[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

アンケート結果から紐解く、組織に「ナレッジシェア文化」を浸透させる際の課題と対策

マーケターコラム、今回は明坂真太郎氏。働き方が激変した現在、重要度を増す「ナレッジ共有」について考えます。
明坂真太郎氏

こんにちは、明坂です。

みなさんが働いている組織では、どのようなナレッジシェアの仕組みがあるでしょうか。業務の振り返り資料、中途入社者に向けたオンボーディング資料、システム開発時やソフトウェア導入時の手順書・備忘録などなど、特に転職や部署異動を経験した方はそれらの資料で助かったことも多いと思います。転職回数がそれなりに多い私もその一人です。

しかし、複数の組織を経験したからこそ気づくのですが、組織ごとにナレッジの蓄積・共有にかける姿勢には大きな差があり、それでいて現場にはその状況に不満を感じている人が少なくないということです。

今回は、私の知人たちに行ったアンケートの結果などを踏まえながら、組織のナレッジシェアをする仕組みにはどのような課題があり、それらをどのように解決していくべきかを考えていこうと思います。

アンケート結果からみる、情報共有への取り組み具合

最初に、どの程度の組織がナレッジ共有の仕組みを取り入れているのか、主にマーケティング業務に従事している私の知人たちにアンケートを採りましたので、世の中の状況をなんとなく見ていきます(n=16)。

所属組織にナレッジ共有の仕組みがあるか?

今回、回答された方のうち約9割が何かしらナレッジ共有の仕組み有りと回答されていました。なお、回答者の所属する企業の従業員数は100人以上規模が75%。配置転換や中途入社などで情報の再利用機会が多い、または意識的にシェアしないと他の組織まで届かないであろう方が多めだという特徴がありますが、大半の企業で情報を再利用することによる業務の効率化や、深いナレッジ探究への意識が強いということがわかります。

回答者の所属企業の従業員規模

個に対して組織の強みは、お金やリソースなどの資源、そしてモノやスキル等アセットを共有し効率化できることです。組織が縦割りで情報やスキルがサイロ化してしまっている状態は、強みが活かせずもったいない。そう考えるマネジメントレイヤーも多いのだと思います。

回答者の組織における役割

本記事を読まれている方の中には、ナレッジ共有なんて当然と考える方も多いのかもしれません。ですが以前私が立ち上がって日の浅い、数十名規模のベンチャー企業で働いていたときは、さまざまなことがカオスで仕組みも整っていませんでした。たとえ歴史のある企業でも、個人商店の集合体のまま今に至る組織もあります。事業年数ではなく、意識的に推進しているのかどうかによってナレッジ共有の度合いは分かれているのだと思います。

リモートワーク環境になり、取り組みが促進されている気配あり

ナレッジ共有の仕組みがあると回答されている方を分母としたときに、どんな内容が蓄積・共有されているのか、複数回答可で聞いてみると以下のようになりました。

何が共有されているのか?

手順書やオンボーディング資料など、同じ内容を複数回使い回せる可能性の高いシーンや、調査やプロジェクト振り返りのようにアウトプットをもってその業務が完了するようなものは概ね取り組みが浸透しているようです。

しかしながら、業界のニュースやトレンド、業務外で得られた気づきなども半数以上の方が共有されていて、思った以上に高い活用レベルだな、と個人的には意外でした。

これらはどのような文化や仕組みで運用されているのでしょうか。個人がボランティア的に行っていることもあれば、業界ニュースの収集・共有など、組織の仕組みとして行っているものなど運用体制はさまざまだと思います。ただ、これだけ多くの割合で実施されているということは、組織のルールで強制的にやらされているというよりは、多くの方がノウハウのギブアンドテイクで業務を効率化させることにメリットを実感しているということなのだと思います。

このあたりの情報が流通しやすくなった背景には、昨今の働き方も関係していそうです。私自身もそうですが、勤務の大半はリモートワークになり、オフィスへの出社と自宅でのテレワークだと自宅率の方が高い状況です。必然的に日々のコミュニケーション手段が今までメール主体だった企業も、Google Workspace(グーグル ワークスペース)、Microsoft Teams(マイクロソフト チームズ)、Slack(スラック)を始めとしたチャットサービスでのコミュニケーションが増えたと思われ、それに伴いメールより気軽に情報がシェアし安くなった面があるのではないでしょうか。

そこで、どのような手段で共有されているのかについても聞いてみました。

どのような手段で共有しているのか?

