色弱とは? 日本人男性の20人に1人いる「色の見え方が少し違う人々」のために
日本人男性の20人に1人はいると言われる「色弱」。物事の違いを色だけで区別することには、配慮が必要だという。
7月20日に開催されたアクセシビリティの重要性を理解する「Japan Accessibility Conference - digital information vol.2」に登壇した伊賀氏は、自身の「色弱」で体験したこと交えながら一当事者として、「色の見え方が少し違う」人々が暮らしやすい社会を作るためにはどうしたら良いのか解説した。
色弱とは「色の見え方が違う」こと
色覚(色の見え方)は、色を感じる視細胞の種類で決まる。視細胞には赤色、緑色、青色があり、どれかに異常があると「色弱」「色覚異常」と呼ばれる。視力や視野でいう「物の見え方」には異常がなく、「色の見え方」が違うというところが特徴だ。
伊賀氏の色の見え方は「1型2色覚」といわれ、赤色を感じとる視細胞が生まれつきない、いわゆる「色弱」とされている。
色弱にも種類があり、赤色と緑色が似て見える人を「赤緑色弱」という。伊賀氏も赤緑色弱だ。非常に稀だが、青色と黄色が似て見える黄青色弱というタイプの人もいるという。
「赤色の本を取って」と言われたときに、私たちは「緑色の本」を平気で持って行きます。まだ焼けてない肉を食べようとしたとか。あるいは、ウニとわさびを間違えて食べたとか。そういうあるある話はたくさんあります(伊賀氏)
驚くべきことに、眼科で色弱と診断されているのは日本人男性の場合20人に1人。計算すると、日本には320万人もいるという。白人の場合は10人に1人と、世界的に見ると決して珍しいものではない。
色は「わかりやすい」ことを重視してほしい
たとえば、一番上が元のデザインで、2番目が伊賀氏が見えている色、3番目はまたタイプの違った色弱の人が見えている色とする。
文字を見るとA、B、Cの3種類があることはわかるが、色だけで見ると伊賀氏は2種類しかないと思ってしまう。そのため、これをうまく調整して、誰でもが3種類あるように見えるようにしてくれるとうれしいと言う。
色には「楽しい」「きれい」「心が安らぐ」というような、「感情を伝える効果」と、物事を「わかりやすくする」ための「情報デザイン」という2つの使い方がある。
「私たちが変えてほしいと思っているのは、後者の「わかりやすい」ほう。「色だけ」で要素を分類したり、目立たせたりしないでほしい」と伊賀氏は話す。
しかし、色に関するアクセシビリティのルールの中には「色に頼らない・色以外の情報で補償する」としか書かれていない。では、色に頼らず「わかりやすく」伝えるには、どうすればよいか。
色を調整することで分類されていることがわかる
「色弱の人の見え方がわかる『色覚シミュレーション』があるとわかりやすい」と伊賀氏は言う。
たとえば、淡いオレンジ、ピンク、赤、青紫といったさまざまな色が描かれた下図。
この図は、色覚シミュレーションを行うと、次のように見える。
本来一列目は、「淡いオレンジ・暗い黄色・黄緑」といった色が並んでいるが、色覚シミュレーションを行うと、一列目がすべて同じ色に見える。二列目以降も同様で、横一列はすべて同じ色に見えているということだ。
この色覚シミュレーションで感じ取ってほしいことは、色弱であっても色を調整すれば分類されていることがわかるということである。赤色と緑色は同じ色に見えるが、紺色と暗い黄色は全く違う色に見えるわけだ。
信号機は色で瞬時に判断できる
「赤色と緑色」と言われると、信号機を連想する人も多いだろう。「色弱の人は、信号機は見分けがつかないのでは」と思われるかもしれないが、安心してほしい。信号機は色弱の人でも、色で判断してブレーキをかけられるように、色が調整されているのだ。
仮に赤信号を字でわかるように「止」にしたらどうなるか。近くで見ると、わかるかもしれないが、遠い場合は、字が見えないかもしれない。信号機の「色」はとても大事なものなのである。
警察署に私を含む色弱の人が集まり、200メートル先に信号機の見本を置き、どの色だと見分けがつくかという実験をして色を選びました。現在使われている信号機はちゃんと色がわかるようになっています。色弱は運転免許の欠格事項ではありません。色をきちんと調整してもらえれば、私たちも皆さんとほぼ同じように安全に車を運転することができます(伊賀氏)
この考え方は「カラーユニバーサルデザイン」と呼ばれている。色の見え方が異なっている人たちも、安全に暮らしていけるような色の世界を作っていきたいと伊賀氏は話す。
カラーユニバーサルデザインへの配慮
カラーユニバーサルデザインへの配慮はかけていたことで、問題になった例をいくつか紹介する。
サッカー試合:ユニフォームの色では対戦相手との見分けがつかない
ヨーロッパのサッカーのチャンピオンシップリーグ最終戦で、両チームがホーム色である赤色と緑色のユニフォームを着ていた。するとテレビで見ていた人たちから「チームの見分けがつかないのはどういうことだ」という多くのクレームがありニュースとなった。
ゲーム業界:味方と敵を色で区別できない
「モダン ウォーフェア2」というシューティングゲームで、味方は緑色、敵は赤色に名前が表示されることで見分けがつかないため色を変えてほしいという署名運動が起った。ゲーム業界で初めて色弱が話題になった。
ニンテンドーDSの充電ランプも色覚に配慮
ニンテンドーDSの充電の残量を表すランプが昔は「黄緑と赤」だったが、「青と赤」に変わった。これは多様な色覚に配慮したもの。
「パズドラ」でも色覚サポート機能がある
有名なゲーム「パズドラ」では、オプションに色覚サポートというものがある。色覚サポートをオンにすると右のようになり、色弱の人にとっては大きな違いとなる。色の微調整をするととてもわかりやすくなる良い例。
スマートフォン、パソコンなどに搭載されているカラーフィルタ機能
AppleやAndroid、Windowsなどには、OSレベルでカラーフィルタというものが入っている。色の印象が変わってしまう場合もあるが、見分けがつきやすくなる。世の中で作られるデザインが対応しきれていないからこそ、このようなものが必要になる。
色弱の人の見え方が体験できるツール
- 色の見え方が体験できるスマホ用の色覚シミュレーションツール「色のシミュレータ」
- 色弱者が感じる色の見分けにくさを体験できるメガネ「色弱模擬フィルタ バリアントール」
こういったもので少しでも見分けがつく色を選びたい。Photoshopやillustratorの中にも、色の校正というところに色のシミュレータの機能は入っている。色弱の人がどう見えているか体験しながらデザインをしたい。
色弱の人が同色に見える色を選べない、そんなツールがあれば……
「色弱の人がどう見えるのか、体験するだけでなく、色を使ってデザインするときは、同色に見えない色を自動的におすすめしてくれたり、同色に見える色を使えないようにしてくれたりするものがあると良い」と伊賀氏は言い、「誰かこういったものを作ってくれたら」と会場に投げかけた。
「色弱の人がちょっと肩身の狭い思いをしているかもしれない。でも、徐々に世の中がユニバーサルデザインの色使いになっていて不便は減り、普通に生活ができるようになっていきました。しかし、あともう一歩だと思ってます。そこを乗り越え、みんなが自分の色の見え方にコンプレックスを感じることのない、誇りを持てる社会になると良いなと思っています」と伊賀氏は語り、締めくくった。
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