auコマース&ライフ(=auCL)は、4月1日付で桑田祐二副社長が代表取締役社長に就任した。運営する仮想モール「au PAY マーケット」の2024年3月期流通額は伸び悩んだもようだ。ただ、親会社のKDDIはローソンとの協業などで「Ponta経済圏」の巻き返しを図っており、同モールの担う役割は大きい。桑田新社長に今後の方針を聞いた。
auコマース&ライフ 代表取締役社長 桑田祐二氏
au・UQ回線ユーザーの取り込み強化
――桑田社長のこれまでのECに対する取り組みは。
1994年にKDDIに入社、コマース事業の立ち上げに携わり、フィーチャーフォン時代から「auショッピングモール」を担当していた。ディー・エヌ・エーからEC事業を譲受した2016年にKDDIコマースフォワード(現auCL)副社長に就任。2020年には社外取締役となっていたが、2022年にauCL副社長となり、今回社長に就任した。
――現状の「au PAY マーケット」をどう見るか。
顧客数や事業規模といった面では、競合の足元に大きく及ばない。ただ、「とにかく流通規模を拡大する」ということが、事業の成長の仕方や、われわれの経済圏で求められているものとして正しいかというと、一概にはそうとは言えないと考えている。
現状のポジションを踏まえた上で、ポイントやクーポン目当てで一度だけ購入するユーザーではなく、いかに継続して購入するユーザーを増やせるか。加えて、「Pontaポイント」を軸とした「Ponta経済圏」の拡大を踏まえて、au・UQ回線の顧客に使ってもらい、経済圏に対するエンゲージメントを上げることにこだわっていきたい。
「au PAY マーケット」トップページ(画像はサイトから編集部がキャプチャ)
――かつてはポイント還元率を高めたり、割引率の高いクーポンを頻繁に配布したりしている時期もあったが、顧客があまり定着しなかったという苦い経験もある。
少し前だとQRコード決済が典型だが、どのサービスでも顧客獲得競争でポイントや割引による叩き合いになる時期はあるもの。そういった時代を経て、現在の戦略に行き着いた。
――とはいえ、流通規模が縮小しては出店者にとって魅力のない仮想モールになってしまう。
もちろん、成長していくというのは大前提だ。ただ、いきなり来年流通規模が倍増するわけではない、ということ。もちろん、店舗からすれば成長度合いは気になるところだろうが、競合モールよりも伸びしろはあると思ってもらえているのではないか。
au・UQユーザーの数は多いため、今現在店舗がつかめていない顧客に対する期待は大きいと思う。au・UQユーザーの取り込みという観点から、店舗の役に立てる施策を考えている。
まずは併用できるモールとしてアプローチ
――au・UQユーザーの取り込みという話は以前から出ていたが、あまり成果が出ていないようにみえる。
消費行動が多様化するなかで、「au PAY マーケット」のみを使ったり、楽天市場から「au PAY マーケット」一本に乗り換えたりする顧客は基本的にはいないのではないか。いくつもの仮想モールで買っている顧客が多いので、当モールの場合、まずは併用シーンを作って、いずれメインに切り替えてもらう、というアプローチが理想的な流れだ。
「ワウマ」時代はオープン戦略として、回線とは関係なく、幅広い顧客の取り込みを狙っていたが、今はポイントの循環も含めて、経済圏で利用する仮想モールを選ぶ流れが強まっているので、そこにフォーカスした施策に組み替えている。こうした取り組みが今まで以上に回線ユーザーの利用を加速するステップになるのではないか。
また、有料会員制度「auスマートパスプレミアム(スマプレ、今秋に「Pontaパス」に改称予定)」や、クレジットカード「au PAY カード」、QRコード決済「au PAY」ユーザーは、経済圏の中でも規模が大きくなっているし、当モールを使ってもらえる可能性も高い。
ただ、こうしたシナジーの強い顧客を増やしていくのは当然だが、それ以前に回線ユーザーそのものへの特典に手を付けられていなかった。
ポイント訴求で利用メリット強化
――どういった優遇施策を考えているのか。
まず、7月1日に「au PAY マーケット」内の「ポイント交換所」というサービスを刷新する(※編注:記事は「通販新聞オンライン」配信時点(2024年6月20日)の内容をそのまま掲載しています)。今まではスマプレに加入したうえで、前月の買い物金額によりポイントの交換倍率が高くなるシステムだったが、今回の条件変更により、au・UQユーザー、またはスマプレ会員は、買い物金額にかかわらず、誰でもポイント1.5倍交換が可能になる。
