企業ホームページ運営の心得

どうしてわかってくれないんだろう……を解決する例え話

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の八十八

説明下手を解消するための魔法

企画の達人「クボタツ」こと久保田達也先生は、企画とは「要するに」で語れるものだといいます(くぼたつ流「企画エクササイズ」)。「要するに」に続くひと言で表せないようでは他人に伝えることができないということです。これは商売用ホームページにも通じます。論旨が多ければ聞き手の負担が増えます。負担が注意力を散漫にし、理解力を低下させます。そこで「要するに」です。テーマ(企画)を絞り明確に述べるということです。ちなみに「要するに」といって次の話題を始める人もいますがそれは論外で、コンテンツにおいても言語道断です。

実戦ではこの「要するに」でまとめた言葉はタイトルや見出し、会議での議題などに用います。制作業者との打ち合わせでも有効で、テーマを明確にすることで意識を集中させます。そして「本文」や「議論」では魔法……もとい「例え話」を使います。

今回は「魔力」を秘めた「例え話」の初級編。自分の話がなかなか相手に伝わらないとお嘆きのあなたに。

基礎工事の写真で理解できるレベル

住宅の広告で「基礎工事の写真」を見ることがあります。しかし、それで「わかる」のは知識を持つプロの話で、専門用語の濫用も同根で、語弊を排除し「正しい情報」を伝えようとする誠実さの表れなのですが、最後に述べるようにそれを望んでいる人は多くなく、簡略化したイラストのほうが好まれます。イラストは「例え話」に通じます。

例え話とは共通する別の事例を用いることですが、それぞれが似ていたとしても客が「わかる」とは限りません。かみ砕いて述べると「エヴァンゲリオン」を知らないオジサンに弐号機を説明する際に初号機を引き合いにするようなものです。ウルトラマンならジャックを例に、Zガンダムに百式……と、これは悪例。

例え話は客(相手)の「わかる」レベルに会わせた時に魔力を発揮します。

寿司屋でカレーを考える

例え話の魔力を強めるには相手のレベルに併せ、さらに「シチュエーション」を設定します。客の無理な注文を断るときの例えに、「Noという交渉術」でこう紹介しました。

「寿司屋でカレーをだせという客の注文に応じる店と、断る職人のどちらの「にぎり」を食べたいか」

営業マン時代からの持ちネタで今でも使っているのですが、寿司屋としたのは「職人」や「こだわり」を連想することへの期待と、ほんのりと酢の香りの漂う店内で、強烈な臭いが鼻をつく「カレー」を注文する状況を想像させる狙いです。舞台設定により例え話が相手の頭の中で映像化され魔力を強めます。

リアリティは混乱のタネ

あとは「ベクトル」を与えて完成です。

話を聞いた相手がどう思い、何を感じるかからベクトルを逆算します。寿司屋でカレーという「無理な注文」に、カレーの臭いのする寿司屋を「嫌だな」と感じてもらえれば完成です。つまり結論ありきで創作するということです。童話やお伽噺の「教訓」と重ねても良いでしょう。

例え話においてのリアリティーの追求は「説明のための説明」に陥るリスクを抱えます。カレーではなくラーメン……これはあります(興味のある方はネットで検索を)。お子様ランチだってあります。リアルは想像以上にイイカゲンで創造的です。それではパスタなら? パスタでは「嫌だな」という「ベクトル」を定めるのにまた別の設定と説明が必要になってしまいます。だからご都合主義に「カレー」です。

ポルトガル人と中国人の会話

経験則ですが知らない人への説明に「リアル」を追求するといらぬ手間を抱えます。

検索連動型広告に出稿したいという相談がありました。そこでオーバーチュアとアドワーズの利用法と違いを説明したところ「ちょっと違う気がするのですが」と不満を漏らします。そしてこう続けました。「それでヤフーで宣伝するにはどうすれば良いのでしょうか」。オーバーチュアやアドワーズが正しい名称だとしても、クライアントにとっては「ヤフー」や「グーグル」なのです。そして最初から説明をやり直しました。

そもそも理解できない相手だから「例える」のです。ウィンドウズのソフトをマックで使えないことの説明に、DOSや漢字トークから続く歴史を語っても理解できません。それより「ポルトガル人と中国人の会話が成立しないのと同じ」と例えれば省エネです。

客の心理を満たすために

例え話初級編の最後に「カレー」を使うもう1つの理由について述べます。

説得されたいと思う人は少なく、多くは納得したいものです。言葉遊びではありません。繰り返しになりますが正確な情報を理解するには基礎知識が不可欠です。これを補おうとすれば説明に説明を重ねることになってしまい、次に犯すのはそれを読むメリット(得)を説くこと「説得」です。するとそれを「偉そう」と解釈する人も出てきます。

「こいつ、俺に説教しているのか」となれば最悪です。誰もが知識欲旺盛で学習意欲が高く謙虚であるわけではなく、特に「社長」などの「エライ人」の中には自分より賢い存在を嫌う人もいます。

そこで「例え話」で納得を狙います。多少の語弊は棚上げしても、「わかったような気持ち」にさせることが狙いです。もちろん、ベクトルで誘導します。寿司屋にカレーならパソコンが使えなくても理解できますし、ポルトガル語は話せなくても、中国人との会話が困難であることは想像できます。そして、奇抜な設定は笑いを誘いやすく、笑って貰えれば警戒心を解くことに成功します。だから今でも「カレー」なのです。「スベる」こともありますが。

例え話はファンタジー、「言いたいこと」を伝える魔法です。「説得」するのなら魔法を使って「納得」させてから。まだまだ例え話の「例え」はあるのですが、文中の悪例のように論旨がぼけるのでひとまずこれまで。

♪今回のポイント

伝わる例え話は明快な嘘でできている。

専門家が頷く正確さを望む客はそんなに多くない。

※今週(9月8日)の「通販支援ブログ」での連載は「自社サイトとはコリン星」とした「例え話」を掲載しております。よろしければこちらもどうぞ。

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