なぜSEO、UXを考えないとサイトリニューアルは失敗するのか?/SEO土居氏×UX枌谷氏(中編)

「サイトリニューアルやマーケティングにおいて、SEOとUXをどのように考えるべきか」をベイジの枌谷氏とナイルの土居氏が語りつくす。(中編)
枌谷 力氏、土居健太郎氏

マーケティング戦略なくしてSEOもUXもない。ましてや、サイトリニューアルを見た目のデザインだけで判断するなんてことはありえない。

業務提携を行った、株式会社ベイジのUXスペシャリスト枌谷(そぎたに)氏とナイル株式会社のSEOスペシャリスト土居氏に、「サイトリニューアルやマーケティングにおいて、SEOとUXをどのように考えるべきか」テーマに語ってもらった。(中編)

まだまだ見た目で判断する会社が多い

枌谷力氏(以下、枌谷): SEO業界で土居さんが最近気になっていることはありますか?

土居健太郎氏(以下、土居): 信頼性が低いコンテンツ、低品質なコンテンツ、よそのコンテンツを無断で借用する、などのコンテンツに関わる話は気になります。

このような問題は、検索順位を上げることを目的に作られた不適切なコンテンツが、実際に検索結果の上位に表示されてしまっていたことに起因します。「こういうコンテンツを作れば順位は上がりやすい」という方法論がシンプルで、実行するハードルも低いわけです。

情報の信憑性が担保されていないにもかかわらず、ユーザーの目に触れる可能性があり、以前のリンクスパムよりも質が悪いです。多くのリンクスパムは、「ユーザーに見えないところ」でしたから。

枌谷: UXで気になることは、次のことです。

  • UX = ユーザビリティだと思っている人が多いこと
  • 制作会社 = 見た目をデザインするところだと思っている人が多いこと

なぜUXという言葉が広まったかといえば、「プロダクトやツールのUIデザイン、ユーザビリティだけではなく、それを取り巻く全体のユーザー体験も考えなければならない」という始まりだったはずです。しかし「UX = 使いやすさ」としてしまうと、UX普及以前の考え方に戻って、また同じ問題を繰り返してしまうのでないかと思います。

あとは、「制作会社というのは、サイトのデザインをするところだ」と思っている人が多いのも気になります。制作会社からの提案を判断する際に、サイトをどうビジネスやユーザー接点に活かすのかという観点ではなく、単なる見た目のデザインカンプで判断しようとする会社がすごく多いです。

もちろん、お会いした際に「デザインで選ぶのは意味がないですよ」という話はします。しかし、そういう話をしても「上が納得しないので」「難しい説明はわからないので」と言われます。当社では「デザインカンプやっぱり大事です」みたいなRFP(提案依頼書)が出てきたら、その時点で、コンペから降りるようにしています。

枌谷 力氏

検索意図に応えられなければ顧客との接点は生まれない

土居: それはSEOにも共通する悩みですね。SEOに関する情報やコンテンツに関する情報って、今は簡単に検索できます。

現代のSEOはコンテンツが大事ですよ」とか「ちゃんとサイト設計したほうがいいですよ」といった基本的なことは、どこにでも書いてあります。こちらとしては「Web担当者」といわれるような人であれば、完璧とは言わないまでも、多少は理解しているだろうと期待するわけです。

しかし現実として、今でも「このキーワードで1位にするにはいくら費用がかかりますか」という問い合わせが多数あります。Web業界にいると「言われ尽くされた」と感じるような事柄でも、一般企業のWeb担当者にしてみればそうではないのです。

いまだに「バックリンクの詳細を教えてください」や、さすがに最近は減ってきましたが、「リンクを買いませんか?」という電話があります。ということは、いまだにそういう手法でSEOの効果があると信じている人がいるし、そういう人を相手にした商売が残っているということです。

枌谷: 「ユーザーがなぜこのワードで検索しているのか」「検索後どんなことを望んでいるのか」というユーザーの検索意図を無視して検索順位を上げたところで、ユーザーの意図に応えられるコンテンツがなければ、結局顧客との接点なんて生まれませんよね。

お客様の「やりたい」から本来の目的を導き出す

枌谷: お客様から「Webサイトをリニューアルしたい」といったお問い合わせいただいたとき、「今、Webサイトのどこが問題ですか?」といった質問はしないようにしています。もちろん、先方のほうから話し始めたら、それはきちんと聞きます。

しかし、お客様の話を聞いたうえで、先方の話を鵜呑みにせず、そこから「そのWebサイトで何を達成したいか」というゴールを我々が考えて導き出します。そして、その目的が達成できる提案をするようにしています。

土居: 具体的にどんな提案をするのですか?

