「アナリティクス」のトレンド変化と企業の取り組み4つのステージ ~御社はどの段階にあるのか?
1990年代の「アクセス解析」から2015年の「アナリティクス」、への進化を4つの段階に分けて解説。Web業界やデータ分析の世界のトレンドと、各企業での取り組みの状況は、どう変わって来たのか。企業はどう取り組むべきなのか。
このコーナーでは、書籍『新しいアナリティクスの教科書』の一部を、許諾を得てWeb版として公開しています。
この記事では、書籍の第1章 「『アクセス解析』から『アナリティクス』への進化」 の第2節 「4つのステージで理解するトレンドの変化と企業の取り組み」 の内容をお届けします。
アナリティクスの進化を4段階で捉える
アナリティクス アソシエーションができる前からこれまでに、アナリティクスとデータを取り巻く環境は大きく変化してきました。2008年ごろにはほとんどの企業でアクセス解析が職務として認知されていませんでしたが、次第にデータの重要性が認識されてきて、今では多くの企業がアナリティクスの取り組みを始めています。皆さんの所属する企業では、どのように取り組んでいるでしょうか?
本書では、アナリティクスにおける進化の段階を「幼年期」「少年期」「青年期」そして「成人期」という4つのステージで定義します。そして、Web業界やデータ分析の世界のトレンドと、各企業での取り組みの状況を、これらのステージで捉えていきます。本書では、2015年現在のアナリティクスのトレンドは「青年期」にあると捉えていますが、皆さんの会社ではまだ「幼年期」や「少年期」で、これから追いつく必要があるかもしれません。自社はどこに当てはまるだろうかと考えながら、見ていってください。
幼年期:「ヒット数」の増減が話題だった時代
第1ステージの「幼年期」は、「ログ解析」と呼ばれていた段階です(1990~2005年ごろ)。サイトのアクセス状況を全体としてつかんでレポートする活動が主で、職務としては認知されていません。サイト運用業務の合間に、サーバーを管理するエンジニアやサイト担当者が、サーバーに蓄積されたログデータをまとめていました。
注目される指標はページビュー数やヒット数といった純粋に量的な指標で、数字の増減を共有することはあっても、データをもとに改善を行うという発想はまだありません。データが取れることを無邪気に喜んでいた時期だったとも言えます。現在でもページビューしか見ていない状態であれば、その企業はまだ「幼年期」だと言えます。
少年期:データからユーザー行動を捉えた改善が始まる
第2ステージの「少年期」(2005年~2012年ごろ)は、「アクセス解析」という呼称が定着した段階です。「SiteCatalyst」や「Urchin」「Webtrends」といった高機能なアクセス解析ソフトウェアが、企業で活用され始めたのもこのころです。
2005年にGoogleが有料のログ解析ソフトウェア「Urchin」を買収したことは、特に大きな出来事でした。Googleはその後、Urchinを手軽に使えて高機能、かつ無料のアクセス解析サービス「Googleアナリティクス」としてリリースします。
Googleアナリティクスの登場により、サイト担当者だけでなく、マーケティング部門の担当者なども手軽にデータを利用できるようになりました。アクセス解析の利用のされ方も変っていき、ページビュー数よりもセッション数やユーザー数など、ユーザー行動に関係するデータが注目されるようになります。
「少年期」の企業では、会議の場でアクセス解析レポートを共有し、改善の提案や議論も行われます。注目される指標は、商品の購入や資料請求といった、サイトの持つ目標にどれだけのユーザーが到達したかを計る「コンバージョン率」※1や、サイトを訪問して1ページだけ見て離脱する訪問者の割合を見る「直帰率」などとなります。
これらの指標を改善するための取り組みを始める企業も徐々に登場し、アナリティクスのための常設のチームはまだなくても、改善を適切に進めるためにプロジェクトチームが作られるようになります。
アナリティクスによる改善の成功体験を得た企業は、さらに高度なデータ分析と改善に意識が向かいます。ユーザーを属性ごとに分類する「セグメント」※2も取り入れ、サイトの訪問者を「新規ユーザー」「リピーター」といったセグメントで分析・改善する手法が盛んになり、多くの成果が生まれていきます。
青年期:扱うデータの範囲がサイト外にも広がる
第3ステージの「青年期」(2012年ごろ~現在)は、企業全体にデータ活用の機運が高まり、アナリティクスのための専任担当者や、常設の独立したチームが構成され始める時期です。
サイトのアクセスデータだけでなく、社内の各部門が持つデータを統合し、より広い範囲のユーザー行動を分析することで、全社的な改善につなげようとする取り組みも始まります。
