アクセンチュアが語るデジタル変革成功のポイントとは? 「デジタル部門に権限を与えずに成功はない」
経営改革や事業改革を得意の領分とするコンサルティング企業のデジタルマーケティングへの進出は、最上流からのアプローチだといえる。このシリーズでは、大手コンサルティング企業のデジタルマーケティングへの取り組みを紹介していく。
大手総合コンサルティング企業のアクセンチュアは、なぜデジタルマーケティング領域に進出し、そしてどのようにデジタル変革を支援しているのか。日本企業は、どのような局面を迎えているのか。
アクセンチュア インタラクティブ統括の黒川 順一郎氏に話を伺った。
- 「デジタル変革」を求める企業が増加
- 成功のカギはデジタル部門が権限をもつこと
- マスマーケティング時代の体制では競争に打ち勝てない
- Web担当者は経営のKPIをつなげて見るべし
アクセンチュア インタラクティブは変化の速いデジタル領域に対応するために作られた組織
―― 今回お話を伺う「アクセンチュア インタラクティブ」について、簡単に教えていただけますか?
まずアクセンチュアでは、「ストラテジー」「コンサルティング」「デジタル」「テクノロジー」「オペレーションズ」の5つの領域で幅広いサービスとソリューションを提供しています。
デジタル領域については、2013年12月に設立された「アクセンチュア・デジタル」という組織がデジタルの力を最大限に活用して変革を支援しており、私が日本での統括を行う「アクセンチュア インタラクティブ」のほか、「アクセンチュア モビリティ」、「アクセンチュア アナリティクス」の3つで構成されています。
―― アクセンチュア インタラクティブは、デジタルマーケティングの専門組織なのですか?
デジタルマーケティングを支援するというよりは、顧客起点で企業変革を支援する組織です。デジタルマーケティングはあくまでもその手段の1つです。
たとえば消費財メーカーにおいて、従来製品の売り上げが下がってきたとします。この場合、アクセンチュア インタラクティブでは、「消費者がそのメーカーに何を求めているのか」という観点で、戦略立案から、システム構築、オペレーションまでのすべてを「end to end」で支援していきます。ここには、当然、商品やサービスの企画も含まれます。
――アクセンチュア・デジタルとして、企業のデジタル変革を「end to end」で支援できるということですね。
はい。デジタル業界の流れの速さに対応し、お客様の迅速な変革の実現を支援していくため、デジタルマーケティング、モビリティ、およびアナリティクスの各分野にわたるデジタル資産、ソフトウェア、およびサービスがアクセンチュア・デジタルに統合されています。
――アクセンチュア インタラクティブといえば、今年7月にIMJの株式過半を取得したというニュースが話題になりました。
デジタルマーケティング領域における国内屈指の企業であるIMJの株式過半を取得したのも、デジタル変革の支援能力を強化するための一環です。われわれがこれまで弱かったWebの運用やキャンペーンといった分野で、クリエイティビティや実行力を持った企業と組むことで、首尾一貫して企業変革を支える力を強化できると考えています。
「デジタル変革に必要なもの」を全部もっている
「デジタル変革」を求める企業が増加している
――アクセンチュア インタラクティブに相談する企業は、どのような課題を持っているのでしょうか?
