森田雄&林真理子が聴く「Web系キャリア探訪」

「私の仕事はおばちゃん業」ユーキャン・河内玲子氏。キャリアより社内の潤滑油役を極める

システムとマーケなどさまざまな部門との橋渡し役が私の仕事の一つというユーキャンの河内玲子氏。彼女のキャリアに迫った。
左:ユーキャンの河内玲子氏 右:林真理子氏、森田雄氏(聞き手) ◎撮影:永友ヒロミ

関西弁で明るく気さくな話し方。「こんなんで記事になるんかなぁ」と言いながらも、取材の後には、フォローアップの情報をしっかりご提供いただいた。自分の役割は「おせっかいなおばちゃん」と言い切る河内玲子氏が今回の主役だ。

河内氏は現在ユーキャンで、受講生を支援するWebサービスや社内システムの企画や調整など幅広い業務を担当している。1993年からWebに触れキャリアは20年以上。「かっこいいおばちゃんになりたい」という。河内氏にこれまでのキャリアや人材育成について話を聞いた(以下、発話は敬称略)。

Webが一般に普及してすでに20年以上が経つが、未だにWeb業界のキャリアモデル、組織的な人材育成方式は確立していない。組織の枠を越えてロールモデルを発見し、人材育成の方式を学べたら、という思いから本連載の企画がスタートした。連載では、Web業界で働くさまざまな人にスポットをあて、そのキャリアや組織の人材育成について話を聞いていく。

受講生向けのWebサービスやシステム部門との調整などを担当

林: では、現在のお仕事内容から伺えますか。

株式会社ユーキャン 教育事業部 講座企画部企画2課 河内玲子氏

河内: ユーキャンの通信教育の受講者に向けたWebサービス開発を担当しています。受講開始から試験合格までの支援として、模擬試験やオプション講座の企画、受講生向けサイトの「学びオンラインプラス」の運用支援、システム利用に関するユーザーのサポートなどをやっています。他にも、講師のシステム利用のサポート、システム部門とのシステム改修の調整、アクセス数の把握・レポーティング、受講生向けメール配信の企画、サポートなどもやります。

システムの一つが、「解答速報」です。試験当日に講師が解答を作成しWeb上に公開します。Webシステムに詳しくない講座担当もいるので、誰でも簡単に利用できるようにシステム企画部との調整をしました。社内の「こんなことやりたい」という思いと、システム企画部の橋渡しや通訳をするような「おばちゃん業」ですね。

教材が届いた後、まずはどうやって箱を開けてもらうか

森田雄氏(聞き手)

森田: 受講生向けのサービスをいろいろとやっているのですね。実は、僕もユーキャンの色鉛筆講座を受講しています。だけど、教材が最初に一式届いて、そのあと開封していないんですよね(笑)。

河内: ご受講ありがとうございます。というか、箱、開けて!(笑)。箱開けは課題として認識しています。教材の発送のお知らせ、発送後の確認などメールでのコミュニケーションをしていますが、箱が大きい、重いということで玄関に置きっぱなしになってしまう方も多いのです。

森田: ダンボールクラフトになっているとか、おもしろいアイデアがあると開けようと思うかもしれませんね。

河内: 確かに、いいですね! メモしておきます。ちなみに、教材は最初に送付しますが、その後のフォローとしては、次のような講座に応じたサポートをしています。

  • 法改正があればオンライン動画で解説する
  • 試験の課題が公表されたらその対策を解説する
  • テキストだけでは理解しにくい部分を解説したオプション教材を用意する

インターネット黎明期から携わり、起業経験も

林真理子氏(聞き手)

林: そもそも河内さんがWebに触れたきっかけは?

