Web広告研究会セミナーレポート

顧客体験のため、マーケティングの“巻き込み力”が重要な新時代に【ニューバランス×パナソニック】

ニューバランスの鈴木健氏とパナソニックの山口有希子氏が、顧客体験を4つの観点から掘り下げる。
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

「Customer Experience at Center(顧客体験を中心に)」――納得いく表現だが、それを実現していくにはいったい何が重要なのだろうか。「体験をどうデジタル化させるか」「生活者にとって分け隔てがない体験とは」「実現することの難しさ」などの切り口で探り、これからのマーケターに求められる素養についても考える。

公益社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会(以下、Web広告研究会)は3月25日に、第33回WABフォーラムを開催。セッション第3部では、ニューバランスの鈴木健氏とパナソニックの山口有希子氏によるパネルディスカッションが行われた。聞き手は、今年からWeb広告研究会の代表幹事となった中村俊之氏。

パネルディスカッションでは引き続き「Customer Experience at Center」(顧客体験を中心に)をテーマとし、マーケティング実務における顧客体験を以下の4つの観点から掘り下げていった。

【Customer Experience at Center】(顧客体験を中心に)
(1)体験をどうデジタル化させるか
(2)生活者にとって分け隔てがない体験とは
(3)実現することの難しさ
(4)マーケターに求められる素養

<写真:パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社
エンタープライズマーケティング本部長 山口有希子氏>
<写真:株式会社ニューバランス ジャパン
DTC&マーケティング ディレクター 鈴木健氏
<写真:モデレーターはWeb広告研究会 代表幹事の中村俊之氏>

■(1)体験をどうデジタル化させるか

中村:ディスカッションを始める前に、まず、今年のWAB宣言「 Web/デジタルの枠を超えて、顧客の期待を超える体験を」について感想をお聞かせください。

鈴木:いま現場が感じていることをリアルに宣言にしたな、と思います。いままでのWAB宣言はデジタル中心の言葉が多かったけれども、「体験」という単語は意味が深い。「顧客に向けてリデザインしないといけないよね」というスタンスを感じました。

山口:テーマとしては「さもありなん」という感じですね(笑)。Web広告研究会にかかわる人たちと言うより、もっと広い人たちを巻き込んで実践していかなければいけないテーマだと思います。

中村:そうした感想を受けて、体験のデジタル化を考えていくうえで、オンライン/オフラインの在り方などはどうお考えでしょう?

鈴木:こうしたイベントの場もそうですが、これからは「どういうところを数値化したらよくなるかを考える」と、ビジネスの観点で見えてくることが多いのではないかと思います。

オフラインであれば、おもしろいのはショッピング体験を提供する店舗ですね。
・お客さまがなにを逡巡しているのか
・棚の並べ方はどのようにするとうまくいくのか
・どんな人がなにを買っているのか
といった「データ」は、これまではちゃんと整備されていませんでした。しかし今はカメラや画像認識などの進化によって、そういったものがカメラでわかるようになってきた。センサー技術が入ってくると、マーケティングに活かせる“違う次元のデジタル化”が進んでいくんじゃないかと思います。

山口:センシングもそうですが、リアルな場の情報をデータとして集めて分析することで、新しい顧客体験を作ることが可能になり、それが新しい場を作ることにつながっていく――そうした、良い体験を作るリアルとデジタルのループが生まれつつあります。

デジタル分析によるループの可能性は、かつてなく広がっていて、マーケティングだけでなく、世の中のさまざまな課題を解決し、よりよい世界を作れるかもしれません。一方で企業は、ループをどう設計するか、ブランドパーパスのためにどう使うかが経営課題でしょう。

中村:オフラインの施策をデジタル化することには、ものすごく可能性と価値がありますよね。単なるデジタル化だけでなく、そこから“体験の循環”が生まれるのも興味深いです。

山口:もちろん純粋に「リアルな場が持っている力」というものもあるのですが、限られている部分もある。デジタルを含めてうまく設計できれば、その限られたものより多くの価値を生み出せるはず。

