イオングループのスポンサードスポーツユニフォーム制作サービス「Outfitter」。想定以上の売り上げを達成したECサイト構築の裏側 | CX UPDATES Digest | ネットショップ担当者フォーラム

ネットショップ担当者フォーラム - 2021年5月19日(水) 08:00
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イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド(ASSU)が2020年6月、国内初のスポンサードスポーツユニフォーム制作サービス「Outfitter」を開始した。ASSUの担当者とCX設計とシステム構築を担当した電通アイソバーが、EC構築の背景を振り返る。

2020年6月、イオングループの新会社であるイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド(ASSU)が、国内初となるスポンサードスポーツユニフォーム制作サービス「Outfitter」を開始しました。目標に対して、想定を大幅に上回る売上を達成したEC構築の背景を、ASSUの岡田宣之さま、眞田智和さまと、一連のCX設計とシステム構築をご支援した電通アイソバーの寺嶋猛が振り返りました。

イオングループがスポーツユニフォームのEC事業を開始

――2020年6月に設立されたイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド(以下、ASSU)さまは、ECサイト「Outfitter」にてカスタムユニフォームの販売を開始されています。まず、どういったサービスなのか教えてください。

ASSU 岡田さま(以下、岡田):チームのオリジナルユニフォームを、オンラインで簡単に作成・購入ができるサービスです。ユニフォームにスポンサーのロゴを入れると、一般的な価格より10%~最大50%の割引価格で購入することもできます。これは国内初のビジネスモデルです。

現在、「Outfitter」では、サッカーとフットサルのユニフォームが作成できますが、今後、ほかのスポーツのユニフォームにも広げていく予定です。

――そもそもなぜ、イオングループとしてASSUを立ち上げることになったのでしょうか? また、ユニフォーム事業開始に至る経緯を教えてください。

岡田:背景にあるのは、イオングループが変革の方向性の一つとして掲げている「デジタルシフト」です。これを実現するため、デジタルを活用した先進的な事業に取り組む企業との協業を進めています。

併せて全国に事業を展開するイオンとして、お客さまの健やかな生活に寄与したいという思いから、地域のコミュニティスポーツの支援などもおこなってきました。これにより、人と人とのつながりを創出して、地域の発展やお客さまの健康増進を目指せればと考えています。

その中で縁があったのが、ドイツのシグナ・スポーツ・ユナイテッドです。欧州No.1のスポーツECプラットフォームを持ち、その構築・運営ノウハウに優れた同社と協業し、日本で新会社を発足することで、お客さまの健康増進とともにグループ全体のデジタルシフトを加速させる狙いがありました。最初の事業として「Outfitter」の国内展開を開始しました。

――欧州企業との協業プロジェクトとして始まったのですね。このビジネスモデルを日本市場で展開するにあたり重視したのは、どういった点でしたか?

岡田特に重視したのは、サイトのUI/UX面です。

「Outfitter」は、そもそも本国ドイツで展開されているビジネスモデルが優れており、お客さまにとってもメリットが大きいサービスだという自信がありました。「ニーズがある方に認知してもらえれば興味を引ける」という仮説があったのです。そのため、認知施策に注力しつつ、興味を持ってサイトを訪れた潜在顧客を離脱させず、しっかりコンバージョンにつなげるわかりやすいUI/UXが必要だと考えました。そこで、UI/UXの設計に強みをお持ちで、EC構築の実績も厚い電通アイソバーさんにお声がけしました。

 
サイト訪問者のモチベーションを高めるクリエイティブとフリクションレスな体験設計

――認知を獲得してサイトに誘引したとき、より多くの訪問者がコンバージョンに至るために、何がポイントだと思われましたか?