河内: Webに触れたのは1993年ごろ大学生協の書店でのアルバイト時代でした。学内のネット環境整備の担当者と仲良くなって、学内のメールアドレスをもらったり、メモ帳でHTMLを書いたりということをやっていました。当時、私はMacを使っていたので、コマンドで動かすWindows 3.1ユーザーはすごいなぁと思っていました。1995年にWindows 95が出て一気に変わりましたけどね。

その後、なんとなくWeb関連の仕事に興味があって、大阪の創業支援センターというところでWebの仕事をしたり、SIerで働いたりしていました。HTMLを手打ちする時代からやっているので、最悪ツールが使えなくなっても、テキストエディターでなんとかなるかという考えがありますが、最近の人は最初からCMSなどを使っているので、かえって大変そうだなと思うことがありますね。

森田: 昔のサイトはいわゆる手打ちで、作業量が多くても徹夜すればなんとかなるみたいなところがありましたが、昨今はツールによって吐き出されているのでブラックボックス化してしまっているともいえます。今どきのWeb担当者はタスクに分解してから作業を依頼するという感じになるでしょうか。最悪自分でどうにかできる、という拠り所がない分、地に足がつかないというか、マーケティング論などを勉強することが第一歩となる人も多いですね。

河内: Web担当者としての志が高くても、単なるツールの使い手になってしまうともったいないですが、今はそれでもいいのかなと思います。

経歴の話に戻りますと、東京でWeb制作会社を立ち上げました。結局その会社はつぶしてしまって……その後、ユーキャンではない事業会社でWeb広告の担当者をやっていました。

林: 転職するタイミングやきっかけはどういうところにあるのですか?

河内:こういうことやれる人を探しているから来ない?」というように声をかけてもらうことが多いです。ユーキャンへの転職も知り合いから「Webができる人を探しているから相談させてほしい」といわれたことがきっかけです。「契約が切れる、そろそろ仕事を変えようかな」などのタイミングで声をかけてもらうことが多いですかね。

「声をかけられて転職することが多い」と、河内玲子氏

アイデア発掘プロジェクトの事務局を担当し、社内で顔見知りが増えた

林: 内から生まれる野心、「次はこういうことをやってみたい!」とかっていうよりは、外からの期待に応える形で転機を迎えられているんですね。ユーキャンには2011年からお勤めですが、最初から今の部署ですか?

河内: 最初はWebマーケティング部にいました。入社してちょうど1年がたったころ、事業部の横断的な業務を担当する部署に異動になって「アイデア発掘プロジェクト」というプロジェクトの事務局をやれと言われました。

林: アイデア発掘プロジェクトの事務局とはどんなものですか?

河内: 事業部横断で、どんな小さなことでもいいから、仕事の役に立つアイデアを出そうというコンテストです。社員それぞれいろいろなアイデアを持っているのに、いざ実現しようと思うと、他の部署と調整が必要だったりして、思うようには進まないということがありますよね。そういう状況を打破したいという思いのこもったプロジェクトです。

どれくらいの参加があるかまったくわからないまま始まったのですが、最終的には参加者の職制を問わず多くのアイデアが寄せられました。事務局はアイデアを寄せた参加者全員と面談して考えをまとめてもらうセッションをやりました。めちゃくちゃ大変でした(笑)。

ただ、自分としてはこのプロジェクトを担当したことで、いろいろな部署の人の顔と名前が一致するようになりました。そもそも「Webマーケティング」って何をやっているかわからないと言われることが多い部署で、そんなところに中途採用で入ってきた人というのは、社内では「謎の人」

このプロジェクトで、顔見知りが爆発的に増えて、部署横断の仕事はしやすくなりました。顔見知りが増えたこともよかったんですけれど、社内のいろいろな部署の課題とか業務の実態とかが見えたのは、ある意味ラッキーだったかな、と。

時に悪役にもなる、社内の橋渡しをするおばちゃん業

森田雄氏

森田: 今でも、Webマーケティングは何をやっているかわからない、みたいな話はありますね。しかしWeb担当者はいろいろな部署と関わるので組織横断的な動きをしやすいところもありますし、外部から来たしがらみのない人だからこそ、横断的なプロジェクトを推進できるという例も聞きますよ。

河内: ですね。私の所属はもうWebマーケティングの部門ではありませんが「こんなことをしたい」という相談を受ければ、「そんなんシステム企画部に相談して、仕組みをつくってもろたらええやん」と言い、システム企画部に「あそこの部門がやりたいことあるって言うてるで」と橋渡しするおばちゃん業。解答速報を担当していて、いろいろな講座の講師ともわりと気軽に話ができるのも「おばちゃん」だからできるのかなあ、と。

林: システム部門の人とのコミュニケーションは、Webマーケティングの人から見ると難しいこともありますが、そこはどうしていますか?

