パナソニックとカゴメの成功に学ぶ『コミュニティのありたい姿』。経営も納得するKPI設定や属人性の肯定【WAB月例セミナーレポート】
“ファンとの共創”を目指す取り組みが、企業の注目を集めている。特徴あるコミュニティを運営している企業として、パナソニックとカゴメにインタビューを実施。その成功要因を分析した。
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会(以下、Web広告研究会)は9月24日に月例セミナーを開催。「コミュニティ型へシフトするソーシャルメディアマーケティング」というテーマのもと、第1部ではドリームデザインの平林泰直氏が登壇し、Web広告研究会内のソーシャルメディア委員会ワーキンググループにおける研究成果を発表した。
企業は“ありたい/あるべきコミュニティの姿”を考えるべき時期
ソーシャルメディア委員会ワーキンググループ(WG)には10数名が所属。「コミュニティ」をテーマに半年間のセッションを行ってきたが、今回その内容をとりまとめ、平林氏が公表した。
WGでは「企業が運営するコミュニティは、このままでいいのか? 本来あるべき形はどういうものか?」をテーマに議論。
企業がユーザーコミュニティを運営する場合、次のような点で違いはある。
・目的(マーケティング、ブランディングなど)
・形態(SNS、専用プラットフォーム/サイトなど)
しかし、その大きな目的として「信頼醸成の場」がある点に違いはないはずだ。そうしたうえで、現状のコミュニティ運営における問題点として次の4点があると平林氏は指摘する。
1. 一方的な情報発信になっていないか
2. 広告媒体の延長になっていないか
3. LTVやQOLでなく、量が主体のKPIになっていないか
4. “個との繋がり”ができていないのではないか
しかし実際の企業のコミュニティに関して、「ユーザーと、本質的なコミュニケーションがとれていないのではないか。一方で経営に話をしても、よく理解されていないのではないか」(平林氏)という印象があったという。
そこでWGでは、ケーススタディのインタビューを行うことを決定。インタビューに先立って、“ありたい/あるべきコミュニティの姿”を話し合い、そこからインタビュー項目を作成してパナソニックとカゴメに質問を行った。
主なインタビュー項目は以下のとおり。
1. ゴールはどういったものか
2. 「コミュニティ」のありたい姿とは
3. 利用者とのコミュニケーションで特に気をつけていることは
4. リアルイベントとオンラインの相乗効果は
5. KGI、KPIはどういったものか
6. 上層部への報告において重要視している事柄は
7. 組織体制と人材育成はどうしているか
パナソニックのコミュニティは多面的な取り組みが魅力 ―― CLUB Panasonicオーナーズサービス
「クラパナ」ことCLUB Panasonicオーナーズサービス(クラブ・パナソニック・オーナーズサービス)は、2007年から運営されているコミュニティで、1000万人を超える登録者がいる。WGでも立ち上げ時より情報を得ていたが、最近になり運用方針を大幅に変更したということを聞き、あらためてインタビューを行った。
インタビューでは「なぜこのコミュニティを運営するのか」を中心に質問。その結果「エンゲージメント力を強化すること」がゴールだと明らかになった。またユーザーとのコミュニケーションにおいては、「便利」「パーソナル」といったキーワードが重視されていた。
平林氏が注目したのは、次の施策:
・ロイヤリティの獲得
・リアルイベント体験
・自社アセット活用
「ゴールを達成するにはデジタルが必要だが、デジタルだけあればいいというわけではない。クラパナでは、オフラインのリアルイベントを年間100本実施し、さらに所属スポーツチームのイベントなどもそこに関わってくる」と、取り組みが多面的であることを指摘した。
カゴメのコミュニティのKPIは「自社株を保有してもらうこと」 ―― KAGOME Fan Shareholders
KAGOME Fan Shareholders(カゴメ・ファン・シェアホルダーズ)は、個人株主(ファン株主)を対象にした特異なコミュニティ。ロイヤリティが高いと思われるユーザーが多く、目的や成果について独自性があると考え、インタビューを行ったという。
まず個人株主を中心としたのは、銀行の株式持ち合いから脱却し「お客様の会社」になることを目指した結果だという。“お客様資本の会社作り”をゴールとし、そこからの逆算でさまざまな施策が決定されたとのこと。
カゴメの個人株主は、コミュニティを設立した設立2001年当時は6000名ほどだった。その数を2011年までに10万人とすることを目指した。ロイヤリティ獲得のため重視したのは“3世代施策”。具体的には、工場見学などのリアルイベントで、親子参加、さらには孫も参加できる企画を用意した。
個人株主数を増やすことが目的だといっても、やみくもに株主を優遇することはせず、ファンの家族にもカゴメへのロイヤリティを広げることを目指した施策を進めた。その結果、若い株主が増えるとともに、イベント参加者も40代の若い層、さらには女性が増えたという。
その成果については、次のような具体的なエピソードも紹介された。
「マーケティング連携のアンケートなどでも、コミュニティからの質の高い回答が目立つようになった。製品のヒントになる回答が返ってくるようになった」
「カゴメの株を10年以上保有するかというアンケートに対しては、60%以上がYESと回答した。購入金額も増やすという。まさにロイヤリティの表れだと思う」
“コミュニティ”をあるべき姿に導く成功要因とは
WGではその他にも複数の調査や検討を実施。 “コミュニティのあるべき姿” への1つの回答として、次のような成功要因をあげている。
・WHYから目的を再定義する
・ユーザーとの020の場を設計する(オンラインとオフラインの連携)
・ロイヤリティ向上を再設計する
・他部門を支援する仕掛け作り
・経営が納得するKPIの設定
こうしたことを進める鍵としては、
・マーケティングからもう1つ上の目線
・オフラインの重視
・時間をかけた関係性構築
などがあり、平林氏は「企業はコミュニティをどうするかどう作るか、あらためて見直すべき時期に来ている」と指摘する。
なお、これら以外にもWGメンバーからは、次のような意見があったという。
「KPIにおいては、LTVやQOLについて、コミュニティに参加している人と参加していない人の差をとり対比させる」
「組織においては、横断的に情報収集・発信できる部門が必要」
「“特定の人材がいなくなると回らない”といった属人的な要素を肯定してはどうか」
平林氏は「属人性」に関して、ラジオのパーソナリティを例に解説する。
リアルイベントというものは、通常は雨の日だと参加者が減るものだ。しかしラジオ関連のイベントだと雨の日は逆に参加者が増えるのだという。「ラジオ番組のファンは番組パーソナリティとの関係性が強く、イベントの日に雨が降っていたら“自分が行ってあげないと”という発想になるらしい」(平林氏)。
通常、企業活動において「この人がいなければ」といった属人性は否定される傾向にあるが、コミュニティの運営においては、そうした属人性を肯定するやり方もあるのかもしれない。
◇ ◇ ◇
このセッションで提示された、コミュニティ運営の問題点とチェック点を再掲しておく。
【現状のコミュニティ運営における、4つの問題点】
1. 一方的な情報発信になっていないか
2. 広告媒体の延長になっていないか
3. LTVやQOLでなく、量が主体のKPIになっていないか
4. “個との繋がり”ができていないのではないか
【それに対する成功要因(チェックすべきポイント)】
・WHYから目的を再定義する
・ユーザーとの020の場を設計する
・ロイヤリティ向上を再設計する
・他部門を支援する仕掛け作り
・経営が納得するKPIの設定
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Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
「パナソニックとカゴメの成功に学ぶ『コミュニティのありたい姿』。経営も納得するKPI設定や属人性の肯定」2019年9月24日開催 月例セミナーレポート(1)(2019/12/18)
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