UXデザインはじめの一歩 ーインタビュー技術を磨こう!

ユーザーインタビューのクロージングで役立つテクニック⑤【発話録サンプル付】

ユーザーインタビューの最後の締め方、クロージングの流れを解説します。
この記事は、Think ITで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。

はじめに

前回は、ユーザーインタビュー実査の会話テクニックについて、Bさんのインタビュー発話録をもとに解説しました。

今回は、ひととおりの質問を終えて、インタビューを締めくくる「クロージング」の流れを解説します。

●ユーザーインタビューの全文ダウンロード(無料)
今回紹介するユーザーインタビューは、筆者が本記事を執筆するために、公開許諾をとったうえで実際に行ったものです。通常、インタビュー内容は機密保持のため公開されることはありません。全文公開はたいへん貴重な資料となりますので、ぜひこちらからダウンロードしてください!

傍聴者の質問を受ける

インタビューがひととおり終わったところで、もし傍聴者がいるならば質問を受けます。インタビュー対象者には「ここまでで、傍聴している者からも質問がないか確認します」と伝え、傍聴者から質問をもらいます。

インタビュー対象者から見えるところに傍聴者がいるときは、直接に質問をしてもらってもかまいません。リモートであれば会議に直接に参加しているメンバーです。対面であれば会議室に同席しているメンバーです。

傍聴者に直接に質問をさせず、あえてモデレーターを仲介するようにすることもあります。傍聴者が何人もいたり、あるいはインタビュー対象者となんらかの利害関係があるなど、傍聴者の姿がインタビュー対象者から見えてしまうと萎縮して正しい話が聞けなくなる場合です。対面のインタビューでは、会議室にはインタビュー対象者とモデレーターの2人だけしかおらず、音声だけをとなりの会議室に中継しているようなときも、これにあたります。

モデレーターを仲介するときは、PCやスマホのチャットツールで、質問をモデレーターに送ってもらうようにします。ちなみに、チャットツールが今のように一般的でなかったころは、モデレーターがいったん退室して、わざわざとなりの会議室まで質問を聞きに行っていました。

傍聴者からの質問もひととおり終わったら、「以上でインタビューは終わります」と終了を伝え、謝礼の支払いに進みます。

謝礼を渡す

インタビューの謝礼を支払うときは「謝礼をお支払いいたします」と伝え、支払いの手続きをします。

第13回 で謝礼について説明したことをいま一度ふりかえりましょう。

リモートのインタビューのとき:
  • 振込先は口頭で聞かず、第8回で解説した「謝礼のお振込先の口座番号シート」に記入してもらい、メールで送ってもらうように依頼します。
  • シートを受領してから振り込みまでの期間の案内をします。あなたの会社のルールによっては締め支払いとなり、しばらく待たせることがあるためです。

振込先は口頭で聞かず、書面でもらうのがおすすめです。筆者は口頭でやりとりしたために名義人を聞き間違ってしまい、あとになって振込できずに困ったことがあります。

対面のインタビューのとき:
  • 会場に「謝礼」と「領収書」を用意しておきます。謝礼は封筒に入れておいたほうが印象が良いです。
  • 記名と捺印を求めるので、ボールペンと朱肉、印鑑を拭くためのテッシュも用意しておきましょう。
  • 「領収書」にはあらかじめ領収書の宛先に自社名と金額を記入しておきましょう。

対面のインタビューは、領収書に日付、住所、氏名を記入してもらい、捺印をしてもらいます。

実は捺印は必須ではなく、商取引の慣習として一般的なだけです。万が一、インタビュー対象者が印鑑を忘れてしまったときは、捺印は省略しても大丈夫です。

記入と捺印が終わったら「控え」をインタビュー対象者に渡し、「原本」をあなたが受け取ります。

あなたが所属する会社の方針によっては「インタビュー会場に現金を持ち込まず、あとで銀行振込をする」というケースもあるかもしれません。その場合は、領収書の代わりに「謝礼のお振込先の口座番号シート」を記入してもらいます。

インタビュー対象者を見送る

謝礼をお渡ししたら「それでは以上となります。本日は長い時間、ありがとうございました」と伝え、リモートであれば会議を終了します。対面であれば「それではご準備ができたら、お見送りいたします」と言って、出口まで案内し、丁重にお礼を伝えてお見送りをします。

インタビューの録画や録音を止める

インタビュー対象者を見送ったら、インタビューの録画や録音を止めます。

筆者はインタビュー対象者を見送って姿が完全に見えなくなるタイミングまでレコーダーを回し続けるようにしています。インタビューが終わった安堵感で、インタビュー対象者がインタビューのなかで言わなかった新しい情報を発話する可能性があるからです。

