やる・やらないで差がつく! ユーザーインタビューの質問項目を作る前の下準備(ネットリサーチ方法)
はじめに
前回は「インタビュー対象者にアポをとる」ときの、具体的なメール文面を挙げて、手順を説明しました。
今回からは、いよいよ「インタビューで何を訊くか?」の設計に入ります。インタビューがうまくいくかは、事前に準備した質問で大枠が決まるため、とても大切なところです。
インタビューは「軸になる質問」と
「その場その場で掘り下げる質問」で構成する
インタビューでする質問は、あらかじめ用意しておく「軸になる質問」と、インタビュー対象者の回答に応じてその場その場でする「掘り下げる質問」の2種類があります。
具体的には、インタビューの場では、次のような会話になります。参考例は、これまでと同様に「資格を取得するきっかけ」をテーマにしています。
モデレーター:「TOEICを取得したきっかけを教えてください(あらかじめ用意した「軸になる質問」)」
インタビュー対象者:「会社の推奨資格になっていたので、受験しました」
モデレーター:「会社の推奨資格というのは、どういうことですか?(その場その場でする「掘り下げる質問」)」
インタビュー対象者:「900点以上を取ると、会社から報奨金が出るんです。それから査定にプラスになります」
モデレーター:「推奨資格は毎年ある制度だと思うのですが、特にその年にTOEICを受験した理由はなぜですか?(その場その場でする「掘り下げる質問」)」
このように、あらかじめ用意した「軸になる質問」とその場その場でする「掘り下げる質問」を組み合わせてインタビューを展開する方法を、専門用語では「半構造化インタビュー」と呼びます。「構造化」とは、事前に決めた質問項目のみ質問する、という意味です。
逆に、「非構造化」とは何も事前に用意しておかない状態です。「半構造化」とは、事前に準備した質問で全体の枠組みをつくり、必要に応じて追加で質問をしていくことを指します、
ユーザーインタビューは、多くの場合「半構造化インタビュー」のかたちをとります。インタビュー対象者の回答は多様なので、あらかじめ決めきった質問しかしない「構造化」では深掘りし切れず、逆に事前準備のない「非構造化」では散漫な質問となり、やはり重要なポイントを聞き逃してしまうためです。
「半構造化インタビュー」は「軸になる質問」で全体の流れがおおよそ決まるので、「軸になる質問」の設計が肝です。
「軸になる質問」が多すぎても時間内に聞き切ることができません。実際にインタビューをするとわかりますが、「軸になる質問」を1問したあとに「掘り下げる質問」を2回、3回と重ねていくと、かんたんに15分、20分と時間が経ちます。筆者の経験として、60分のインタビューなら「軸になる質問」は5~8問くらいが良いでしょう。
それでは「軸になる質問」はどのように決めていけば良いのでしょうか。以降で、その手順をステップバイステップで見ていきます。
インタビューで明らかにしたいことを確認する
まず、第5回の「何が知りたいのかを明らかにする(リサーチクエスチョン)」で考えたことを思い出してください。
リサーチクエスチョンは、「自分の資格取得のアプリを使った感想を知りたい」といった自分目線のものではなく、「資格を取るきっかけはなにか」というような、ユーザーの心理世界の全体を捉えるようなものが望ましい、というお話でした。
インタビューの流れは、このリサーチクエスチョンを詳細化するかたちでつくっていきます。
事前調査として、自分でできる
「かんたんなネットリサーチ」をする
「資格を取るきっかけはなにか」は、何を訊けば知ることができるでしょうか。
インタビューの質問を考えるには、いくつかの方法があります。ブレーンストーミングや、これまでのプロジェクトの中で浮かんだ仮説を質問にする方法などがありますが、筆者は自分でできる「かんたんなネットリサーチ」をしてみることをオススメしています。
ブレーンストーミングやチーム内での議論は、どうしても「ユーザーのリアルな声ではない=推測になってしまう」という難しさがあります。そこで筆者が10年ほど前から取り組んでおり、手軽に集められるユーザーの生の声として「ネットの口コミを使う」という手法を使っています。
「ネットの口コミ」は、実際の体験から「口コミを書く」という行為が挟まるので、感情や事実が整理されたり、取り繕われたり、切り捨てられたり、読者に有用と思う情報だけを書いていたり、事実を越えてその人の意見が書かれていたりします。
しかし、それでも私たちつくり手の思い込みよりは広い洞察を与えてくれます。筆者の研究では、ネットの口コミだけでも、ユーザーインタビューで発見できるユーザー心理の6割までは見つけることができました。コストもかからないので、インタビューの方向性をつくるための事前調査にはうってつけです。
また「ネットの口コミ」はB to Cの情報が多そうですが、実はB to Bの分野でも、かなりの情報を得ることができます。
実際にやってみましょう。筆者の「かんたんなネットリサーチ」の定番は「Yahoo! 知恵袋」「OK Wave」「Amazon レビュー」「Google キーワード プランナー」です。
「Yahoo! 知恵袋」でユーザー心理を集める
まずは「Yahoo! 知恵袋」でやってみましょう。
「Yahoo! 知恵袋」を開いて、調べたいキーワード(今回であれば「資格」)で検索します。出てきた記事をひとつずつ見て「資格を取得したいと思うきっかけ」をメモしていきましょう。「Yahoo! 知恵袋」の、特に「質問文」には、ユーザーがそのキーワードにおいて、どんなことを不安に思うか、疑問に思うかが、あらわれてきます。
検索結果を上から順々に開いて見ていきましょう。次は筆者が2021年1月に検索したときの検索結果です。
・1件目
「医療秘書」の資格をお持ちの方の質問でした。ここで「資格をとるきっかけ」について語っているのは次の部分です。
短大で学生の時も取れるものは取っとこーっと、履歴書うめれるし、位の気持ちでとりました
なるほど、「学生のときに取れるものは取っておこう」「履歴書を埋められる」という2つのきっかけがあることがわかりました。
・2件目
「資格試験になかなか受からない」という質問でした。「資格をとるきっかけ」について語っているのは次の部分です。
普通どのくらいで受かりますか?