非常に幅広い事業領域に関してご相談を受けています。なかでも、「企業としてどうデジタル戦略を作り出していくのか」という、サービスデザインの領域については、特に引き合いがあります。こうした相談は以前からもありましたが、「2016年からは本腰を入れたい」というニーズが増加しているように感じます。
それ以外にも、マーケティングオートメーションの導入やプラットフォームの企画、オウンドメディアの統合など、デジタルを活用して消費者のニーズをうまく吸い上げながら効果のあるビジネスを考えたいといったご相談や、大規模なWebサイトの構築・運用・テストといったものもあります。また、「デジタルマーケティングのあり方を抜本的に変えたいので、戦略立案から実行までまるごと成果報酬で頼みたい」というご相談もあります。
このようにご相談内容は多岐にわたるのですが、やはり「戦略から実行まで首尾一貫して支援できる」というアクセンチュアの強みに魅力を感じていただいて、ご支援するケースが多いのは確かです。
――デジタル改革に対して、業界ごとに温度差はありますか。
やはり先行しているのは、デジタルの強みを生かしやすい小売業界や消費財業界です。それからフィンテックの普及を受けて金融、銀行・生命保険・証券業界もデジタル領域の取り組みが加速しています。通信やエネルギーでは、新サービスや顧客囲い込みの必要性が高まり、デジタルを活用したコミュニケーションが重要になってきていますし、官公庁からもだいぶ引き合いが増えてきています。
今年は、去年と比べて業界ごとの温度差が縮まってきているように感じます。いろいろな業界において本気でデジタル化を推進したいという意気込みが感じられます。また、「マーケティング」という文脈よりも「企業変革」という文脈で成長を加速させたいと考えている企業が多い点も特徴です。
2016年は、デジタル変革の動きが加速している
変革1: トップダウンで組織と現場を変える~デジタル部門に権限を
―― 企業の変革には常に経営層の理解が必要です。経営層のデジタルへの理解はどうですか?
これは、企業によってバラバラです。迅速に改革が進む企業は共通して、経営トップに準ずる方がデジタル化に取り組む意義を理解しています。従来通りの労働力や組織体制では成功しないと実感しているので、「新しい部門に権限を与えてでも変革をしたい」と考えています。
一方、変革が進まない企業は、担当者や課長の方々が課題を抱えていてデジタルを活用したいものの、上層部の理解が得られないというケースが依然として多いようです。この場合は、アクセンチュアが経営層の方々にご理解していただくところからご支援します。
―― コンサルティングでは、旗揚げはしたが「結局は進まない」ということもありますよね。
それは、人材も組織も変えないままでやろうとするからなんです。われわれがご支援する場合は、変革プランに組織改編や役職者の選定まで織り込んで実行を支援しますから、進まないことはないですね。
たとえば、「社内のデジタル変革をCMOが担当するかCIOがやるか」という話において、場合によってはどちらでもなく、CDO(Chief Digital Officer)を設置することもあります。その下にデジタル向けの人材を集めて統括するということを、お客様にあらかじめ了解してもらってからご支援を進めます。
―― プランを作って終わりでなく、そこが始まりなのですね。
そうですね。当然、以前から売り上げの中心を担ってきた部署や管轄などからの反発はあります。それも折り込み済みで変革を進めますので、そういった方々を地道に説得していくのも役割の1つです。このときに、どうやって人を巻き込んでいくかが、非常に重要です。
アクセンチュアが伝統的に強いのは「チェンジマネジメント」です。アクセンチュアは、お客様の社内に入って変革をご支援するなかで、社員の方々を巻き込み、どんどん意識改革を進めていくことに長けていると評価いただいています。
経営層も含めて人を「どうやって巻き込んでいくか」が重要
変革2: サービスそのものを変える~顧客中心設計は全社員で
―― 組織体系の変革の一方で、商品やサービスを変えていくことも必要です。その際、デジタル時代の考え方や手法を取り入れなければなりませんが、まだまだなじみが薄く悩みをもつ企業も多いと思います。
顧客中心主義の発想を浸透させるには、社員全体がもっているDNAから変えなければいけないと思います。だから、人の巻き込みが重要なのです。
従来の一方的なプロダクトアウトの発想から、消費者や生活者を見て体験価値を提供していくという発想へスイッチすることは、研究部門や生産部門だけでなく社員全員に対して求められることです。そうでないと、本当の意味での顧客中心主義には変われません。
―― 「サービスデザイン」とは具体的にはどんなことを行うのですか?
