グローバルにゴルフ用品を展開し、国内でもトップシェアを誇るゴルフ総合ブランドのテーラーメイドゴルフ。価格競争が激化しているゴルフ用品業界で、テーラーメイドの公式ECサイトでは付加価値の高い商品・サービスを提供し、購入者のブランドロイヤリティを高め続けることに成功している。ECサイトの利便性や顧客体験を高め、LTV(顧客生涯価値)のさらなる向上をめざす施策と今後の展望とは――。日本支社でEC事業やオムニチャネルを率いる萩原朋之氏(コンシューマ・ダイレクトシニアマネージャー)に取材した。
価格競争の激しいゴルフ用品業界。コラボ商品やカスタマイズで付加価値を提供
テーラーメイドゴルフは米国に本社を置く大手ゴルフ総合ブランドで、ゴルフクラブやボール、バッグのほか、ゴルフウエアなどのアパレルやアクセサリーも販売。特にゴルフクラブは日本国内でトップシェアを誇るほど、多くのゴルファーから支持を集めるブランドだ。日本支社は主に、国内ユーザー向けのブランドサイトと、それに属する公式ECサイトの運営を手がけている。
テーラーメイドゴルフの公式ECサイト
リテールとECの部門を統合し、オムニチャネルを推進
日本支社では2023年1月、実店舗を担当するリテール部門と公式ECサイトの運営部門を統合し、ダイレクト・トゥ・コンシューマーという組織に一体化。リテールとECがそれぞれに持つ顧客の属性など、あらゆる情報の共有を進めている。
リテールとECを統合した目的は、F2転換とオムニチャネルの促進。初回購入した購入者が2回目の購入をすることを「F2転換」と呼ぶが、F2転換に至るまでの期間と顧客数を課題として認識しており、より短期間でより多くの顧客にリピートしてもらえるよう動き始めているという。
また、従来はECの会員プログラムで貯まったポイントは店舗では利用できなかったが、オムニチャネル施策の第1フェーズとして、2021年に店舗でもポイントを付与・利用できるようにした。その際、会員カードに代わってアプリを導入し、顧客へのアプローチを強化している。
現在は第2フェーズとして、2023年12月スタートを目標にBOPIS(オンラインで注文した商品の店舗受け取り)の準備を進めている。ECに在庫がなくても店舗に商品がある場合は、ECで注文して店舗で受け取れる仕組みを整える。
新たな決済手段として「Amazon Pay」を導入。魅力は圧倒的な利用者数
顧客体験に力を入れてきたテーラーメイドゴルフは2018年11月、公式ECサイト内での買い物体験の改善に着手した。その1つの改善策が、Amazonが提供する決済サービス「Amazon Pay」の導入だ。それまではクレジットカード決済と代引きのみだったが、顧客の利便性と買い物体験を高めるために第3の決済手段を構えたい意向を強く持っていた。
萩原氏は「圧倒的な数を誇るAmazonのお客さまの取り込みが期待できること」を、「Amazon Pay」の魅力について一番にあげる。また、ゴルフクラブなどの高価格帯商材を取り扱う上でも、顧客の購買意欲が高いうちに購入完了できる簡単な決済フローになっている点も効果的だという。
国内における購入者の9割以上はクレジットカード保有者。顧客層の拡大に合わせて決済手段をより充実させるため、公式ECサイトでは後払い決済やQRコード決済なども導入している。それらに加えて、「Amazon Pay」があることにより、クレジットカード非保持者、クレジットカード情報を各ECサイトで入力したくない人などの取りこぼし防止にも有効に働いているという。
クレジットカード非保持者の利用例の1つがAmazonギフトカード対応。AmazonアカウントにAmazonギフトカードが登録されており、残高がある状態であれば「Amazon Pay」での支払いにAmazonギフトカードの残高を利用できる
日本支社が「Amazon Pay」CV2移行の先発に
テーラーメイドゴルフの公式ECサイトは2023年3月に、利用しているECプラットフォームの「Amazon Pay」を従来のCV1から、新バージョンのCV2(※1)に切り替えた。
日本支社でのCV2移行は、テーラーメイドゴルフのグローバルの取り組みにおいて重要度が高かったと萩原氏は話す。
テーラーメイドゴルフはグローバルで、ソーシャルログインによって買い物ができる買い物体験、ECサイトの運用をめざしている。現時点ではまだAmazonアカウントによるテーラーメイドゴルフのECサイトへのログインは実装できていないが、本国からは「CV2を将来的に世界中のプラットフォームでも活用したい」というリクエストがあり、それを日本が率先して開発することとなった。グローバル共通の仕組みを開発・実装することは今までで初めてのケースだった。(萩原氏)
テーラーメイドゴルフ コンシューマ・ダイレクト シニアマネージャー 萩原 朋之氏
※1……CV2実装のECサイトではAmazon側で表示するページ上で「配送先住所」「支払い方法」を、確認(または変更)する購入フローに統一。また、「Amazon Pay」のUIに関するエラーメッセージも、統一した内容を案内することで、購入者がどのECサイトで購入した際にも同じUXを提供できるようになった。
CVRや新規顧客の購入件数が大幅アップ
テーラーメイドゴルフは「Amazon Pay」のCV2移行時に、「Amazon Pay」のボタンをカート画面の一番上に設置するようにインターフェースを改善。このほか、購入フローもより簡易的に進める仕組みへと改良した。
従来の仕様では配送先の住所などをフォームに入力する必要があったが、実装改善により、現在は商品をカートに入れてから次の3ステップで購入完了できるフローにした。
