Web広告研究会セミナーレポート

障害者差別解消法の認知率は36%、9割の企業がWebアクセシビリティに課題、「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」

企業アンケートの調査結果をもとに、企業サイトのWebアクセシビリティの現状と今後の対応を議論した
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

4月の「障害者差別解消法」施行以降、公的機関や企業のWebアクセシビリティ確保が法律で義務化されるようになる。施行が迫るなか、企業のWebアクセシビリティ対応の取り組み実態はどうなっているのか、企業アンケート「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」をもとに、現状と今後の対応が議論された。

高齢化社会を迎える日本でWebアクセシビリティはより重要になる

株式会社ミツエーリンクス
木達 一仁氏
(ウェブアクセシビリティ基盤委員会 WG1 主査)
Web広告研究会
ウェブアクセシビリティWGリーダー
増井 達巳 氏(合同会社フォース)

第二部では、Web広告研究会が実施した「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」の結果をミツエーリンクスの木達 一仁氏が紹介し、Webアクセシビリティ WGリーダーである増井 達巳氏が結果についてコメントしながらディスカッションが行われた(調査概要は末尾を参照)。

まず、Webアクセシビリティの理解・認識については、「知っている」と94%が回答した。「知らない」と回答した6%についても、規格や対応方法など厳密なものを想定している可能性が高く、認識率はほぼ100%と考えられる。WCAGやJIS X 8341-3など、Webコンテンツアクセシビリティ規格の認識については、「知っている」が56%だった。

Webコンテンツのアクセシビリティ規格は半数以上が認知

また、第一部で触れられた4月施行の「障害者差別解消法」については、「知っている」は半数以下の36%にとどまった。

障害者差別解消法の認知率は36%

一方、Webアクセシビリティの必要性については、96%が「必要がある」と回答し、その理由としては次のような結果となった。

Webアクセシビリティが必要だと思う理由

調査結果を受け、増井氏は「企業の社会的責任」が理由として最も多いが、それが、予算が確保しにくい原因になっているのではないかと懸念を示した。上司や経営者を説得するときには、「企業の社会的責任」に加え「グローバルスタンダード」や「マーケティング」の観点から伝えたほうが、予算が取りやすいのではないかとアドバイスする。

高齢者をターゲットユーザーに含む企業であれば、今後、超高齢化社会を迎える日本では、「アクセシビリティを配慮したWebサイトは、マーケティングの観点からも重要である」と説明することで、理解を得やすい可能性がある。

ハードルを上げすぎず、できる部分から取り組む

「どの範囲までアクセシビリティの適用が必要か」という質問に対しては、「サイト全体に適用する」が54%と最も多く、「主要ページに適用する」(29%)、「障害者がアクセスすることが想定されるページ」(17%)が続く。

Webアクセシビリティの対応範囲はサイト全体が最多

これについて、増井氏は「事業にもよるが、障害者がアクセスするページを明確に想定し対応するほうが難しい」とコメント。また、「Webサイト全体の対応を半数以上が考えているのはうれしいが、まだ取り組んでいないのにハードルを上げてしまっては、いつまでも取り組みを始められなくなる」と指摘し、トップページなどを足がかりに進めてもらいたいとアドバイスした。

現在、Webアクセシビリティ対応を実施していないが、過去に取り組んだ経験については、「過去に取り組んだことがある」と25%が回答した。

Webアクセシビリティの取り組んだことのある企業はまだ少ない

対応をやめた理由については「部分的にしか適用できなかった」「運用が難しい」「社内の理解が得られない」「わかりやすいリソースがない」ことが挙げられた。

これについては、増井氏は「Webアクセシビリティに配慮してRFPの要件とすることもあるが、Web担当者だけでは難しい状況もあるので、上司や経営者の理解を深めていく必要がある」と述べた。

Webアクセシビリティ方針を公開する企業は少数

Webアクセシビリティを確保していくうえでの考え方、方針を公開しているかについては、「現在公開している」企業は14%にとどまる一方、「公開していないが方針はある」企業が26%、「策定中」が14%という結果になった。策定中も含めると、何らかの方針のある企業が半数を占める。

Webアクセシビリティ方針の公開状況

未公開の企業のなかで、今後、公開する予定だと答えたのは7%にとどまり、このうち、公開が未定であると回答した理由は、次の通り。

  1. Webアクセシビリティ方針の記載内容がわからない:9社
  2. 公開後の運用体制がない:8社
  3. 方針策定に時間がかかっている:4社
  4. 公開に対する社内承認が得られない:2社

木達氏と増井氏は、策定中を含め、半数が方針を持っていることは評価できるとしたものの、公開していない企業が大半を占めることに、懸念を示した。

Webアクセシビリティ対応を進めるうえで、Webサイトに方針を掲載することは、JISで推奨されている。JISに基づいた対応でない場合でも、ユーザー目線で考えれば、企業がどういった方針で取り組んでいるのかは、貴重な情報になる(木達氏)

