コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百弐十参
頑張れ! 楽天三木谷氏
6月1日に薬事法が改正されました。市販薬はリスク順に1類から第3類まで3つのカテゴリに分類され、1類と2類の2つを通信販売禁止としました(医薬品の新販売制度)。これに楽天社長の三木谷氏が噛みつきます。消費者の利便性が損なわれるうえに、僻地や離島に住む人、障害者に買いに来いというのは無茶な話だと理由を挙げます。
また、古来より受け継がれてきた「伝統薬」は2番目にカテゴライズされ規制の対象です。伝統薬はそれこそ「僻地」で製造されるものが多く通販が主流で規制は死活問題です。ちなみに「富山の置き薬」も通販禁止となります。伝統薬については、離島に住む人など条件付きで2年間は購入できるという経過措置が設けられましたが、薬に洒落れるなら「延命措置」に過ぎません。一方、「薬害」の立場から規制を推奨する主張にも頷くところはあり、事実上野放しに近い状態の「薬通販」を放置するのは確かに問題です。
商売用のホームページに携わる以上「法」と無縁ではいられません。薬事法改正から商売とルールについて考えてみます。
足音は確実に響いていた
私見を述べれば「頑張れ! 三木谷さん」です。彼の意図するところは存じませんが、「対面販売」と「(ネット)通販」という対立軸で議論することがナンセンスで、消費者の安全と利便性を中心に据えて考えれば「規制」すべきは「通販の方法」であって通販そのものではないからです。
厚労省の省益確保のために薬事法の強化を狙っているという噂は以前からありました。よくある「役人批判」の中傷だろうと考えていたのですが、とある健康サイトを手伝ったときにこんなことがありました。
「このサイトは登録できません」
とある検索エンジンへの登録を申請したところ「薬事法に触れる」という理由で却下されたのです。
法の解釈というファジー
※1 薬事法の第66条~第68条では医薬品に関する広告の基準が定められている。医薬品等の広告規制について(東京都福祉保健局)
体験談にあった「症状が改善されました」が認められないといいます※1。正確には検索エンジンに「顔が利く」と自称する仲介業者の弁なのですが、客観的証拠や、論拠となるデータを示さない限り薬事法に抵触するというのです。服用した人の感想でも「却下」と門前払いです。彼はその理由を「役所がうるさくなった」と述べます。
他にも効果効能を連想するものはすべて削除しろと指示され、20数ページあったものが、たった6ページとなりました。さらに外部リンクもすべて外されました。リンク先にあった「体験談」が薬事法で認められず「リンク先も1つのサイトとしてみる」といいます。
社会の仕組みは中学校で習った
この検索エンジン会社に直接問い合わせてみると、この会社自体は「公序良俗」と「常識」以外に掲載の可否を示すことはないといいます。掲載基準の公開とはいわゆる「SEO」の答えをばらすようなものですから当然で、「裏口審査」があるというのはあくまで仲介業者の主張です。もっともこの手の噂が絶えない検索エンジンではありますが。
ここで「ルール」の成り立ちを考えてみます。私の通っていた中学校は「やんちゃ」な生徒が多く、ルールを無視することは当たり前で、水が低きに流れるように普通の生徒に伝播します。そしてルールという規制が強化されていきます。薬やダイエット目的の食品も「良識」に則り運営されていればルールで規制する必要はありません。つまり、守らない人のためにルールは作られていくのです。
さらにこんな例もあります。同じく中学校には指定の通学靴がありました。同じ町内に「靴屋」はあったのですが、自転車で30分ほどかかる隣の区にあるスポーツショップでしか販売されていません。ショップの店主と体育教師が友人であったことと何か関係があるのでしょうか。
節税と脱税とのボーダー
重ねて述べますが検索エンジンとして「掲載不可」ではありません。しかし、裏口を示唆する仲介業者は薬事法に「触れそう」なものは却下します。仮に「気づかず」に登録されたのであれば削除で済むかもしれませんが、許可したとなればどんな責任が発生するかわかりません。例えそれが「噂」であってもリスクを背負うのは得策ではなく、事前に却下することを商売人として非難できません。「お上」に目をつけられては商売がやりづらくなるのです。
節税と脱税の関係に似ています。必要経費を正しく申告し、各種の優遇税制を利用するのは「節税」です。しかし税務署が節税と認めなければ修正申告が必要となり、悪質な場合は脱税です。この判断は個別事案で異なることが多く、たとえば「芸能人の衣装代」が時々話題になるのもこのためです。そして一般論として「衣装代は必要経費になるか」を問われても答えようがないのなら「やめた方が無難」と答えるのが一般論として無難です。
リスクはついて回るもの
バブル絶頂期の山手線。線路はタバコの吸い殻でいっぱいでした。当時はホームでタバコが吸え、そこつな喫煙者が線路に投げ入れていました。時は移りタバコを吸うと非国民のような目で見られます。今でもJR前身の旧国鉄の負債はタバコの代金に含まれ、喫煙者はスパスパと返済に協力しているのですが、JRのホームでタバコが吸えなくなりました。
ルールは時代の要請と為政者の都合で変わります。そして法治国家では「ルール」が決まってしまえば従わなければ犯罪者です。「薬の通販規制」は果たして対岸の火事でしょうか。そして「健康関連」の規制強化はまるで藪の中に潜む蛇のようにこちらを睨み、規制の網はネットそのものへと軸足を移しつつあります。
6ページとなった健康サイトにアクセスはなく途方に暮れていました。耳元で悪魔が囁きます。
「体験談は主観。個人の考えを否定することは思想信条の自由に抵触する憲法議論。仮に規制するとしてもその前に打診があるはずで見つかったらゴメンナサイ。ただし、1日100PVもないような弱小サイトを相手にするほど霞ヶ関は暇じゃない」
薬事法と憲法のどちらが上かは法律家に訊ねてほしいのですが、仲介人を無視してもちゃんと検索エンジンに登録されアクセスを稼ぎ商売を営んでいます。
♪今回のポイント
リスクと法のバランス感覚。
業界に関する法律はおさえておかなければならない。
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