青年期の企業では、ネット以外の部門や経営陣も巻き込む形で、広範囲なアナリティクスが展開されていきます。アナリティクスに関わるチームの関係者は大規模になり、改善施策を推進する中心となって、サイトだけに限らず、マーケティングやサポートなど、幅広い領域の改善をリードしてビジネスの発展に貢献します。
一方、関係部門が増えることで、改善目的の共有や施策の評価など、社内コミュニケーションの問題が目立つようになります。
データ分析そのものは担当者・担当部署内でほとんど完結できる作業ですが、他部門が管理するデータを入手したり、サイト外を含め改善を行ったりするためには、事業部門やそれを支援する技術、渉外などの間接部門、さらに経営者など、社内だけでもさまざまな関係者との折衝や情報共有が必要になります。日本企業に多い縦割りの組織の中で、多くの部門とコミュニケーションを取っていくのは容易ではありません。往々にして、この点がアナリティクス推進の壁ともなります。
よって、「青年期」の企業におけるアナリティクスチームには、データ分析とはまったく異なる役割やスキルが求められます。社内の他部門との関係や、チームの位置付けを考えていく必要もあるでしょう。
成人期:経営陣がリードし、企業の文化として根付いていく
今後到達するべき第4ステージの「成人期」では、アナリティクスが企業の文化そのものになり、その企業の優位性を生み出す根幹になっていきます。
「成人期」の企業では経営陣のリードのもと、社内にあるデータが統合され、新規企画や実行中の施策の評価、改善の検討など、あらゆる場面で利用されます。データからユーザーの姿を見て次の動きを決めるというアナリティクスの姿勢が、企業文化として根付いているのです。データを扱う基盤のシステムも強化され、技術的に高度な分析やマーケティング施策も取り入れられるようになります。
アナリティクスチームは社内のマーケティングをデータ分析の面から支える存在となりますが、ほかの部門でもデータ分析は取り入れられ、データに基づいた会話が行われます。
企業全体がデータを通じてユーザーに向き合い、常に「ユーザー中心」が実践される状態は、現状でよく見られる社内コミュニケーションの問題の先にある、理想型と言える組織のあり方でもあります。
青年期、成人期の組織のあり方については、第5章でも詳しく解説していきます。
組織と個人の双方の成長が求められる
私たちアナリティクス アソシエーションは、企業のアナリティクスがまず「少年期」に入っていけるようにサポートし、さらに「青年期」「成人期」への成長に向けて、後押ししていく役割を担おうと取り組んでいます。
そのためには、組織が変化し、成長していくこともさることながら、個人のスキルアップや意識の変化も求められます。アナリティクス担当者は、「幼年期」ではアクセスログ集計、「少年期」ではサイトの改善を担っていたものが、「青年期」では企業のビジネス全体の改善に携わることになっていきます。ネット部門だけでなく全社の組織と関係することになり、コミュニケーションの負担も大きくなります。
そのような中で、アナリティクスに携わる私たちはどのように変化に対応するべきかを、次に見ていきましょう。
- アナリティクスの進化は「幼年期」「少年期」「青年期」「成人期」の4つのステージで捉えられる
- アナリティクスの進化に対応するため、担当者個人の成長も必要になる
『新しいアナリティクスの教科書』
~データと経営を結び付けるWeb解析の進化したステージ
[アナリティクス アソシエーション公式テキスト]
データ分析はできるけれど、ビジネスの成果はなかなか上がらない……。
そのような悩みを抱えるWeb担当者、アナリティクス担当者のために、国内最大級の業界団体「アナリティクス アソシエーション」が、これまでの7年にわたる活動の中でに蓄積した知見をまとめました。
これから「改善」に取り組む担当者のためにはスモールスタートによる改善の取り組みを具体的に解説。
Webサイトから企業のビジネス全体へと範囲を広げ、DMP、データ統合といった最新の取り組みにも触れながら、アナリティクスの本質と、現実的な問題への対処法を明らかにしていきます。
また、アナリティクスによる改善の成否に大きな影響を及ぼす「組織」の問題についても、数多くの事例をもとに考察。アナリティクスに取り組むチームの編成、企業内での位置付け、他部門との関わり方などを論じていきます。
本書はツールの使い方を解説する本ではありませんが、ツールの使い方以外のあらゆるノウハウを盛り込んだ、企業の成長を牽引するアナリティクス担当者のための本です。
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