【小説】CMS導入奮闘記――吉祥寺和男の挑戦

主張する秋葉原

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主張する秋葉原

吉祥寺は、空になった缶をダストボックスに捨て、再び会議室に入った。ほかの4人はすでに席について、吉祥寺が戻るのを待っていた。まもなく再開された会議で最初に口を開いたのは、意外にも、それまで一切発言することのなかった秋葉原だった。

「主任、国分寺さんが言うように、高けりゃいいってもんじゃないと思うよ」

最適なCMSはどれだ?――大は小を兼ねるのか……荒れるCMS選定会議/CMS導入奮闘記#6

秋葉原は、吉祥寺を諭すように話し始めた。

「高いCMSだと、営業がちょくちょく様子を伺いにきたり、厚いサポートを提供してくれたりするけど、そもそもそんなもの必要ないでしょ。それに、機能がやたらと多くて扱いが難しいCMSを入れたら、結局苦労するのは我々情シスなのよ」

秋葉原の意見もまた吉祥寺と対立するものだったが、一貫して傍観者のスタンスを保ち続けてきた秋葉原がいくぶん前のめりになって議論に参加してきたのは、吉祥寺にとって歓迎すべきことだった。秋葉原がこのリニューアルの動きに主体的に参加してくれれば、作業がスムーズになることは明らかだったからである。

「なるほど。じゃあ、秋葉原さんの立場から見て、CMSに必要な条件って何かな?」

吉祥寺は、さらなる参加を促そうと、秋葉原の意見を乞うた。

「うちで使っているシステムに適合するか、トレンドに沿っているか、信頼性はあるか、導入のハードルが高くないか――。そんなところかな。安い方の『Site Press』でも十分その条件を満たしているんじゃないの?」

国分寺も秋葉原も、この領域におけるプロフェッショナルである。その2人のプロの意見が一致している以上、その判断を尊重することが吉祥寺の取るべき選択であるのは明らかだった。吉祥寺は、持論に執着することをやめ、彼らの判断に身を委ねようと考え始めた。

「わかりました。念のため、神田さんの意見も聞いておきたいな」

吉祥寺は、やはりそれまで口を開くことのなかった神田に話を振った。神田は少し考えてから、

「情報更新の画面と、作業負荷が軽減するポイントを確認しておきたいんですけど……」

と言って、持参してきた過去の更新スケジュールをテーブルの上に広げた。

「四ツ谷君」

即座に説明を促したのは国分寺だった。四ツ谷は戸惑うこともなく、それまでメモをとるために使っていたノートPCの画面を神田に見せ、淀みない説明をしてみせた。その手慣れたやり方は、吉祥寺を大いに感心させた。

「それから、もうひとつ」

四ツ谷の話を聞き終えた神田が言った。

「CMSはブログみたいなものってよく言うじゃないですか? CMSって、ブログに権限管理とかワークフローの機能がついたもの、くらいに理解しておいていいですか?」

それに答えたのも、四ツ谷だった。

「間違いではありませんね。情報の入力の仕方はブログに似ていますし、社内の複数の部署で管理できるように、権限やワークフローに関する機能がついているというのもその通りです。でも大きく異なるのは、情報設計に関する考え方です。ブログの情報は、基本的に時系列で積み重なっていきますよね。一方、企業サイトの場合、新たに追加された情報は、ほかの情報と適切に関係づけられ、最適な場所に置かれなければいけません。それを実現してくれるのがCMSです。CMSはブログみたいなものだけれど、情報設計に関する思想がブログとは大きく異なる――。それが正解じゃないでしょうか」

そして、ようやくスタート地点に

ミーティングの前半はひたすら無言で議事の内容をPCに打ち込んでいた四ツ谷だったが、最後の段になって、俄然存在感を示し始めた。「他に解決しておくべき点は?」という吉祥寺の言葉を受けて、四ツ谷は、次回に行われることになっているキックオフミーティングで話し合うべきポイントをいくつか挙げてみせた。そこには、従来のウェブカタログの扱いをどうするか、コンテンツ移行をどうするかといった、それまで誰も言及することのなかった視点が含まれていた。

吉祥寺は、四ツ谷の話に耳を傾けながら、彼がファミリー製薬のウェブサイトを隅々までチェックしていること、四ツ谷を「頼りになる男」と吉祥寺に紹介した立川の言葉に偽りがないことをあらためて確認した。

当面の問題はすべてクリアーされたようだった。吉祥寺は、国分寺、神田、四ツ谷、秋葉原の順にそれぞれの顔を見て、追加の発言がないことを確認すると、

「それでは、導入するCMSは『Site Press』に決定します。長時間お疲れさまでした」

と言って、参加者全員に頭を下げた。和やかな空気が場を満たし、ミーティング開始時にメンバー間にあったピリピリした雰囲気がすでに過去のものとなったことを誰もが感じた。

「我々の方でも導入に向けた環境を整えておきますよ、主任」

秋葉原は、そう言って席を立った。相変わらず無愛想ではあったが、その口調からは、ほんの微かな高揚感のようなものが伝わってきた。

激しく議論したことでむしろメンバー同士の距離が縮まり、チームとしての一体感が生まれた。そんな実感を吉祥寺は得ていた。

「これで、ようやくCMS導入のスタート地点に立てた」

吉祥寺は、そう小さく呟いた。絶えて久しく感じたことのなかった胸の高鳴りを、彼は覚えていた。

次回予告
第7話 プロジェクトのスタート

キックオフミーティングを経て、いよいよファミリー製薬のウェブサイトリニューアルの実作業がスタートした。しかし、クライアント側の担当者がやらなければならないことのあまりの多さに吉祥寺は閉口する。一方、国分寺は、クライアントと制作会社を含むプロジェクトチームのモチベーションを一致させなければならないと考えるのだった。

プロジェクトのスタート――プロジェクトの裏に見え隠れする国分寺の思惑/【小説】CMS導入奮闘記#7
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