枌谷: まず、現状と目標をヒアリングします。

  • 今、リードがどれくらい獲得できているのか。
  • リード(見込み客)を何人を増やしたいのか。

次に、Webサイトを使ったリード獲得の全容プロセスを作って、「データ分析をしたらここがボトルネックでしたね」とか「ここを変えたほうがプロセスがうまく流れますよね」など、穴を埋めていくような提案をさせていただくことが多いですね。

土居: サイトリニューアルの手前の段階で、コンテンツの話もするということですか。

枌谷: そうです。サイトリニューアルに関しては、「見た目だけを変えたい」とか「マルチデバイス対応だけやりたい」というお客様も多いのですが、我々はコンテンツ全部の作り変えを提案することが多いです。それをしないと、成果が出ないことが多いので。

手段が目的になっているケースも多い

土居: SEOの現場でも同じようなことがいえます。「このキーワードでどうしても1位にしたい」という話でも、掘り下げて聞いてみると「お問い合わせを増やしたい」とか「Webでの売り上げを上げたい」という答えが返ってきます。そういう場合は、「わかりやすいキーワードでのSEO」ではなく、目標が達成できるような提案をします。

たとえば「オウンドメディアを立ち上げたい」というお話で、お客様から「企画から執筆、制作まで手伝ってほしい」と言われることがあります。実際に手掛けている案件もあります。

しかしそういう話は、「なぜオウンドメディアをやりたいのか?」という目的をはっきりさせないと、結果的に「オウンドメディアやりたいから、立ち上げた」という、手段が目的になってしまいます。

土居 健太郎氏

SEOは小手先のことをやっても変わらない

土居: SEOの現場にいると、やることが「無意味」とは言わないまでも、大きなコストをかけて改修するほどではない。そういうシーンを目にすることがあります。

大規模なサイトであればあるほど、細かい改善策はいくらでも出てきます。しかし、費用対効果が見込める施策は、せいぜい2~3割です。

挙がった施策に対して、優先順位や重要度を踏まえて取捨選択すべきなのです。

以前、「細かいことより、タイトルタグを全部書き換えたほうが効果があります」と提案したことがあります。しかし、先方からは「すごく潔い提案ですが、やることが少なすぎて不安なのでお願いできません」と言われて、失注したことがあります(笑)。

枌谷: あるある(笑)。

マーケティングの基本は誰も教えてくれない

枌谷: 似たような話が我々にもあります。お客様から「サイトリニューアルをして訪問者数を2倍にしたい。ただし、コンテンツは増やさない」と言われたことがあります。「それは難しいだろう」と思いつつも、お客様の解析データを見たら、ほとんどのトラフィックが「企業名とサービス名」の検索によるものでした。

ということは、その会社と商品を知っている人しか、サイトに来ていないということです。お客様の言う通り、コンテンツは増やさないとなると、いくらリニューアルしても「訪問者数を2倍」にはできません。

それを達成するには、「広告を出す」、「認知度向上のためのイベントをやる」といった、その会社や商品を知ってもらう機会を増やす施策をやらないといけません。加えて、コンテンツを増やして見込み客が検索エンジンなどで出会えるようなサイトにしないといけません。

お客様には「手段が目的になっているケース」と「目標を達成する手法をイメージできていないケース」の2つがあると思います。問題なのは、お客様がそれらを把握していないことよりも、制作会社以外の誰からも指摘されないということです。

土居誰もマーケティングを教えてくれないということですか。

枌谷: はい。大手の広告代理店と付き合っていたり、社内にマーケティングチームを持っていたりするような大企業は、分野によっては我々よりもむしろサイト改善やマーケティングに詳しいことがあります。

しかし、そういう会社は少数派です。代理店などと付き合ったことがない会社だと、そういったマーケティングに関することを教えてくれるのは、制作会社しかないんです。結構大きな企業でも、BtoB企業だとマス広告をやっていないことが多く、制作会社くらいしか付き合いがないこともあります。

しかし残念ながら、制作会社にそういったマーケティングの知見があるかというと、そうではない。そして、マーケティングの基本を知らないWeb担当者と制作会社で、マーケティングの基本を無視したWebサイトを作ってしまうわけです。

では、「良い発注先を見つけるにはどうすべきか」については、後編で紹介します。

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