この世の中に全世界の商品が1つのECサイトで販売されている「グローバルストア」が存在し、全世界の消費者が言語、地域、価格に制約を受けず、いつでもどこでもショッピングができれば、それはとても素敵なことでしょう。この消費者の願いが越境ECの発展を促進する原動力となっていますが、実は米国のEC大手Amazon(アマゾン)はすでに手を打っているのです。
世界規模で各国サイトの言語翻訳を進めるアマゾン
2015年7月、アマゾン中国は売り主(販売企業)向けの「全球開店(Global Selling)」をスタートし、販売企業のビジネスを全世界(編集部追記:アマゾン中国に出店すると米国、カナダなどに向けて商品を販売できるサービス)に広げることで事業をサポートする狙いでした。
加えて、5年以内に「グローバル統一アカウントシステム」(中国語:全球聯合帳戸体系)を整備することを表明。売り主がボタン1つをクリックするだけで、商品詳細ページを海外各国の言語に翻訳し、アマゾンの各国拠点のサイトに商品登録できるようにするとしました。つまり、アカウント1つがあれば、グローバルビジネスができるようにするというわけです。
この計画を発表した時、アマゾン中国の責任者はこの先1~2年間の施策も説明しました。売り主が商品をアマゾンの各拠点に一括登録できるように、商品登録や翻訳、在庫管理、物流、アフターサービスなど一連の業務支援サービスを提供するとしました。
その当時、北米のアマゾンで商品を販売している事業者は、統一アカウントを使えば、アメリカ、カナダ、メキシコ向けのビジネスを一括管理できるようにしていました。また、ヨーロッパのアマゾンに出店している事業者は、統一アカウントでイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン向けのECビジネスを一括管理できるようにしています。
アマゾン中国が計画を発表した当初(2015年7月)、全世界に商品を展開できる「グローバルストア」を2017年以内に構築すると計画していました。しかし、アマゾンは「グローバルストア」の構築だけで満足しませんでした。売り主に加え、消費者も全世界の商品を簡単に購入できる「グローバルストア」を開店させるつもりなのです。そこで今、消費者側から見た「グローバルストア」の実現に向けて取り組んでいるのが、商品詳細ページの翻訳です。
中国で越境ECを手がける関係者はこう説明します。
アマゾンは「グローバルショッピング」を実現するため、各国で展開しているアマゾンサイトの言語翻訳を統合しようとしています。そこで、全世界で翻訳作業を進めているのです。その作業が完成したら、どうなるでしょうか。海外でアマゾンのECサイトにアクセスすると、母国語に翻訳されたサイトを見ることができるようになるのです。各国のアマゾンのサイトへ、国を跨ってアクセスできるようになるでしょう。将来、各国のアマゾンのECサイトへログインしても言語が母国語に切り替えることができ、簡単に価格の比較ができるようになります。つまり、もっと便利にショッピングができるようになるのです。
国境や言語、為替レートによる価格競争力の差がなくなる
現在はどうなっているのか。日本から各国のアマゾンにアクセスしたところ、現段階では次のような状況になっています。
アマゾンジャパンは日本語、英語、中国語の変換が可能(画像は編集部がキャプチャ)
画像はアマゾンジャパンの商品詳細画面。画像クリック後の画像は中国語への翻訳したサイトで、商品詳細の日本語から中国語への翻訳はまだできていない(青枠部分)が、在庫状況や配送状況といった固定フィールドの変換は可能(赤枠部分)になっている(画像は編集部がキャプチャ)
アマゾン中国では中国語の他、英語への変換が可能。アマゾンジャパンは日本語、英語、中国語への変換ができます。
アマゾン中国は、中国語と英語への変換が可能。クリックした大きい画像は英語翻訳のサイトで、キャプチャした画像では赤枠部分のナビゲーションが英語翻訳された(画像は編集部がキャプチャ)
アマゾンドイツはドイツ語、英語、オランダ語、ポーランド語、トルコ語へ翻訳することができます。
アマゾンドイツではドイツ語、英語、オランダ語、ポーランド語、トルコ語への変換が可能(画像は編集部がキャプチャ)
米国アマゾン(Amazon.com)は英語、スペイン語への切り替えが可能です。ですが、日本からAmazon.comへアクセスすると、アマゾンジャパンのサイトへと誘導されるような状況です。
米国アマゾン(Amazon.com)へ日本からアクセスすると、アマゾンジャパンへと誘導される(画像は編集部がキャプチャ)
また、アマゾンのカナダ、フランス拠点のサイトもチェックしました。その結果、翻訳機能の完成レベルは異なりますが、言語を統合しようとする傾向を把握することができます。
前述のアマゾン中国の関係者によると、アマゾンの翻訳機能の開発は作業を進めている段階であり、各国消費者の越境ECに対する興味・関心、ユーザーの購入データ(どのユーザーがどの商品を、どのくらいの頻度で買っているか)によって翻訳の進捗と方向性が決められているそうです。EC業界に詳しいある専門家は次のように指摘します。
消費者にとって、(アマゾンが)世界中の拠点の言語翻訳を統合することは、国境や言語、為替レートによる価格競争力の差がなくなることを意味します。売り主側にとっては、国境や言語、為替レートによる競争力の差がなくなり、オープンな商環境で競争することができます。つまり、競争環境が大きく変わることでしょう。
自由に各国のアマゾンへアクセスできるようになり、全世界の良い商品を入手することへの期待は膨らんでいきます。しかし、実現には決済、物流、アフターサービス、多数のアカウントの存在といった問題を解決しなくてはなりません。
一方で、越境ECサービスを提供するある専門事業者は次のように語っています。
越境ECで商品を購入する意識は徐々に醸成され、越境ECサービスは次第に改善されていきます。そのため、(グローバルストアの実現に向けた)課題は問題ではなくなっていくでしょう。国際的な決済ツールが多数出現し、物流面では各国の税関政策がオープン化されていくのではないでしょうか。人工知能(AI)を用いた多言語の機械翻訳も改善されていき、(グローバルストア計画には)技術的な問題は心配ないと思います。
「細かい問題は解決できるはず」「方向性は間違っていない」。その越境ECサービスを提供する専門事業者はこのようにまとめました。ただし、(各国アマゾンのサイトに)商品を一括登録できるようになるのか、または、翻訳ができるようになるのか。どちらが早く進むのかはわかりません。
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オリジナル記事:アマゾンの「グローバルストア」計画とは? 越境ECの言語・物流・価格の壁がなくなる日 | 中国EC市場の最新ニュース・トレンド・マーケティング情報ウォッチ
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