河内: それ、ある意味「お互い様」なのでは(笑)。以前、尊敬しているエンジニアから「お前の頭の中にある "やりたいこと" を全部言え。実現してやる」って言われたことがありまして。どういうことかと聞くと、その人は「"システム"なんて、しょせん人間が考えたものなんやから、人間が考え付いたことはすべて実現できる。『できません』と言われたら、それはスケジュールが足りひんか、カネが足りひんか。あと、そいつに実現するだけの能力が無いか、や。『できません』て言われたら、『スケジュールの問題ですかお金の問題ですか』って聞いてみろ」と言われました。

これ以来、エンジニアから「難しい」って言われたら「何を譲歩すれば実現できますか」って詰めるようになってしまいました。私、悪役やん……(笑)。

森田: ただ、通訳する人、橋渡しする人ってあまり出世しないイメージがあるんですよね。重要な人材だけども、リーダーとはまた違うということなのかもしれません。河内さんはご自身のキャリアをどう考えているのですか?

河内: 出世はあんまり考えてないですし、こんな風になりたいという強い思いもなくて。若い人たちのお守りをするおばちゃんでいこうかな、という感じです。

林: 人との縁の中で相談される課題を解決していくことに価値を置いているのでしょうか?

河内: 求められればやるという感じですね。今は企業の中で潤滑油のような仕事をしていますが、本来私たちが向き合うべきは受講生。講師や指導担当者が受講生のことだけを考えられるような社内のシステムや仕組みを作ることで、それが結果的にお客様の役に立つと考えています。

「私たちが向き合うべきはお客様の受講生」という、河内玲子氏

お金の稼ぎどころを押さえて、仕事の価値を考える

森田: 役に立たなければ求められないでしょうし、経験の蓄積などがあるから転職も声がかかるんでしょうね。勉強しているつもりがなくても、経験が勉強になっているのでは?

河内: セミナーも最近はいかないですしね。でもWeb担当者Forum(以下、Web担)はたまに見ていますよ。最近注目されているテクノロジーがまとまっているので便利です。解決したい課題があったときに「こないだWeb担のどっかで見たな」ということは多いですね。

セミナーは参加しませんが、テーマやセッションのタイトルは見ていて、こういうツールが注目されている、伸びているんだなということは押さえています。いざ必要になったときのために。Web担って、おばあちゃんの知恵袋的な存在かもしれませんね。

森田: キーワードを単に知っているというだけではなく、20年やっているから、仕組みや機能などの基本や勘所が理解できているので、すぐに頭に入るんでしょうね。

林: 今からWebの世界に入る人、ジョブローテで異動になった人など、基礎知識がないまま最新のテクノロジーに触れている人には、どういうふうに教えていますか?

河内: まったくの未経験なら、Webのことよりもまず、自分の会社全体のことをみないとだめだと伝えるんじゃないかなぁ。セミナーでバズワードに詳しくなっても、自分の会社がどうやってお金を稼いでいるかを知らないと意味がありません

この考えに至るには、Web制作会社の時代にクライアントさんから「数百万円の制作費があるが、これは1銭の単位で作った売上からの投資。だから頭を使って大事に使いたい」と言われことが影響しています。

これは、ユーキャンでも同じことです。新しいシステムで何千万円かかるというだけでなく、どう稼いだのか、それがお客様の価値につながるのかを常に考えています。

ユーキャンは受講生から受講料をいただいて、受講生の試験合格をサポートしています。受講料に見合う、もしくははるかに超える満足を得ていただくために何ができるのかは、どんな部署でも考えられることかなあ、と。

勉強したい、新しいことを始めたいという期待値を下げずに、「ユーキャンを選んで良かった」と思ってもらうために何ができるかは常に考えています

河内: たとえば、試験に合格するために何が一番重要だと思いますか?

