H.I.S./日本ハム/岩崎電気の担当者が明かすサイト制作・リニューアルの裏側
気になるあのWebサイトやサービスはどのようにして生まれたのか。企業のWeb担当者が互いのサイトを評価し、たたえ合う「第3回Webグランプリ」(2015年12月3日開催)の受賞者らが、サイト制作やリニューアルの裏側を明かすWebグランプリフォーラムが4月27日開催された。
それぞれ、どんな目的や課題を持って、企業サイトやプロモーションサイトを運営してきたのか、その成果や今後の展望が語られた。
- 大阪ガス
- ソニー
- サントリー
旅行会社として提供できる価値を明確化
エイチ・アイ・エス「H.I.S. PLAN!」
エイチ・アイ・エスは、旅行ベンチャーとして、日本の旅の変革を求め、既成概念という多くの壁にぶつかりながら幾多の挑戦をしてきたといい、田渕氏は「旅のことなら何でも屋。他の旅行会社がやらないことをやりつつ、価格でも譲れない」と話す。
しかしインターネットの普及によって、店舗を持たないOTA(Online Travel Agent)と呼ばれる旅行会社や、複数のサイトを横断した旅行プランの価格比較サイトなど、新たな競合が増えてきている。
さらに、近年は航空会社やホテルなどのサプライヤーが直販に積極的になってきており、AirbnbやUberといった新しい概念のプレイヤーが出てきたことも、エイチ・アイ・エスの新たな競争相手となっている。
このような状況のなか、これまで価格と品揃えを大きな強みに勝負してきたエイチ・アイ・エスは、価値観の見直しを行うことになる。改めて、自社の強みと課題は何かと考えた結果、次のように整理された。
- 海外64カ国135都市219拠点に展開する海外支店網
お客様のワクワクの創造と安全な旅の提供のための情報収集拠点(世界進出国数世界一) - 実際に海外で生活する現地スタッフ
生活者視点だからこそわかるリアルな情報 - 豊富なデジタルアセット
パンフレットからWebまで多数の写真・動画・記事などを保有
- 大量のデジタルアセットの一元管理
もっと有効に活用するためには権利管理やバージョン管理も必要 - H.I.S.を利用していないお客様との接点
旅行はCVがゴールではなくスタート。旅ナカのお客様と接点を - 新しい旅行体験の創造
デジタルを活用し、もっとお客様にワクワクと感動を提供したい
自社の持つ強みを再確認し、現地スタッフが持つ知識、豊富なデジタルアセットを有効活用する。そして顧客に「旅マエ」からワクワクと感動を提供していく。そのために生まれたのが「H.I.S. PLAN!」だ。
UI/UXにこだわりワクワクと感動を提供する
H.I.S. PLAN! は、PC/モバイルのブラウザ、モバイルアプリに対応し、いずれもUI/UXを重視して制作したと、館氏は説明する。家庭用ゲームのUI設計なども参考にし、誰にでもわかりやすくて使いやすいUI/UXにこだわった。
旅行プランは、行ってみたい都市から選ぶ「CITY CATALOG」と、おすすめの旅先を提案してもらう「PLAN MEISTER」の2種類から組み立てることができる。
都市を選ぶCITY CATALOGは、各都市の美しい写真を使うことで、ワクワク感があり、旅行に行きたくなるクリエイティブを目指したと館氏は話す。各都市にはエイチ・アイ・エスの現地スタッフ厳選のおすすめプランや観光情報が用意されており、タイムスケジュールにプランをはめ込んでカスタマイズすることもできる。
H.I.S. PLAN! は会員制サイトだが、おすすめ観光情報やプランの閲覧、プランの作成は非会員でも可能で、保存するときに会員登録を促すことで、より多くの人が利用できるようにしている。
もう一方のPLAN MEISTERは、4つの質問に答えるとおすすめの都市とプランが提案され、マイスターのプランを参考に利用者がアレンジすることもできる。
今後の展開について、田渕氏は、「今後もより適切な機能やコンテンツを増やしていきたい」と話す。もっと写真や都市を増やし、記事の品質を上げ、使いやすくしていくとともに、「旅ナカ」でのタッチポイントの増加など、営業面につながる施策も考えているという。
これまでは、お客様の視点という点の施策だったが、これからはお客様の体験という面の施策が重要となり、さらにお客様と寄り添っていかなければならない。これは、H.I.S. PLAN! だけでなく、社内で広く共有していこうと考えている(田渕氏)
1人でも多くの人に食物アレルギーの情報を発信していく
日本ハム「食物アレルギーねっと」
2003年に開設された「食物アレルギーねっと」は、食物アレルギーに関する正しい知識、調理や食事のポイントなどを提供する、食物アレルギーに関する情報サイト。
日本ハムが食物アレルギーに取り組み始めたのは、約20年前。「食物アレルギーの子供でも安心して食べられるハム・ソーセージを作ってほしい」という声が、お客様相談窓口に届いたことがきっかけだった。
「世界で一番の『食べる喜び』をお届けする会社へ」というビジョンを掲げる日本ハムは、それ以降、食物アレルギーがあっても安心して楽しく食事ができるようにと、中央研究所で本格的な食物アレルギーの研究を始めていく。
