最適なCMSはどれだ?――大は小を兼ねるのか……荒れるCMS選定会議/【小説】CMS導入奮闘記#6
前回までのあらすじ 見積もりの依頼に失敗した吉祥寺は、RFPの存在を知り、再び見積もりを取る。見積書の内容から絞り込んだ最終候補のプレゼンによって、発注先はコムコムファクトリーに決定するのだった。(→第5話を読み返す)
リニューアルに向けプロジェクトチームを結成した吉祥寺たちは、まずは導入するCMSを決めるべくミーティングを繰り返す。2つの候補まではスムーズにいったのだが、ここにきて吉祥寺と国分寺の意見が対立し、会議室は不穏な空気に満ちていた。
CMSの候補は2つ
ミーティングが始まってから、すでに1時間が経とうとしていた。吉祥寺は短い休憩を取ることを提案し、席を立って会議室を出た。
プロジェクトチームが結成されてから2回目となるミーティングだった。導入するCMSを正式に決定すること。それがこの集まりの主旨だった。吉祥寺、神田、コムコムファクトリーのディレクター国分寺とアシスタントの四ツ谷。その4人の正式メンバーのほか、1回目のミーティングに引き続き、情報システム部の秋葉原も同席していた。
吉祥寺が休憩の提案をしたのは、自分自身の頭を冷やすことが目的だった。この1時間ほどの時間は、ほぼ吉祥寺と国分寺の議論に費やされていた。頭を冷やし、論点を整理したうえでもう一度話し合えば、結論が見えてくるに違いない。そう吉祥寺は考えたのである。
吉祥寺は、休憩ルームのソファに座って、冷たい缶コーヒーを飲みながら、ここまでの会議の内容を反芻した。
1回目のミーティング以前に、吉祥寺は神田とともに、独自にCMSの候補選定の作業を進めていた。資料を集め、CMSベンダーが主催するセミナーに参加し、ベンダーの営業担当とも直接話をし、デモを見せてもらった。そうして、4タイトルのCMSが候補として絞り込まれた。安価で技術者からの評価も高い「EZ Type」、構造がシンプルで、小中規模のサイトで多く利用されている「Site Press」、承認フローなどの情報管理機能に定評のある中大規模サイト向けCMS「Web Slash」、そして、極めて豊富な機能をもつが、それゆえに導入コストも高い「Group Sites」――。以上がこの時点でリストアップされたタイトルである。このうち、「Site Press」と「Web Slash」は、コムコムファクトリーから提出された見積もりでも名前が挙げられていた。
プロジェクトチームの1回目のミーティングでは、この候補をさらに絞り込む話し合いがもたれ、ほぼ異論なく「Site Press」と「Web Slash」の2アイテムが最終候補として残された。この2つの中から導入すべきCMSを最終的に決める話し合いが、現在まさに進行しているのだった。
吉祥寺 vs 国分寺
スムーズに進むと思われた話し合いが難航したのは、吉祥寺と国分寺の意見が真っ向から対立したからである。吉祥寺は、機能がシンプルな「Site Press」よりも、より高度な機能をもち、それゆえに価格も高い「Web Slash」を導入したいと主張した。吉祥寺の主張の内容はこうである。
「Web Slash」は「Site Press」よりも豊かな機能をもっている。今後、ウェブサイトが拡張していく可能性があることを考えれば、CMSの機能が豊富であるのに越したことはなく、予算的にも導入が不可能ではない以上、「Web Slash」を選ぶべきではないか――。
それに対し、国分寺はこう反論した。
「確かに、『Site Press』の機能は『Web Slash』に比べれば見劣りします。でも、重要なのは、機能が目的にマッチしているかどうかでしょう。目的を達成するための機能さえあれば、余計な機能は必要ないと思います。吉祥寺さんが作ったRFPを見る限り、『Site Press』の機能で十分です」
「しかし、目的のこの部分に関してはどうだろうか。“情報更新と運用をスムーズにすること”。ここに関しては、『Web Slash』の機能があった方がいいと思うんだけど」
「情報更新時の承認フローは、確かに『Web Slash』の方が充実しています。でも、そこまでの厚い機能は必要ないです。吉祥寺さん、CMSって、機能が多くなるにつれて扱いは難しくなるんですよ。扱いが難しくなるということは、それだけ定着させにくくなるということです。せっかく入れたCMSがうまくワークしなかった。そんな展開になるのを防ぐためにも、シンプルで過不足ない機能のCMSを選ぶべきです」
国分寺はさらに続けた。
「コストの面から見ても、制作費とか、ほかの項目を削れば、確かに『Web Slash』は手の出ない製品ではありません。でも、それは言ってみれば無駄な出費です。CMSの導入費用を抑えて、残った予算を今後のコンテンツの拡充とか社員のウェブ研修に充てる方がよっぽど賢いやり方ですよ」
国分寺は非常にストレートな物言いをする女性だったが、その主張は明快で、議論をぐいぐいと前進させる力に満ちていた。会議の参加者は、彼女の話に逐一納得させられた。吉祥寺も納得していかなったわけではないが、「どうせ買うなら高い方がいい」という、金を使う立場にある者のいわば無定見な「欲」のようなものに捉われていたのである。
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