■カジュアルゲームのデザインパターン
■カジュアルゲームのデザインパターン
「んでね、僕思ったんだけど、カジュアルゲームに求められているのっていわゆる今まで僕らが『ゲーム』だと思ってきたものとは違うんじゃないかと」
K氏「またお得意のアレか」
「まあお得意のアレなんだけど、こんな図(下図)になってると思うんだよね」
T氏「ああ、まさに、いまのカジュアルゲームってだいたいこんな感じですね。GREEのゲームもモバゲーのゲームもすべて当てはまる」
K氏「なんだこれ、ゲームというよりパチスロじゃないか」
「そのとおり。というか、僕は長年、なぜ人はパチスロにハマるのか理解できなかったんだよね。最初は、それがギャンブルだからだと思っていた。けど、家庭用ゲームやケータイアプリとしてもパチスロのクローンは売れてるわけ。もうそれはギャンブルじゃない。ということは、『ギャンブルだからおもしろい』のではなくて、そもそもおもしろいものであって、『ギャンブルだからおもしろさがわかる人も多かった』んじゃないかと」
T氏「え、清水さんパチスロやるんですか?」
「いや、僕は人生がギャンブルだから……」
K氏「さすが。で、パチスロのゲーム性ってこんなもんだと」
「あとは見立ての問題で、パチスロっていうのは要するに法律の問題で、たとえば当たる確率なんかは非常に厳密に決まってる。だから見せ方や体験を工夫するしかパチスロをおもしろくする方法はないわけで、それで版権ものとかがやたら多い」
K氏「冬ソナなんか大ヒットらしいよな」
「で、パチスロがおもしろいのって、要するにスリルとインセンティブがあるからなんだよね。それがかなり高速で行ったり来たりする。スリルっていうのはお金が減って行くってことで、インセンティブはそれが増えることなんだけど」
「けど、驚くべきことにゲームセンターのコインゲームは男女問わず人気のある遊びで、これはインセンティブはコインが増えるっていう部分にはあるけど、実際には換金できない。換金できないのにインセンティブがあると錯覚するところが凄いんだよね」
T氏「あれは満足感あるんですよね。500円の元手でこんなに勝ったぞっていう」
「で、僕はゲームセンターのコインゲームは過渡的なものとして捉えているんだけど、要するにコインを換金不能にしてもおもしろいことをそれで証明できてる。次のステップとして、そもそもコインを賭けたり増やしたりする投機性は実際に必要なのかと考えてみた」
K氏「うん、それで?」
「よく考えたら、それすら要らないかもしれないと思ったんだよね。たとえばそれはコンピュータゲーム自身が証明しているように、人はインセンティブが『物語』であっても満足するものなんだ。いや、物語ですらなくてよくて、自分が何かをやったという証が、スコアなり勝敗なりの数字として残ればそれでいい」
K氏「なるほど」
「けれども、たとえば頭を使ったりとか反射神経を使ったりするゲームは疲れるし、そもそも習熟するまで遊べないものが多過ぎる。ケータイみたいな環境ではほんの数秒だけ時間を潰せればいいから、家庭用ゲームみたいに何時間も腰を据えて遊ぶゲームだったり、ゲームセンターみたいに数分から数十分遊んでも結果が毎回リセットされるようなゲームデザインは、そもそも向いていない。ケータイの場合、ルールさえ理解したくない訳だから、何も考えずに遊べるゲームがいい」
K氏「だからパチスロなのか」
「正確には、パチスロを作ることではなくて、ユーザーからの介入や習熟を極限まで減らした結果、パチスロ的になるということだと思うんだよ。日本のパチスロはそれでも複雑で、レバーとボタンがあるけど、アメリカのスロットはレバーしかないんだよね。僕はケータイのカジュアルゲームはレバーだけでいいと思う」
K氏「でもそれだけだと飽きるだろう」
「そう。飽きちゃう。飽きちゃうからコンテキストを持たせるんだよ。さっきの図でいうと、確率αだけで勝ち負けが決まっちゃうと飽きちゃう。だから確率αと確率βが必要。確率αで次の段階に進んで、ここで確率β、できればユーザーからのなんらかの操作への介入で当たりはずれが決まると完璧」
K氏「パチスロでいえば予告リーチや確変に相当する処理か」
T氏「確変に入ると燃えるんですよね」
「この確率α、βをアイテムで変動させると、コンテキストができる。そして当たりゲットの「集合M」と書いてる部分があるけど、この集合Mが位置によって変化すると位置ゲーになる」
K氏「結構単純なんだな」
「それで、こういうのを基本として、この図みたいな外部構造を持たせると、さらに長く遊ぶことができる」
K氏「これは?」
「これは『Mob Wars』や『MafiaWars』といったゲームで良く用いられているデザインパターンで、ミッションをクリアすると経験値がたまり、経験値がレベルを上げ、レベルをあげるとミッションがアンロックされるという非常にシンプルな構造を示したもの」
K氏「こんなのおもしろいの?」
「結局、ユーザーが求めているのは数秒間の暇つぶしなので、一度の操作は数秒以下で終わり、操作と操作の間に意味付けをするコンテキストが生まれればいい。実際、『Mob Wars』をはじめとしたこのスタイルのゲームは、Facebookアプリで大量にクローンが作られるほど大人気なんだよね」
T氏「日本のケータイゲームでもこういう型式のものは増えてきてますね」
K氏「これだったらすぐ作れそうだなあ」
「あとはコミュニティ要素。これをどう絡めて行くかっていうのが肝なんだよね。そこもいくつかデザインパターンはあるんだけど、まだ図にしてない」
T氏「でもケータイのゲームって飽きさせないようにする工夫が大変なんですよね。やりっぱなしだとユーザーもついて来ないから」
「だからね、僕はこれほんと10年前からだけど、ケータイゲームの運用にこそCMSが必要だとずっと思ってて、10年前に作った最初のゲームの時点ですでにかなり高度な管理ツールは作ってたんだよ」
K氏「まあ当時は各社いろんな工夫をしてましたわなー」
T氏「でもCMSっていまの清水さんのご専門じゃないですか」
「そうなのよ。だからうちのZEKE CMSにソーシャルゲームが作れるプラグインを作ってですね、売り出したんですよ。Web担ではニュースとしてさらっとしか扱ってくれなかったのが残念なんだけど……※。
■今日のまとめ
K氏「いやー、飲んだね」
T氏「今日はアレですね。とり合えずソーシャルゲーム作ろうよと」
K氏「おれも趣味で作ろうかなー」
「ギャンブルが嫌いな人も勉強のためにパチスロやってみよう、とか」
T氏「ソーシャルゲームのお問い合わせは清水さんまで、とか(笑)」
その十二!
いま人気の「ソーシャルゲーム」をまず徹底的に遊んでみるべし!
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この記事の筆者
清水 亮
株式会社ユビキタスエンターテインメント
代表取締役 兼 CEO
電気通信大学在学中に米Microsoft Corp.の次世代ゲーム機向けOSの開発に関わり、1998年末に株式会社ドワンゴ入社。1999年に同社で携帯電話事業を立ち上げる。2002年退社し、米 DWANGO North America Inc.のコンテント開発担当副社長を経て2003年独立。2005年、独立行政法人情報処理推進機構により、天才プログラマー/スーパークリエイターとして認定される。
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