今年の上半期もさまざまな動きが見られた通販業界。かねてより注目されていた「2024年問題」については、周辺業界を含め多くの企業で新たな物流施策が始まり、効率化を図っている。また、業界全体の信頼を揺るがしかねない大きな事案となったのが、小林製薬の紅麹問題。再発防止に向けた取り組みは今も続いている。コロナも明け、これまで以上にさまざまな出来事が起きている今上半期の通販業界について、主なニュースを振り返ってみる。
2024年上半期の通販業界の主な動き
震災から始まった年始
各社は被災地への復興支援
年明け最初の大きなニュースとなったのが、「能登半島地震」。石川県の能登半島で発生した同地震は、通販業界にもさまざまな影響を及ぼしており、現地にある拠点の被害をはじめ、取引先の活動停止や物流の停滞などが起きた。
これを受けて、通販企業各社では支援に向けた動きを始めており、義援金の寄付や必要物資の無償提供などを実施。冷凍・冷蔵トラックなど自社のアセットも使いながら、被災地の復興に向けて尽力している。
「2024問題」に各社は物流関連施策を展開
また、2024年問題を反映して、各社で特に積極的な動きが見られたのが物流関連施策の強化だ。主なところでは、4月にアマゾンジャパンが通販サイトで注文された商品を入れて顧客が開錠して受け取ることができる専用宅配ロッカーを全都道府県に設置したと発表。あわせて、4月には物流ロボを導入した拠点としては国内最大級となる新物流施設も神奈川・相模原市内に開設している。
メルカリでも3月から物流事業者と連携して、コンビニや駅などに設置された専用ボックスを利用し、置き配指定で受け取れるサービスの提供を始めた。ゾゾでは通常配送よりも余裕のある配送時期を選択した場合に、ポイントを付与する配送を試験的に導入した。
物流事業者側は「置き配」や他社との連携を強化
物流事業者では、ヤマト運輸が6月から「宅急便」と小型の荷物を対象とした「宅急便コンパクト」について受け取り側が受け取り方法として置き配を選択できるように変更。あわせて、複数の物流事業者との共同輸配送を行う新会社も5月に設立している。
また、日本郵便では「ゆうパック」や速達郵便について、現場の業務負荷軽減のため、4月から配送日数を従来の期間よりも後ろ倒しにしている。
日本郵政グループとJR東日本グループは社会課題解決に向けた協定を締結した
行政側でも再配達削減といった物流効率化の支援策やその周知を図るための施策がスタート。東京都ではドライバーの確保に向けたマッチングイベントの開催や、トラック輸送力の低下をカバーするためのコンテナ貨物のモーダルシフト推進補助金、荷さばきスペースの提供、宅配ボックス設置の助成などに取り組んでいる。
企業の不祥事相次ぐ
大きく波紋が広がった「紅麹問題」
そして、今上半期に通販業界にとって大きな衝撃が走ったのが「紅麹問題」だ。小林製薬が製造・販売する「紅麹」原料で重篤な腎障害が発生したもので、配合製品は機能性表示食品であり、同制度での安全性問題は初めてとなる。
これを受けて、多くの会社で定期購入の解約が増えるなど、風評被害も発生していると見られる。5月31日には政府が機能性表示食品の見直しを行う対応策を閣議決定するなどの動きが進んでいる。
「紅麹」に関連して実施された小林製薬の会見
企業の不祥事という観点では今年も、いくつかの通販サイトから個人情報が流出。セキュリティに関する備えの弱さが浮き彫りとなった。
また、行政処分では、2月に「糖質カット炊飯器」で従来の炊飯器と比べて糖質をカットできるかのように説明していたニトリなど4社が景品表示法に基づく措置命令を受けている。そのほか、3月には健康食品ECのニコリオと、ヘルスアップが、アフィリエイト広告の表示について景品表示法に基づく措置命令を受けた。
ステマで初の措置命令
さらに、昨年10月に施行され、その動向が注目されていた「ステマ規制」については、通販関連ではないものの、東京の医療法人がくちコミ投稿での高評価の対価として費用を割り引いていたとして、6月に初の処分を受けた。
送料引き上げの動きが加速
昨今のトレンドとなっていた値上げ関連の話題では、ヤマト運輸や佐川急便など大手宅配事業者の運賃値上げに伴い、通販各社も送料の見直しを相次いで実施。また、6月には日本郵便がこの秋から郵便料金を値上げすることも正式に発表しており、コストアップがさらに続くことが予想される。
注目分野は「動画」「食品通販」
動画コマースが加速
そのほか、新技術・新サービスとしては、動画コマースの取り組みが一段と加速。仮想モールの「Qoo10」を運営するイーベイジャパンが2月に都内にライブコマース専用のスタジオを開設したほか、ユニクロではオウンドメディアによるライブ配信視聴者数が2500万人を突破している。
食品EC各社に新たな動き広がる
成長著しい食品通販分野では、4月にオイシックス・ラ・大地が冷蔵おかずを届ける新サービスを開始して中食市場に参入。酒類販売大手のカクヤスは酒類以外の冷蔵品の取り扱いを開始し、江崎グリコは6月に冷凍ヘルシーミールの定期宅配サービスの「GREEN SPOON」を買収して子会社化している。
オイシックス・ラ・大地の連結子会社であるとくし丸が運営する移動スーパー「とくし丸」
ファッション業界では再編進む
ファッション分野においても、4月にアダストリアとイトーヨーカ堂が協業ブランドの本格展開を開始。ゾゾでは3D計測用ボディースーツ「ゾゾスーツ」を活用した法人向けの計測業務効率化サービスを始めている。
さらに、中古ブランド販売を巡っては、コメ兵グループがハイブランド専門リユースのリクロを買収したほか、ブランド買い取り販売の「ブランディア」を運営するデファクトスタンダードをオークネットが子会社化するなど、業界再編が進んでいるようだ。
Amazonは代金引換終了
そのほかのトピックスとしては、6月にアマゾンジャパンが商品購入時の決済手段の1つである代金引換を終了。
代金引換終了の一方で、NTTドコモと協業し「dポイント」がAmazonでも適用できる仕組みとした
「ポンパレモール」は閉鎖
また、リクルートが、これまで11年間に割って運営してきた仮想モール「ポンパレモール」を閉鎖。ここ数年間のさまざまな環境変化や同モールの利用状況などを総合的に判断したとしている。
ますます創意工夫が求められる下半期
物流課題や紅麹問題など全体的に後ろ向きなニュースが多く、通販業界にとって今上半期は我慢の時が続いた印象だった。今下半期も引き続きコストアップや人手不足など、想定される課題が山積している。各社にとって、今まで以上に創意工夫を持った取り組みが求められている年と言えるだろう。
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オリジナル記事:物流問題、紅麹、送料引き上げ、ステマ初の行政処分――。2024年上半期の通販業界、押さえておきたい重要項目をチェック | 通販新聞ダイジェスト
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