
1988年、日本初となる公共交通機関の乗換案内ソフト「駅すぱあと」を販売された株式会社ヴァル研究所様。業界のパイオニアとして、高度かつ身近で便利な乗り換え案内サービスを多くのユーザーに提供されています。
同社では現在、日本各地の鉄道を「1シェアにつき5円」の支援金で応援するCSR活動「YELL for 鉄道JAPAN」プロジェクトを展開。利用者の減少や資金不足に悩む地方鉄道の現状をリアルに伝えるプロジェクトページが多くの共感を呼び、支援の輪が次々と広がっています。また、自社サービスをRPGゲームの舞台にした「RootePG」など、ユニークな切り口のプロモーションも多彩に手掛けられています。
ともすれば、企業側の主張が強くなりがちなCSR活動やプロモーションでありながら、自然に「応援したい」「参加したい」という共感を生み出す秘訣とは何か。ソリューション事業部・SPチームのリーダーである高田 香穂理氏と福井 澪菜氏にお伺いしました。
「当たり前」のサービスへいかに価値を持たせ、関心のないターゲットを巻き込むか

株式会社ヴァル研究所 ソリューション事業部 SPチーム 福井 澪菜氏
――日本の鉄道を応援する「YELL for 鉄道JAPAN」プロジェクトが大きな反響を呼んでいます。立ち上げのきっかけについてお聞かせください。
福井(以下敬称略):当社では以前から、乗り換え案内サービスのコモディティ化に対して問題意識を持っていました。各社とも似通った機能ばかりで、ただのツールになっている現状を変えるために、乗り換え案内サービス自体を活性化させていきたい。そのためには、まず鉄道の活性化が必要だと考えたのが立ち上げのきっかけです。
本プロジェクトでは、「鉄道が正常に運行していることで人々の日常が守られている」というコンセプトのもと、「1シェアにつき5円」の支援金で日本各地の鉄道を応援する活動を行っています。
高田(以下敬称略):乗り換え案内という当たり前になっているサービスの価値をどこに持っていくか、というのは社内でもかなり議論を重ねてきた部分です。そのなかで、時間に正確な日本の鉄道があってこそ我々のサービスも成り立っていることを改めて認識しました。そこで「YELL for 鉄道JAPAN」を通して、我々のサービスについても伝えていきたいと考えたのです。
――現在、プロジェクトの第二弾として銚子電鉄を支援されています。プロジェクトページの制作にあたり、何か印象に残ったエピソードなどはありますか?
高田:銚子電鉄の時は実際に銚子まで行き、鉄道職員の方や窓口になった銚子市役所の方ともお話させていただいたのですが、その際に改めて感じたことがあります。例えば、駅舎に名物である「ぬれ煎餅」の醤油のいい香りが漂っていたり、電車内には手作りの飾りつけが施されていたりと、現地へ行ってみて初めてわかるよさがたくさんあったのです。
福井:鉄道が好きな方は、プロジェクトの第一弾で紹介した只見線や今回の銚子電鉄のことはご存知ですが、それ以外の方々にも「行ってみないとわからないよさ」を伝えたい。そのために、この地域ならではの空気感を再現できるようプロジェクトページの内容にもこだわっていますし、鉄道に興味のない方も含めた幅広い層へ認知を広めるためにニュースリリースを活用しています。
ニュースリリースはプロジェクトページの公開当日をはじめ、その後も読み物コンテンツなど、何か追加するたびに配信しています。特に「ぬれ煎餅」の話には銚子電鉄の熱い想いが込められており、ぜひ読んでいただきたい内容になっています。
自社の想いを伝えるだけでは、ユーザーの共感は得られない