方針があっても公開しないのであれば、社内関係者だけのものになってしまう。社外に向けて公開し、方針をうたったうえで方法を選択していくべきだが、難しく考えすぎているのではないか。個人情報保護法が決まったときのように、義務化されたり、法的罰則が科せられたりしないと公開しないという消極的なコンプライアンスの考え方ではなく、グローバルスタンダードを推進するという視点でもっと積極的に取り組んでほしい(増井氏)

ガイドラインは作るだけでなく、継続して守ることが重要

Webアクセシビリティガイドラインの有無については、「ガイドラインはある」が36%、「ガイドラインはない」が62%となった。ガイドラインの内容については、WCAGやJISのアクセシビリティガイドラインが主流だった。

Webアクセシビリティガイドラインの内容

また、ガイドラインを保有する企業のうち、「継続的に守る仕組みがある」と回答したのは44%となり、半数以上の企業は継続的に守る仕組みがない状況だった。

半数の企業は、Webアクセシビリティガイドラインを継続して守る仕組みがない

こうした状況について、増井氏は「Web担当者がアクセシビリティの品質をどこまでチェックするのかなど、運用部分の負担が大きく、ガイドラインがあっても守れない実態があると思う」と述べた。

Webアクセシビリティ確保のための専門予算については、「確保している」(14%)、「確保していない」(86%)となり、他の項目と比較して優先度が低く、予算化の材料が乏しいことなどから、予算を確保しづらい状況がうかがえる。

Webアクセシビリティ専門の予算を確保する企業は少ない
専門の予算を確保していない理由

Webアクセシビリティは一番に意識すべき品質

「Webアクセシビリティに取り組む上での課題」については、「ある」と92%が回答した。課題の内容は次の通り。

  1. 重要性が知られていない:31社
  2. 対応すべきとの空気がない:24社
  3. Web担当者の理解がとぼしい:20社
  4. 見た目のデザイン重視:15社
  5. 上司、決済者の理解が乏しい:13社
  6. パートナーの理解や対応力:10社
    ※複数選択可能

木達氏はこの結果に、「10年以上前からアクセシビリティを啓蒙してきた1人として、まだまだ重要性の啓発啓蒙が必要だというのは、意外だった。今後は、伝え方を変えた方がいいのかもしれないと感じた」と、ショックを受けたことを話す。

また、増井氏はボタンの掛け違いがあるのではないかと語った。

今、UXを考えない人はいないと思うが、その基本には“アクセスできること”があり、アクセシビリティは、Webサイトの品質で一番に意識して取り組むべき条件だと思う。商品に会社のロゴをつけて出荷するときは、厳しい品質チェックがされているのに、同じロゴがついている企業Webサイトはグローバル品質が担保されていない。日本のJIS規格も担保されていないのは、おかしな状況にあるので、Webサイトの品質に無頓着な社内の雰囲気をまず変えていく必要があると思う(増井氏)

今回の調査から、担当者レベルではWebアクセシビリティについて理解されているものの、その重要性が全社的にはあまり理解されていない状況が見えてきた。

こうした現状を踏まえ、木達氏は、「高齢化社会に突入し、さまざまなデバイスでWebを使うことが日常的になった今こそ、Webアクセシビリティは重要な品質であると認識を改めてもらいたい。Webアクセシビリティを推進するには、まず会社の雰囲気を変えて、できるところから取り組むのがよい」と、講演をまとめた。

「Webアクセシビリティ取組み状況 調査」調査概要

  • 目的:民間企業におけるWebアクセシビリティへの取り組み実態・意識を把握し、アクセシビリティの理解・普及促進を図るための資料とする
  • 方法:郵送
  • 対象:日本アドバタイザーズ協会加盟企業及びWeb広告研究会加盟の民間企業200社程度(Webコンテンツ等の制作会社、官公庁は対象外)
  • アンケート配布先:日本アドバタイザーズ協会及び日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会 会員企業のWebサイト運営管理・コンテンツ制作担当者
  • 調査実施:株式会社日本リサーチセンター
  • 調査協力:ウェブアクセシビリティ基盤委員会 作業部会1(理解と普及)
  • 設問:全30問(Webサイトや事業の概要に関する問いを除く)
  • 調査期間:2016年1月22日~2月26日
  • 回答数:50社(回収目標は80社、目標達成率62.5%)

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
『障害者差別解消法の認知率は36%、9割の企業がWebアクセシビリティに課題、「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」』2016年3月8日開催 サイトマネジメント委員会セミナー 第2部(2016/04/01)

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