EC業界からも大きな注目を集める「ChatGPT」セキュリティに配慮した各種サービスも登場し、個人から大企業、官公庁まで多様なニーズに応えています。EC事業者などが「ChatGPTを使う際に、「ChatGPT」が得意とする処理、業務で使う際の留意点などを解説。効果的なプロンプトの使い方をわかりやすくお伝えします。
ChatGPTが得意なこと
「ChatGPT」は検索エンジンではなく、自然な会話を通し、文章を生成する対話型AIサービス。たとえば、次のような処理を得意としています。チャットボットに比べ用途が広がったのが特徴です。もし使ったことがない用途があれば、ぜひ試してみてください。
1. 文章生成 用途 例 アイデア創出 商品○○を拡散させるショート動画のテーマを10案考えて アイデアの壁打ち 〜の販促計画について、検討の抜け漏れがあったら教えて 問題作成 AIDMAの理解度を確認するための確認問題を考えて 情報検索 認知度の低い商品を売るためのポイントを教えて 文章や表の作成 1週間分のSNSの投稿文を書いて コード作成 ChatGPTをサイトに導入するためのコードをHTML、CSS、Javascriptで書いて
2. チェック・翻訳 用途 例 採点・評価 この10案を、注目度、コストの各観点で100点満点で評価して 校正 以下のブログの誤字脱字を見つけて 翻訳 以下の商品紹介を英語と中国語で翻訳して 言い換え 200字で小学生にもわかるように説明して
3. 情報の抽出・分類 用途 例 要約 このインタビューの書き起こしを1000字でまとめて 感情分析 次の各コメントについて、喜び/楽しさ/困惑/怒りについて0〜5で分析して 要素の分析 プロフィールから氏名/所属/年齢/性別を抽出して キーフレーズの抽出 この記事から重要なフレーズを抽出して インサイトの抽出 このアンケートからサイトの改善点を考えて
GPT-3.5(無償版)とGPT-4(有償版)の違い
「『ChatGPT』を試してみたのだけれど、思ったような結果が返ってこない……」というケースも少なくありません。そのような時は、
といったアプローチで、結果が改善されることがあります。
無償で利用できる「ChatGPT」は、GPT-3.5というGPT-3の改良版で動作しています。有料版の「ChatGPT Plus」ではGPT-4が利用でき、性能が向上していることが実感できます。
比較表
ChatGPT ChatGPT Plus 料金 無償 月20ドル 利用できるモデル GPT-3.5
- GPT-3.5
- GPT-4 (50回/3時間まで)
- Browse with Bing
- Advanced Data Analysis
- Plugins
- DALL-E3
- My GPTs
すなわち、有償版では、GPT-4を使えることが1つの大きなメリット。GPT-4はGPT-3.5より大幅に性能が向上しており、「小学生と大学生の違い」と表現した方がいましたが、筆者の実感も同程度です。
以下のグラフは1万4000もの多肢選択問題を、あらゆる言語で「ChatGPT」が解いた時の正答率です。GPT-3.5が英語で解くより、GPT-4が日本語で解く方が、正答率が高かったのです。
赤枠上が、GPT-3.5が英語で解いた正答率。赤枠下が、GPT-4が日本語で解いた正答率(
引用元からICPコンサルティングが赤枠を追加)
日本語の回答がより的確になることが想像できるでしょう。以下の画像は「以下のメールにOKで返答して」という非常にシンプルな指示した際の回答です。
ChatGPT(GPT-3.5)
ChatGPT PlusでGPT-4を選択した場合
GPT-4では、文脈を理解し適切な敬語が使われ、文意を汲み「最善を尽くします」などの言葉が加えられているのが印象的です。
なお、一部サービスでは、GPT-4と連携しているものもありますが、GPT-4のAPIの利用料は現在、従量課金で、一般利用かつ無料のサービスに話題が殺到すると、提供する事業者にとってはコスト高になります。
アクセスが集中すると、制限がかかるGPT-3.5への接続に変えたような挙動をするサービスもあるようです。3時間に40回の対話に限られるものの、明示的にGPT-4を使えるのが「Chat GPT Plus」と言えます。
ChatGPTへの指示「プロンプト」のコツ
「ChatGPT」への指示によって、その結果は大きく内容が変わります。AIから期待する回答を得るために、人間が入力する文章を「プロンプト」と言います。今後、AIが進化・普及する上では、いかに効率よく、的確な答えを引き出せるプロンプトを書けるかがより一層、重要になってきます。すぐに実践できるコツをお伝えしましょう。