株式会社ヴァル研究所 ソリューション事業部 SPチーム リーダー 高田 香穂理氏
――企業のCSR活動としても素晴らしい取り組みだと思います。どのような反響があったのでしょうか?
高田:ソーシャルメディア上での反響が非常に大きかったですね。第一弾の只見線の時は、コアな鉄道ファンを中心に話題になり、Twitter上ではかなり拡散しました。今回の銚子電鉄の場合は比較的名前が知られていることもあり、鉄道ファン以外の方からの反響も第一弾以上に増えています。
福井:第一弾ではニュースリリースに力を注ぎきれていなかったので、そこも第二弾の反響がより大きかった要因だと思います。第二弾でニュースリリースを配信した時は、千葉版の日経新聞や朝日新聞、乗りものニュースというWebメディアにも取り上げていただきました。その結果、鉄道ファン以外の方々にも幅広く認知されているようです。
――プロジェクトページのPV数やシェア数など、数値的な結果についてはいかがでしたか?
高田:第一弾では、「1シェアにつき5円」のシェア数で言うと2万弱ですね。プロジェクトページのトップにコンセプト動画を載せていたのですが、実はそのPV数が約21万と、本来の目的であるシェア数よりも非常に多い結果となってしまいました。
福井:YouTubeで配信していたため、たまたま検索して動画だけを見たという方もかなり多かったのですが、プロジェクトページを見たうえで動画を視聴する、という流れを作りたかったのが本音です。
――その時の経験を活かして、第二弾で改善された部分があればお聞かせください。
福井:第一弾の時は只見線のこと以上に、日本の鉄道がいかに素晴らしいかという我々側のメッセージが強くなってしまっていたため、第二弾では銚子電鉄自体の魅力を伝えることに注力しました。
銚子電鉄の歴史や職員の方の熱い想いを掲載するなど、銚子電鉄のリアルな状況を具体的に伝えることで、まずは「銚子電鉄を応援したい、乗ってみたい」という共感を抱いていただく。そのうえで、シェア行為につながるという仕組みにブラッシュアップさせています。
高田:第一弾と第二弾では実施期間が違うので一概には言えませんが、第二弾の方がシェア数も反響も確実に増えているので、改善の効果はあったと考えています。
「思わずシェアしたくなる」行為を促すコンテンツや仕組みとは

左:高田氏、右:福井氏
――企業側の想いが主張しがちなCSR活動を、共感を呼ぶコンテンツで成功させている。コンテンツマーケティングの好例ですね。他にも反響のよかった施策はありますか?
福井:最も反響が大きかったのは「駅すぱあと」のポータルサイト「Roote(ルウト)」を利用したRPGゲーム「RootePG」です。エイプリルフール企画や「駅すぱあと」発売1万日記念企画として実施したところ、各種まとめサイトや週刊アスキーに掲載され、ソーシャルメディアを中心に大きな話題となりました。
「RootePG」では、駅の隣にあるアイコンを押すと、駅に関するエピソード「駅ネタ」が表示される仕組みになっています。単なる地域情報ではなく、地元の方しか知らないネタや、その駅にゆかりのあるアニメ・漫画のセリフやアイテムを出すなど「わかる人が見たらグッとくる」コアなエピソードを盛り込みました。
また、ソーシャルメディア上でシェアしやすいよう、シェアボタンを押した方のツイートやFacebookに「RootePG」の画像が自動表示される機能も開発しました。この機能により、投稿者の画像を見た他の方が「このネタ知っている!」「何これ気になる!」という風に二次・三次と波及していった結果、幅広い層に鉄道への興味を持っていただけたという副次的な効果も出ています。
――楽しみながら認知を広げていくという、プロモーション自体がエンタテインメントになっていますね。
高田:こうした企画を手掛けているのは、社内の有志が中心となっているものが多いです。業務としてというよりはやりたい人間が楽しみながら企画しているので、その雰囲気が遊んでいただく方にも伝わっているのではないでしょうか。
福井:企画する本人が面白いと感じていなければ、遊ぶ方も楽しくないと思います。また、市場調査などのデータありきで企画しても企業側の視点が強くなってしまう。まずは自分たちがエンドユーザーの立場になって企画することが大切だと感じています。やはり、珍しい・新しい・面白いネタであればシェアしたくなりますし、その方がソーシャルメディアを活用している層にも受け入れられやすいのではないでしょうか。
今回は、ヴァル研究所様の共感を生み出すプロモーション戦略についてお届けしました。
後編では、ソリューション事業部の体制やニュースリリースの運用状況、公共交通機関に対する想いについてお聞きします。
<今回お話いただいたのは…>

高田 香穂理(タカダ カホリ)氏
株式会社ヴァル研究所 ソリューション事業部 SPチーム リーダー
R&Dセンターを経て、2015年からコンシューマー向けの製品であるアプリ「駅すぱあと」のプロモーション及び広告企画・販売を担当するSPチームの責任者を務める。

福井 澪菜(フクイ ミオナ)氏
株式会社ヴァル研究所 ソリューション事業部 SPチーム
「駅すぱあと」のポータルサイト「Roote(ルウト)」をメイン商材とするポータルチームに本配属後、Web開発や企画、デザインなどを経験。2015年からオウンドメディア「notte!(ノッテ)」の編集長としてディレクションやライティングを担当し、7月から広報を兼務。
<インタビュアー紹介>

朝火 英樹(アサヒ ヒデキ)
株式会社ニューズ・ツー・ユー マーケティング コミュニケーション部 マネージャー
NEC、ソフトバンクモバイルを経て、2014年9月 ニューズ・ツー・ユーに参画。
事業主側でWebマーケティングを推進してきた経験を活かし、現在、ニューズ・ツー・ユーにてネットPR(News2uリリース)を軸とした自社メディアによるマーケティング コミュニケーションの仕組みづくりを推進中。