メールと比べるとチャットツールの方が倍程度利用されていることから、共有のしやすさは情報共有の仕組みを発展させるために重要な要素なのだとわかります。

一方で、情報蓄積の場所に関しては、Google Drive(グーグル ドライブ)やWiki(ウィキ)などが多いようです。チャットツールはストックではなく流れていくものなので、情報の届けやすさと情報の整理・再利用しやすさを両立するために、ツールを使い分けていそうです。また、Google WorkspaceやMicrosoft Teamsは企業がワークスペース環境として契約していることも多く、追加コストが不要な点も使われている機会が多い理由ではないでしょうか。

個人的にはNotion(ノーション)やQiita Team(キータチーム)、DocBase(ドックベース)などのマークダウン方式で記事を書けるSaaSは、まとめやすさ、整理及び検索のしやすさ、外部ツールとの連携などの高機能さも含めて気に入っています。

しかし、GoogleやMicrosoftの基本ワークスペースがあった上で更に追加でコストをかける必要があり、積極的な推進者がいないとハードルが高いからか、組織として導入しているケースはそこまで多くないことがわかります。

取り組みは多いが、意外と不満も多い

ナレッジの活用が進むにつれて、情報共有も活発になっていますが、問題も存在するようです。以下は、現状の仕組みについての満足度を5段階で聞いた結果です。

ナレッジ共有の仕組みに対する満足度は?

やや不満が最も多く、不満と合わせると半数を超えている状態となりました。どういったところに不満があるのかも合わせて聞いたのですが、内容を集約すると主に以下のようなものでした。

  • 部署ごとにツールや共有方法が分散
  • 内容に追加で説明がないとわからない
  • 仕分け(整理)されておらず、探しづらい
  • 限られた人しかナレッジを書かない
  • 読まれているのかわからない

特に多かったのが「仕分け(整理)されておらず、探しづらい」で、結果として活用レベルが低いという内容でした。アウトプットすること自体が自身のためになることもありますが、それが誰かに読まれるとさらに価値があがります。いかにも利用者が迷いそうな部分は予め想定して解消しておくか、または定期的に運用ルールを見直すことが重要になりそうです。

マネジメントレイヤーが積極的に推進することがカギ

蓄積から共有まで一連の流れを整理して並べると、以下のようになります。

ナレッジ共有作り、運用の流れ

「とりあえずやってみよう」で記述から始めることもときには必要だと思います。ですが、記載内容については規範、フォーマットを設ける。インデックスやタグのルールを設定して整理し、検索性を高める。といった仕組み設計と定期的な見直しのフェーズこそが活用レベルを引き上げるポイントでしょう。マネジメントレイヤーが取り組みを主導し、個々の取り組みにフィードバックをすることも重要です。

自然と全員が積極的な情報共有をする文化・風土が生まれることが理想ですが、自動的にそこまで至るのは難しいのが現実です。まずはその取り組みを称賛し、促進させるというところまでを仕組みとして想定することで、先ほど挙げたような不満を解消できるのではないでしょうか。

私はもともとエンジニア出身です。開発環境の構築などでソフトウェアをインストールする際には、手順書を作って、チーム全員で環境を精緻にそろえることがマストでした。思えばその頃から先人の知恵を活用し、車輪は再発明*しないし、失敗の轍は再度踏まないという意識が染み付いている気がします。

*すでにあるパーツを再度設計から開発すること

ところが、マーケティング系の部署で働くようになってからは、共有してほしい情報のドキュメントがなく、戸惑うことが多くありました。集客施策や広告出稿など、なんでこんなにやりっぱなしで、結果を分析して振り返ってまとめた資料がないんだと思うことがしばしばあり、担当者のためにも組織のためにもならないなと感じたことを覚えています。

自分が直接得られる経験は最大で1日24時間しかありませんが、チームでナレッジを共有できれば、その経験値を2倍にも3倍にもすることができます。アウトプットをすることは、より思考が深まることも含めて、個の成果、からのチームの成果、ゆくゆくは企業に大きな価値をもたらすと思います。

ぜひ、関わる全員がメリットを享受できる、仕組み・文化を構築されてみてはいかがでしょうか。

本テーマやそれ以外についてもくわしく聞きたいこと、などあればぜひお気軽に私のTwitterアカウントへリプライ(https://twitter.com/dr_akesaka)をいただければ幸いです。

それでは。

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