外部要因を意識したデータの読み解き方――調査・リサーチ・統計の基礎その6
第1回のエピソードの後日談、社長は解任
連載の第1回で、業績を上げた営業担当者と、高い予算を作ってしまった上司の話をしました。さてこの話の後日談があります。図1をご覧ください。
実はこの会社が取り扱っているのは成熟商品で、技術革新もなく、新たな市場を創造していくようなマーケットではありません。そのため市場規模は橙色線のように下降基調でした。
しかしながら無理な予算を作り、現場は不正ぎりぎりの行為を行っていたうえに、社長の裏金を使った不正も発覚し、社長解任となりました(架空の話です)。不審に思った株主が追及したことがきっかけでした。市場の状況が読めない社長は、不正をするまでもなく、早期退任となったでしょう。
相対的に見るために市場全体の動きと比較する
数字は客観的で絶対的なものと思いがちですが、こうした1つの決まった数字やデータですら、実際は主観的で相対的なものです。というお話をプロローグでもお話ししましたが、「相対的に見る」ための代表として、市場全体がどう動いているかが大事です。
そんなこと当たり前だと思うかもしれませんが、意外と後から言われて気がつくことも多いはずです。そんな例をご紹介していきましょう。
年齢構成の変化は、前後10年で劇的に変化
2006年から日本の人口が減り始めているということは聞いたことがあるでしょう。でもその10年も前から生産年齢(15歳から64歳)人口が減っていたことはご存知でしたか。つまり勤労者となり得る人口はバブル崩壊の後を追うように減り始めていたのです。図2をご覧ください。日本の年齢3区分人口の推移です。
老年の単身世帯が増加する
世帯数はというと、実は2015年まで増え続けていきます。晩婚化などが進んで若い単身世帯が増えるとお思いでしょうか。違います。若い人はどんどん減っていくので影響は大きくありません。増えていくのは、老年者の単身世帯です。
あなたの企業、あるいはあなた自身では、こういった働き盛りの生産年齢人口、老年(65歳以上)人口、総世帯数、単身世帯数といった変化に対応していくような、人事労務対策、生産量、商品開発を意識していますか? 単純に前年比何%増という計画を繰り返していませんか?
少なくとも日本のマーケットだけで考えると、単純な右肩上がりの幻想はとっくに過去のものとなっています。企業の使命は成長ですから、何もしないと右肩下がりの現状は辛いですが、ますます自ら変化のスピードを加速していかなければいけないのも頷けますね。
こういった外部環境は変化していきます。当然調査データなど各種数値の見方も、これらの外部要因を意識しておかないと、間違った解釈をしかねませんね。
20歳代のシェアが半減?
図3をご覧ください。これはネットレイティングスが2006年11月に発表したプレスリリースの中で使われている図です。http://www.netratings.co.jp/New_news/News11072006.htm
2000年から2006年の6年間でウェブ利用者の年齢構成に大きな変化があったということを示したもので、20代の構成比が半減し、中高年齢層や10代は着実に増加していることを述べています。
この例ではそれほど大きな影響はないのですが、もし人口構成比ががらりと変わっていたとしたら、傾向を見誤る恐れがあるということになります。実はこの6年間で普及率はものすごく伸びており、絶対値は20歳代でも相当伸びています。
人口構成の変化に影響を受けない数字を使おう
人口構成比は大きく変わっていませんし、トレンドを見せたかったということで、図3は間違った見せ方ではありません(人口構成比については、20代以下の構成比は少し減っているので、シェア減少の要因の一部には、この外部要因がありますが)。しかし、図4のようにすると、さらに説得力のあるグラフになると思います。
こうしますと、6年間の推移は見ることができませんが、最初と最後の各年代の普及率の絶対値がわかりますので、それぞれの年代での普及状況のボリューム感も分かりますし、各年代の人口ボリュームの変化に左右されることのない理解ができます。
このリリースで述べられている「20歳代の比率が減少しているのは、ウェブ利用が全世代にわたり一般化したことによるものですが、携帯電話端末の機能やサービスが劇的に向上し、ECやSNSなどの携帯電話による利用増も要因と考えられます
」という主張にも、素直に納得できます。
変化を大きく見せるトリックはよく見かける
この例は、使うグラフを変えることで、印象がずいぶん変わってしまう例の一つでもあります。こちらは本質的な話ではありませんので、詳しくお話ししませんが、プレゼンテーションにおけるトリックを2つご紹介して締めくくりたいと思います。
- 一部の範囲だけをグラフ化して、変化を大きく見せるトリック
- 2次元、3次元のイメージを利用して、変化を大きく見せるトリック
どちらも大袈裟に誇張するということですが、私もたまに騙されそうになります。
リサーチ/データリテラシーを解説している本
これまで6回にわたってリサーチ/データリテラシーについて解説してきました。なるべくインターネットに関わる数字や例を挙げて身近に感じていただけるように工夫したつもりですが、いかがでしたでしょうか。
もっと本格的に社会調査や統計データに関して理解を深めたい方は、下のような本がありますので、参考書としてお読みください。似たようなことが書いてあることもありますが、さまざまな例が取り上げられていますので、きっとためになることと思います。
- 『統計でウソをつく方法』(ダレル・ハフ著、講談社ブルーバックス)
- 『「社会調査」のウソ』(谷岡 一郎著、文春新書)
- 『データの罠』(田村 秀著、集英社新書)
- 『数学でわかる社会のウソ』(芳沢 光雄著、角川oneテーマ21)
- 『統計数字を疑う』(門倉 貴史著、光文社新書)
- 第1回の後日談、社長は解任
- 相対的に見るために市場全体の動きと比較する
- 年齢構成の変化は、前後10年で劇的に変化
- 老年の単身世帯が増加する
- 20歳代のシェアが半減?
- 人口構成の変化に影響を受けない数字を使おう
- 変化を大きく見せるトリックはよく見かける
- リサーチ/データリテラシーを解説している本
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