自己アピールの作り方。Web屋にとっては一石三鳥の歴史コンテンツ
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百八十八
老いも若きも悩むこと
日本人はとても「謙虚」です。あのバブル時代でも派手な「イケイケ」は少数派で、日本人のマジョリティは身の程をわきまえており、金満なニュース番組や相次ぐ破綻報道を他人事のように見ていました。ワンレン、ボディコンで躍り狂う女性のニュース映像しか知らない世代にとっては信じられないかもしれませんが、「少ない事例だからニュース」になるのが報道の基本です。
謙虚は「Web」の世界ではデメリットです。黙っていれば埋没し、目を引かないホームページは素通りされます。そして謙虚な日本人は「自己アピール」が苦手で、起業したての「若手」から、創業数十年の「ベテラン」にまで通じる課題です。そこで「自己アピール」について「ベテラン」と「若手」に分けて2週連続企画としてお届けします。
まず「ベテラン編」。節度ある「自己アピールのためのコンテンツ」は簡単に作れます。
ベテランの定義
ベテランの定義をここでは「10年以上の経験」とします。伝統産業などでは10年は「若手」と呼ばれる業界もありますが、ここでは「ベテラン」とします。ベテランと若手に分けるのは「アピール」する方法が異なるからで、本稿をお読みいただければわかりますが、「若手」を名乗るか「ベテラン」とするかは「自己申告」で、「芸歴十数年の若手」が存在する芸人の世界と同じです。
それでは10年とは「どこから数えて」となるでしょうか。会社組織なら「登記」から数えるのが手続き的には正しそうですが、小売店なら「開店日」のほうが感情移入しやすいでしょうし、個人事業なら「初めて売れた日」は記録に残したいものです。板前や理髪店のように「腕」がものいう技術職なら、修行期間を含めた通算が「キャリア」です。
感のいい方は気づかれたと思います。種明かしをすれば、誰でも「ベテラン」を名乗ることができます。
ユニクロは創業何年か
ポイントは「通算」。たとえば、クリーニング屋から印刷屋への転業でも「お客様のために○○年」とすれば「商売歴」として「通算」できます。これを「経歴詐称」だという指摘にはこう答えます。
印刷屋として○○年とは言ってない
通算して経歴を「水増し」するのは自己アピールの「基本」です。当然ですが嘘はいけません。
2009年に開店前の行列にアンパンと牛乳を無料配布して話題を呼んだ「創業60周年記念キャンペーン」を催したのは衣料品製造販売のユニクロ。ユニクロのWebサイトにある会社情報では1974年(前身のサンロード株式会社設立)となっています。すると、2009年時点では会社設立から35年。カラクリは、現社長の柳井正さんの御尊父が1949年に始めた個人商店「メンズショップ小郡商事」から数えたからです。父親のはじめた「個人商店」からの通算で60周年というわけで、衣料品販売を続けてきたからこそできる表現だといえます。
いまや「世界のユニクロ」となった巨大企業でも「年数」を水増しする理由は、日本人が「歴史」に弱いからです。そして「歴史」はコンテンツになります。
自己責任が苦手な民族
年表の暗記中心の教育カリキュラムの影響もあり「歴史」が苦手な日本人は多いのですが、商売においての「歴史」は大好きです。それは「みんなの意見」に賛同する国民気質によります。
「創業○○年」を日本人は顧客に支持された日々の積み重ねと考えます。それは「みんなの意見」であり、代々の「みんなの意見」に選ばれた店と錯覚するのです。すると、老舗と呼ばれる飲食店で「不味い」と感じても「口が合わなかった」、あるいは「繊細すぎてわからなかった」と、多くの人が自分のなかに責任を見つけようとします。「みんなの意見」に逆らうことを避ける傾向が日本人にはあり、これが歴史をコンテンツにするメリットとなります。
実力者の新参者(若手)が軽く扱われ、実力不足でも老舗(ベテラン)は一目置かれるのが「日本社会」の特徴です。だから、歴史を語り老舗を演出するのです。「だから日本は」と嘆くのは浅薄な評論家の仕事です。新参者にしかできない戦い方(自己アピール)もあるのですが、これについては次回までお待ちください。
歴史は実力を裏打ちしない
コンテンツの作り方を述べる前に閑話休題。
身もフタもありませんが「創業○○年」は信頼の担保とはなりません。創業60年のそば屋があったとします。開店当初、周囲には田畑のみで競合店はなく「独占企業」でした。開発が進むに連れ人口が増えますが、戦後の開発はベッドタウンとしての色彩が強く、移り住んだのは会社員だけで、競争のないまま今に至りました。そんな60周年の老舗と、繁華街で3年商売している店を比較すれば、後者のレベルが高いことは珍しくありません。顔見知り相手の片田舎の「洋品店」と、ファッション激戦区の裏原宿のブティックの違いといってもいいでしょう。
近頃は消費者の目が厳しくなってきていますが、一般のお客はここまで考えないため「歴史」でアピールできるのです。そして「10年(以上)」あればコンテンツは自動的に完成します。
歴史はなくても語れる
今年10年目を迎えるWeb屋さんを実例に挙げるとこうです。
2001年の9.11 米国同時多発テロで世界が騒然とするなか、我が社は産声を上げた。ヒルズ族の狂乱に浮かれることなく、ブログ、SNSと絶えず変化を続けるWeb業界を走り続けてきた。そして昨年来のツイッターのブレイクによる「ソーシャル」の流れにのり10年目を迎える。
「時事ネタ」を並べ、その時何をしていたかを記せば完成です。社史はもちろん、商品案内やトップページ(本当はホームページと呼ぶのですが)と、どこに配置しても「歴史」に弱い日本人へのさりげない「自己アピール」となること請け合いです。実績も目立つようにしておくといいでしょう。
最後にWeb屋さん向けの実戦テクを。「歴史コンテンツ」をお客に提案するときのセールストークです。
お客さんは物語が好きです。かつてNHKの「プロジェクトX」という番組が人気を博したのは、企業や商品開発を「物語」として紹介したからです。そして、会社の歴史とは「御社のプロジェクトX」、御社の物語を教えてあげましょう
これで会社の自己アピールコンテンツができあがります。さらに、「社長」にとって会社の歴史とは自分自身の人生で、社長は何より自分が大好き。自己アピールに会社紹介、加えて社長のご機嫌とりまで、歴史コンテンツはWeb屋にとっては「一石三鳥」であることはご内密に。
今回のポイント
通算することで誰もがベテラン。
10年あれば歴史が物語になる。
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コメント
閑話休題
閑話休題を意図的に誤用するのがベテランなのかしら。
「猿も木から滑る」
「猿も木から滑る」と温かい目で見ていただいても「医者の不養生」と誹っていただいても結構です。
ただ、文章に関してベテランとするほど傲慢でもなく本旨は「ベテランを名乗ること」であり、この違いをご理解いただけなかった文章力のなさを明日の糧とさせていただきます。