1. 立場を宣言する
EC事業者であれば、まず「ChatGPT」に対し、「あなたはネットショップ担当者です」と役割を与えましょう。そうすると、「ChatGPT」はネットショップ担当者として文脈を理解して回答を作成します。
そんなに重要なの? と思う読者の皆さん。「あなたは経営者です」と立場を変えた場合の回答と比較してみましょう。ネットショップ担当者の立場ではオンライン施策が中心となり、一方、経営者の立場ではプロダクトの改良やPR施策まで提案され、ぞれぞれの業務範囲を理解していることがわかります。
ネットショップ担当者の立場
経営者の立場
2. 1度で諦めず、前向きに会話しゴールをめざす
「ChatGPT」はすべての会話を記憶しているわけではありません。画面左に出るスレッドごとに、いくつかの会話を覚えています。感覚的には10〜20の会話程度は覚えているようです。よって、最初に生成された文章がイマイチだと思ったら、フィードバックをして、改善を求めましょう。
たとえば、「ありがとう。具体的でターゲットに合ったプロモーションプランだね。でも、今回、このプロモーションに1円も予算を使えないんだ。広告費をかけずにできるアプローチで再度提案してもらえるかな」などと投げかけると、前回の内容を踏まえた回答をします。
コツは、具体的に生成してほしいもの、変更して欲しいポイント、その背景を明示すること。GPTは文脈理解が得意なプログラムですから、よりイメージに近い成果物を得られるでしょう。
3. 6W3Hで具体的に
人間と「ChatGPT」の関係は、よく上司と部下にたとえられます。あなたは上司。今日、新入社員を迎えます。その新入社員は、教養がありかつ日本語が非常に堪能なアメリカ人です。その彼に指示を出してみてください。
また、日本語でイマイチな回答が返ってきていると思ったら、特にGPT-3.5を利用している場合は、英語で指示を出してみましょう。GPT-3.5のベースになっているGPT-3の学習データの93%は英語のため、英語で指示をするとより適切な回答が返ってくることがあります。筆者の印象ですが、翻訳サービスを使ったスムーズな英語でなくとも、英語の方が適切な回答が返ってくる印象があります。
「その調子では、毎回、指示をするためのタイピングが面倒なのでは?」と思った読者の方は、質問を分割するか、音声入力がお薦めです。よく聞くパターンがあれば、質問の定型文を用意しておくのもよいでしょう。
定型文の例
- 曖昧な例(NG例))効果的なプロモーションを教えて
- 具体的な例(良い例))あなたは優秀なネットショップ担当者です。今度新製品○○を発売することになりました。ターゲットは○○、単価はXXXX円です。販促予算XX万円で、売上目標の1か月で5000個を達成するような1か月のプロモーションプランを、各週のタスクまで落とし込んで考えてください。
もっと詳しくプロンプトのお作法を知りたいという方は、深津式やシュンスケ式などが有名ですので、検索して参考にしてみてください。
「ゴールシークプロンプト」という「ChatGPT」にプロンプトを考えてもらうという手法もあります。たとえば、「はじめて事業計画書を書くので何を具体的に指示して良いかわからない」という時に有効です。「ChatGPT」がプロンプトに必要な情報を提示し、事業計画書を出力するプロンプトを作成してくれます。「ゴールシークプロンプト」を検索し、参考にしてみてください。
また、英語になりますが、OpenAIとDeepLearning.AIが提携し、プログラマ向けにプロンプトエンジニアリングのコースを公開しています。Pythonの基礎知識がある方は、1時間で完了するコースですので、ぜひチャレンジしてみてください。
業務利用上の留意点
「入力した情報が学習データに利用されないだろうか」「誰かの権利を侵害するのでは」といった利用に関する注意点もあります。現状、業務で「ChatGPT」を利用する場合、次の4パターンにわかれるでしょう。
- OpenAI社が提供しているWeb版をそのまま利用する
- ChatGPTのAPIを利用して構築された自社のシステムを利用する
- ChatGPTのAPIを利用して構築された他社のサービスを利用する
- 他のユーザーが作成したMy GPTsを利用する
それぞれのパターンに応じ、OpenAI社、自社、サービスを提供する第三者企業の利用規約やデータの情報管理について把握した上で利用する必要があります。
