お客様の視点で店舗環境分析をして自分の「とんがり」を見つけよう
この記事は、書籍『楽天市場公式 ネットショップの教科書』の内容を、Web担当者Forum用に抜粋してオンライン版として公開するものです。本書は楽天市場に出店するネットショップの運営ノウハウ、繁盛する秘訣を楽天スタッフ自らが書き下ろした、唯一の公式解説書です。
『楽天市場公式 ネットショップの教科書』
- ISBN9784844324607
- 1,600円(税込 1,680 円)
- 楽天大学 編 /三木谷 浩史 監修
ショップコンセプトを磨く
――見せるトップページの秘訣7
「韓国世界のグルメ@キムチでやせる」(以下、「キムやせ」)を例に店舗環境分析を行なってみます。まず「お客様」について考えていきましょう。「キムやせ」がお客様として考えるべき生活者がどのようなニーズを持っているのかという視点で見ていきます。「○○志向」や「○○ブーム」という形で表現できるものを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。
- 本物志向(スーパーで売っているような塩づけのキムチではなく、本場のおいしいキムチが食べたい)
- 健康志向(添加物の使われていない自然食品を食べたい)
- ダイエットブーム
- 激辛ブーム
- 韓国ブーム
など
これらのお客様にアピールする文章がページの中に確実に盛り込まれています。すべてがトップページに書いてあるわけではありませんが、例えば、「当店のキムチは地元鶴橋のキムチ名人が本場の調味料や隠し味を用いて作る本場韓国キムチです」とか、「唐辛子の成分であるカプサイシンは体内脂肪を燃焼する効果もあります」などの説明文が書かれています。
ここで特筆すべきなのは、「ダイエットに関心のある層」をお客様として対象にした点です。実際、「キムチでやせる」という店舗名にすることによって、多くの女性をお客様とすることにも成功しています。キムチを扱う競合他店舗にはないアピールの方法といえます。
次に、「競合店舗」について考えていきます。「キムやせ」の競合店舗とは、どういう範囲で考えるのが適当でしょうか。単純に思いつくのは、楽天市場でキムチを扱っているお店です。もしこれしか思い浮かばなければ、また「自店舗の視点」に戻ってしまっているといえます。お客様の視点で考えましょう。「キムチを買おう」と決めたお客様は、「キムやせ」や楽天市場の他のお店で買う以外に、楽天市場外のインターネットショップ、さらに近所のスーパーで買うという選択肢も持っています。
また、これがお中元商戦を想定した場合だとすると、さらに事情は変わってきます。そもそもお客様に、「お中元に(ビールやお茶や海苔ではなくて)キムチを贈ろう」と思ってもらわないといけないので、お中元に贈られる可能性のある商品を扱っているすべてのお店が競合となります。このように、競合の範囲はケースバイケースで考えるものです。ただ、注意しておかなければならないのは、競合の範囲を狭く考えすぎない(パイが小さすぎてはダメ)ということです。その中の競争で勝っても十分な利益が得られなければ意味がないからです。
ここでは、店舗環境分析の考え方の修得を目的としていますので、便宜上、競合店舗の範囲は、「楽天市場でキムチを売っているお店」と「近所のスーパー」あたりを想定して話を進めていくことにします。また、競合商品としては、「韓国からの直輸入品」と「大手メーカーによる量産品」を考えておきます。
強みを伸ばし、弱みは長所に変えてしまう
では最後に、「自店舗」について考えてみましょう。まず強みとしては、
- 専門性
- 品揃え
- 品質(味・鮮度)
- 本物志向・本場(鶴橋コリアンタウン)
- 韓国食文化に精通した在日韓国人社員
- 顧客サービスマインド
などが挙げられるでしょう。続いて弱みですが、そもそも「キムやせ」の運営主体はプラスチック製品の製造・販売を行なっている会社であり、知人でおいしいキムチを作っている人がいるので、「これをインターネットで売ってみよう」と思った、という経緯があります。したがって弱みとしては、
- 自社工場・実店舗がない(在庫が持てない)
- 小売りの経験がない
という点がありました。注目すべきは、「キムやせ」がこれらの弱点を弱点としたまま抱えているのではなく、見事に克服している点です。