ASSU 眞田さま(以下、眞田)「モチベーションアップ」と「フリクションレスな購買体験」の2つです。まずモチベーションについては、チームのユニフォームを新調して一層スポーツを楽しもうとしている方々の気持ちがさらに高揚する、そんなクリエイティブが必要だと考えました。そこで「チームにチカラを。」というタグラインを強調し、このサービスのどんな要素がチームにチカラを与えてくれるのかという観点で、特徴を訴求しています。

また「フリクションレスな購買体験」として、お客さま視点で選びやすいシミュレーションのフローや、迷わず購買まで進める遷移設計にこだわりました。途中で疑問が浮かびそうな部分にはあらかじめ説明を入れるなど、わからないまま興味が薄れて離脱することがないように配慮しました。

――ビジネスモデルは同じでも、サイトは日本オリジナルで開発したのですか?

眞田:そうなんです。ドイツではモバイルサイトがそもそもなかったため、実はビジネスモデル以外の要素のほとんどがトレースできませんでした。そのためサイト自体は日本向けに、ゼロから考えていきました。電通アイソバーさんには、はじめはシステム構築のみの依頼だったのですが、お客さまとの接点となるデザインやページ遷移などの表側もお願いすることになりました。

寺嶋:既存のグローバルサイトを踏襲しながら、決済などの一部機能を日本向けにローカライズするような案件だと、そもそも市場やターゲットが違うのでどこかで妥協せざるを得ないことも多いです。一方今回のプロジェクトでは、「日本におけるターゲットを意識した理想的な顧客体験」を描いた上でゼロベースでひざを突き合わせてUI/UXに優れたサイトを構築できたと思います。

――UI/UXの構築はどのようなプロセスでおこなったのでしょうか?

眞田:さまざまな場面における仮説を立て、電通アイソバーさんにプロトタイプをつくっていただき、検証を重ねました。本当に何往復もしてUI/UXを確定させていきました。

ビジネスモデルはあるわけですし、当初は本国のサイトのソースコードを転用する予定でしたが、やはり寺嶋さんが言われたように、日本のお客さま向けに最適な顧客体験をゼロから考えたことがよかったと思っています。結果、画面の仕様やユニフォームの色などの選び方は本国とかなり異なっています。
――CXデザインファームとしての電通アイソバーの強みが現れている部分ですね。

寺嶋:今回は、ECサイトの構築手法として「ヘッドレスアーキテクチャ」という構成を採用しました。ECサイトの仕組みは、直接ユーザーの目に触れるフロントエンドの部分と、受注管理や決済システムなどバックエンド部分に分けられます。「ヘッドレスアーキテクチャ」は、フロントエンドとバックエンドの仕組みを切り離して構築する手法です。

今回の場合、ユーザーがユニフォームの色などを選んでいくシミュレーションのページなどがフロントエンドに当たります。シミュレーションは一般的なECの購買フローよりもページ遷移が重なるので、読み込みのスピードが遅くなりがちですが、「ヘッドレスアーキテクチャ」で構築するとその問題が起こらず、ユーザーがストレスなく選んでいけます。

――そういった仕組みが、「フリクションレスな購買体験」につながるのですね。

寺嶋:そうですね。項目を選択していくシミュレーションは、操作が複雑になりがちなので、ロード時間やレスポンスが早く使いやすいことが大変重要です。

また、ヘッドレスアーキテクチャは、開発者目線でもメリットがあります。フロントエンドとバックエンドが一体型の場合、UIを変更したければその度に開発が必要となり、反映スピードも落ちます。対してヘッドレスアーキテクチャでは、ほとんどの修正をフロントサイドだけでおこなえるので、運用負荷が少なく済みます。PDCAのサイクルを細かく回していくことができる点も利点と言えますね。

今回ASSUさまが採用したのは、Salesforce社の提供する「Salesforce Commerce Cloud」というECプラットフォームですが、この製品がヘッドレスに対応しているため、柔軟なコマース体験を比較的容易に実現することができました。

ローンチ後、想定を大幅に上回る結果に

――では、具体的な成果について教えてください。

岡田目標に対して想定を大幅に上回る注文数の獲得と売上を達成しました。もともとユニフォームは3~6月に年間需要のほとんどが集中し、次いで9月が多いのですが、今年はコロナ禍の影響でスポーツ市場全体の需要が減っていました。それを加味しても、サービスを開始した2020年6月以降、継続的に注文が入っています。ユニフォームの加工会社さんからは、一般的な需要期だけでなく閑散期に差し掛かっても注文が途切れないことには大変驚いている、と聞いています。