ふりかえりをする

インタビューが終わったら、すぐに傍聴者を集めて、インタビューのふりかえりをします。ふりかえりは、インタビューの興奮や気づきが残っているうちにすることが大切です。

傍聴者ひとりひとりに話をふって、次のような観点で発言をもらいます。

  • 印象深かったこと
  • 気がついたこと
  • 学びになったこと

傍聴者から出た発言は、リモートであれば全員に画面共有しながらメモします。対面であれば、みんなから見えるようにホワイトボードに書いていきます。誰かひとりに発言が集中しないよう、うまくファシリテーションして、みんなの気づきと感情を場に出しましょう。

もし1日に複数回のインタビューを詰めていたときは、スケジュールの都合でどうしても即時にふりかえりができないことがあります。そのようなときは、1日の実査がすべて終わったタイミングで全員で集まり、ふりかえりをします。

次のインタビューの準備をする

もし1日に複数回のインタビューを詰めていたときは、すぐに次のインタビューの準備をします。

筆者は予定を組むとき、インタビューとインタビューのあいだは1時間は空けておくようにしています。インタビューは往々にして延長してしまいがちで、30分くらい伸びることはつねです。他方で、几帳面なインタビュー対象者は余裕をもって30分前には会場にやってきたりするのです!

インタビューとインタビューのあいだには、次のインタビューにむけて、事前アンケートを画面に出したり、手元に新しいメモを用意したり、トイレへ行ったりします。

もし、あなたのアプリやWebサイトでインタビューしていたときは、設定を初期化したり、ログアウトしてブラウザのキャッシュを削除したりします。とくにWebブラウザで操作履歴やクリック済みリンクが見えてしまうと、それがインタビュー対象者への思わぬ誘導になってしまうことがあります。

インタビューの準備は、対面の会議室でのほうがたいへんです。部屋の片づけ、アプリやWebサイトの初期化、次のインタビュー対象者に渡す謝礼や事前アンケートシートを並べ、飲み物やお菓子を補充し…と、30分あっても大わらわになります。

インタビューのスケジュールを組むときは「インタビューは時間どおりに終わらないし、インタビューが終わってすぐには次のインタビューには移れないし、次のインタビュー対象者は予定より早く来る」と心得ておきましょう。

インタビュー中にトラブル!
焦らず堂々と対応する

インタビューでは、入念な準備をしていても思わぬトラブルが起こります。「トラブルが起こってほしくないときほど、トラブルは起こる」とはよく言ったもので、「なんでこのタイミングでこの問題が!?」というようなことが起こるものです。

Aさんとのインタビューでは、インタビュー終盤で、なんと筆者のPCがフリーズしてしまいました。オンラインのインタビューなので、筆者のPCがフリーズしたらAさんの画面は真っ暗です。PCの再起動をしていたら数分間かかってしまいます。

  • 羽山:なるほど。ピンクの問題集の音声ですね。ありがとうございます。机に座ってやるのは勉強…
  • Aさん:あれ? ちょっといいですか。
  • 羽山:音声聞こえてますか。
  • Aさん:いや、すいません。ちょっと聞こえてなかったです。
  • 羽山:かしこまりました。

  • (ここで羽山のPCがフリーズ。急きょスマートフォンから接続して再開。空白時間は30秒ほど)

  • 羽山:…すいません。パソコンがちょっと固まっちゃったので、今、急きょスマートフォンで入りました。すいません。ちょっとお待ちください。じゃあちょっと失礼して、このままスマートフォンで最後まで続けさせていただきます。
  • Aさん:了解です。
  • 羽山:今おっしゃっていただいた…。まず最初に考えていらっしゃった勉強法というのが、平日や休日に問題を解き続けるということ、継続的にするということをされようと思っていた。それは、いつぐらいまで続いたんですか。

筆者は急きょ、スマートフォンに切り替えてインタビューを再開しました。

思ってもみなかったトラブルのとき、大切なのは「堂々としていること」です。内心で動揺していても、インタビュー対象者の前ではトラブルすらさも想定内であるかのように振る舞ってください。インタビュー対象者にとって場のガイドはあなたです。あなたが挙動不審になったらインタビュー対象者も不安になります。

筆者も、インタビュー対象者が不安にならないように状況を伝えた上で、堂々と対処してインタビューを再開しました。

相手の名前が思い出せなくなったときは
「ご自身」と呼びかける

最後にちょっとしたTIPSを紹介しておきます。インタビュー中に、どうしても相手の名前が思い出せなくなってしまったときの対処方法です。

実は筆者は人の名前を覚えるのがたいへん苦手です。そのため、インタビューのオープニングでわざわざ相手の名前を確認し、手元にメモまでしているのですが、それでも慌ててしまってわからなくなることがあります。

そんなとき、筆者は「ご自身はどう感じたのですか?」というように、二人称として「ご自身」を用いています。「あなた」でもよいのですが、目上の方が相手のときは「ご自身」のほうがていねいな印象になります。

おわりに

今回は、インタビューのクロージングについて解説しました。クロージングは謝礼の支払い手続きなど、うっかりするとあとで困るような内容が多いので、最後まで気をぬかずに進めましょう。

次回はインタビュー実査にあたり、心得ておかなければならない「確証バイアス」や「誘導」とその対処方法について解説します。

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