IBMは、モバイルを主軸とした顧客エクスペリエンス構築のための組織「IBMインタラクティブ エクスペリエンス」の日本での活動を本格的に開始したことを、3月24日に報道陣に対して発表した。
IBMインタラクティブ エクスペリエンスは、モバイル・Web・企業内システムなどのコンサルティング・構築・分析・改善などを行う組織で、デジタルエージェンシーのIBMインタラクティブと、IBMのモバイル部門を統合して作られた。
米国ではIBM Interactive Experienceを2014年に発足しており、IBMはこの組織の設立にあたって、この分野に1億ドルを投資して1000人の社員を採用するというプランを発表している。また、2014年5月には、AdAgeがこの組織を「最も大きい、グローバルなデジタルエージェンシー」だと評している。
日本でも2015年1月にスタートしていたが、このほど国内でも本格的に始動したもので、法人やブランド名ではなく、「IBMインタラクティブ エクスペリエンス」という組織として活動していく。
これまでの実績としては、次のようなものがある(組織発足前の案件を含む)。
ジャガー・ランドローバーのディーラー店頭で、実寸に近いの映像で車体の色などをリアルタイムにカスタマイズしたりオプションを付けた状態を見たり、試乗している雰囲気でエンジン音を聞いたりできる、バーチャルエクスペリエンスの「インタラクティブ・デジタル・ビークル・ショールーム」(海外)
パナソニックのグローバルWebサイト統合(日本+海外)
三井住友海上あいおい生命保険のタブレットを活用した販売支援システム(日本)
顧客体験のデザインとデータによる改善を継続的に行う組織
IBMインタラクティブ エクスペリエンスの役割は、次の4つを継続的に繰り返し行うことで、顧客体験を向上させ続けること。
- 顧客の体験をデザインする(ジャーニーマップやHCD・UCDによる設計)
- 顧客とつながる仕組みをつくる(オムニチャネルやデジタルマーケティング)
- コンバージョンを獲得する(Eコマース、モバイルコマース、マーケティングオートメーション、パーソナライぜーション)
- 洞察し、発見する(アナリティクス、ソーシャル分析、データビジュアライゼーション)
具体的には、次のようなものを提供する。
- コマース
- オムニチャネル戦略
- デジタルマーケティング
- オムニチャネルコマース
- グローバルWeb統合
- カスタマーアナリティクス
- ソーシャルアナリティクス
- カスタマープラットフォーム
- デジタルバンキング
- インタラクティブ
- 顧客体験戦略&体験デザイン
- ペルソナ・ジャーニーマッピング
- クリエイティブデザイン
- ラピッドプロトタイピング
- ユーザビリティ・アクセシビリティ診断
- 人間中心設計コンサルティング
- デザイン思考コンサルティング
- モバイル
- モバイル体験デザイン
- 企業モビリティ戦略
- ワークスタイルのデジタル変革
- IoT/M2M戦略、導入、保守
- モバイルファースト(iOS)
- ERP(iOS)
- モバイルアプリ開発・運用・保守(B2C・B2B)
- モバイルテスティング
実際のプロジェクトでは、次のようなメンバーが参加し、顧客体験をデザインするという。
- 戦略コンサルタント
- 人間工学の専門家
- グラフィックデザイナー
- 東京基礎研究所の数理科学者
- マーケティングオートメーションの担当
- UI/UXデザイナー
- 情報アーキテクト
- 組織変革プロジェクトマネージャー
以下、取材した安田の意見も交えながら、IBMインタラクティブ エクスペリエンスについて、もう少し詳しく解説する。
「組織変革」と「HCD」が特徴
特徴的なのは、「組織変革プロジェクトマネージャー」や「人間工学の専門家」の存在だ。
何か新しいことをビジネスにおいて始めようとすると、「マーケ部門と営業部門」「事業部と情シス」など、組織間での利害の衝突が発生することが多い。
また、新しいスキルを蓄積していくためには、教育や採用のための人事制度も変える必要がある。
新しいことをするならば、社内のルールを変えて評価の仕組みも変えないといけない。
そのほかにも、適切なビジネスプロセスを構築する、各国や各部門の権限の明確化や調整、委譲を行うなど、デジタルエクスペリエンスを主軸にビジネスを変革していくにあたっては、組織の変革も必要となる。
スポットでアプリケーションを構築するのではなく、ビジネスのなかにそれが根付いていくためには、こうしたことを行う「組織変革」のプロフェッショナルが必要になるということだ。
また、IBMというとプロダクトデザインにおける人間工学では有名だったように、HCD(人間中心設計)に関しては定評がある。
そうしたHCDの専門家をプロジェクトに加えることで、ユーザーの潜在的なニーズや状況を把握し、本質的なエクスペリエンスを提供できるのだ。
日本IBMのIBMインタラクティブ エクスペリエンス事業担当 工藤 晶 氏は、こうしたチーム構成について、次のように語っている。
現在は、こうした多岐にわたる専門家が集まってはじめて、イノベーションを実現できる時代だ。システムや戦略だけでなく、そこに人間中心設計やエクスペリエンスデザイン、さらにグラフィックデザインといった、デザインがあわさって強いチームになる。
Webやマーケの業界で「コンサルティング」というと実務を行わず、戦略設計のみという印象があるが、SIの流れをくむIBMでは「コンサルティング」というと、構築を含めて最後まで行う。
ただし、以下のような実務はIBM自らは行わず、そうしたことが得意なところと組んで進めるということだ。
- マーケティングオートメーションの運用やチューニング
- 広告枠の買い付け
- 運用型広告の運用実務
- コンテンツ運用
人工知能と人間中心設計やエクスペリエンスのバランス
IBMは、「ワトソン」の名前で知られる人工知能の仕組みをもっている。また、マーケティング領域においても人工知能を主軸とした「人ががんばって運用する」のではないマーケティングサービスを提供していくのではないかと噂されている。
また2015年3月には、アドビとIBM Interactive Experienceがグローバルに業務提携し、法人向けの専門的なコンサルティングを行っていくことを発表している。
こうした「コグニティブ・コンピューティング」や「データ中心のマーケティング」と、人間中心設計による観察や洞察から導き出すエクスペリエンスデザインとのバランスはどうとらえるべきなのだろうか。
工藤氏は、この点に関して次のように語っている。
コグニティブ・コンピューティングだけでは、人の心は動かせない。
IBMには「Good Design is good Business(よいデザインは、よいビジネスになる)」という言葉がある。1956年にトーマス・J・ワトソン・ジュニアが会長兼最高経営責任者に就任し、経営者としてIBMデザインの創生に寄与したのだが、その際の言葉だ。
現在は、IBMの原点の1つでもあるここに立ち戻り、IBM社内に「デザイン思考(デザインシンキング)」を復活させ、さらに、そこにデータを合わせることで、今の時代に向けて提供しようとしている。
データと人の感性を合わせていくということだ。
取材で聞いた、「コンサルは未来を創る仕事。目の前にあるものだけを解決するのではなく、もっと将来のために行う仕事だ
」という、IBMのある人の言葉が印象的だった。
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