ZOZO(ゾゾ)は8月10日、服のお直しサービス「キヤスク」を手がけるコワードローブと連携し、生産支援プラットフォーム「Made by ZOZO(メイドバイゾゾ)」を通じてファッションブランドが通販サイト「ゾゾタウン」上でインクルーシブウェア(編注:障害の有無、体型の違い、性別などに関係なく、誰もが便利に使える「インクルーシブデザイン」の考え方を取り入れた服)を受注販売できるサービス「キヤスク with ZOZO」を開始した。ゾゾの生産プラットフォーム本部DX推進部で生産管理を担う長田富男氏とコワードローブ社長の前田哲平氏に協業の経緯と狙いなどを聞いた。
ゾゾの生産管理を担う長田富男氏(右)とコワードローブ社長の前田哲平氏
服のお直しサービスとのタッグで障害者向けの服作りに注力
障害者それぞれの特徴に寄り添う
――新サービスを始めた経緯は。
長田: 8歳の娘に障害があって日常的に服に困っていたので、インクルーシブウェアには関心があった。ゾゾの生産管理を担当するなかで、1枚から受注生産できる「メイドバイゾゾ」と、ゾゾユーザーが身長と体重を選択するだけで豊富なサイズ展開のなかから体型に合ったサイズの商品を購入できる「マルチサイズ」という当社独自の生産の仕組みを使えば、障害がある人たちそれぞれの特徴に寄り添った服作りが、ビジネスとして成り立つと思った。
「キヤスク with ZOZO」のイメージ(画像はゾゾのコーポレートサイトから編集部がキャプチャ)
――「キヤスク」と組んだ理由は。
長田: 事業化に当たっては障害当事者の声を重視したいと考え、普段からチェックしていた服のお直しサービス「キヤスク」を運営するコワードローブさんに声をかけさせてもらった。「キヤスク」は障害のある人と直接会話をしながら1点1点お直しをしていて、当事者の声を本当に大事にしている。
コワードロープが運営するサービス「キヤスク」(画像は「キヤスク」サイトから編集部がキャプチャ)
――コワードローブ社が「キヤスク」を始めた経緯は。
前田: 障害のある人は着やすさを優先して服を選んでいて、障害の種類や程度によって1人ひとりが「着にくい」と感じるポイントは異なる。そうした課題を解決するには、服を作るよりも、お客さまが着たいと思う服を身体に合わせてお直しする方が喜ばれると思って2022年3月に「キヤスク」をスタートした。
誰もが便利に着られる服を広める
――ゾゾと協業した理由は。
前田: 「キヤスク」を始動して2年以上が経ち、お客さまからは「あきらめていた服が着られるようになった」などの言葉を数多く頂いているが、「お直しではなく既製服のなかからも選べるようになればいい」とか「お直しするほど不自由ではないが、着やすい服があればいい」というニーズもあった。
インクルーシブウェアを作ることで障害のある人の選択肢を増やしたいと思っていたときに声をかけて頂いた。
「キヤスク」で培ったノウハウとゾゾさんの仕組みを組み合わせることで、もっとたくさんの人に持続的にインクルーシブウェアを提供できると考えた。
受注生産のため在庫リスクなし
――ファッション業界におけるインクルーシブウェアの取り組み状況は。
長田: インクルーシブウェアを展開するブランドはあるが、悩みの異なる1人ひとりに寄り添おうと思ったら、デザインのバリエーションを増やさざるを得ず、サイズ展開も含めると多くの在庫を持つ必要があるので、一般的にインクルーシブウェアを生産し、かつ持続可能なビジネスとして展開するのは難しいと言われている。
その点、「キヤスク with ZOZO」は受注生産型でインクルーシブウェアを販売するので、ファッションブランドに在庫リスクはなく、興味はあるものの踏み出せないでいるブランドが利用しやすい仕組みだ。
ゾゾは生産支援に特化
――ゾゾは生産支援に徹する。
長田: その通りだ。インクルーシブウェアの仕様の部分では「キヤスク」の力を借りる。第1弾商品として販売する、車椅子ユーザーの悩みに応えるチェアーパンツも、「キヤスク」で代表的なお直し事例のパンツを既製服として商品化した。
今後は、インクルーシブウェアを世界に広げていきたいと思っているので、ブランドの参加後は「キヤスク」の知見とファッションブランドのデザインや企画をもとに進め、当社が生産する。
車椅子ユーザーに焦点を当てた第1弾商品
――車いすユーザーの悩みとは。
