Webコミュニケーションの世界を「漫画」「ゲーム」「遊牧民」で語る/ブライアン・ボイゴン氏「WDE 2010」基調講演

ソーシャルメディアの専門家であるブライアン・ボイゴン氏の講演をレポート

世界のWeb業界で活躍するエキスパートをスピーカーに招き、様々な講演を行うWeb業界関係者向けのイベント「Web Directions East 2010(WDE)」が、2010年11月13日から15日に東京で開催された。リーバイス、ソニーミュージック、NTTなど一流企業の戦略コンサルタントを務めるブライアン・ボイゴン氏の基調講演を、WDEの主催メンバーでもある長谷川 恭久氏にレポートしていただいた。

独自の世界を構築するマスメディアと広告

Brian Boigon(ブライアン・ボイゴン)氏
ボイゴン氏はソーシャルメディアの専門家そして優れたリーダーであり、企業、メディア、学術関連と幅広い分野で活躍。MIT、プリンストンなど著名大学で教鞭をとると同時に、リーバイス、モートローラ、ジョッキー、ソニーミュージック、NTTなど一流大企業の戦略コンサルタントでもある。
漫画   ゲーム   遊牧民

Webマーケティングと未来を語る上でそんな言葉を使う人もそう多くはないですが、ブライアン・ボイゴン氏は、そんな一見突拍子もない言葉から未来を語ることができる数少ない方です。

Webの世界がスマートフォンをはじめとしたモバイル機器をきっかけに急激に身近になった近年。モバイル機器の進化だけでなく、FacebookやYouTubeを活用した新たなコミュニケーションがWebの世界で生まれており、Webでの情報の関わり方にも変化が見られ始めました。しかし、ボイゴン氏はこうした近年の動きについて、「マスメディアが普及してきた60年間にみる広告の歴史を考慮すればごく自然なこと」と考えています。テレビ、ラジオ、そして雑誌といったマスメディア媒体を利用して開拓し続けた広告業会。それがWebの登場によって変わったところはあるものの、広告・マーケティングの視点で共通しているところが幾つかあります。

マスメディアを利用した広告は真実のように見える幻想を作りだすこと、つまり嘘を作り出していると考えることができます。現実ではありえないシチュエーションのなかで、美男美女が笑顔で製品に顔を寄せていたり、大袈裟な表現を使ってサービスが紹介されていることがしばしばあります。しかし、嘘をついていることが一概に悪ではありません。

マスメディアで作り出されている空想の世界観は、視聴者に別のリアリティを示す1つの構造体と考えることが可能です。視聴者はたとえそれが真実ではないとわかっていたとしても、マスメディアを通して空想世界と触れることで、自分の世界でまた別のリアリティを作り出すわけです。それは頭の中での空想なのかもしれませんが、時には自分のライフスタイルに何かしら影響を及ぼすわけです。

独自の世界を構築し、その世界観を顧客に伝達することで、新たなリアリティを顧客のなかに生み出すマスメディア広告の情報伝達。こうした情報の流動をボイゴン氏は「漫画と似ている」と主張しています。平面上の漫画の世界では、動きや空間などの膨大な情報を限られた状態で伝えなくてはいけません。紙面というわずかな情報空間だけで、目に見えている情景を伝えるだけでなく、登場人物が置かれている状況や物語の背景を伝えることも行っています。情報を圧縮しつつ単刀直入に内容を伝えるために大袈裟な表現手法を用いることも多い漫画の世界ですが、こうした表現方法も広告と似ているといえます。

独自の世界を作り出すという意味では、マスメディアもWebにおける広告も変わりありません。一方で、限られた空間と時間という制約のなか、情報を圧縮しなければならないマスメディア広告に対し、Webでは膨大な情報量を活用して世界を作り出すことが可能になります。

消費者は空間や時間に捕らわれない遊牧民

ボイゴン氏は2000年に、ジーンズメーカーであるLevi'sのSilvertabブランドのキャンペーンを手がけた経験があります。3人の架空の人物が登場するこのキャンペーンでは、Webに点在する48のサイトを登場人物と一緒にユーザーが旅をします。つまり、Webそのものに架空の世界を作り出し、登場人物が見ている情景や対話を通して、Levi'sの世界観を伝えたわけです。

2000年当時のWebキャンペーンといえば、複数のバナー広告をニュースメディアサイトに掲載し、1つのプロモーションサイトに誘導するという形式が主流でした。また、ブログやソーシャルネットワークといったプラットフォームが一般的に使われる前から、参加者も交えてダイナミックに動き続ける世界観を作り出したわけですから、当時としては先進的な手法といえるでしょう。

漫画と同様、ゲームにはWebでのコミュニケーションを考える上で重要なヒントがあるとボイゴン氏は語ります。ゲームを消費者向けのエンターテイメントとして捉えるだけではなく、消費者のアイデンティティの1つになりつつあるという視点を忘れてはいけません。特にオンラインゲームの世界は、人と人のコミュニケーションが生まれており、多人数とのインタラクションから何か新しい価値を生み出しているという意味では、Webと近い部分があります。広告や漫画のように独自の世界観を視聴者に植え付けているだけでなく、作り出された世界を通して新しいアイデンティティが同時多発的に作り出され、発信者側が作り出した世界観とはまた別のものが生まれているゲームの世界。

私たちはマスメディア広告の時代から様々な世界を行き来していたということをボイゴン氏の講演を通して気付かされます。そして技術の進歩によって、情報の流動が多方向になっただけでなく、特定の空間や時間に捕われることなく自由に世界を行き来できるようになりました。こうした人々の動きをボイゴン氏は遊牧民と名付けています。

デバイスの普及によって自由に情報の取得と発信ができるようになったとことで、遊牧民である私たちは1か所に居座るということがなくなりました。つまり「こちらに来てくれ、こっちを見てくれ」というコミュニケーションの仕方では、消費者に目を向けてもらうことはできず、声を届けることすらできないわけです。

技術が進化しても変わらないコミュニケーションの本質

ボイゴン氏が手がけたLevi'sのキャンペーンは、今の遊牧民になった私たちにとって居心地の良い場所のプロトタイプだと捉えることができます。Webを1つの放浪する空間として捉え、1つのプロモーションサイトに集約せずに数多くのサイトを築くことで旅という概念を作り出しました。そして現代社会においては、「広告が60年前からもつ新たなリアリティを生み出すという特性」「漫画の情報伝達力」「そして多人数により新たな世界を創造できるゲームの力」、それぞれが強みを組み合わせ、私たちを遊牧民として捉えることによって、Webを活用しなければ作り出すことができない世界観を作り出しています。

今であればGPS、ソーシャルメディアなどを活用してもっとおもしろいことができるかもしれません。しかし、ここで注目しておかなければならないのが、技術やトレンドなど表層的な部分は常に変わりつつも根本的なところはあまり変化がなく一貫性を保っているという部分です。

ボイゴン氏が披露したランプの広告

ボイゴン氏は基調講演の最後にある製品の広告を披露しました。それは、あるランプの広告です。こうした形のランプはもう100年以上前からあります。当時は油で火を灯していたのかもしれませんが、次第にガスや電気へと移り変わり現在に至っています。形は似ていても、最新のランプは最新技術を活用したエコ電球かもしれませんし、太陽光エネルギーを使っているのかもしれません。

技術はどんどん進化していくものの、ランプそのものの形は100年前からほとんど変わらず今も残り続けています。このランプの広告は、時代が移り代わっても一貫性を保っている、人と人とのコミュニケーションそのものを象徴しているのかもしれません。

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