鈴木:映像化するだけでリーチが変わる。スポーツの草大会なんかでも、Periscope(Twitterのライブ配信アプリ)でリアルタイム配信すると、1万ビューぐらい行きます。たいした数ではないかもしれないけど、1つのインパクトたり得る数字だと思います。アーカイブとしても残るし、アマチュアや田舎の大会でも、潜在的な顧客の掘り起こしにつながる。

デジタル化を高度に突き詰めることができない場合でも、リアルをデジタル化する、ただそれだけで、単純なレベルで広がりが生まれると思います。

中村:コンテンツ化されてない・されにくいものでも、デジタル化で価値が生まれますね。デジタルを本当に活用していくにあたっては、やはり“体験や価値の再定義”が必要なんじゃないかと思います。

鈴木:ソーシャルで炎上したり悪いニュースが出たりするので、プロスポーツだとSNS禁止を言い出す団体もあります。そうした反応を乗り越えて、デジタル化を回していくことが課題でしょう。

山口:「デジタルをなんのために使いたいのか」という本質が大事ですよね。

たとえばスポーツ領域だったら、オリンピックのような世界的なイベントだったとしても映像が見られない小さな国もあります。しかしデジタル化していくことで、見たい人に届けられるよう変わるわけです。

■(2)生活者にとって分け隔てがない体験とは

中村:いままさに「見たい人に届けられるよう変わる」という話がありましたが、生活者にとって分け隔てがない体験を提供するために、気を付けないといけないことはなんでしょう?

鈴木企業側からしたら「分け隔てがない」ようにするのはすごく大変です。どういう意識でやらないといけないかを考えないと、ハッピーな状態にならない。

たとえばオムニチャネルが進んできていると言われますが、実際のところをみると「ネットで買った物を店舗で返品する」ということが、多くのサービスでできない。生活者側から見たら「当たり前にできてしかるべき」なのかもしれないけど、当社も含めて、まだまだできてないと反省します。

山口:さまざまなコンタクトポイントでの体験がつながる形で実現できているかは、企業側としても大切ですよね。全部つながっているのが理想ですけど、組織・仕組み・プラットフォームの壁が、どうしても存在する。難しいですよね。

鈴木:コミュニケーションがとにかく大事で、顧客中心であることを対外的にも表明しろとは、言われていますよね。「顧客主義」と「顧客中心主義」はちょっと違うんですよ。お客さんがいないと商売が成り立たないから、顧客主義はみんなが言う。一方で、顧客そのものを中心にすることは勇気がいる。これをみんなが意識するのは大変ですが。

山口:まさにパナソニックはそのチャレンジの真っ最中。社内コミュニケーションでは、「マーケとしてITに望むことリスト100」を洗い出して、ITのトップとシェアして議論を始めています。過去に働いていた企業では、マーケティング部門とIT部門が定期的にミーティングを行い、月次でチェックしながら少しずつ解決していました。マーケティングとITの連携は大変重要だと思います。“マーケティングを担当するIT”がいるのが重要です。

中村:“ITを担当するマーケティング”との境目もなくなってきますよね。ニューバランスは米国が本社ですが、日本と海外では、情報システム部門で違いがあったりしますか?

鈴木:当社で言うと、ITの中核はインドです。そのため、実現したいことがあっても、インドのリソースをグローバルで取り合っているという状況がありますね。

■(3)実現することの難しさ

中村:“マーケティングがわかるIT” 、“ITがわかるマーケティング”、それぞれ線引きも難しいし、人材育成やチーム編成、プロジェクトマネジメントでも悩むことが出てきそうです。 Web担当者のスキルセットも、WAB宣言でいう「顧客の期待を超える体験」の提供を考えると、これまでと異なるものが求められます。

鈴木:1つはカルチャーギャップがありますよね。我々はメーカーなので、ビジネスプロセスが凄く多い。古くからメーカーは「大量に作り大量に販売する」というプロセスだったわけですよ。しかしそれを「コンシューマーがいつ買うか・どう買うか」に応じてという視点で構築し直そうとすると、大きな変化が必要だし、何を結果として見るか自体も変わってきます。