また、開始時はTwitterなどでもサービスに対する好感のコメントが多く、「知ってもらえれば興味を引けるのでは」という仮説が合っていたと感じました。

Outfitterで作ったオリジナルユニフォームを着てプレーする島根県の大東FCサッカー少年団

寺嶋:コロナ禍の影響で、もう少し苦戦するかと思っていたので、予想以上でした。新規のサービスなので、すでにお客さまが集まっている場所からトラフィックを引っ張れるわけではありません。そのマイナス要素を踏まえても、ローンチ初期からかなり注文数が伸びていました。ビジネスモデルが支持されたことに加えて、興味を持った人を一定の割合でコンバージョンにつなげられたと捉えています。

――話題になっても、検討段階の離脱が多いと、機会損失になってしまいますよね。

岡田:本当にそう思います。それでは認知施策にいくら予算を割いても意味がありません。まだ改善の余地は多いですが、来訪したお客さまが思った以上にスムーズに購入まで進んでいただけています。途中までの方も、かなりの確率でデザインのシミュレーションをして画像を保存してくれています。タイミングが来たら、思い出して購入してくれる可能性もある。やはり優れたUI/UXが効いていると思います。

 
Outfitter事業を強化しながら、他スポーツへも拡大を

――最後に、今後の事業の展望をお聞かせください。

岡田:「Outfitter」では、UI/UXの改善とスポンサー開拓を進めつつ、サッカーとフットサルだけでなくバレーボールやバスケットボールなど、他のスポーツのユニフォームにも広げていきます。さらにASSUとしては、他のメディア事業やEC事業にも注力していきたいと考えています。

寺嶋:支援させていただいた側としての感想ですが、有数の企業が新規サービスのスポンサーになったことや、倉庫や物流などのオペレーション面の立ち上げがとても早かったことなど、今回はさすがイオングループさまだと感じました。今後、またイベント開催などが自由にできるようになれば、リアルなスポーツイベントとの連携や、オムニチャネルの展開などにも可能性を広げられそうです。そのお手伝いもさせていただけたらうれしいですね。

岡田 宣之 おかだ のぶゆき
イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド 戦略・マーケティング部 部長
プロダクション、エージェンシー、コンサルティングファームを経て、デジタルマーケティングの会社を独立起業。2016年よりイオングループに入社。
20年に渡り、デジタルマーケティング領域で、制作ディレクションや開発のプロジェクトマネージャー、マーケティングプランナー、コンサルタントなどを経験。2019年よりイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッドにてマーケティングとITの責任者を担当。

 

眞田 智和 さなだ ともかず
イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド IT・物流部 マネージャー
大手人材紹介会社、外資系小売業を経て、イオングループに入社。イオングループへの入社までは、営業部や人事部、業務改善プロダクトマネージャー等を経験。イオングループでは数社へ出向し、新規店舗の開設、エリアマネージャー、オペレーションシステムやアプリ開発のプロダクトマネージャー等を経験し、現在はイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド株式会社にてECサイト及びアプリ開発を担当。

 

寺嶋 猛 Takeshi Terashima
プラットフォーム・データ本部 本部長 
大手シンクタンク、家電メーカーを経て、アイソバー・ジャパンにCTOとして参画。シンクタンク、家電メーカー時代には大規模システム開発のテクニカルアーキテクト、プロジェクトマネージャーを経験。電通アイソバーにて、デジタルマーケティングのコンサルティングも実施しており、広範囲にわたってクライアントのビジネスを支援。現在はコマースビジネスのリーディングを中心に、自身でもアドバイザリーとして多くのプロジェクトに参画。

 

○ライター : 高島 知子
○カメラマン : 八田 政玄

 

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