ユーザーインタビュー成功への第一歩は「何を知りたいか」を正しく設定する
はじめに
前回は「ユーザーの発言を『そのまま』信じてはいけない、『抽象化』して信じられるようにしよう」というお話しでした。
ユーザーインタビューをするにあたって、ユーザーに、どのような話を聞いていけば良いのでしょうか。インタビューで、プロダクトの改善に役立てるような話を引き出すには、何を質問していけば良いのでしょうか。それには、まず「何が知りたいのかを明らかにする」ことです。
何が知りたいのかを明らかにする
(リサーチクエスチョン)
まず、ユーザーインタビューを通じて、何を明らかにしたいのか、はっきりさせます。
この調査で明らかにすべき命題を「リサーチクエスチョン」と呼びます。インタビュー初心者にとって、リサーチクエスチョンをうまく定義することは意外と難しいようです。即物的な問いを立ててしまうと、インタビューした後になって「問いへの答えはわかったけど、これをどうプロダクトに活かせば良いのか分からない」ことになります。
では、どのような粒度が望ましいのでしょうか。例として、あなたが「資格取得のアプリを改善したい」として考えてみましょう。「資格取得」とは、TOEICや情報処理技術者試験などを思い浮かべてください。
一番に思いつくのは、「自分の資格取得のアプリを使った感想を知りたい」というものです。それは、ひとつの観点としては良いでしょう。しかし、リサーチクエスチョンとしては、やや狭くとどまっているような感じがあります。
そもそも、なぜ「ユーザーはあなたのアプリを使う」のか
具体的に説明していきます。前述したように「自分の資格取得のアプリを使った感想を知りたい」をリサーチクエスチョンにしたとします。これを知るためには、どんなインタビューをすれば良いでしょうか。例えば、次のようなものが浮かびます。
- このアプリのトップ画面を見て、どう思いますか?
- このアプリで便利だったところはどこですか?
- このアプリで不便だったところはどこですか?
- このアプリにあると良いと思うものは何ですか?
これらの質問には「根本的な抜け」があることにお気づきでしょうか。そもそも、なぜ「ユーザーはあなたのアプリを使う」のか、という観点です。
資格試験の受験者には5つの心理が混在
実際に資格試験を受けるユーザーのモチベーションをユーザーインタビューで調査してみると、5つの心理が混ざりあってできていることが分かりました。
- 心理1. 低リスク(労力、時間、金銭)で合格したい心理
- 心理2. 合格よりも専門知識を得ることを大切にしたい心理
- 心理3. 会社や周囲の人に認められたり出世したい心理
- 心理4. 就職や転職に役立つことを期待する心理
- 心理5. 資格によって人生を豊かにしたい心理
以下の資料は、過去に著者がその調査を行った報告レポートの一部です。
例えば、英語の資格であればTOEICと英検が有名です。TOEICを受ける人も入れば、英検を受ける人もいて、どちらにしようか迷う人も、両方受ける人もいるかも知れません。
ユーザーが「就職活動のために資格を取りたい」と思っていたとして、それが就職活動に役に立つ資格であれば、ほかのものでも良いかも知れないのです。「資格を取ろう」と思うとき、ユーザーの頭のなかには、TOEICと英検だけでなく、簿記やファイナンシャルプランナーなど、幅広い選択肢が浮かんでいることがあります。
また「資格によって人生を豊かにしたい」と望む人の視点でTOEICの公式サイトを見ると、「語学サポートボランティア」というコンテンツがあることに気がつきます。もしあなたが「就職や転職」という視点だけでアプリを作っていたのなら、そのほかのユーザーの心理を取りこぼすことになります。
ユーザーは複数の心理を行き来している
先に「ユーザーのモチベーションは5つの心理が混ざりあってできている」と述べました。ユーザーの心理は、どれかひとつだけ、ということはありません。ひとりの人間の中で複数の心理がせめぎあっています。
例えば、TOEICを受験するとき、あなたの脳内には、次のような思考が起こるかもしれません。
「TOEICでも受けてみようかな。会社の推奨資格だし(心理3)、合格すれば査定も良くなるし(心理3)。でも、受験すると 1日つぶれるな(心理1)。受験料は6,500円か(心理1)。教材って3,000円もするんだ(心理1)。いやでも、試験で英語が学べたらうれしいな(心理2)。履歴書にも書けるし(心理4)。外国人と英語で喋れたらかっこいいよなあ(心理5)」。
このように、ユーザーはものすごい速さで複数の心理を行き来しています。そして、それぞれの心理を満たすべく、あなたのプロダクトを使ったり、他のWebサイトやアプリ、参考書、資格の学校、会社の支援制度、すでに合格している人の話を聞く…といった幅広い行動をとります。
ユーザー体験はずっと前から始まっている
あなたにとっては自分のプロダクトがすべてでも、ユーザーにとっての「資格取得の体験」は、あなたのプロダクトに触れるずっと前から始まっています。ユーザーにとって、あなたのWebサイトは、もっと広いひとつなぎの行動のなかの一部でしかないのです。
その一連の世界観の中で「ユーザーは、なぜそのプロダクトを使うのか、そのモチベーションや目的はなにか」が分かって、初めてプロダクトが提供すべき価値がはっきりします。
望ましいリサーチクエスチョンとは
したがって、リサーチクエスチョンとして掲げる「問い」は、「自分の資格取得のアプリを使った感想を知りたい」といった自分目線のものではなく、「資格を取得したいと思うきっかけはなにか」というような、ユーザーがいる心理世界の全体を捉えるようなものが望ましいです。
このような「より上位の問い」から始めるのは、いわゆるシステム開発の考え方とは一線を画するところです。改善したいと思っている対象だけを調べているのでは、足りないのです。
今回は、インタビュー調査のはじめの一歩として「リサーチクエスチョン」を適切に立てる、というお話しをしました。次回は、ユーザーインタビューをするために「話を聞くユーザーをどのように探すか」という点について触れていきます。
オリジナル記事はこちら:何が知りたいのかを明らかにする(リサーチクエスチョン)(2020/09/16)
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