自社Webサイトを必要としない時代のゾッとするWeb担当者論
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の433
ホームページがなくなる日
すべてのモノがネットにつながる「IoT(インターネット・オブ・シングス)」、データやテクノロジーを活用した金融サービスの「FinTech(フィンテック)」など、これからの社会において、Webがより存在感を高めていくことに異論はないことでしょう。
ネーミングは「バズワード」に過ぎないながらも、リアルとWebが融合していく流れは変えようがありません。そして、ビジネスシーンにおける「インターネット支店」の役割は、より重要になっていきます。ただし、ネット支店が必ず「自社Webサイト」を指すとは限りません。各種ネットサービスで代替できてしまうからです。
それでは、Webサイトを制作する「Web屋」はなくなるのか。また、Web担当者の仕事はどうなるのか。その結論は「ゾッとする話」。まずは「自社Webサイト以外」の「ネット支店」の実力を検証していきます。
ド素人女将さんの成功例
まず、先日紹介した「蕎麦屋のド素人女将」のように、日替わりランチの更新程度なら、Facebookで事足ります。スマホからでも更新でき、同等のシステムを自社で構築するには、かなりの費用が発生します。
また、Facebookでは「チェックインスポット」を使い、すでにお客が勝手にお店を紹介してくれていることがあります。ゼロから集客をしなければならない自社Webサイトより、有利なスタートが期待できます。なお、これからFacebookに取り組むなら、「チェックインスポット」で作られている「仮店舗」と、Facebookページの「統合」はお忘れなく。
蕎麦屋のように「日替わりランチ」のない一般企業でも、「新入荷」「季節商品」の紹介や、年末年始の「営業情報」の更新は「ネット支店」の重要な役割で、Facebookならワープロを打つ程度のITスキルで自作できます。
消費行動から考える
飲食店ならば「ぐるなび」もネット支店になります。いや、仮に自社Webサイトを持ち、Facebookを利用していても、「宴会」が可能な規模の飲食店なら、1日も早く取り組むべきです。それは、まもなく始まる「忘年会シーズン」のため。その先の「新年会」の会場探しに、「ぐるなび」を利用する幹事は少なくないからです。
宴会場所を決定する最大の要因は「場所」。かつてのバブル景気のころや、いまでも景気の良い会社なら、大型バスを借り切って、温泉街まで出掛けていき、一泊二日で忘年会を開催することもあるでしょうが、多くの場合、仕事終わりに徒歩や電車移動で会場に移動します。諸条件が同じなら「近場」が好まれるのは自明です。そのとき、路線別、町名で複数の店を比較しながら検索できる「ぐるなび」が幹事を助けます。
リアルのワンクッション
大半の会社員は、同じ通勤ルートをたどるので、想像以上に行動半径が小さく、通り一本はずれた店に気づきません。それを「ぐるなび」に補わせるのです。
いまの季節に限定するなら、飲食店は「ぐるなび支店」に注力すべきです。有料加盟店の登録手続きには「郵送」のワンクッションがはいるので、まずは無料の「エントリー会員」に登録するとよいでしょう。より多くの機能が利用できる、上位アカウントへのアップグレードはいつでもできます。
こちらもFacebookの「チェックインスポット」同様に、ユーザーがすでに「クチコミ」で、勝手にお店のコンテンツを作っていることもありますが、いかんせん、その情報が間違っていることは実に多く、その管理のためにも登録を急ぐ必要があるでしょう。
悪評恐るるに足りず
「ぐるなび」に代表される「クチコミ」への悪評を恐れる声も耳にします。だから、登録しないという居酒屋もあり、飲食店に限らず他のクチコミサイトでも警戒する店主は少なくありません。しかし、「悪口」を書かれたとしても、かつてほど恐ろしくないのは、先のFacebookはもちろん、Twitterといった手軽な「反論」の場があるからです。
また、「ぐるなび」上でも「返信」できる機能が装備されています。サイトの運営側に立てば、理不尽な「悪評」を放置することは、サイトの価値を毀損する可能性もあり、今後もいろいろな「対策」が立てられることでしょう。悪評、恐るるに足りず。となれば、各クチコミサイトも「ネット支店」の有力候補です。
自社Webサイトに代わる「インターネット支店」として、Facebookとぐるなびを挙げたのは、だれもが知っている一例として。その他にも紹介しきれないほどの「自社Webサイト代替可能ネットサービス」が溢れています。ご近所さんへの「告知」だけが主目的なら「ジモティ」の利用も一考に値し、弁護士稼業なら「弁護士ドットコム」、お医者さんなら「マイクリニック」のようなサイトもあります。なお、Twitterのプロフィール欄は小さく、お客に十分な情報を提供するにはツイートを駆使する必要があるため、「インターネット支店」として不向きです。
自社サービスだけでは終わらない時代へ
各種ネットサービスが充実したからと、自社Webサイトがなくなるとはいいません。それぞれのサービスは、それぞれの運営企業の都合に左右され、ある日突然、サービス停止されるリスクを常に抱えており、どこかのタイミングで自社Webサイトは構築しておくべきでしょう。だから、Web屋は必要。先日、WordPressのカスタマイズについての記事が、本サイトに掲載されていましたが、よりクールに仕上げるにはプロの技術が不可欠で、自己研鑚を続ける限り、Web屋の仕事がなくなることはありません。
今回紹介したネットサービスが「ネット支店」になるということは、自社Webサイトに加えて、「Facebook支店」や「ぐるなび支店」への取り組みが不可欠だということ。FacebookやTwitterといったソーシャルメディアが無視できなくなったように、紹介しきれなかった専門性を帯びたクチコミサイトや、地域に特化したWebサービスへの対応が求められる。自社サイトを立ち上げ、その管理だけではすまない時代になって、ますますWeb担当者は忙しくなるでしょう……という、ただでさえ忙しくなる年末に向けて「ゾッとする話」でした。
今回のポイント
インターネット支店は自社Webサイトだけではない
飲食店なら「ぐるなび」対応はマスト
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