会員はポイントが最大1.5倍になる仕組みとしている(画像は「auスマートパス」公式サイトから編集部がキャプチャ)
これまで購入金額による「積み上げ」にフォーカスして特典を組み上げていたわけだが、回線ユーザーに対する特典を作り直している。まずは回線ユーザーが当モールを使うメリットがしっかりある状態を作りたい。
――楽天のようなモバイル利用者に対するポイント優遇も検討しているのか。
今言えるのはポイント交換所だけだが、それ以外にもやっていきたい。一時は購入金額の最大10%分を通信料金に還元するサービスも行っていたが、経済圏のトレンド変遷に合わせて、顧客へのアプローチも試行錯誤し、現在に至っている。
ただ、事業の環境も含めて考えると、回線ユーザーに向き合うことが現在は第一だろう。各モールとも、経済圏の中で、どうユーザーを回していくかという意識が色濃くなっている。
優遇施策を認知拡大
――他の経済圏にもauユーザーは多いが、どうやって取り込んでいくのか。
まずは併用してもらいたい。とはいえ、「他とお得さが変わらないなら今のままでいいよね」となってしまうので、特典やポイント増量がそのきっかけになると思う。
――きっかけを作るためにどのようにアプローチするのか。
経済圏全体で組み立てている優遇施策を顧客にどうやって伝えるかということは現状の課題。テレビCMなどのマスよりも、たとえば「au PAY アプリ」のプッシュ通知でポイントが貯まったことを伝えるなど、地道な取り組みが大事だと思う。
さらに、「au PAY」や「au PAY カード」においても、さまざまなポイントキャンペーンを実施しているので、それにあわせて施策を組んだり、お知らせをしたりしている。
Pontaを「一番お得に使える」出口をめざす
――共通ポイントの競争が激しくなっているが、Ponta経済圏を拡大していく上での「au PAY マーケット」の役割は。
経済圏における「au PAY マーケット」のメインとなる役割は出口。貯まったポイントを一番お得に使える出口でありたい。たとえばポイント交換所なら、通常1ポイント1円であるところが、1.5倍の価値にできるので、モールを使うきっかけを作れるのではないか。
――KDDIは今年4月にローソンへTOBを実施し、50%の株式を保有することになった。「au PAY マーケット」にはどう関わってくるのか。
現段階で具体的に話せることはないが、経済圏をドライブする仕掛けを一緒に作っていく。また、店頭購入以外の消費シーンを作ることがローソンの次なる成長につながるので、どう一緒に作っていくか議論しているところだ。
ターゲットを明確に定め、アグレッシブに施策を打つ
――前期の振り返りや、今期やっていきたいことは。
前期は良い1年ではなかった。au・UQユーザーへの取り組みを強化していくプロセスの途中だったこともあり、それに伴うサービスの打ち手が足りなかったという反省がある。
こうしたなかでも、筋肉質な体質づくりというのはめどが立っているため、今期は向き合う顧客をしっかりと定めて、施策やサービス投入におけるギアを入れ替えるタイミングになるだろう。そういった意味では、アグレッシブに変わる1年になると思う。
――流通額の増減は。
増減について開示はしていないが、苦戦した1年だった。一方で、当社では顧客を新規・育成・定着にクラスター分けしているが、定着顧客が増えたという成果もある。そうした顧客をもう一度増やしにいくのが今期のチャレンジになるだろう。
また、サービスという観点でも商品という観点でも、顧客の当モールの使い方は変わってくるのではないか。商品の見せ方やレコメンドの方法も変わる。
満足感のある購買体験で価値向上
――具体的には。
たとえば、ギフトを贈りたい人の住所や本名を知らなくても、受け取り専用URLを送るだけで手軽にギフトが送れるサービス「誰でもギフト」を5月に開始した。
住所がわからなくても贈れる「誰でもギフト」(画像は「au PAY マーケット」から編集部がキャプチャ)
また、対象商品を家族や友人に紹介し、商品が購入されるとポイントがもらえる「シェアプログラム」も開始している。自分自身以外に対する消費シーンを作るなど、いろいろな施策で1人当たりの消費シーンを増やしていく。