山口:こうした話題についてグローバルのCMOと話をすることがありますが、彼らのほうがすごく進んでいる感じがします。
たとえばB2Bマーケティングでは、いま日本では「ABM(アカウントベースドマーケティング)」がけっこうホットトピックになっています。しかし海外ではすでにABMをやっているのは前提で、内容面の議論になるのが普通なんですよ。すでにセールスとマーケティングが連携しているのが大前提になっています。

中村:そうしたグローバルに負けないようにしていこうとすると、変革のドライバになる人材が必要なわけですが、どういった人材が求められるでしょう?

鈴木:自分的にはいろんな人と仕事したいですね。これからの顧客体験の提供を考えると、1社だけでできないことがたくさんあるので、競合する企業ともパートナーシップを組んで考えないといけないでしょう。1つの手段として、そうしたプロジェクトを違った人たちと進めるのはおもしろそうです。

ただ、実際には難しいんですよね。スポーツだと、集まってくるのは好きな人たちです。でも企業のプロジェクトだと、ニューバランスがやろうとしていることをおもしろいと思ってくれる人だけが関係者だとは限りません。

だから、マーケティングが「モデルをちゃんと見せる」「エンビジョンする」、そしてそのうえで「新しい人材を呼ぶ」というように動かないといけないでしょう。

山口:こんな時代なので、どんな規模の会社でも、プロジェクトマネジメントが重要になっていくと思います。

一方でマーケティングの人たちの社内ポジションはそれほど高くない。社内での立場としてはセールスや経営企画のほうが強いケースが多いのではないでしょうか。しかしマーケティングは広くお客様と面する部門ですから、「顧客の期待を超える体験」ということでいえば重要なポジションです。

だからこそマーケティングには、“巻き込み力”がかつてなく求められていると思います。ビジョンやパーパスを作り、対立軸にならずに、一緒にやっていく、巻き込んでいく。こうしたプロジェクトマネジメントのスキルが、マーケターにもかつてなく重要になってくるかと思います。

中村デジタル担当者が関与する可能性がある部門、山口さんの言葉を借りると「デジタルの人達が巻き込んでいくことになるだろう部門」で言えば、これまではあまり関係することが多くなかった「財務」「事業管理」「購買」「品質保証」といった部門も、デジタル活用という観点ではこれから関与していく可能性がありそうですね。

<図:デジタル担当者が関与する可能性がある部門(ピンク色の部分)に、
これまでは外れていた部門(灰色の部分)も加わっていく>

■(4)マーケターに求められる素養

中村:ここまでお話されたような変化のなかで、マーケターには何が必要なのか、どんな素養をもつ人が活躍していくのか。最後に「部下に求める3つのスキル」を挙げるとすると、どのような内容か、鈴木さんからお聞かせいただけますか。

鈴木:一般論ですが、“マーケティングに向いている人”を考える際に大切になる要素として、次の異なる3つの軸を大切にしています。

・インテリジェンス: 新しいことが好き。好奇心をもって解決する。
・エモーション: 人の気持ちがわかる。お客さんに感情移入できる。スポーツを楽しめる。
・コントロール: 自制心が強い。なにかあっても自分をリセットして、次に立ち向かえる。レジリエンス(回復力)を持っている。

中村:山口さんはいかがですか?

山口:私は次の3つですね。

・プロフェッショナルであろうとする意志。プロであろうと勉強すること。
・ポジティブシンキング。よりよい世界を作ろうと考える。
・旗を立てられる。どんなレイヤーでもいいから、理想に向かって人を巻き込んで動いていける。

中村:本日はどうもありがとうございました。

3月25日(月)第33回WABフォーラムレポート(1)

3月25日(月)第33回WABフォーラムレポート(2)

3月25日(月)第33回WABフォーラムレポート(3)

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Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
顧客体験のため、マーケティングの“巻き込み力”が重要な新時代に【ニューバランス×パナソニック】 3月25日(月)第33回WABフォーラムレポート(4)(2019/05/23)

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