また予備校に通うとなると土日もほぼワンオペ状態になるので躊躇います。
ここまでの予備校代は百万を超えます。
資格取得を考えるときに「どれくらいの期間の勉強をすれば合格できるのか」「資格の勉強と家事や育児が両立できないのではないか」「資格取得のために予備校に通うと費用がかさむのではないか」という不安があることがわかりました。
・3件目
「資格を取っておくにこしたことはないのか」という高校生の質問でした。色々な心理やきっかけが一文に詰まって書かれているので、分解しながら見ていきます。
今はコロナのせいでゼミ等もないのでせっかくなら資格とかとっておいたら良いのかなっと思って
検定料など高いものが多いので
公募推薦やAO推薦でキャリアとして書いたとして、よく評価されることってあるのでしょうか
「時間が空いているので、資格を取ろうかと思う」「受験料が高い」「進学のときに評価されるのではないかと思う」という心理が見つかりました。
このような感じで、4件目、5件目……と見ていきます。途中、「社会保険の『資格』喪失証明書」という、今回の調査には明らかに関係のないものが混ざっているので、それはスキップします。
こうして、ざっくり10件目くらいまで洗い出した結果は次のとおりです。「かんたんなネットリサーチ」は、あくまでインタビューのための思考のヒントを得ることが目的なので、調査する件数はおよそでOKです。
【Yahoo! 知恵袋 で「かんたんなネットリサーチ」をした結果】
- 学生のときに取れるものは取っておこう
- 履歴書を埋められる
- どれくらいの期間の勉強をすれば合格できるのか
- 資格の勉強と家事や育児が両立できないのではないか
- 資格取得のために予備校にかようと費用がかさむのではないか
- 時間が空いているので、資格を取ろうかと思う
- 受験料が高い
- 進学のときに評価されるのではないかと思う
- 履歴書に資格を書きたい
- 資格を取れば食いっぱぐれないのではないかと思う
- 資格を取るために家族を説得したい
- 大学で取得できる資格をとりあえず取る価値があるかわからない
- 履歴書に資格を書きたいがその資格の仕事に就きたいわけではない
- 転職をするにあたり自分がもっている資格の数が十分か知りたい
- とりあえず役に立ちそうな資格を取っておこうと思う
どうでしょう。口コミとはいえ、思いのほかリアルなユーザー心理が集まったのではないでしょうか。
「OK Wave」でユーザー心理を集める
「Yahoo! 知恵袋」と同じように、質問が集まるのが「OK Wave」です。同じように検索し、ユーザーの心理があらわれる箇所をメモしていきましょう。
「OK Wave」は検索の初期設定で、かなり過去の記事が出てくることがあります。検索キーワードが「資格」では問題ないかもしれませんが、時期が重要なキーワードで検索するときは「検索オプション」で期間を指定すると良いでしょう。
書き出す過程は「Yahoo! 知恵袋」と同じです。筆者が5ページほどやってみたところ、次のようになりました。
【OK Wave で「かんたんなネットリサーチ」をした結果】
- 資格を取っても独立するには営業力も必要だと思う
- ほかの人がどんな資格を勉強しているか知りたい
- 派遣でパソコン事務の仕事がしたいので、取得すべき資格を知りたい
- 就職に有利な資格を知りたい
- 動物にかかわる仕事につける資格がどんなものがあるか知りたい
「Amazon レビュー」でユーザー心理を集める
「Amazon」の商品の「レビュー」や「カスタマーQ&A」も、ユーザー心理があらわれやすいところです。
ここでも、「資格」でキーワード検索し、上位に出てきた書籍の「レビュー」を見ていきます。
例えば、1冊目に出てきた書籍のレビューを見ると次のようにあります。
- 色んな資格が乗っていて便利
- ネットで見るようなマニアックな資格は載っていなくて残念
解釈すると「いろんな資格を一望したい」「マニアックな資格のことも漏らさず知りたい」という心理がありそうです。
筆者が何冊か本を巡ったところ、次のような書き出しができました。
【Amazon レビュー で「かんたんなネットリサーチ」をした結果】
- いろんな資格を一望したい
- マニアックな資格のことも漏らさず知りたい
- 資格をつうじてキャリアアップしたい
