コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の八十七
答えから書く現代風
メルマガやブログを書く際のアドバイスを求められると「結論から記しなさい」と答えます。論を並べた後に核心に迫るのではなく「答え」を記し最初に満足させるのが現代流で、ネットだけではなく粗製濫造される「新書」もこの方向でまとめられます。漫才の「オチ」や落語の「さげ」のように筋に裏打ちされた笑いではなく、テレビ画面に映った刹那の「一発ギャグ」と重なります。現代流に記します。
「客の声は究極のコンテンツ」
理由は「未来の自分」と「時代」の2つ。未来の自分を投影する、他者の体験談、感想、利用者の声は購入意識を高める究極の「商売用」コンテンツです。
もう1つの「時代」については「黒ネタ」を挟んで最後に。
客の声で予約増
「巻き爪ケア専門店カノン」で「客の声」を掲載することにしました。しかし、プライベートな問題を含むと個々の声を載せることに難色を示します。そこで無記名での「ひとこと」を掲載することを「落としどころ」としました。結果、予約率(コンバージョン率)は上昇しました。コンテンツの完成度と「商売力」はイコールではありません。
客の声はメルマガやブログの「ネタ」にもなります。フィットネスジムで資料請求者向けに発行しているメルマガに「体験談」を入れると申し込みが増加しました。「シェイプアップ」に興味があり、資料請求した人向けのメルマガで、同じ思いを抱えていた「仲間」がメタボ解消からワンサイズ下のワンピースを着られるようになったと語ります。そこに「未来の自分」を重ねるのです。
コンプレックス系のサービスや商材で「客の声」がないのは論外と断じます。
客の声が聞こえない病
本稿執筆時、オリンピックが開催されていました。「さくらジャパン(女子ホッケー)」や「射撃」で日本人選手の活躍に触れ、テレビ観戦でにわかに仕入れた競技の魅力をスタッフに熱く語る自分を発見しました。目にした興奮が口をついて出るのです。マーケティングにも通じます。感動や興奮、そしてメリットが客を動かします。クチコミのメカニズムです。
「客の声」がないとしたら深刻です。サイレントカスタマーが多いか、「声が聞こえない体質」かのどちらかだからです。「客の声とクレーマーの分岐点」でも触れましたが、サイレントカスタマーの足音は聞こえずに、店から離れ永遠に戻ってきません。また、聞こえない体質は「クレーム」を遠ざけ、致命的な事態となって姿を現します。
身を挺してこそわかる気持ち
組織は官僚化しやすく、面識のない客よりも毎日顔を合わせる上司や同僚に「アジャスト」する性向があります。すると「耳障りの悪い話し」は自然と遠ざけられ、ヒヤリハット(ハインリッヒ)の法則に殉じるかのように「大惨事」で露呈します。本旨から逸脱しますがあなたが管理職で「客の声」や「クレームが報告されない」のであれば……そして特にあなたが「社長」なら要注意です。
新商品などでは「客の声」がない場合もあります。そんな時は自分で試しそれを綴ります。嘘を書くのは厳禁です。倫理やモラルだけでなく「嘘」をつくには高度な技術が必要だからです。1つの物語を破綻なく語り結ぶのと同じで、素人が目先の利益だけを考えてできるものではありません。そんな時はこうします。
「マイナスは覚えている限り書き、プラスは丁寧に語りなさい」
正直に告白することで信頼を勝ち取り、思いを込めた文章で人の心を動かす狙いです。
使わないことを願うネタ
そして「黒(ブラック)ネタ」です。すべてではありませんが一部で悪用されている手法です。
「リアル」な体験談を並べます。生理学的な、または科学的な根拠は必要ありません。水着になるので夏休み前にダイエットしなければならないという乙女心の切実なシチュエーションや、ロト6で2億円当たったというお伽噺を肉付けする「リストラされた翌日」といった必要性を感じさせれば良いのです。
多くの人は慎みを持ち「恥」を知っています。すると、ダイエットに失敗しても、護符の効果がなく金欠のままだとしても、サイトに多くある「成功例」の笑顔の輝きが「努力や信心」が足りなかったのだろうとして己を責めます。また、そんな「安易な手段」に頼ろうとした自分を恥じて口を閉ざします。体験談の悪用事例です。
手法を知っても「使わない」のが「大人」の所作と信じ紹介しました。
情報過多時代の適応か
最後に時代です。
笑いは時代で変化するもので「笑わせる」から「笑われる」になったと責めるのは野暮な話しです。「今」が求める笑いがそれだということです。マーケティングも時代にアジャストしなければなりません。「客の声」とは時代が求める「コンテンツ」なのです。故に「究極」としました。
マーケティングにおける「客の声」の比重は年々重くなっています。新聞・テレビに加えて、電子メール、インターネット、携帯電話と情報チャネルの増加に比例する「広告」の氾濫から「客の声」に救いを求めるからです。広告に「売りつけられる」という被害者意識と反感を持ち、一方の「客の声」は消費者の素直な感想で嘘がないと。これは「企業は悪。消費者は善」というイデオロギーにも似た対立軸からの条件反射ですが、ネットが背中を押します。消費者が「検索」で見ず知らずの他人の声を探し出せるようになったのです。もう少し踏み込めば「誰かの答えにすがる時代」ということです。
雑多な情報から精査することを避けヒントや答えを検索します。そして「客の声」は「究極のコンテンツ」へとランクアップしました。
では正しいかというと微妙です。
謝礼がある調査ではモニター(消費者)は主催者に気に入られようと回答する傾向がありますし、「調査には積極的だが購入には消極的だ」という「できない人ほど、データに頼る」の中にあるリタ・クリフトンの言葉に深く頷きます。客の声に嘘はなくても真実かどうかは微妙なのです。「ネットクチコミ」も……裏側から見ると超微妙です。
♪今回のポイント
誰かの答えを教えてあげる。
そして嘘は長続きしないことも忘れない。
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