実験者は部屋から出ていくが、被験者たちは実験者に助力を求めてよいことになっていた。
- 「給与」文に取り組んだ被験者は、5.5分頑張ってから助けを求め、「普通」文を解読した被験者は3分で助けを求めた。
- 金銭について考えることは、人々をより自立的にし、他者に助けを求める気持ちを減少させた。
- 一方、他人を助けようという意欲も低くなった。
- 結論として、金銭について考えることにより、人々に市場原理に沿った心理が働くということが言える。金銭に関する情報に触れた被験者たちは以下のような特徴を示した。
- より利己的かつ自立的。
- より多くの時間を1人で過ごしたがった。
- チームワークが必要とされる仕事よりも個人で行う仕事を選ぶ傾向が強かった。
- 他の人たちからかなり離れて座ることを選んだ
実社会における具体例:米国の高齢者非営利団体AARPが、困窮する被雇用者のために1時間あたり30ドルの割引料金で弁護士業務を提供するプログラムを立ち上げ、弁護士たちに参加を求めたが、参加は得られなかった。プログラムの責任者が、無料で頼むと言われたらどうだろうと尋ねたところ、弁護士たちは大部分が参加するだろうと答えた。
結論:市場規範を持ち込むと社会規範は駆逐される。
- 推薦、紹介、コンテンツ(ブログのコメントやユーザー生成コンテンツの記事などを考えてほしい)などによって、君のサイトや事業に進んで貢献してくれる人たちは、報酬を申し出るとやってくれなくなるかもしれない。無料で得られるかもしれないことに資金を投じる前に、よく考えよう。
- ボランティアの場合と従業員の場合では、心のありかたが大きく異なる。自分がどちらの行動形態を求めているのかよく考えた上で、どちらのタイプの労働力を集めるかを決めよう。
5:興奮の影響
アリエリー氏とレーベンシュタイン氏は、カリフォルニア大学バークレー校の学部生を対象に実験を行った(アリエリー氏はMIT、つまりマサチューセッツ工科大学でこの実験を行おうとしたが、必要な許可が得られなかった)。2人は学生たちに一連の質問をした。それから学生たちを性的に刺激を受けた状態にして、再び同じ一連の質問をした。その結果、人々は興奮状態にあるときに自分の意志決定がいかに違ったものになってしまうか、まったく自覚していないということがわかった。
推論:きっぱりノーと言うと約束していても、興奮状態にあるときはその約束が守られる可能性は低い。
- 厳しい経済状況にもかかわらず、アダルト向けコミュニティサイトAdultFriendFinderが12月23日に新規株式公開を実施したのにはちゃんとした理由がある。
- オーディエンスを興奮させよう。そうすればその行動は劇的に変化する(注記:これは普遍的に当てはまるというものではないだろう)。
この記事は前後編の2回に分けてお届けする。次回は、残る5つの不条理な行動を見てみよう。
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