「Amazon Pay」CV2移行後の決済フェーズ
- Amazonアカウントにログイン
- 配送先住所や支払い方法の確認画面
- 注文確定
「Amazon Pay」CV2移行後の決済フロー
「Amazon Pay」CV2の移行前(左)と移行完了後の商品注文画面。住所などの個人情報を入力する必要がなく、すぐにAmazon Pay で支払いまで進め、ボタンの視認性も高まっている
実装改善前は、全決済手段のうち「Amazon Pay」の利用率は1割以下で、8割以上をクレジットカード決済が占めていた。「Amazon Pay」によって簡単に決済できるようになったことで、ゲスト購入のみならず、既存の会員も「Amazon Pay」を利用する割合が増えた。
また、実装改善前後の2週間を比較すると、「Amazon Pay」の選択率が258%増(約3.5倍)となり、同時に決済中の離脱率も大幅に減少。「Amazon Pay」による流通額は302%増(約4倍)まで拡大し、CVRも100%増(2倍)に改善したという。
新規顧客による購入件数も増加。2022年3-5月は2000件だったのに対し、2023年の同期間は2.7倍の5400件と大幅に増えた。
せっかく「Amazon Pay」を導入しているにもかかわらず、CV2への移行前はシステムの都合上、お客さまに住所を入力していただく必要があったため、購入フローを面倒に感じて離脱してしまうお客さまも多かったのではないか。それが、実装改善の直後から明らかなコンバージョンアップの効果が表れ、社内からも驚きの声があがっている。(萩原氏)
めざすのは「安定的な運用」「LTV向上」「会員登録の促進」
ECサイトの注文件数が増えれば、クレジットカード決済の不正利用が紛れ込む件数も比例して増えてしまいやすい。そのため、テーラーメイドゴルフのECサイトでは、AIによってクレジットカードの不正利用を検知するツールの導入や、「3Dセキュア2.0」の実装などの対策を施している。
今後も安定的な運用を継続していくために、「Amazon Pay」においてもAmazonと密に連携を図りながら、ECサイト全体でより不正利用防止策を強化したい考えだ。
自社ECサイトにおける手の込んだ不正取引を1件1件確認することは非現実的。「Amazon Pay」は世界水準のシステムで不正取引を検知するため、事業者の不正取引対策の手間やコスト、時間などの大幅な削減につながるという。
視野に入れる「Amazon Pay」を活用した販促共同企画
萩原氏は「決済サービスを巻き込んだキャンペーン施策にも力を入れたい」と話す。本国である米国のテーラーメイドゴルフでは、決済関連のサービス会社と協業して、購入者向けのキャンペーンを実施するイベントをよく実施しているが、一方の日本は、カード会社など決済関連会社との共同企画はこれまでに多くなかった。
今後は「Amazon Pay」を活用したキャンペーンを積極的に展開したい意向だ。価格競争の激しいゴルフ用品業界においても、たとえば「Amazon Pay」利用者向けのキャッシュバックキャンペーンなどを実施できれば、「他店と5000円の差があっても、3000円のキャッシュバックがあるならブランドの公式ECサイトで買おう」と、消費者の誘導を促す一助になると考える。
「Amazon Pay」が実施している購入者還元施策もある。 その代表例がギフトカード還元プログラムだ。「Amazon Pay」では「Amazon Pay」の支払い時に「Amazonギフトカード」を使った場合、ギフトカードでの支払い金額の「最大1.0%分」をギフトカードで還元するというプログラムがある。そして、この還元プログラムを、ECサイト上で簡単に告知できる仕組みも用意されている。それが「Amazon Payバナープログラム」だ。
このバナープログラムでは、ECサイトに掲載する「Amazon Pay」の還元プログラム告知バナーについて、画像を張り付けるのではなく、指定のURLでバナーを参照することより、キャンペーンバナーの内容が適時自動的に切り替わるという仕組み。事業者は一度の導入対応だけで運用の手間なく、最新・最適なバナーを表示させることが可能となる。
事業者側には消費者に還元する費用の負担などは一切なく活用でき、最新のキャンペーンバナーを「Amazon Pay」側が切り替えるため都度バナーを切り替えるといった運用面の負担もなく、消費者にキャンペーンの機会を通知できる。
「ブランドの公式ECサイトとして、今後も引き続き直営店限定モデルの企画販売やカスタマイズ商品を強化しながら、利便性の向上や優良顧客の囲い込みに努めていきたい」と話す荻原氏。最後に次のような今後の展望を語った。
テーラーメイドはグローバル全体としてもEC事業の伸長をめざしており、ブランドを展開する各国で直営店限定商品を販売するような動きが活発化している。ただ、グループ売り上げのなかで日本は米国に次ぐ2番目に位置し、国内でも高いブランドシェアが築けている。そのため「これから急成長を狙う」というよりは、安定したビジネス基盤をより強固にしていきたいと考えている。顧客体験のさらなる向上と、ブランドロイヤリティの高いお客さまを継続的に囲い込んでいくために、EC自体のサービスの充実化と、リテールとのオムニチャネルの推進を強化していきたい。(萩原氏)
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オリジナル記事:テーラーメイドがCVR2倍+顧客ロイヤリティを向上&米国本社もグローバルで推進しようとする日本支社のECサイト改善施策
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