まず、工場や実店舗がないために在庫が持てない点については、「受注生産による無在庫販売」というビジネスモデルにすることで解決しています。しかも、「手作りだから1週間」というコピーを考え出すことで、1週間かかることを「品質へのこだわり」というウリの1つとして見せてしまっています。
小売りの経験がない点については、小売りのプロに教えを乞うのではなく、「原点に戻って自分たちでお客様の気持ちを知ろう」と考え、いろいろなインターネットショップで買い物をしてみることにしました。そこで感じた「ここはよい」「これはダメ」という経験を自分のお店へ反映させていくことで、お客様への配慮が行き届いたお店づくり・店舗運営を実践していったわけです。そしてこの点も、ページで「お客様第一主義」と謳われているように、お店の強みにまで昇華されています。
この「キムやせ」の「弱みを強みにしてしまう発想方法」は非常に参考になります。当時の店長さん(現・顧問)は、こういっています。
「インターネットに適したビジネスモデルを考えていかないと勝てません。今までのしがらみに捕らわれて、あれができない、これができない、といっていては絶対に成功することはできない。『従来のビジネスモデルなんてぶち壊せ!』というくらい理解のある経営者がいるところでないと、お客様本位のサービスをスピーディーに実現するのは難しいでしょう。それから、自分がインターネットで買い物をしない店長さんも絶対に成功しません」。
競合相手によってアピールポイントを変える
お店の弱みを克服している「キムやせ」のことですから、競合店舗・競合商品に対する対策も、もちろんよく練られています。
それでは、先ほど説明した、2軸をとってポジショニングする手法にあてはめて考えていきましょう。
まずは「スーパー」に対してどのような差別化を行なっているかを見ていきます(図1)。ここでは軸として、品質と品揃えを選んでみました。「キムやせ」のページを見ると、品質については、スーパーの塩づけキムチとは素材・味つけが違い、栄養価が高くておいしい旨が書かれています。
品揃えは豊富です。トップページに商品がズラッっと並んでいる様子も品揃えが豊富な印象をお客様に与えます。
これらのことから、「キムやせ」では、スーパーでは手に入らない品質・品揃えの商品を売っているので、お客様がスーパーではなく「キムやせ」で注文する理由があることになります。
では次に、「楽天市場内でキムチを扱っている競合店舗」に対する位置づけを見ていきましょう。今度は「品揃え」と「専門性」を軸にとってみます。
そうすると、それぞれを見比べたイメージはだいたい図2のようになります。「キムやせ」は、キムチを食材の1つとして扱っているようなお店(百貨店など)に対しては、専門性・品揃えの両面で差別化ができています。
しかし、キムチや韓国食材の専門店に比べると、専門性ではほとんど差がつきません。また、品揃えにしても、多い部類には入るものの、ほかにも同等またはそれ以上のお店があります。
この状態で差別化を図るにはどうすればよいでしょうか。専門性・品揃えのどちらにしても、既に高いレベルまで達しているので、この要素を強化しても競合店舗との差別化は大幅には望めません。
このような場合は、ほかの軸で差別化を図ります。すなわち、専門性の軸の代わりに、例えば「顧客サービスマインド」という軸を置けば、他のキムチ・韓国食材専門店との差が大きく開いてくることでしょう。
したがって、これらの専門店と比べられた場合に、お客様に自分のお店を選んでもらうためには、「顧客サービスマインド(お客様第一主義)」をより強くお客様にアピールしていくというのが「キムやせ」の1つの方向として見えてくるわけです。
つまり、重要なのは、競合相手によってアピールすべきポイントは変わってくるということです。「自店舗の視点」からの発想では、このことに気づけません。結局、「ウチの商品は最高の品質だ」の一点張りになってしまうのです。
この点、「キムやせ」は、「対スーパー」では品質・品揃え、「対楽天店舗」では顧客サービスマインド、「対直輸入品」では鮮度(輸入品は鮮度が低く、口に入れるときに酸味が出てしまう)、「対大手メーカー品」では添加物不使用という差別化のポイントがあるわけです。
ソーシャルもやってます!