アパレル事業を展開するファーストリテイリングでは、今春より本格稼働している物流施設と一体型のオフィス「有明社屋(東京都江東区)」を基点に、リアルとネットの融合を進め新たなビジネスモデルの構築を図っている。これまでの実店舗販売を軸とした「製造小売業」からITツールなどを活用した「情報製造小売業」へと生まれ変わる考え。スマートフォン版通販サイトの大幅なリニューアルをはじめ、商品企画・生産体制の見直しによって顧客ごとの最新のニーズにマッチした商品をスピーディーに提供できる体制の構築などを目指していく。同社の目指す新戦略の全貌とは。
スマホサイト刷新
物流施設と一体型のオフィス「有明社屋(東京都江東区)」
新戦略で鍵となるのが、デジタルデバイスを通じた、時間や場所を選ばない集客施策。その一環として3月には「ユニクロ」のスマホ版通販サイトを刷新した。クリエイティブディレクターのレイ・イナモト氏をアドバイザーに起用して、昨今の大型化が進む液晶画面に対応すべく、すべてが親指の範囲内で操作できるレイアウトを導入している。
これまでは商品検索窓などが画面の最上部に位置し、持ち手の親指では届かないという問題があったが、今回から検索窓を含めたメニューバーをすべて下に移動。女性の指の長さでも届く範囲に導線を収めた。「1秒でも顧客の時間を節約することで便利な体験になる。できるだけ買いやすく摩擦のない買い方にした」(イナモト氏)と説明。
検索窓を含めたメニューバーをすべて下に移動
また、SNSのコーディネート画像に関する問い合わせが多かったことから、「スタイルまとめ買い」機能を追加。公式スタイリングサイト「ルック」などの画像を通販ページにも掲載して、1つのページ内にコーディネート商品のそれぞれの詳細画像と購入ボタンを設置。スタイリングサイトと通販サイトを行き来しなくても、同じページの中でコーディネートの確認から購入まで完結できるようにしている。
関連して、通販限定で展開しているシャツやジャケットなどのセミオーダー商品に関しても購入導線を最適化。「襟」「フロント」「柄」「サイズ」など4つのステップを1つのページ内でスクロールで選び進めるレイアウトに変えて、ここでもページ移動の手間を省いた。
AI接客の実験
そのほか、現在米国において「AI(人工知能)コンシェルジュ」サービスの活用に着手しており、スマホ版通販サイトで顧客ごとの広告情報の出し分けやチャット接客対応などの実証実験を進めている。
チャット接客はテキストや画像などを使って実店舗と同様に会話形式で顧客対応するもの。顧客が入力した希望商品の条件をもとに複数の商品候補の提示などもできるという。クリックでそのまま購入できるほか、位置情報から近隣の実店舗とその在庫情報を提示するなど店舗送客も実施。今後、日本でも同様のサービスを早期に開始することを検討している。
工程見直し、期中に新商品追加
同社は「情報製造小売業」の実現に向けた戦略の中で、これまでの「作ったものを売る」というマスのビジネスモデルから、顧客の要望やニーズ、ネット販売での売れ筋データなどをリアルタイムで読み取って最短で商品づくりに反映させるという仕組みを目指している。2月から段階的にビジネス機能の移転を進めてきた物流施設も兼ねる新社屋がその舞台となる。
まず着手したのは、オフィスレイアウトから取り組んだ部署ごとの垣根を取り払うための働き方の見直しだった。これまで同社では「企画」「製造」「物流」「販売」の一つひとつの行程を、それぞれの担当部署が順番に進める縦割りのリレー方式を採用していた。
新拠点では床面積約5600平方メートルの執務エリア「ワークロフト」を開設し、商品づくり、マーケティング、物流などに関わる各工程の担当者が全て集まった混成チームを作って作業する方式に変更。「ウィメンズ・ボトムス」「ヒートテック」「カットソー」など1つの商品ごとに上流から下流までの各担当者が同じチームで作業することで、商品づくりのサイクルを短縮させるという。
新拠点では床面積約5600平方メートルの執務エリア「ワークロフト」を開設
さらに、AI(人工知能)の活用に向けて2017年春夏シーズンから各商品にRFIDタグを取り付けており、商品の流れや売れ方の見える化を図っている。これにSNSなどネットで拾った最新の市場の声も集めて一元管理し、生産部署・物流部署も含めて情報を共有。また、過去の商品デザインや素材の情報も合わせてビッグデータとして集積し、それをAIで分析して製造や流通に反映させていく。
これにより、これまで基本的にはシーズン前の段階で商品づくりがすべて終わっていたが、製造サイクルの短縮化と合わせることでシーズン中でもリアルタイムに市場のニーズを反映した商品企画・販売ができるようになるという。
現在では月次ごとから週次ごとの生産に切り変えてシーズン中の生産比率を高めており、売りながら次々とまた新しい商品を作り足すことができるようになっているとする。柳井正会長兼社長によると生産が7日、配送が3日で合計10日間程度で顧客の元に商品を提供する仕組みとなるようだ。
ネットとリアル共通の会員制度
また、市場のニーズを拾う上で欠かせないのが顧客接点の強化で、現在は実店舗とネット販売共通の会員プログラムの構築にも着手している。「(会員制度で)顧客とダイレクトにつながることで個別の顧客ニーズを読み取りやすくなり、マスブランドでありながら一人一人にジャストフィットの商品を提供する」(田中大執行役員)と説明。
通販サイトではジャケット、シャツでのセミオーダー商品をはじめ、XSや4Lといったニッチなサイズの販売を実施。売り場面積に限りがないネットならではの強みを活かして、顧客ごとに個別対応できる仕組みを構築している。
今後についても個別接客の進化に向けて、時間や購入場所を自由に選べる通販サイトの活用が鍵になると見ており「実店舗中心の商売から、ネットとリアルを融合した商売を実現したい」(同)と説明。今まで一部店舗だけで提供していた、来店先の店舗に在庫がなくても通販サイトの商品を店頭でその場で買える「店舗レジ払い・どこでも受け取りサービス」を3月から全商品・全店舗に拡大するなど、売り場にこだわらず商品提供できる体制を整えている。
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オリジナル記事:ファーストリテイリングは消費行動の変化にどう対応する? 新オムニチャネル戦略の全貌 | 通販新聞ダイジェスト
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