「サービスデザイン」とは、マーケティングの前の段階において、生活者優先で課題を発見しながら解決策を出していく手法のことです。CX(顧客体験)デザイン、ヒューマンセンタードデザイン(HCD)などといわれたりもします。
一般的なコンサルティングによるサービス設計では、まずファクトデータを集めて、平均値から類推される事象を課題として分類し、それぞれ解決策を検討していきます。一方、サービスデザインの手法ではデータの取り方から異なります。
たとえば、病院のコンサルティングをするときは、従来の手法だとまず入院されている患者さんにアンケートをとります。一方、サービスデザインでは、自ら入院し、片っ端から病院での生活を体験して、生のインサイトを得るのです。
また、あるサービスについてのユーザーインサイトを探る場合には、平均的な頻度でサービスを使っているユーザーではなく、まったく使わないユーザーと高頻度で使うユーザーの両方の行動や心理を分析します。インサイトを得ることが大事なので、もちろん自分でサービスを体験することも重要な取り組みです。
―― デジタルを顧客と直接向き合うチャネルと考えると、アンケートの平均値だけでは本当の課題がわからないと。
消費者の求めるものはいくつかのパターンに分かれるものの、年齢は小学生から高齢者まで、また朝起きてから夜寝るまで、1つの企業に対してどう接点を持つのかはそれぞれ違ってきます。サービスデザインでは、それぞれの人に対してカスタマージャーニーマップを作ります。アクセンチュアでは、そこから得られる施策をモックやブループリントに起こして発展させつつ、業界ならではの知見などを生かして実行に移していくことで、サービス開発を支援していきます。
―― なるほど、HCDの手法を用いて得た顧客インサイトをもとに、企業と消費者がどの段階でどのようなコミュニケーションをするべきか、実際のビジネスの枠組みに落とし込んでいくというのが、サービスデザインのポイントでもあり、難しいところですね。
確かに大変なことではあります。ただ、サービスデザインには当然テクニックが必要です。アクセンチュアでは、そうしたノウハウをもった人材を有していますし、世界的なデザインコンサルティング会社であるフィヨルドをアクセンチュア インタラクティブの傘下にもっているという強みがあります。人材の面でもノウハウの面でも、こうした弊社の強みを活用していただきたいですね。
顧客中心主義は、社員全員で共有しなければならない
マスマーケティング時代の体制では競争に打ち勝てない
―― 多くの企業が変わろうとしている。体制づくりにおける課題はありますか?
デジタル部門を作り、経営層に対して意見を言える権限をそこに与えないと、変革のスピードが遅くなってしまいます。
また、デジタル変革において、企業のITインフラを支えてきたIT部門とマーケティング部門が連携することも重要です。マーケティング部門の予算を見ると、とんでもなく不透明であることがあります。「長年の付き合い」で予算が決まっていて「なぜこの金額設定なのか?」という問いに誰も答えられないという状態や、投資対効果がシビアに考えられていない状態などです。
こうした状態では迅速に変革できるわけがありません。しかし、実際はこれがデジタル変革のボトルネックになっていることがかなり多いです。
―― 今まではそれでよかったということもありそうです。
はい。しかし、ずっとマスマーケティングをやってきた宣伝部やマーケティング部門の方に対して「今日からデジタルで」と鶴のひと声で決めても、仕事のやり方や発想自体が違うのだから、できませんよね。職種が変わっているのですから、権限も人員も変えなければ、推進できるはずがないのです。
組織や権限を変えずにデジタル変革は成功しない
Web担当者は経営のKPIをつなげて見るべし
―― 最後に、この記事を読んでいるWeb担当者の方に向けて何かアドバイスをいただけますか?
私から言えるとしたら、現場でもっている数字と、経営のKPI、たとえばP/L(損益計算書)のような数字をつなげて見るといいと思います。
Web担当の方の多くは「ビジネスに貢献しろ」というプレッシャーを感じて始めているであろうと思います。それに応えるためには、自分たちがどの売り上げをどのように変えればいいのかを分析できるようすること。こうした数字を可視化して現場でもっている数字とつなげ、分析できる流れを作っていくことが重要だと思います。
――まず可視化が大事ですね。
そうですね。それによって、自分たちがどのようにビジネスに貢献できているのか、あるいはできていないのかということがわかりますから。
―― こんな方はアクセンチュアにご相談ください、というメッセージがあれば。
アクセンチュアは何でもやりますので(笑)。「助けて!」という方は、どうぞお声がけください。面白い人材と一緒に仕事をしたいとか、何か新しいことできる人を探しているといった場合に、アクセンチュアは最適なビジネスパートナーだと思います。
―― 本日は、ありがとうございました。
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