社員まかせのリスキリング(学び直し)はNG! マーケティング人材育成のカギは“仲間づくり”
事業を成長させたいなら、業種を問わずマーケティングの知識は必須となる。多くの企業がマーケ人材の育成に着手しているが、社員は日々の業務に忙殺され、学習が停滞することも少なくない。
「Web担当者Forum ミーティング 2024 春」に登壇したグロースXの松本健太郎氏は、そうした人材育成の問題に対し、「教材だけ提供し、『勉強しておいて』と言うだけでは絶対ダメ」と話す。
企業向けマーケティング人材育成サービス「グロースX」を提供し、500社以上のデジタル人材育成支援を手がけてきた同社の知見をベースに、マーケティング人材育成の成功法則や仕組み、事例を紹介する。
企業のマーケティングチームが抱える課題
まず、企業のマーケティングチームが抱える課題が整理された。日経クロストレンドとグロースXの共同調査によると、代表的な課題には次の2つがあるという。
1. マーケ人材の不足
業務を遂行できる人の数が足りておらず、事業グロース(成長)が遅れてしまう。
2. マーケスキル不足
業務を推進するためのスキルに不足を感じていたり、特定分野のスキルにのみ偏っていたりする。
こうした人材不足、スキル不足に起因して、さまざまな問題が引き起こされる。たとえば、他部署との共通言語がないことによる連携不足(サイロ化)が生じる、部分業務に目線が偏る、社員個人が成長ステップを描けなくなる等があげられた。
学ばない日本の社会人
こうしたマーケ人材の不足、マーケスキルの不足を解消するには、当然、社内教育の機会が必要となる。
しかし現実には、日本の社会人は学びません。総務省のデータによると、社会人の学習時間は1日平均6分。パーソル総合研究所のデータによると、社外学習・自己啓発を行っていない人の割合は約半数にのぼります。さらに、企業による人材投資も国際的に圧倒的に低水準にあります(松本氏)
では、なぜ学ばないのだろうか?
松本氏がまず指摘するのが、私たちの頭の中にあるバイアス(思い込み)だ。たとえば、「学びは新人や若い人がするものである」という“新人バイアス”や、「学びは学校で生徒が行うものである」という“学校バイアス”などがあり、それらのバイアスが学習を妨げる一因となっているという。
また、グロースXが1万人を対象とするインターネット調査を行い、「直近1年以内は学習していない」と回答した人にその理由を聞いたところ、大きく3つの原因が明らかになった。
- スキルを身に付けても、給料が上がらないから
- スキルを身に付けても、評価や昇進と関係ないから
- スキルを身に付けても、活かせる業務・仕事がないから
つまり、バイアスや学習メリットの薄さが、学習やリスキリングを停滞させている。そのうえで、経営者・人事部・マネージャーは「人手不足」「スキルが不足」「改善が回らない」と頭を悩ませ、一方の現場メンバーは「今さら勉強って恥ずかしい」「スキルがあっても仕事がない」「給料や評価が上がるかわからない」と感じて、学習への意欲が高まらないと松本氏は解説した。
どちらも相手が原因で、今は動きませんと言っているわけです。完全にデッドロックを起こしていて、すごくもったいないと思います(松本氏)
学びを促進する2つのアプローチ
それでは、「学習やリスキリング(学び直し)が進まない」という難題へのソリューションはあるのだろうか。松本氏が提案するのが「コミュニティ・ラーニング」、つまりは“仲間と一緒に学ぶこと”だ。
学びを促進する刺激には2種類ある。1つは、キャリアアップやスキルの向上などの個人的な理由でモチベーションを高める「内面の刺激」のアプローチ。2つ目は、一緒に学ぶ仲間や環境からの刺激の伝播によってモチベーションを高める「外面の刺激」のアプローチだ。
組織・会社における学習で、圧倒的に忘れられているのが「外面の刺激」です(松本氏)
教育や研修は「個人」ではなく「仲間」と行うべき
リスキリングのためのサービスや教材が導入される際、多くの企業では、やる・やらないの判断が社員自身に委ねられている場合が多い。しかし、「それで成功する確率はかなり低い」と松本氏は断じる。
グロースXが500社と伴走した結果、「コミュニティ・ラーニング」の形で仲間と一緒に同じ時間を過ごし、信頼関係を築き合い、困ったことを相談できる環境になったときに、学習は継続しやすい傾向が明らかになったという。
