パナソニック、キヤノン、外資系化粧品会社が語るデータ活用事例
CRMやWeb閲覧行動など、すでにデータをマーケティングに活用する企業の取り組みはどのようなものか。Web広告研究会2月月例セミナーの第二部では、企業アンケート「企業のデータ利活用に関する調査」の結果を受け、実際のデータ活用事例として、アイ・エム・ジェイの江端 浩人氏をモデレーターに、パナソニック、キヤノンマーケティングジャパン、外資系化粧品会社の3社を迎えてディスカッションした。
CLUB Panasonicの集客と売り上げへの貢献――パナソニック
まず、パナソニックの会員サイト「CLUB Panasonic」のCRM戦略とビックデータ活用が同社の中村氏から紹介された。CLUB Panasonicは、CRM活動によって顧客満足度を最大化することで顧客のロイヤル化を行い、増販に結び付けることが目的のコミュニティサイトだ。より多くの顧客に会員登録してもらい、毎日コミュニケーションすることで、愛用者登録やアンケート活用による商品力強化、イベント参加などをしてもらおうとしている。
これらの活動を通じ、家電製品を買うときにパナソニック製品が候補に上がるロイヤル顧客になってもらうことを目指しているが、そのためには、まずCLUB Panasonicの会員規模を広げることが重要だと中村氏は話す。今でこそ、CLUB Panasonicは総会員数810万人、月間PV数2億2,000万の巨大サイトに成長しているが、立ち上げ時は会員獲得が社内説得の課題だったという。
CLUB Panasonicの主なユーザーは、PCユーザーでは男性70%、女性30%、年齢では40代以上が59%を占めている。これは、高額商品を家族で買った世帯主が代表して愛用者登録した結果だ。消費意欲が高く、高所得者のデジタルシニア世代は、PCからの利用が多いのに対し、若年層や女性はスマートフォンなどからのアクセスが多い。
設立8年目を迎えるCLUB Panasonicの目的は、当初の愛用者アンケートによる商品開発への貢献から、ネット上でのつながりによる商品認知を経て、2013年以降はリアルでも会員とつながり、商品レンタルや商品体感イベントでの商品体験を提供する場に推移してきた。これらの活動を広告費として換算すると、年間100億円超という電通の調査もあると中村氏は説明する。
会員情報を商品サポートやパーソナライズに活用
CLUB Panasonicの具体的な活動として、アンケート調査を活用して商品開発力を強化したり、愛用者登録データをカスタマーサービスと連携させたりして、個別に使いこなし方や点検情報などを流し、問い合わせを削減するなどの取り組みがされている。
また、商品認知のために商品サイトへ誘導させる際にも愛用者登録データが使われ、保有商品によってアップセル、クロスセルなどの商品の告知や、商品Webサイトの閲覧データを利用したメールによるレコメンドなどが行われている。特に商品Webサイトの閲覧データを利用したレコメンドメールは、通常の7倍のクリック率を得られる結果となったため、今後はマーケティングオートメーションを使い、積極的にレコメンドを行っていきたいと中村氏は話す。
商品体験では、見込み客をセグメントして、eメールに加えて郵送ダイレクトメールも送付しリアルの商品体感イベントに呼び込んでいる。また、商品のレンタル体験者の購入率は未体験者の5倍に達し、87%が体験によって購入意欲が上がったと回答している。
O2O施策では、会員メールやLINEでクーポンを発行し、イベント受付でクーポン番号によって会員を特定している。また後日、来場お礼メールで商品とキャンペーンを再訴求している。
O2Oでも郵送ダイレクトメールは有効だが、コストがかかるため、会員データなどでターゲットを絞り込み効率化している。絞り込みは、一般的な属性以外にも、ロイヤルティ、愛用者登録数、累計ポイント獲得数、入会時期、商品サイトアクセス情報なども見て、より高い効果が出るようにし、郵送ダイレクトメール配信数の10%以上がイベントに来場する結果を出している。
さらに、2015年2月からは提携先の電子マネーやポイント、マイルと交換できる金銭的価値を持つ「CLUB Panasonicコイン」を発行している。中村氏は、コインの流通量を増やし会員を活性化するために、成果報酬型の他社の広告主の広告をCLUB Panasonicに掲載可能にし、売り上げにもつなげていると説明した。また、集客力のあるCLUB Panasonicに成果報酬型で広告を出稿できるので、広告主から高い評価をしてもらっていると説明した。
BtoCマーケティングのデータ活用に向けた基盤を構築――キヤノンマーケティングジャパン
キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)では、「顧客の見える化」と「投資ポートフォリオの最適化」の2つをミッションにデジタルマーケティングを行っていると、因幡氏がBtoCのデータ活用について解説した。
データ活用の範囲は、社内で取得できる現有のデータを中心に、昨年からデータ活用の整備を進め、現在は散在していたデータを統合して使えるように、BIツールで可視化した段階だという。今後は、これらのデータを活用し、商品ブランド別のマーケティング部門、広告宣伝部門、CRM部門とともにデジタルマーケティング活動を行っていく予定だ。
グローバル共通のマーケティング基盤構築へ――外資系化粧品会社
