森田雄&林真理子が聴く「Web系キャリア探訪」

私は変人コレクター。複数の会社を経て「広報」を切り口に42歳で起業

自らを「変人コレクター」と称する小林さんにキャリアを聞いた。
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新しいことを独りでも推進する人、人と異なる発想をする人。とんがった人材は、会社組織の中では「出る杭」として打たれてしまうこともある。かたや彼らの出る杭をさらに突出させる活動をしているのが、株式会社オプンラボ 代表取締役 小林利恵子さんだ。「出る杭」を「変人」と呼び、自らを「変人コレクター」と称する小林さんは、人の懐にすっと入り、心を開かせてしまうような雰囲気がある。彼女はどんなキャリアを歩んでここまで来たのだろうか。

Webが一般に普及してすでに20年以上が経つが、未だにWeb業界のキャリアモデル、組織的な人材育成方式は確立していない。組織の枠を越えてロールモデルを発見し、人材育成の方式を学べたら、という思いから本連載の企画がスタートした。連載では、Web業界で働くさまざまな人にスポットをあて、そのキャリアや組織の人材育成について話を聞いていく。

3社目の日本印刷技術協会で、個人の魅力に気づく

林: 小林さんが最初にコンピューターやWebに触れたのは、いつですか?

小林: 兄が映像関係の仕事をやっていたこともあり、家にコンピューターがあったので、それをいじったのが最初ですね。日本語対応のワープロ松、データベース桐などを使ったことがありました。Webは就職してからですね。

林: 偶然にも小林さんは、私の母校の先輩にあたりますが、短大卒業後はどちらに就職されたんですか?

小林: 証券会社です。英文科卒で英文タイプができたことから、上司の手書きの文字を入力するほか事務サポート的な仕事を2年ほど経験しました。その後、ワイングラスなどを取り扱う商社に入りましたが、ここも2年で退職。退職して時間ができたので、Macintosh(マッキントッシュ)のスクールに通い、DTPソフトのQuarkXPress(クォーク エクスプレス)の使い方を身に付けました。

1994年から公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT:ジャガット)に入り、12年間勤めました。ここで私のキャリアのベースが培われました。

森田: 日本印刷技術協会は、印刷業界の中でどういう立ち位置なんですか?

小林: 新技術の研究などに取り組む、業界のシンクタンクのような存在ですね。その一つに通信&メディア研究会があり、電子出版、インターネット出版の商用化などに関する情報などを発信していました。

私が入社した当時から印刷業界は右肩下がりだったので、写植からデジタルに変わる中で、どうビジネスを考えていくかを研究している団体でした。他に、DTPエキスパートという認証制度の運営なども行っています。

私が担当していたのは、最新の研究内容を会員企業の印刷会社に伝えるような仕事です。当時は、協会のホームページのWebマスターもやっていて、HTMLを自分で書いてホームページを作るようなこともしていました。

林: Webの知識やHTMLのコーディングスキルは、どう身につけたのですか?

小林: 独学で、本やサイトを見ながらコツコツと作っていました。

森田: 90年代後半は、Webの世界も牧歌的で、ただ表示するという目的で、いろんな人が独学でコーディングしていた時代ですよね。

株式会社オプンラボ 代表取締役 小林 利恵子 氏

出会った上司が変人第一号!? セミナー 企画が次のステップにつながる

林: JAGATで会員企業に情報発信する中で、広報の基礎力を身に付けたのでしょうか?

小林: そうですね。セミナーの企画、レポート作成などを担当していました。上司がへんてこな人で、新しい事業などを積極的に推進するタイプだったので、そこからの学びも多かったです。「セミナーの講師を選ぶときは、会社ではなく個人で選びなさい」と言われたのは今の仕事にも影響しています。

セミナーをいくつもやっていると、話が上手い人、下手な人、聴衆が喜ぶことを伝えられる人、そうでない人がいることがわかります。自分の言いたいことだけを話す人は、聴衆の評価が下がるので、もったいないなと思っていました。一方、上手な人は講演後に名刺交換にもつながり、講師をする広報的な価値があります。

森田: それからどういう経緯で転職されたのですか?

小林: 2005年にCMSのセミナーをやり、ロフトワークに登壇してもらいました。ロフトワークでも「セミナーを活用した、広報活動を推進したい」ということで、誘われて転職しました。ロフトワークの社員数が十数人の規模の頃のことです。

林: 今はWeb関連のセミナーや勉強会が多く開かれていますが、2005年頃はいかがでしたか?

