UXデザインはじめの一歩 ーインタビュー技術を磨こう!

ユーザーインタビューがうまくいくコツは? 「ミラーリング」で発話を促すテクニック③【発話録サンプル付】

ユーザーインタビューの会話術を前回に引き続き解説していきます。
この記事は、Think ITで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。

はじめに

前回は、ユーザーインタビューの本物の会話例をとりあげながら、具体的な会話テクニックを「質問パターン 3」まで解説しました。

今回も引き続き、Aさんのインタビューをもとに「質問パターン 4」以降の会話術を見ていきます。

●ユーザーインタビューの全文ダウンロード(無料)
今回紹介するユーザーインタビューは、筆者が本記事を執筆するために、公開許諾をとったうえで実際に行ったものです。通常、インタビュー内容は機密保持のため公開されることはありません。全文公開はたいへん貴重な資料となりますので、ぜひこちらからダウンロードしてください!

「軸となる質問」と
「その場その場で掘り下げる質問」で
ユーザーの深い価値観に分け入る(続き)

質問パターン4:ほかの選択肢をとらなかった理由を訊く

「ほかの選択肢ではなく、〜なのはなぜですか」と質問するパターンです。

  • 羽山:英語以外にも世の中たくさん資格があると思うんですけど、なぜTOEICだったんですか。
  • Aさん:なんかTOEFLを以前受けた経験はあって、ただ本当になんか難しかったっていう記憶が強くて、自分の中ではもうTOEICかTOEFLのどっちかだなって決めてたので、3カ月とか5カ月の勉強でも取れそうなTOEICを受けたっていう形です。

人が「X」という選択をしたとき、たいていは「積極的にXにした理由」とともに「YやZといったほかの選択肢にしなかった理由(消極的にXを選ばざるを得なかった理由)」もあるものです。

「なぜですか」という質問をすると、インタビュー対象者は「積極的にXにした理由」を答えます。そこで「ほかの選択肢にしなかった理由」に裏返して質問することで、意思決定の周辺にある心理を見つけることができます。

【質問の例】
  • 「ほかの選択肢ではなく、Xなのはなぜですか」
  • 「YでもZでもなく、Xなのはなぜですか」
  • 「ほかの人だと、その選択はできない人もいると思うのですが、あなたが〜できたのはなぜですか」

バリエーションとして、「ほかの人ならあなたの選択肢は取らないのではないか」という強めの示唆を投げかけることで発話を促す、という方法もあります。

  • Aさん:リーディングはたぶん時間だけの問題で、そこをちょっと補えば取れるのかなと思い、リスニングはもう本当にぜんぜん壊滅的状態だったので、そこを強化したら大丈夫なのかなって思ったのがこう判断したきっかけになりますね。
  • 羽山:リスニングを強化すると言っても、強化できる自信というのをなかなか持てない人もいると思うんですけど、ご自身はなぜそれ、5カ月でリスニングが強化できると思われたんですか。
  • Aさん:TOEFLはまずそれはできないと思い、TOEICはけっこう周りの人だったりとかが取ってる人が多いものだったので、なんかやりやすいなって感じ。なんか最初は取ろうと、ハードルが低く感じていて、ネットとかの記事を見て半年で何点取れますみたいなものに影響されて、たぶん3カ月ぐらいでいける方法みたいな記事を見て、これならいけるなと思い、これぐらいの目標設定にしたっていう形。

対象者は「否定を解きたい」という気持ちから、筆者の質問に前のめりになって説明を試みているのがわかります。

「ほかの人ならあなたの選択肢は取らないのではないか」という質問はテクニカルです。相手をやんわりと否定して発言させることは、慎重にしないと、誘導になります。

質問パターン5:ほかに考えたことを訊く

ひとつの話題について掘り下げを重ねて、おおむね深い心理まで聞けたかな、となったとき、視点を切り替えるためにする質問です。

  • 羽山:ほかには勉強の仕方について考えたことはありましたか。
  • Aさん:なんか英会話教室に通おうかなって考えました。

インタビュー対象者はつねにあなたの顔色を見ていますから、あなたが興味を示した話題について、優先して話そうとします。

インタビュー対象者の心理のうち、対象者自身が最も強く感じているものと、あなたが興味を示したものは異なるかもしれません。ところが、放っておくとインタビューはあなたが興味を示した心理のほうを中心に進んでしまいます。

