企業ホームページ運営の心得

紛争が激化するネット事情。流れ弾対策の基本

戦局が激化するにつれ、周辺に戦渦が拡がっていくのはネットにおいても同じ
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

※本稿はパリ同時多発テロ事件の前に入稿しております。パリ市民及び、犠牲者に哀悼の意を表します。

心得其の432

紛争地帯のただなか

gpointstudio/iStock/Thinkstock

戦局が激化するにつれ、周辺に戦渦が拡がっていくのは、ネットにおいても同じ。サイバー戦争ではなく、左右の論争。ざっくりといえば、「イデオロギー」的な対立がネット上で激化しており、うっかりしていると、特定の政治的思想を持たない「ノンポリ」にまで災禍が及びかねないほどヒートアップしています。最悪のケースでは、勤務先の信用を失い、本人は退職に追い込まれ、家族に累が及ぶことがないとは言い切れないほどです。

「関わりを持たない」というのが賢明な選択。しかし、「流れ弾」は避けようがありません。そのためにも、ネットにおける「紛争」の現状と対策は、早めに知っておくべきです。

書店の偏りは常識

都内の大型書店が、推奨書籍を集めて「フェア」を行いました。選書に思想的な偏りがありましたが、店頭でのトラブルは報告されていません。それもそのはず、書店の品ぞろえは店主の好みに引きずられるもので、それが持ち味でもあります。

街に書店が溢れていた時代には、当たり前の話。私が育った町の書店は、「ファミリー向け」の品ぞろえだったこともあり、中学生にもなるとアダルト……もとい、専門誌を求めて、隣町まで自転車を走らせたものです。

ところが、前述のフェアを企画した書店員が、Twitter上で「非公認」と銘打ちながらもフェアを紹介し、そのなかで「戦う」と宣言したことで状況は一変します。思想的に対立する陣営から攻撃を受け、会社は釈明に追われて店員のアカウントは凍結、フェアは中止となります。ネットが「紛争地帯」になっている明かしです。なお、左右を入れ替えた同様の騒動も発生しています。

マイナンバーへの懸念

11月の初めごろ、Web界隈において「ぱよぱよちーん」という、謎のキーワードが拡散されました。Facebookに掲載された刺激的なイラストに対し、「いいね!」をクリックしたユーザーの出身地や勤務先といった個人情報をまとめたリストを作り、ネット上で公開した人物が多用していたとされるキーワードです。前後の言動から、「いいね!」をクリックしたユーザーを思想的な敵と定め、社会的制裁を加える目的だったようです。

この人物がセキュリティ会社で要職を務める人物だと指摘され、大騒動へと発展します※1。過去のツイートでは、立場と人脈を利用した個人情報の収集を匂わせており、さらに「マイナンバー」を所管する閣僚が、騒動の直前に勤務先を訪問していたことで、批判はヒートアップします。総務省に確認すると、当該企業とマイナンバーは無関係とのことです。

※1 なお、該当企業はこの件の調査結果について、公的機関の協力がなければアカウントの利用者が社員であるかは確定できず、アカウントの持ち主とされる元従業員による重要データへのアクセスはなかったと発表しています。

悪意は拡散される

いま「いいね!」へのクリックは、必ずしも賛意や同意を意味しません。珍説があるよと、仲間に知らせる「晒し」を目的とする「いいね!」や「リツイート」もあれば、Amazonのレビューで「星5つ」を付けた上での批判があるようにです。しかし、それぞれの真意は確認されることなく、リストは作成され公開されました。なかには非公開情報まで晒されたユーザーもいたと報告されています。

この手の手法は、主義主張や目的を問わずに、あっという間に普及するものです。ときを同じくして、国際的ハッカー集団「アノニマス」が、同様の手法で批判対象のリストを作り公開しました。こちらはリツイートを元に、情報収集していると見られています。公開情報は集めやすく、そこに「レッテル」を貼って公開すれば、一定のダメージを与えることができると考えるからです。

気楽に「いいね!」や「リツイート」ができない時代に突入した可能性を示唆しています。

専門家への風当たり

過剰反応と笑うでしょうか。しかし、冒頭に触れたような被害が実際に起きています。もちろん、君子危うきに近づかずを徹底し、政治的発言を一切しないという選択もアリです。しかし、繰り返しになりますが紛争に「流れ弾」はつきもの。なによりブログへのコメント、メンションを避けることはできません。

論旨を曲解しての賛意のコメントや、冗談を拡大解釈した上で、他人を侮蔑するメンションが送られたとき、うっかりそれに同意すれば、自身の発言と同義に扱われることもあります。そこで私は、過激な意見に対しては、

なるほど。しかし、そのご意見に頷くには、寝違いが激しいようです

とジョークを交ぜ、直接の回答は控えるようにしています。反論の余地を残すためです。否定はしないが肯定もせず、放置もしないを心がけてください。既読スルーではありませんが、無視することで要らぬ恨みを買うこともあれば、放置を賛意と曲解する読解力のネットユーザーは少なくないからです。

私が気をつけていること

さらに「リア充」は注意が必要です。運悪く流れ弾に当たったとき、実名を伏せていても、リアルの人間関係をSNS上で公開していると、個人名や勤務先、住所などは比較的容易に特定できます。それを「晒す」ことが常態化する空気が、ネットの紛争地帯では生まれています。Facebookと連動させている場合、特に注意が必要です。前後の文章を無視して、発言を切り取られるのも「ネット紛争」の特徴で、友人とのあいだで交わされた「軽口」が、後のトラブルにおいて援用されることもあります。

そこで「リツイートは必ずしも賛意ではありません」と予防線を張るのも有効です。また、ブログのコメント欄などには「定期的に確認していますが、見落としがあった場合はご容赦ください」と一文、掲載しておくのも保険になります。

対立の激化はSNSの普及が理由です。インターネットは「ネットサーフィン」にしても「検索」でも、興味の対象へ接触する媒体で、全体には多様な情報が溢れていても、個別のユーザーが触れる情報は限定されます。さらにSNSは、「同好の士」でつながることが多く、そこから「過激化」しやすい構造になっているのです。

やはり近づかないことが一番の対策ですが、この「紛争」は加速度的に激化しています。くれぐれもご注意ください。

今回のポイント

流れ弾は否定も肯定も放置もしない

SNSのつながりが、過激化を促進している

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