前田: 車椅子ユーザーにとってパンツは着脱しにくいだけでなく、お尻の部分に縫い目があると肌が荒れる原因になるなど、さまざまな悩みを抱えていて、「キヤスク」のお直し事例としても多い。
長田:「キヤスク with ZOZO」の商品は当事者の方にとって機能しているかが大事なので、特別支援学校に協力してもらった。困りごとなどのヒアリングをして作ったサンプルを試してもらい、当事者だけでなく介助者の意見も聞くなど、細かい部分まで検証しながら仕様を決めた。
通常、洋服は立ち姿を基準にデザインされていて、座ったときに格好いいシルエットにはならないが、「キヤスク with ZOZO」の第1弾商品は座った状態に特化したマスターピースをめざしている。腰から裾、もしくは腰から膝まで開閉できるファスナーをパンツの両脇に取り付けただけでなく、指がかけられるファスナーや、取り外しできる肩掛けベルトなど、さまざまな機能を盛り込んでいる。
第1弾商品のチェアーパンツを着用した画像(画像は「キヤスク with ZOZO」サービスサイトから編集部がキャプチャ)
サイズ展開は最大56
――「キヤスク with ZOZO」の商品を購入するときの買い方は。
長田: 商品は「マルチサイズ」に対応している。縦と横で異なるサイズの商品を生産することができるので、最大56サイズの展開が可能だ。
ユーザーは身長と体重を選択すると、標準体型の人に合わせた推奨サイズが表示される。そこから、縦M・横Sや、縦S・横XLといった具合にサイズを調整でき、寸法も表示されるので、自分の体型に合ったアイテムを購入できる。
自身の体型に合うサイズを顧客が選択しやすくしている(画像は「キヤスク with ZOZO」サービスサイトから編集部がキャプチャ)
前田: 病気や障害のある人は、身長は高いけれど細いとか、薬の影響などでむくんでいるとか、体型の多様性があるので、脱ぎ着しやすい仕様とサイズ展開の豊富さが生きる。
――既製服のメリットは。
前田: 「キヤスク」のサービスは障害のある子どもを持つ母親などがお直しを請け負ってくれていて、自分で入手できる材料を使っているが、「キヤスク with ZOZO」では既製品として展開するので、たとえば、パンツに合ったファスナーを使うなど、デザイン性も高くなる。
商品開発の課題をゾゾとの協業で解消
――「キヤスク with ZOZO」を利用する在庫面以外のメリットは。
前田: ファッションブランドがインクルーシブウェアを展開する上での課題は、身体の不自由な人が着やすいと思うポイントが1人ひとり違うので、商品開発に時間がかかる。サンプル数もたくさんとらないといけないので手間がかかるが、「キヤスク with ZOZO」で準備することで、それをベースにブランドは開発を進められる。
商品が売れないと事業として成立しないので、デザイン的には無難なものになりがちでブランドの個性が出しづらいが、「キヤスク with ZOZO」ではブランドのデザインをベースにしながら、着やすくなる機能を載せていける。こうした課題を解決できるサービスだと思う。
――インクルーシブウェアの領域はブルーオーシャンなのか。
長田:在庫ありきの生産方式で成長を続けるのは厳しいと思うが、「キヤスク with ZOZO」の仕組みであれば勝ち残れる。ニッチな市場ではあるが、十分にビジネスチャンスはある。
前田: 車椅子ユーザーに話を聞くと、買い物に行くこと自体が大変で、ネットで購入できればいいという声はよく聞くので、「ゾゾタウン」でさまざまなブランドのインクルーシブウェアを扱うようになれば、車椅子ユーザーの選択肢に入ってくると思う。
――ゾゾの企業理念にも合致する。
長田:障害は当事者にあるのではなく、社会にあると捉えることが大事で、服にある障害を取り除いていきたい。
インクルーシブウェアは障害のある人を含めたすべての人がファッションを楽しめるアイテムだ。障害のある人にとっても着やすく、健常者にも着やすい服を作ることで、障害の有無に関係なく、全ての人がファッションを楽しめる世界を作っていきたい。
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オリジナル記事:ZOZOが始めた障害者も着やすい“インクルーシブウェア”生産支援の狙いとは? ZOZO担当者とコワードローブ社長が語る | 通販新聞ダイジェスト
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