食物アレルギーの研究が進むと、1997年には後にアレルゲン除去食品の許可を得る「アピライト」シリーズ、2004年には一般店舗でも購入できる「みんなの食卓」シリーズをそれぞれ発売。2009年には主食である米粉パンを発売し、その後も米粉めんなどラインアップを拡充している。
また、加工食品のアレルギー表示制度が始まった2002年には、食物アレルゲン検査キットを開発・発売。2007年には、食物アレルゲンを持ち込まない専用工場を設立し、2015年にはより公益性の高い社会貢献活動として推進するため「ニッポンハム食の未来財団」を設立するなど、幅広い取り組みを行っている。
社会貢献に加えて、改めて食を強く打ち出したサイトへ
食物アレルギーねっとの立ち上げ当初は、純粋な社会貢献を行う場として、企業色を出さないようにしていたと香川氏は説明する。しかし、サイトを開設してみると、消費者は大手食品企業が提供する情報に対して安心感を抱いていることや、対応商品のニーズが高いことなどがわかってきたという。2003年の開設当時は、まだ食物アレルギーに関する情報が少なく、大手企業による情報発信は、非常に信頼性の高い情報源だったのだ。
何度かリニューアルを行っている同サイトだが、大幅なリニューアルは2009年が最後だった。このときのリニューアルでは、「食を通した社会貢献」「ブランド価値の向上」を目的とし、ターゲットを「食物アレルギーでお困りの方」から「食物アレルギーに関心を持っているすべての人」に広げ、食物アレルギーとの付き合い方やニッポンハムグループの取り組みなどのコンテンツを加えている。
食物アレルギーの認知が世の中に広がり、情報が増えてきたなか、2016年3月にリニューアルを行ったと話を続ける香川氏は、改めて「食」を強く打ち出したサイトにしたと説明する。
リニューアルに向けて応募したWebグランプリにおいて、寄せられた審査員の評価コメントや改善点の多くは、リニューアルで計画していた内容だったため、自信を持ってリニューアルを進められたという。
最後に香川氏は、食物アレルギーねっとを通じて「多くのお客様から感謝の言葉をいただいており、当社の企業理念である『食べる喜び』をお届けできていると実感できることは非常に幸せ」だと話す。
地道に取り組む中、Webグランプリで食物アレルギーねっとの存在を社内外で認められたことはうれしいことであり、今後も社内のさまざまな部署や人と連携を取って情報発信のハブとなっていきたいと語った。
誰でも簡単に、詳しくなくても最適な照明を選べる
岩崎電気「簡単に選べるLED工場照明」
岩崎電気の「簡単に選べるLED工場照明」は、業務用光源・照明器具メーカーである同社の商品選定をサポートするBtoBの商品情報サイト。
岩崎電気がサイトを運営する目的は3つ、サポートコストを低減させる「営業支援」活動、信頼を得ることで長期的な視点で利益に貢献する「ブランディング」、間接的な「売り上げ貢献」だと新井氏は説明する。
そのなかで、「売り上げ貢献」には、新規顧客向けのインバウンドマーケティングや見込客リストの拡張などがあるが、簡単に選べるLED工場照明は、特に既存顧客向けの「見つけやすさ」に工夫を凝らしたという。
たとえば、岩崎電気が扱う照明は、工場用照明だけでも何十種類あり、知識と経験がなければ選定が難しい。そこで最適な照明を、工場の種類、利用目的、設置スペースなどから絞り込めるようにしている。
カタログをベースにデータを充実させる
簡単に選べるLED工場照明は、Webサイトよりも先に作られたカタログをリメイクしたものだと新井氏は説明する。カタログのコンセプトは、商品紹介よりも「商品を選ぶこと」であり、照明の設置施設、必要な明るさ、業種などから最適な商品を選べるカタログをWebに展開したのが、Webグランプリを受賞した簡単に選べるLED工場照明だ。
カタログをWebサイトに展開する際には、「Webでは商品の選び方などの解説は見ないだろう」という考えから、これらのマニュアル解説を省き、施設や目的などを選んだ結果がゼロになるのを避けるため、データを拡充しているという。また、JIS規格に基づいた正しい情報の記載や入念な検証にも気を配ったと新井氏は説明する。
Webグランプリの審査員からは、ユーザビリティやアクセシビリティについて、さまざまなコメントがもらえたと新井氏は話す。審査では、操作性やデザインが評価された一方で、今後の課題として、ユーザビリティ、アクセシビリティ、情報の充実などが挙げられたという。
また、Webグランプリの受賞をニュースリリースで掲載すると、社内外で大きな反響があったという。
「受賞によって、やるべきことが間違ってなかったと感じ、自信にもつながった」と、新井氏は審査員のコメントや評価をベースにさらにサイトを充実させたいと話す。また、Webグランプリにもっと多くのサイトがエントリーし、もっと盛り上げてほしいと語った。
Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:Webグランプリ受賞6サイトの担当者が教えるサイト制作・リニューアルの裏側 ―― 「第3回Webグランプリフォーラム」2016年4月27日開催 Webグランプリフォーラムレポート(1)(2016/07/22)
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