最後に、外資系化粧品会社の安達氏が同社のデータ活用について説明した。国内のラグジュアリー産業が衰退してきているなかで、高コストのカタログから、CRMやデジタルマーケティングを行う流れに移り変わってきていると安達氏は話し、グローバルなツールを利用することが重要だと説く。
安達氏は、外資系企業において、日本での売り上げ成績が良ければ日本独自のツールを使うことが許されているケースは多いが、日本での売り上げ減少とともに、グローバル共通のツールを使わざるを得ない状況になってきていると説明する。
また、今日のインバウンドの顧客にも目を向け、リピーターを作るためのアプローチをしているという安達氏は、トップダウンだけでなく、現場が優良顧客のデータを取り込んで正確に分析・予測を行い、次の施策を作ることが今後の課題だと話した。
データ分析の体制と人材をどのように作り上げるか
続くパネルディスカッションでは、データ分析の「体制・組織」「人材・パートナー」の2つについて討論した。
体制・組織では、まず、第一部のアンケート調査で解説された、「経営層のサポートがある」「横断的な組織がある」「全社でデータ活用の文化がある」の3つについて問われ、各社の体制は次のようになった。
- 横断的な組織がある:キヤノンMJ、外資系化粧品会社
- 経営層のサポートがある:キヤノンMJ、パナソニック、外資系化粧品会社
- 全社でデータ活用の文化がある:外資系化粧品会社
中村氏は横断的な組織がないことについて、デジタルという点では横断的ではないが、各課の担当者レベルでデータ分析を実施していると説明する。また、家電のマーケティング本部全体では、商品のデータは横串で見ているという。部門をまたいだデジタルのアップセルやクロスセルなどは、CLUB Panasonicを中心に行っている。
キヤノンMJでは、2年前から横断的な組織を構築しているが、デジタルマーケティングの定義や考え方については、まだ社内で共通認識として定着に至っていないという。経営層のサポートをより強固なものにしていくためにも、データ活用の習慣化から、成果の創出を行い、社内のコミュニケーションの強化をもって共有する体制が重要だと因幡氏は説明した。
外資系化粧品会社に勤める安達氏は、多様なブランドをまとめるCRM本部があり、CDO(Chief Digital Officer)が就任し、CRMにとどまらず、今後、よりデジタルを活用しようと取りまとめていると説明した。
社内理解を得るための啓蒙活動
経営層の理解を得るために何が重要かを問われた中村氏は、会員数の少ないうちは効果が出ず、経営層や他部署の理解を得るのが難しいため、「3年で300万人に会員を増やすことで、何ができるか」というビジョンを経営層や幹部と共有し理解を得たと話す。
各種マーケティング施策では、成功の前提として集客が欠かせないが、300万人、500万人の会員獲得がどんな効果を生み出すのか、将来のビジョンを共有した。また、会員数が増えた後も常に数値を発表し、各部署の上層部に理解してもらうことが重要だったという。
安達氏はトップダウンで決定が行われることは決して悪いことではないと話す。各国の現地法人が大きな組織になってくると、動きが鈍くなってきてしまうが、本国がその状況を把握し、瞬時にポジションを整備することで意思決定が早くできるという。
KPIなどの指標を、どのように経営層に見せているのかを問われた因幡氏は、スマートフォンに押されているデジタルカメラ業界では、コストのかかるマスの施策よりもデジタルに対する期待が大きいが、量販店などの小売を介すB2B2C企業であるため、KPIを立てにくいことが課題だと話す。いかに販売の近くでKPIを立てるか、急ピッチで取り組んでいるのが現状だ。
データ活用人材の獲得と育成
パネルディスカッションの最後は、データを活用できる人材の獲得と育成に話題が移る。
中村氏は、データは自分が行った施策の裏付けとして見る必要があるため、CLUB Panasonicではすべて社内で人材を育成していると説明する。各コンテンツやマーケティングの担当者が先輩から教育を受けて分析することが鉄則で、流入がどれだけあるか、コンバージョン率はどうかなど、深掘りして課題を明確化するためには社内で分析することが望ましいという。
安達氏は、社内に長く勤めている人が多く、プロダクトとマーケティングを理解し、分析力の高い人材がいると話す。扱う商材や流通チャネルによって分析手法は変化するが、ナレッジが蓄積されているため、さまざまな戦略を立てられるという。
キヤノンMJでは、社内に知見とノウハウを残すことを前提に外部パートナーと組んでいるという。因幡氏は、効果測定やデータ分析だけでなく、データを集めたり、作り出したりする環境作りから人材を育てていく必要があると話し、その部分は外部ではなく社内のエンジニアと連携しながら行っていると述べた。
講演の終わりには、教育方針について会場と質疑応答も交わされた。3社ともOJTを基本にしながらも、集客効果を実感できる数字を伝えて担当者のモチベーションを上げること、関係部署とは共通言語で語りデジタルについて理解を得ること、1人ひとりが自立しつつナレッジを共有することなど、各社が大切にしている方針が語られた。
Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
「パナソニック、キヤノン、外資系化粧品会社が語るデータ活用事例」2016年2月23日開催 月例セミナー 第2部(2016/04/18)
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