「ほかにはどんなことを考えましたか」という質問をすることで、インタビュー対象者の心理を広く拾いあげることができます。

【質問の例】
  • 「ほかにはどんなことを考えましたか」
  • 「ほかにはどんな選択肢があったんですか」

質問パターン6:話を具体的にする/話の続きを促す

インタビュー対象者が「キーワードっぽいもの」を口にしたものの、それで言葉を止めてしまうことがあります。多くの人は「自分の考えを総括するような単語」を見つけると、それを場に出して、それだけであなたに詳細まで伝わったかのような感覚に陥ります。

あなたが聞きたいと思っている深い心理は、語られていない詳細のなかにあります。

インタビュー対象者の話を促す、いちばん簡単な方法は「ミラーリング」と「相づち」です。ミラーリングとは相手のしぐさを真似ることですが、とくにわかりやすいのは「相手が言った言葉をそのままオウム返しする」ことです。

  • Aさん:なんか英会話教室に通おうかなって考えました。
  • 羽山:英会話教室。
  • Aさん:はい。体験レッスンにまで行きました。

Aさんとの会話を見てください。筆者の受けごたえは「英会話教室」のひとこと、Aさんの言葉を本当にただそのままくりかえしただけです。質問ですらありません。しかしそのオウム返しを受けて、Aさんは「体験レッスンにまで行きました」という追加の情報を語りはじめました。

言葉をくりかえされると、インタビュー対象者は「(あ、これについて話していいんだな)」と安心します。「相づち」も同じです。質問で促すときは「〜とは、なんですか」「〜とは、具体的にどういうことですか」といった言い回しをします。

【質問の例】
  • ミラーリングする(相手が言った言葉をそのままオウム返しする)
  • 相づちをうつ
  • 「〜とは、なんですか」
  • 「〜とは、具体的にどういうことですか」
  • 「〜のために、どうしたのですか」

ちなみに、Bさんのインタビューでも、次のようにオウム返しをしています。Bさんは筆者のオウム返しを受けて、たくさんの発話をしました。

  • Bさん:そういう積み重ねの段階で、本当に成長してるのかな、というところで、挫折する人は、自分も含めてですけど、ちょっと多いのかなとは思っていて。そういうところで、アンケートに回答させてもらいましたね。
  • 羽山:本当に成長してるのか、挫折することがある。
  • Bさん:途中でちょっとやめちゃうことも。生徒なんか本当にそうですね。勉強する意味も見いだせない。やっても結果が出ないとかってなってくると、やっぱりもうやめましたみたいなのはよくあるかなとは思いますね。よく単語帳とかをやりましょうって話をするんですけど、もちろんTOEICとかでも単語帳とかっていうのは、絶対やりましょうみたいな形で何冊も出てるじゃないですか。金とパス単(羽山註:『TOEIC L & R TEST 出る単特急 金のフレーズ』と『英検でる順パス単』のこと)とか、そんなの出てると思うんですけど、結局それをやったところで、出るかと言われれば出ないことの方が多いと思うので、もちろんたくさん出ることもありますけど、やったものが100%って言ったら、ほかの試験も変わらないと思うんですけど、やっぱりこう出るものは限られてるので、そういったところで成長を感じづらい部分は、とくに初級の初学者の人たちには多いのかなと思います。

この「話を具体的にする/話の続きを促す」パターンは、「直接的に理由を掘り下げる」パターンと並んで、インタビューでもっともよく用いる質問です。

質問パターン7:あえてあり得ない選択肢について質問する

  • Aさん:高校生ぐらいのときに一回受けさせられて、満点が120点なんですけど、なんか30点ぐらいしか取れず、ただ高校生のころって、実際、本格的にけっこう大学受験勉強とかもしていて、英語の実力もけっこう高かったとは思うんですけど、それでもそれだったので、なんかかなりトラウマになってるという感じです。
  • 羽山:なるほど。再チャレンジっていう気持ちにはならないんですか。
  • Aさん:そうですね。なんか今の仕事に直接結びつくわけでもないので、難しいなと思ってます。