ECの場合、「安くて早く届いてポイントがたくさん付く」といったことが求められがちだ。もちろん、顧客が満足できるレベルを維持するのは前提だが、当モールにとってはそれを極めることがゴールではないと考える。ギフトのように、気持ちが満たされたり、生活が1ランク上がったりするような買い物を増やしたい。
そういった消費シーンを一番見つけやすいサイトという捉え方をしてもらえれば、顧客の選択肢に入るのではないか。auという通信ブランドを使っているサービスなので、「通信への信頼」から派生する価値観からみても、そういった買い物シーン作りは非常に重要だ。
4回以上買う顧客を増やす
――やや抽象的に思えるが、具体的にはどうなれば「成功」と考えるか。
たとえば、顧客1人あたりのオーダー回数が参考になるのではないか。極端な例だが、全体の注文数が100として、1回注文する人が100人いるのと、4回注文する人が25人いるとしたら、後者の顧客の方がLTVも高く、買い物に対する体験価値に満足感があると考える。「4回買う顧客」をより多くするための施策を展開していきたい。
ライブコマースはリピート率に手ごたえ
――ライブコマースに注力しているが、成果はどうか。
通常とは異なる顧客層の購入きっかけになっている。さらには、ライブコマースで購入した顧客のリピート率は、通常の顧客よりも高い。
――吉本興業と連携したライブコマースサービス「生配信!よしもと市場」も4年目を迎えた。
新規顧客も獲得できているし、翌月購入率も通常の新規よりも高い。ライブコマース同様、ふるさと納税も買い物の動機が通常のECとは違うため、新規のリピート率が高い。両者とも競合に対抗できるレベルのサービスなので、今後も強化していきたい。
ふるさと納税はauの世界観とマッチ
――ふるさと納税も返礼品数が大きく拡大している。
トラストバンクと提携することで、紹介できる返礼品の幅は広がった。ふるさと納税で貯まったポイントを「au PAY マーケット」で使う顧客のリピート率は高い。ふるさと納税は、通常のECよりも質や産地にこだわって購入する顧客が多いように感じる。全国で信頼を得ている通信である、auの世界観との親和性が強いのではないか。
auユーザーの取り込みは「まだまだ」
――今期の出店店舗向け施策は。
データを見て店舗がオート販促できるよう、自動化を進めている。販促面では、「三太郎の日」など流通の波が立つタイミングで、店舗やメーカーと一緒にセール企画を行っている。最近ではエクスプライスと「春の家電祭」を行った。
当モールは他モールよりも規模は小さいが、逆に特定の層にフォーカスしやすいという部分もあるので、店舗やメーカーと一緒に顧客を獲得していく、という立ち位置だ。
――店舗から「au PAY マーケット」に対する声は。
去年不振だったことに厳しい声があった。まだまだauユーザーを取り込めていないとの意見だ。一方で、スマプレ会員など「auでないと捕まえられない」顧客へのアプローチや、Ponta経済圏の広がりに対する期待の声も寄せられている。
40~50代メイン顧客の拡大を急ぐ
――今後の目標流通額は。
数字は非公開だが、店舗に成長を実感してもらえるのが第一。顧客に満足してもらうことで、成長と成長速度という結果につながるので、そこに関してはこだわっていきたい。
――将来的な事業規模や立ち位置について。
経済圏のなかでコマースは外せないエリア。ユーザーが経済圏を使っていて良かったと感じられるようにしていく。その指標は利用者数や定着度合いなので、そういった部分を積み上げていく。今後経済圏が広がっていくなかで、出口としてどんな役割を果たせるかが重要だ。
――今後の顧客拡大に向けて、若年層にアプローチしていく施策はあるか。
現在の顧客層は40~50代が多い。いきなり飛び地の幅を広げるよりは、まだまだメイン顧客層を獲得しきれていないので、そこを獲得していきたい。そういったターゲット層は、家族に向けての買い物など、自分以外に対する消費も活発なので、伸ばしどころだ。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:「Ponta経済圏」拡大に向けたKDDIグループのECモール「auPAYマーケット」の戦略は? auコマース&ライフ新社長に聞く | 通販新聞ダイジェスト
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.