ネット時代の中小企業ブランディング序章。三越ブランドにみる栄枯盛衰
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百弐十弐
アンパンマンも関与していた
いまから15年以上前のことですが、百貨店やデパートで受けた注文を出荷する「発送センター」に勤めていたことがあります。贈答用の化粧箱に入った商品に、伝票とのし紙を貼り配送業者に引き渡す仕事です。ほとんどがのし紙を貼るだけの「簡易包装」なのですが、伝票に「包装」とあれば購入されたデパートの包装紙で包みます。多くの店は包装紙を「束」で扱いますが、百貨店の三越だけは1枚単位で管理し、やぶれて破損した紙も返却しなければなりませんでした。三越の包装紙は三越で購入したお客様だけが得られる特典であって、その流出を防ぐためです。三越とは一級品の代名詞で、その象徴が包装紙。いわゆる「ブランド」です。
ブランドは差別化や競争力を生み出します。中小企業や個人事業でもブランド構築=ブランディングに取り組まなければなりません。そしてネットがブランディングを助けてくれます。余談ですが三越の包装紙にある筆記体の「Mitsukoshi」は「アンパンマン」の作者やなせたかしさんによるものです。
ブランドは必須命題
経済学者の理論に「一物一価」というものがあります。同じ商品は同じ値段になるというもので、1つの店が安売りを始めれば周りの店舗も合わせ同じ価格になる……という考えです。実際には高くても売れる店があれば閑古鳥の鳴く安売り店もあり、さまざまな要素から価格は成立し学者の理論通りにはなりません。そして価格形成に「ブランド」は大きな役割を果たし、三越の包装紙はそのシンボルでした。
ベストセラー『スタバではグランデを買え!』のなかでこの価格差を「取引コスト」という概念で説明しようと試みます。費用負担と顧客心理を同列に語る解説は、商売現場の視点から見れば我田引水の感は拭えませんが「取引コスト」を「ブランド」と置き換えればメリットを理解する一助となります。
ブランディングの最初の一歩
CIやロゴをもってブランドとするのは間違いです。喜ぶのはコンサルタントとデザイナーだけです。三越の包装紙はすべての「三越社員」の積み重ねた信用と信頼によって輝くのであって、ロゴやアンパンマンの力ではありません。ブランディングに取り組む際にはまりやすいワナですのでご注意ください。
またブランドとは高級品だけのことではありません。機能性に品揃え、そしてリーズナブルが「ユニクロブランド」ですし、どんな商品と出会えるかはわからない宝探し感覚が「ドンキホーテ」です。また「鰻屋」は注文から料理がでるまで1時間近くかかるのですが、これは生きた鰻から調理していれば当然のことで待たせることも価値を高めます。つまり何が「ブランド」になるかの基準はないということです。それではどうやってブランディングに取り組めばよいのでしょうか。
嘘以外ならなんでもあり
結論を述べれば落胆するかもしれませんが、一朝一夕に実現できる「必勝法」などなく、コツコツと実績と信頼を積み重ねていくしかありません。ただし黙って努力をしていても人には伝わらないもので、かといって「私たちはこれだけの努力をしています!」と喧伝するのは奥ゆかしい日本人に馴染まないものがあります。そこでブログやメルマガの登場です。実績、取り組み、考え方を発信します。クチコミしかなかった時代と比べものにならない伝達能力を持ったツールを安価に利用できるのは、ネット社会で商売ができることの恩恵です。
ブログ(メルマガ)は時系列で保存され「歴史」となりこれがブランドを裏打ちします。つまりブランディングのためのブログは常に「歴史の1ページ」を刻む姿勢が求められるということです。ただし緊張することはありません。また、そのときに考え、思ったこと、取り組みに嘘は不用です。いや、正しくは「嘘」以外なら何を書いてもいいでしょう。ブログの「嘘」を戒めるのは道徳的理由ではありません。
脱税と節税と帳尻合わせ
会社員時代に取引のあった社長がいいました。「節税はともかく脱税は割に合わない
」。二重三重帳簿をつくり帳尻合わせする手間にコストがかかり、帳簿のために考えた「架空のストーリー」を記憶しておくのが面倒だといいます。ならばちゃんと税金は納めて「商売」に取り組む方がポジティブだということでした。ブログの「嘘」も同じで、年月が記憶を風化させ「つじつま合わせ」が面倒だというのが理由です。
「いやっほー! 今日はスタッフと飲み会!? ビールごきゅごきゅ、つまみバクバク。親友の○○社の××社長も乱入して大盛り上がり(馬鹿騒ぎしている写真を添えて)」
架空の「社長ブログ」です。嘘以外なら何でもありとしましたが、上地雄輔さんや中川翔子さんというタレントでない一般人のどうでもいいプライベート情報でブランディングは難しいことだけは指摘しておきます。
変わらないためには変わり続けること
ブログをブランディングツールとする手法は特に珍しいものではありません。しかし、あえて本稿で紹介したのはブランディングの永遠のテーマに触れることができるからです。
「三越の包装紙」は今でもブランドです。しかし、5月6日に惜しまれつつ閉店した池袋三越の報道をみると集まったファンの年齢層は高めでした。元号が平成となった20年前すでに「若者の百貨店離れ」が指摘されており、当時の20代が「アラフォー世代」となりました。積極的な消費のボリュームゾーンである40歳代未満は「三越の包装紙」を経験しておらず衰退とリンクします。「包装紙」への過信はなかったのでしょうか。一方、19世紀から続くルイ・ヴィトンという「ブランド」は村上隆氏によるモノグラムの採用などチャレンジとチェンジを続け銀座のルイ・ヴィトンは盛況です。ブランディングにゴールはなく走り続けなければならないと語りかけてくるようです。
ブログによるブランディングも同じです。チャレンジとチェンジを繰り返しながら書き続ける。一朝一夕とはいきませんが繰り返すことでブランドが構築され、朝夕の営みが絶えたとき崩壊が始まります。
♪今回のポイント
ブランディングとはロックンロール。
永遠に変わり続けなければならない。
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