小林: 当時もセミナーは多数開催されていましたが、テーマがおもしろくて、無料であれば人は集まりました。ロフトワークに移ったときに、ある人から「メディア協賛をとるといいよ」と教えてもらい、アンケートデータの提供を条件にメディア協賛を依頼して、そこから集客するということもしていました。

ロフトワークでの経験を通して、私は「会社を知ってもらうこと」、「人とのつながりを広げること」などが性に合うなと気づきました。

森田 雄 氏(聞き手)

ロフトワークでも変人対応が強みとなる

林: ロフトワークに移って本格的に広報全般を手がけるようになったときは、その知識・スキルをどのように身に付けていかれたのですか?

小林: 日経が広報マネージャー研修を開催していたので参加しました。月1で4回くらい、まる1日みっちり学ぶようなセミナーで、大変参考になりました。講師は記者の人、事業会社の広報担当者などで、メディアとの付き合い方、ニュースにするための仕掛け方などを具体的に教えてもらいました。あとは、講師の先生が、広報関連の書籍を出されていたので、それを数冊読みました。

その後は、会社での実務をしながら身に付けていきました。良かったことばかりでなく、失敗もしますので、その時は「ごめんなさい」をして、再度勉強し直しています。

森田: 失敗したときに「ごめんなさい」をさらっと言えるのが小林さんの強みだといえそうです。ロフトワークでは、セミナー以外はどういう仕事をされていましたか?

小林: メディアへのアプローチ、パートナー企業やベンダーの開拓、それに所属するクリエイターがたくさんいたので、彼ら向けのワークショップやアワードなどを開催することもありました。新卒採用も担当していて、大学のキャリアセンターに行って情報を提供するようなこともありました。

今、渋谷でものづくりができる「FabCafe Tokyo」がありますが、以前はそこを貸しスペースにしていて、その運営などもやっていました。

森田: 僕が言うのもなんですが、ロフトワークさんはポジション取りがうまいですよね。業界的にトレンドがきているな、と思うとロフトワークさんはすでにいる、みたいな。そういうイメージ戦略みたいなところにも、小林さんが一役買っていたんですね。

林: 広報活動のコツのようなものはありますか?

小林: 会社の社長は、往々にしてやりたいことのイメージが先行して社員に伝わらないことがあるので、翻訳して伝えることは意識的にやっていました。JAGAT時代の上司もぶっ飛んでいましたが、私はその人をリスペクトしていましたし、意図を汲んで、着想を広げつつ現実的なところに落とし込んでいくのはおもしろかったです。

林: 変わったもの、異物を跳ね除けずに受け入れ、むしろリスペクトして、その価値が広く確かに伝わっていくように働く。その変人リスペクト志向には、個人的にものすごく共鳴するところがあります(笑)。

林 真理子 氏(聞き手)

42歳で起業。作った会社は「変人のリーディングカンパニー」

林: その後、独立されたわけですが、どういう経緯だったのですか?

小林: ロフトワークには38歳で入社しましたが、メンバーがほぼ年下でした。学ぶことももちろんありましたが、年長者としての振る舞いを意識することが多かったです。独立したいという気はそれほどなかったのですが、42歳になった頃、専門誌で編集長をしたあと独立した方に相談したら「独立しちゃいなよ」と言われて、その気になり、会社を辞めちゃいました。

林: 転職ではなく独立を選ぶというのは、思い切りも必要だったのではないですか。不安などはありませんでしたか?

小林: 早い段階で「独立」という道を示されて、転職よりも独立に頭が切り替わった感じですね。私ができることは、人をつなぐことなので、企業の広報を引き受けられるかなと思いました。不安はあまりありませんでしたね。

でも最初は仕事がないので、月に1回人を呼んでセミナーを開催していました。

森田: きっと小林さんは、動かないほうが不安になるタイプなのでしょうね。現在、オプンラボではどういったサービスを提供しているのですか?

小林: 私は人生を楽しんでいる個性的な大人のことを敬意をもって「変人」と呼ばせてもらっています。そしてオプンラボは「変人のリーディングカンパニー」を標榜していて、変人を「魅せる」、「育成する」という2つの軸で事業を展開しています。また、変人と高校生をつなぐことで「人生を楽しむ大人になる」ことを目指す「近未来ハイスクール」というプロジェクトも行っています。

林: これまでの経験を活かした広報業務の受託にとどまらず、変人と高校生をつなぐプロジェクトを展開しているのが、実にユニークですね。ちなみに、変人はどうやって開拓するのですか?