まずは、自身が所属する組織でルールが整備なされている場合は、それに従い、疑問があればルールを策定した部署に問い合わせるのがもっとも確実。なお、これまで早期に導入を発表してきた官公庁、自治体、大手企業などは、2か3のAPIを通して利用しているケースが多いようです。
APIはいわば、「ChatGPT」を、システムのなかの一部のパーツのように利用できるコネクタようなもの。このAPIにおいて、OpenAI社は、同意しない限り、入力情報を学習などに利用することはないと明言しています。
4のMy GPTsは、カスタムされたChatGPT。ChatGPT Plusで提供されている各種機能やAPI、ユーザー独自のデータを利用して、用途特化型のChatGPTを作ることができる2023年11月から提供されている機能です。このケースでは、My GPTsを制作する際に、入力情報を学習に利用するかどうかが選択できます。My GPTsの提供者に確認するとよいでしょう。
また、1のWeb版においても、2023年4月25日に対話履歴を利用者の画面に表示させず、オープンAIの学習や改善にも利用しないことを設定できる機能を追加しました。
1〜4のケースを通し、一般にChatGPTを業務利用する際に参考になるのが、一般社団法人日本ディープラーニング協会が5/1に公開した「生成AIの利用ガイドライン」です。ガイドラインの項目は必要最小限に絞られており、わかりやすい「簡易解説付き」もありますので、業務での利用に懸念がある方は一読されるとよいでしょう。
個人情報の取り扱い
個人情報の入力はOpenAI社という第三者への情報提供に該当するため、個人情報保護法上、事前に同意を得る必要があるハードルの高い行為です。学習に利用しないよう設定した場合でも、OpenAIは、不正利用の監視のために情報を30日間保持します。事前に、OpenAI社がどのように利用するか利用目的を把握し同意を得るのは困難と考えた方がよいでしょう。
機密情報の取り扱い
他社(者)とNDA(秘密保持契約)を交わした情報について、「生成AIの利用ガイドライン」では「生成AI提供者という「第三者」に秘密情報を「開示」することになるため、NDAに反する可能性があります」としています。
一方で、自組織の機密情報については「法令に違反するということはありません」と解説。しかしながら、「当該機密情報が法律上保護されなくなったり特許出願ができなくなったりしてしまうリスクがあります」とも言及しています。
また、一般的なセキュリティリスクとして、公衆回線でアップロードする行為、所在地不明のサーバーに保存されること、サービス提供者の利用規約が信用に足るものかどうか、などの懸念もあります。機密情報の入力には慎重になった方がよいでしょう。
著作権の考慮
まず、入力の場面について、小説や物語など、ChatGPTに著作権のある文章を丸ごと入力し、要約を作成する場合、翻案権や同一性保持権の侵害になる可能性があります。
また、出力する場面について、生成された文章を利用する際にはなんらかの加筆や修正をすることが望ましいです。出力結果自体に著作権は発生しませんが、既存の文章と同一・類似している場合は、複製や配信をすると著作権侵害にあたる可能性があります。また、
出力結果自体に著作権はないため、何らかの加筆・修正をすることではじめて著作権が発生するものと考えられます。
「ChatGPT」などの生成系AIに関する法的な解釈は、法律家の間でもさまざまです。今後、法律の変更、ガイドラインの発行、今後の判例の中で、固まってくるものと思います。自社を取り巻くルールと今後の動向に注視していきましょう。
◇◇◇
「ChatGPT」を利用する際のポイントを解説してきました。これをお読みのネットショップ担当者や管理者のみなさんは、1日の中でどれだけの文章を作成しているでしょうか。それが効率化され、ご自身しかできない仕事やより創造的な仕事に集中できたら、充実した社会人生活を送れるような気がしませんか。SNSではさまざまな「ChatGPT」の活用例が共有されはじめています。次回以降は、実際の業務活用の場面にフォーカスし、「ChatGPT」の活用方法を解説します。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:EC事業者が業務で「ChatGPT」を使用する際に知っておくべき「AIの得手不得手」「プロンプト作成のコツ」「注意点」 | 中小企業診断士が解説する「ChatGPT」のECビジネス活用法
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