- 会社で資格を勧められたが気持ちがついていかない
- 自分に合った勉強法が知りたい
- 資格の勉強をする励みがほしい
- 最新の法改正に対応した内容を学びたい
「Google キーワード プランナー」でキーワードを調べる
最後は「Google キーワード プランナー」です。「Google キーワード プランナー」は「Google広告」の出稿者だけが使えるツールです。この項は、ツールが使える方だけやってみてください。
「Google キーワード プランナー」は、キーワードを入力すると、そのキーワードと一緒に検索されることの多いキーワードを一覧にしてくれます。例えば、上位20件は次のような感じです。
- 医療 事務 資格
- 保育 士 資格
- 資格 おすすめ
- 宅地 建物 取引 士
- ユーキャン 資格
- 国家 資格
- 賃貸 不動産 経営 管理 士
- mos 資格
- 介護 資格
- fp 試験
- 社会 福祉 主事
- ファイナンシャル プランナー 試験
- 2 級 建築 施工 管理 技士
- 認定 心理 士
- 税理士 資格
- 介護 福祉 士 受験 資格
- マッサージ 資格
- 心理 学 資格
- 社会 福祉 士 に なるには
- ケア マネージャー 資格
- 1 級 建築 施工 管理 技士
多くは「知りたい資格名」や「なりたい職業名」を検索していることがわかります。また、中には毛色の異なるものもあります。「資格 おすすめ」は「おすすめの資格が知りたい」という心理で検索されたものでしょう。「国家 資格」は「国家資格にはどんなものがあるか知りたい」という心理と解釈できます。
【Google キーワード プランナー で「かんたんなネットリサーチ」をした結果】
- 気になる資格について知りたい
- なりたい職業につながる資格が知りたい
- おすすめの資格が知りたい
- 国家資格にはどんなものがあるか知りたい
「かんたんなネットリサーチ」の結果を「抽象化」する
見つけたユーザー心理をスプレッドシートに一覧にしたものを次に示します。
ただ、この状態では散漫で、何を読み取れば良いのか戸惑います。そこで、第4回 ユーザーの発話を「そのまま」信じてはいけない。では、どうする?で出てきた「抽象化」をしていきます。似た心理をグループにして、グループ名をつけていきます。
これには、少しコツがあります。グループ名を書いていくときに「文章」になるようにしてください。例えば「時間が空いているので、資格を取ろうかと思う」という心理にグループ名をつけるときは「時間が空いている」という「文章」にします。もし単語だけで「時間」などとつけてしまうと、あとから見返したときに「時間が空いている」のか「時間が詰まっている」のか、あるいは時間に関する他の何かなのか、わからなくなってしまうためです。
こうして抽象化してグループにすると、次のようになります。
しかし、これでもまだ要素が多く、全体を俯瞰した感じがしません。そこで、もう1回抽象化します。筆者の経験として「かんたんなネットリサーチ」した結果から2回くらい抽象化すると理解しやすい粒度になります。2回目をした結果が次です。
最終的にグループは次の7つになりました。これは、私たちつくり手の推測ではなく、「ネットの口コミ」にあらわれたユーザーの声です。
- 希望の仕事に就きたい
- キャリアアップしたい
- 資格の勉強をする動機づけしたい
- 受験するにあたり不安を感じる
- 将来への保険として資格がほしい
- ちゃんとした内容を学びたい
- どの資格を取るべきか知りたい
「かんたんなネットリサーチ」で見つかる心理は、ユーザーがこの話題(資格)について考えるとき、頭をよぎる可能性が高い要素です。実際のインタビューの場でも話題に上りやすいですし、もらさないようにインタビューの質問も設計すべきです。これをインタビューの大枠に考えます。
おわりに
今回は、インタビューでする質問を設計する材料として、「かんたんなネットリサーチ」をしました。
次回は、見つけたユーザー心理をもとに、実際にインタビューの質問を設計していきます。
オリジナル記事はこちら:ユーザーインタビューの質問を設計するための材料を集めよう(2021/2/5)
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