私たちの日常の会話では、相手の気持ちを察して、会話をキャッチボールすることがつねです。それまでの会話から明らかにあり得ない選択肢を投げかけることは、いじわるでもなければしません。

しかしインタビューでは「あなたがそう察した」だけでは足りず、インタビュー対象者にはっきりと言葉にしてもらうことが求められます。

たとえばAさんとの会話で、あなたがもし最初の質問で止めてしまっていたら、どうでしょう。想像してみてください。後日のチームミーティングで、あなたが「Aさんは今の仕事に結びつかない資格にはモチベーションを感じないと思います」と言いました。するとインタビューを傍聴していなかった誰かがこう言います。「それはあなたの意見ですよね?」

反証するためには、Aさんがそう発話したという事実が必要です。インタビューの成果として必要なのは、あなたがそう感じたことよりも、ユーザーが発話することです。インタビュー対象者に発話してもらわなければ、根拠として示せないのです。

決め手となるひとことをインタビュー対象者に発話してもらう方法として、それまでの話の流れをふまえて「あえてあり得ない選択肢について質問する」というパターンがあります。

【質問の例】
  • 「たとえば〜(明らかにあり得ない選択肢)という選択はなかったんですか」
  • 「たとえば〜(明らかにあり得ない選択肢)というのじゃダメなんですか」

あり得ない選択肢を提示されたとき、インタビュー対象者は反射的に「そうじゃなくて……」となって意図をより詳しく説明してくれます。

Aさんで言うと「再チャレンジ」という、これまでの話の流れから明らかにない選択肢をわざとふることで、「今の仕事に直接結びつくわけでもないので、難しい」という心理を発話してくれました。

無言の時間を恐れない

インタビューに慣れるまで、初心者のモデレーターがもっとも不安になるのはなんでしょうか。それは「無言」の時間です。

インタビューはつい「相手が話し終えたら、すぐに次の質問をしなければならない」と感じてしまいます。実際に相手が話し終えたあと、質問が思い浮かばず無言の時間が生まれると、それがたとえ数秒であってもあなたはものすごいプレッシャーを覚えます。早く何か言わなきゃと焦ります。焦るほどにあたまは真っ白になります。

「無言」の時間について、2つのことを知っておいてください。

1つ目は「あなたが思っているよりも、相手は無言の時間を気にしていない」ということです。相手は自分の発言を終えて、ボールをあなたに渡していますから、それほど焦る理由がないのです。あなたが永遠にも感じる無言の数秒は、相手にとってはただの数秒でしかないのです。

2つ目は「無言の時間をつくってもかまわない」ということです。人が会話の途中に考えこむのは、ままあることで、けして不自然なことでも、失礼なことでもありません。たとえば、あなたが「なるほど、うーん……」と言ったまま考えはじめたら、相手は「あ、何か考えているんだな」と思って待ってくれます。

どうしても無言の時間に焦ったら、シンプルにあなたの状態を伝えても大丈夫です。「……ちょっと質問を整理しているので、少しお待ちくださいね……」と、無言の時間をとることを宣言してしまいましょう。そうすれば相手もゆっくり待ちの体勢になります。べつにそのあと30秒の無言が続いても、相手は不安になりません。

慣れるまでは、無言の時間は数秒であっても、あなたはとても緊張します。思うほど慌てることではない、と知ってください。

おわりに

今回も、Aさんのインタビュー発話録をもとに、具体的に会話テクニックを解説しました。インタビューは意図をもった質問を上手に重ねていくことで、ユーザーの深い心理にたどりつけます。

次回は、Bさんのインタビュー発話録をもとに、Aさんのインタビューではなかった会話テクニックを解説していきます。

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