森田: 試験会場に行く?

河内: それも正解です。他には、申し込みをしなかったら、どんなに勉強しても、受験すらできないですよね。だから受講生に向けては、試験申し込みが始まったというをお知らせするメッセージを送るなど、細かいサポートをしています。

「お客様の価値を真剣に考えています」と河内氏

正解はない。確実に得点できることを積み重ねよう

林: 「お客様への価値提供」が、河内さんの仕事の立脚点にあるわけですね。

河内: そうですね。受講生には幸せになってもらいたいです。試験に合格すれば、人生ががらりと変わることがありますし、「一発逆転」もできるかもしれない。ユーキャンは受講生のお手伝いをする会社ですが、私自身は直接受講生とやり取りする役回りではありません。講師や講座担当者が受講生と真摯に向き合える環境作りを通して受講生が幸せになるお手伝いをするのが私の仕事です。

林: 自分がやりたいことを突き詰めるより、縁があった場所で要求に答えていくという軸で働いているのですね。下手に大仰な目標を立てると大変なこともありますからね。

河内: 手帳で夢を叶えるというのが昔流行りましたが、かえって苦しそうだなと思っていました。

林: 自分の正解ではなく、よそに正解を求めるとつらいですね。

河内: 正解なんてどこにもありませんからね。資格試験でも、正解がない「不成立問題」が発生してしまうことがあります。そういう問題に出会った時にはその問題は自分の中では切り捨てて、自分が得点できるところに集中する切り替えが必要です。仕事も同様で、今回やるのはここまで、でもフェーズ2ではこれ以上の何かを実現しようという切り替えの気持ちでやっていますね。

――ありがとうございました。

二人の帰り道:編集後記

林: ユーキャンに転職してきた折、河内さんは自分が「何やってるかわかんないWebマーケティング部に中途入社してきた人」と思われるだろうことを批判的/客観的に捉えています。そうした自分の立場を放置して内にこもるのではなく、アイデア発掘プロジェクトを通じて社員や講師80名以上と1時間の面談をもって個と個の関係を築いていかれた。それが、このプロジェクトの成果のみならず、後に別の仕事をしていく上での確かな足場づくりにもなっています。

当初そこまで計算して得た収穫ではないかもしれませんが、だからこそ「今、目の前で果たすべき仕事を実直に取り組んでこられた積み上げが、次への好循環を生み出している」キャリアの歩み方に勇気づけられます。大きな目標や、これで名を馳せたいといった野心をもっているわけではないという河内さん。キャリアの好循環って、必ずしも「大きな目標ありき」ではなく、こうした積み上げ型でも起こせるんだなってことを体現してくださっているように思えて、肩肘張らない佇まいに心強さを覚えました。

森田: そもそも河内さんと知り合ったのは、もう15年以上も前になるでしょうか。その頃は僕と同じWeb屋の受注側の、しかも制作畑の人間だったということもあり、この連載で話を伺ってきた中でもかなり親近感があるし、キャリアパスの中で何を考えていったのかとかが、自分の中でも腑に落ちやすい話だったと感じました。

河内さんの話を聞いていると、僕自身の経験から鑑みて、僕も組織横断の潤滑油としての立ち回りなんかも可能なんじゃないかと思ったりもしちゃいましたね。簡単だという意味ではなくですね。零細の制作会社をやっていると将来的な展望が描けなくて悩むみたいな時もあるんですが、もっと能動的に動き回ってみよう、できることを積み重ねていこうって思いました。河内さんは僕にアドバイスしたつもりなんかないでしょうが(笑)、どうもありがとうございました。

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