小林: 「変人コレクター」を自称しているので、新しい変人を紹介してもらいやすいですね。あと、自分が話を聞いておもしろいなと思う人に声をかけています。

変人と高校生をつなぐ近未来ハイスクール。この事業を伸ばしていきたい

林: 小林さんの個人事務所ではなく、株式会社ということで社員さんもいらっしゃるわけですよね?

小林: 今、社員は3人です。最初は一人でやっていましたが、「 近未来ハイスクール」を広げるために仲間が必要だと感じたので採用しました。

森田: 近未来ハイスクールをやっている目的を教えてください。

小林: 近未来ハイスクールでは、「変人」たちと保護者や先生以外の大人とほとんど接点がない「高校生」をつなぎます。エッジのたった大人と10代をつなぐことで、未来につながる「行動変容」のきっかけを与えたいという思いで進めているプロジェクトです。

変人たちとの出会いによって高校生も成長しますし、普段は高校生に教鞭を執る先生たちや講師側の変人自身にとっても、新たな発見につながることが多いんです。現在は公立高校で開催したり、公開で企業と高校生がフードロスについて考えるコラボイベントも実施しています。

林: 一緒に働くメンバーには、どのようにご自身のノウハウを伝えていらっしゃるのでしょうか?

小林: ノウハウを伝えるという意味では、私がやっていることは特別なノウハウがあるわけではないんですよ。一緒に業務の流れを体験して、私の考えを言葉で伝えることで共有しています。言語化することは意識していますね。

森田: 属人性が高い仕事だけに、言語化することはとても大切ですね。

林: これから先の目標などはありますか?

小林: 近未来ハイスクールは、今は単発でやっているケースが多いので、継続的なものが増えていくといいなと思っています。講義を受けた生徒が将来的にビジネスを起こして変人になって講師として帰ってきてくれたらうれしいですね。受講者の卒業生が参加できるようなコミュニティも作っていきたいです。

個人としては、住んでいる越谷のまちづくりにも関わっていますが、多拠点に住んでゆるやかにいろいろな地域とつながって仕事をしていけたらと思っています。

二人の帰り道

林: セミナーの企画運営を足がかりに、広報全般に仕事領域を広げ、さらには独立して広報支援事業を展開、スタッフも入れて事業家・経営者としての顔ももつに至った小林さん。「自分は広報に徹する」とか「自分は事業家タイプではない」とか、頭でっかちに自分の枠組みを決めてかかることなく、仕事経験を積みながら広がっていく視野、見えてくる次の一手を大事に展開してこられた結果が今に通じているように感じました。トップがやりたいことも自分がやりたいことも分け隔てなく、その場で取り組むべきを模索して実践していく中で、自分ができること、自分がやりたいこと、自分が価値を見出すことも変化したり広がりを帯びていくもの。そうした自分の変化や思いをやり過ごさず、成長した目線で自分のキャリアを捉え直し、次の一歩を踏み出してこられて転機を得たのだろうと、丁寧な生き方に敬服。この先やりたいことを語る小林さんの笑顔は実に潤い豊かで、やりたいことって、ただ待っているだけでは一向に出てこないんだけど、自分で考えて動く実践者のもとには絶えず湧き出てくるものなのかもなって思いました。

森田: これが強みなんだろうなと特に感じたのは小林さんの人となりといいますか、それを何となく彷彿させるしゃべり方やら語り口やらでした。完全に属人的なスキルであってロールモデルを模索する本連載的に、そこが大切ですみたく結論づけてしまうのも正直どうかという感じではあるものの、実際に話をしているとそう感じてしまったのだから仕方ないなという気はしました。しかしそこって実は表層的なものでしかなくて、広報とはこういうコミュニケーションによって構築されるものであろうという小林さんの思いや経験に裏打ちされた会話そのものが価値なんですよね、当たり前ですが。広報に限らずすべてに通じると思いますが、ようするに、きちんと考えを確立したら、それを人が聞きやすい話のインターフェースで提供できると刺さるだろうなと。これは今回お話を伺っていて、はからずも改めての勉強になったポイントです。そういう語り口を備える人に僕もなっていきたいものです。

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