さらに、「学習」方法については学術的な研究が進み、正しい学習方法にはある程度の「正解」があることもわかってきた。たとえば、以下のようなものだ。
- 定期的に思い出させる「検索学習」
- 特定の期間で集中的に覚えるよりも、少し期間を開けて再度インプットする「分散学習」
- インプットした知識を使って、質問に答えさせるなど言葉の意味を深掘りする「精緻化」
コミュニティ・ラーニング方式で、一律に正しい学習スタイルを導入すれば、学びの効率が上がり、学びからの脱落を防ぎやすくなるという。
教材だけ揃えて「勉強しといてください」は絶対にダメ。「みんなで一緒に勉強しよう」が正解です。そして、組織が個人の学ぶスタイルや習慣に積極的に介入をしていかないと、学習習慣は定着しません(松本氏)
コミュニティ・ラーニングで「共通言語」が生まれる
グロースXがコミュニティ・ラーニングの手法を取り入れながら、eラーニングや集合研修を通してマーケティング教育を行った結果、クライアントから「共通言語ができました」というリアクションが返ってくるようになったという。
社員たちが同期しながら、体系化された知識を学んでいくことで、部署を超えてマーケティングについて考える際、あるいはパートナー企業とマーケティングについて会話する際の知識の土台(共通言語)が生まれるのだ。
リスキリングで売上は上がるのか?
学習やリスキリングが滞る一因に、学びが売上につながる感覚が薄いこともあるだろう。それに対し松本氏は、リスキリングは次のような順序を経て、売上などの成果につながると主張する。
- 同じ教材を一緒に学ぶことで社内の共通言語ができる
- 部署間での認識の擦り合わせや、ミーティングの事前準備が減る(スピードUP)
- 施策に使える時間が増え、トライ&エラーの回数が増える(実行数UP)
- トライ&エラーしながら改善のサイクルを回せば、施策の精度も上がる(打率UP)
- 成果が上がる
グロースXの事例から見る、コミュニティ・ラーニングの具体的プロセス
仲間と共に学ぶ「コミュニティ・ラーニング」だが、具体的にどのように実践すれば良いのだろうか。グロースXの企業向けマーケティング人材育成サービス「グロースX」の例を見てみよう。同サービスでは、以下の3ステップに分けて組織・人材育成を行っている。
1. 組織/社員の診断
スキル診断で組織と社員の現在地を把握し、部署間の比較、学習前後の比較ができるようにする。
2. 学び合う組織づくり
eラーニングと集合研修を通し、学習習慣とマーケティングの知識が定着するように支援する。
3. 実行・成果づくり
継続的な学びが定着するように支援する。
従業員同士での学びを通して、モチベーションの火が隣の人の心に着火するようなサービスを提供しています(松本氏)
マーケティングスキルを30項目で診断
仲間とともに学ぶうえで重要となるのが、スキルの可視化だ。グロースXではまず、30項目のマーケティングに関するスキルをリストアップする。
次に、この各スキルの評価を、レーダーチャートや棒グラフなどで可視化し、チームの状態を可視化する。この可視化を通じて、図の凸凹からスキルの伸び具合や注力すべきポイントなどを見つけやすくする。その後、「大体の項目で60点が取れるような状態を目指す」のだという。
スキマ時間に学べるスマートフォンアプリ
グロースXでは、スキル評価を可視化するダッシュボードに加え、スキマ時間に学習ができる独自のスマホアプリも提供している。このアプリを使えば、能動的・双方向性のある学びを行えるほか、アイデアや課題を記入するアンケートによるアウトプット型学習なども行える。同僚の回答が見れて、刺激をもらう工夫も行っているという。
さらに特徴的なのが、グロースXのソリューションを導入した際には、カスタマーサクセス(CS)担当を配置し、伴走するという点だ。企業の進行や意思決定をサポートし、学習が定着するように支援するという。
松本氏は最後に、「個人の頑張りよりも重要なこと、それは組織からの支援と一緒に学ぶ仲間づくりです」と人材育成の原則を改めて強調し、講演を締めくくった。
- 企業向けマーケティング人材育成サービス「グロースX」
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